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第64話「ポンちゃんの帰宅」

目の細い配達人の車でパン屋さんの近くまで戻ってきました。

いきなり店長さんが身代わりタヌキを散歩してるのと遭遇ですよ。

む~、あれはあれで仲良さそうにも思えますね。

って、お腹が空きました…バタンキュー!

ここまで帰ってきて、わたし死んじゃうのかな…


 お別れの時がきました。

「ポンちゃん、一緒に行かないでいいですか?」

「うん……わたしパン屋さんに帰ります」

「そうですか……」

 長老とポン太・ポン吉は軽トラック。

 荷台にはあの鉄砲水でも大丈夫だったタヌキの焼き物です。

 本当はコンクリートで出来ててすごく重たいんですよ。

「ポン姉、元気でな!」

「ふふ、ポン吉すごい楽しそう」

「新しい所に行くからな~」

 ポン吉は明るいので安心です。

「ポン太も元気でね」

「はい……ポン姉、一緒じゃなくていいんですか?」

「うん……ちょっと考え事もあるしね」

「一人で帰れますか?」

「バカにしてますね、ちゃんと長老から地図もらったから大丈夫です」

 そう、パン屋さんまでの地図を貰いました。

 なんとぽんた王国の前の道をずっと山の方に向かうだけ。

 一箇所信号機で曲がるだけとは……最初から判ってたら脱走してたのに。

 軽トラックのエンジン始動。

 長老が微笑みながら、

「また会う事もあるでしょう」

「ふふ……またまた、社交辞令ってヤツですか?」

「では、ポンちゃん気をつけて」

「ポン姉、バイバ~イ」

「ポン姉、短い間ですがさようなら」

 軽トラック行っちゃいました。

 ポン太とポン吉、窓から顔を出して手をブンブン振ってます、危ないですよ。

 ポン吉は最後まで明るかったけど……

 ポン太はちょっと不安です。

 子供の、仔タヌキのくせに気を遣いすぎ。

 最後なんか「短い間ですがさようなら」なんて言ってました。

 そこは「短い間だったけど、さようなら」が正解でしょう。

 きっとわたしに気遣って、アレコレ言葉に迷った挙句ですね。

「さて、帰るか~」

 山を越えてパン屋さんへ。

 最後に店長さんにお別れを言うんです。

 恋のライバル・コンちゃんにも一言言いたいかな。

 歩いて、時間をかけて、お祝いの言葉を考えながら……

 一歩を踏み出した途端に背後からクラクション。

「あのー!」

「なんですか、いきなり……って」

 振り向いたら、目の細い配達人です。

 わたしをしげしげと見ながら、

「ぽんた王国は廃業しちゃったんです?」

「え、ええ……鉄砲水で」

 目の細い配達人、わたしをじっと見つめて、

「山のパン屋まで乗せていきましょうか?」

「え、えーっと……」

「歩いて山越え、遠いしキツイですよ」

「!!」

 そーでした、山登りはすごくしんどいんです。

 ご神木を持って行った事があるから経験済。


「大体配達人さんはわたしがパン屋の娘ってどーしてわからないんですか!」

「だ、だから乗せてるでしょう」

「この間は首を傾げてたじゃないですか」

「だってパン屋にタヌキいますよ」

 そうでした、パン屋さんには長老がわたしの身代わりに置いてきたタヌキがいるんです。

 パン屋さんに戻ったら、店長さんわたしを「ポンちゃん」って思うでしょうか?

 ともかく、わたし目の細い配達人を見ます。

「あなたの目は節穴ですか? え!」

「な、なにを~」

「寝てるんじゃないですか、その目は!」

 そうです、この配達人、目が細いんです。

 本当に開いてるんでしょうか?

「ひ、人の体の事をアレコレ言うな~、気にしてるのに!」

「あれだけ配達の度に顔合わせてたのに、どーしてわかりませんか?」

「って……言われても」

「こんなかわいい女の子、見ただけでわかるでしょ!」

「か、かわいい……」

「なんか文句ありますかっ!」

 わたし、固めた拳が震えまくり。

 目の細い配達人、頬をヒクヒクさせながら、

「もうすぐ着きますよ」

「あ、ちょっとここでストーップ!」

「?」

「心の準備があるから、ここで下ろしてください」

「はぁ……」

 わたし、車から降ろしてもらいました。

 こっそりパン屋さんに向かいます。

「ポンちゃん、そんなに引っ張らないで」

 店長さんの声。

 わたし、木の陰に隠れます。

「そんなに急がないでもいいから、ね」

 店長さんがリードを手にやってきました。

 タヌキですタヌキ!

 タヌキを散歩している最中。

 店長さん、先に行こうとするタヌキを抱き上げて、

「ポンちゃん、もう冷たくしないから……」

 なんか店長さん、髪に白いのが目立ちませんか?

