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第63話「なくなっちゃった」

帰ってみたらぽんた王国大変な事になってます。

みやげもの屋とおそば屋さんは影も姿もありません。

でもでもポン太・ポン吉に長老も無事です。よかった~

ぽんた王国は結局、治水ダムに沈んじゃう事になりました。

パン屋さんに帰れるんだけど、ちょっとさみしいですね。


 け、結構歩きました。

 ぽんた王国が近付いてくると、だんだん、すごく心配になってきましたよ。

 わたし、濁流に呑まれたのは覚えてるんです。

 すごい大雨、そして暴れる川。

 目が覚めた所からずっと遡ってきたんだけど、ぽんた王国に近付くと、景色がすごいんです。

 大きな岩が動いていて、以前ポン吉と遊んだ時とは全然違うの。

「な、なんですかコレはっ!」

 道に「通行止め」の標識。

 警察の人も立ってます。

 でも、ここを突破しないとぽんた王国に戻れませんよ。

 人目のないところ……景色の変わった川に行きます。

 鉄砲水の後でドロドロな所を進みます。

 警官の目を避けながら、なんとか突破できました。

「うわ……」

 ぽんた王国、おそば屋さんと土産物屋さんがなくなってます。

 一番道沿いの、川に近い方の建物、鉄砲水に呑まれちゃったんです。

「あっ!」

 でもでも、ニンジャ屋敷の前に見つけました。

「ポン太! ポン吉!」

 わたしが手を振って駆け出すと、二人もわたしに気付きました。

 ポン太、手にしてた荷物を落として固まってます。

 ポン吉はバンザイして駆けて来ます。

「ポン姉っ!」

 飛びついてきたポン吉をしっかりハグ。

「無事でしたか!」

「ポン姉、死んだかと思ったぜ!」

「えへへ、しっかり生きてます、泥んこですけど」

「ふふ、本当だ、泥のお化粧か?」

「わたし、きれい?」

 あ、ポン吉すごい笑ってます。

「ポン姉、どこまで流されていたんですか?」

「結構歩いたよ……通行止めを突破して……」

 わたし、近付いてきたポン太も抱き上げます。

「二人とも無事でよかったよ……」

 でも、玄関先で衝撃受けました。

「ちょ……なんですかコレ!」

 玄関に貼り紙。

「立ち入り禁止ってなんですか!」

 わたし、ポン太をにらみます。

「あ、あの……」

「ポン太、長老はどうしたの!」

「あの、あの!」

「なに!」

「こ、ここは!」

「あの長老、お金でここを売ろうとしてたんだから!」

 って、玄関が開いて長老登場。

「おお! ポンちゃん無事でしたか!」

「長老、結局ぽんた王国売り払ったんですか!」

「違うんですっ!」

「え……ポン太、違うの?」

「違うんです……違うんです……」

「だって長老、お金に目がくらんでいたよ」

「鉄砲水があったでしょ」

「うん、わたし呑まれちゃったもん」

「あの鉄砲水のせいで、ここに治水のダムを造ることが決まったんです」

「そ、そうなんだ……」

「そんなわけで立ち退きも決定したんです」

 わたし、てっきり長老がここを売り払ったとばかり思ってました。

 長老がわたしの服を触りながら、

「泥んこだから、すぐに風呂の準備をしましょう」

「あ、ありがとう……でも、長老これからどうするんです?」

 わたしが聞いたら、なんか重苦しい空気になっちゃいました。

 ポン太と長老、うつむいちゃいます。

「え、えーっと……」

 そんな雰囲気にわたし、とりあえず愛想笑い。

 でも、一人ニコニコしているのがいます。

「ポン姉、オレ達お引越しなんだぜ」

「そ、そう……」

 ポン吉はなんでニコニコなんでしょ?

 引っ越すのが楽しいのかなぁ。

 住み慣れた所から離れるのに。

 わたし、ポン吉をじっと見ます。

 うーん、ポン吉は引っ越すのが楽しいみたい。


 お風呂とごはんが済んだら眠たくなっちゃいました。

「もう頭が回らないから、寝ちゃいましょう」

「オレが一緒に寝てやるぜ」

「……」

「どうかしたか? テレてるのか?」

「ですね、ポン吉と一緒に寝ましょうか」

 ふふ、ポン吉つかまえましたよ。

 一緒に寝るとしましょう。

 さっきポン太と長老はうつむいてたけど、ポン吉はニコニコしてました。

 ポン吉ならなんでも話してくれそうです。

 いや、話したがるでしょう。

「ねぇねぇ、ポン吉、さっきお引越しって言ってなかった?」

「だぜ、オレ達お引越し」

 って、枕ならべてるんだけど、顔近いの。

 ポン吉、表情くもりました。

「どうしたの?」

「うん……ポン姉……」

「?」

「オレ……オレ達、ポン姉死んだって思ってたんだ」

「まぁ、あの水の勢いじゃ……ね」

「オレ、引っ越すって浮かれてたけど……」

「?」

「ポン姉いない事になってたから」

「ああ、わたしの事は心配しないでいいですよ」

「オレ達は引っ越しちゃうけど、ポン姉はどーするの? 一緒に行く?」

「うーん、みんな行っちゃうんですよね……」

「うん……どーするの?」

「う~ん」

 なんてね、悩んでいるの、フリだけなの。

 ここがなくなるなら、お家に帰るだけですよ。

 ポン吉も心配気なので、明るく明るく。

「わたし、パン屋さんに帰るだけ……だけ……だけ……」

 言いながら、わたしの記憶に強烈なシーンが鮮やかによみがえり!

 そう、「わらわは店長と結婚したのじゃ!」です。

 コンちゃんの爆弾発言、しっかり思い出しました。

「だけ……だけ……だけ……だけ……」

「ぽ、ポン姉、大丈夫? 壊れかけ?」

「こここ壊れてないけど……確かに壊れかけ」

「大丈夫か?」

「あ、あんまり大丈夫じゃないかも」

 そうです、コンちゃんと店長さん結婚してるんです。

 わたしがさらわれて、そんなに時間経ってないのに。

 きっと店長さん、さみしさで心に隙が出来てコンちゃんにやられちゃったんですよ。

「どうしよう……」

「ポン姉、本当に大丈夫か?」

 コンちゃんと店長さんが結婚してるなら、パン屋さんにわたしの居場所はありません。

 わたし、嫌な女になっちゃうじゃないですか。

 むー、コンちゃんとはケンカもしたけど……

 コンちゃん結婚してしあわせなら、祝福してあげるべきかな。

 負けメスは死なず、ただ去り行くのみ。

 そんな事考えてたら、店長さんの顔が浮かんできます