 それにどこか疲れた目をしてます。

「機嫌直して、元に戻ってよ~」

 ああ、タヌキに頬擦りしてます。

 タヌキの方は嫌がってもがいてますね。

 店長さん、それはわたしじゃないです。わかりませんか!

 飛び出して、わたしの無事を伝えたい……

 でも、コンちゃんの「わらわは店長と結婚したのじゃ!」思い出しちゃいます。

 このまま登場しない方がいいのかな?

 飛び出すタイミング失って、店長さん行っちゃいました。

「どうしよう……」

 あのタヌキがいるといると、なんだか帰りつらいですね。

「そうだ!」

 たまおちゃんに相談しましょう。

 神社に行ってみると……こんな時に限っていません。

 そうそう、地鎮祭であっちに行ってるんでした。

 ぽんた王国が立ち退いたから、今ごろお祓いしてるんでしょう。

 社務所は開いていて、お守りやおみくじ、ナマズ印のどら焼き売ってます。

「お金は箱に入れてください」って無防備です、無人販売状態。

「早く帰って来ないかな……」


 ああ、お陽さま真っ赤です。

 もうすぐ沈んじゃうんですね。

「どうしよ……」

 たまおちゃん、結局戻ってきません。

 わたし、トボトボとパン屋に向かいます。

 さっきの店長さんとタヌキを思い出しました。

 あれはあれで仲良さそうな気が……

「わたしはもう、パン屋さんにはいらない子?」

 お店の近くまで来ました。

「ここは……」

 そう、わたし、ついついあの場所に来ちゃいました。

 店長さんにパンを恵んでもらったあの場所です。

 お腹空いて、バタンキューなところに店長さんのアンパンとメロンパン。

「うう……店長さん……」

 思い出したらお腹空いてきました。

 いやいや、朝を食べてからそれっきりなの。

 さっき神社のどら焼き食べてればよかったかな。

 ああ、目の前がグルグル回り始めました。

 力が抜けて倒れちゃいます。

 店長さん、さようなら、わたし、ここで死にます。

 最後にお別れ言いたかったけど……代わりのタヌキをわたしと思ってかわいがってください。

「どうしたんですか、こんな所で……大丈夫ですか?」

 倒れたわたしの背中をゆするの、感じます。

「おーい……って!」

 この声は店長さんですよ。

 背中を揺すってた手、わたしをあお向けにします。

「ポンちゃん?」

「ててて店長さん……」

「ポンちゃん……だよね……」

「……」

「この子は?」

 店長さん、散歩していたタヌキをわたしに見せます。

「店長さんは、その子がポンちゃんと思うんですか?」

「いや……その……そう思ってたんだけど……」

「あんなに一緒に暮らしていたのに、区別もつかないんですか……」

 くっ……この男は……嫌味の一つも言わずにおれません。

「だ、だってしっぽのモフモフ具合は……」

「て・ん・ちょ・う・さ・ん!」

 わたし、思い切り怒ってみせます。

 でも、お腹空いてて迫力イマイチかな。

「ほら、ポンちゃん、アンパンとメロンパン」

 差し出されたパン。

「わーん、店長さんありがとう」

「焦らないで、ゆっくり食べて」

「あの時と一緒です……うう……おいしい」

「あの時……やっぱりポンちゃんなんだ」

「そうです、あの時パンをもらった恩返しで、わたし人間になったんです」

「やっぱりポンちゃんなんだ」

「店長さん、わたし、帰って来たんです、ただいま」

 もう、身代わりタヌキもコンちゃんの結婚もどっかに行っちゃいました。

 涙ポロポロ。

 パンを全部食べちゃったら……店長さんに抱きつきたくなりましたよ。

「店長さん!」

「ポンちゃん……」

「店長さん!」

「危ないから……」

 店長さんに抱きつこうとしたら……店長さんが先に動きました。

 わたしをお姫さま抱っこ。

「店長さん、好きっ!」

 もう、ここはキスするところです。

 でも、店長さんわたしの方を全然見てません。

 店長さんの視線の先には軽トラック。

 道の真ん中だから避けたんですね。

 軽トラックやって来ると、

「あの~、村長さんのお宅はどちらで……」

 む、聞きなれた声。

「ちょ、長老っ!」

 やってきた軽トラックは長老のだったんです。

 助手席にはポン太とポン吉も笑ってますよ。

 ここここれは一体どうした事ですかっ!


「ちょ……ちょっとコンちゃん」

「なんじゃポン、よく帰って来たのう」

「コンちゃん、ポン太達知ってるんですか?」

「うむ、遠足の下見はわらわ達だったからのう」

「い、いつ来たんですか!」

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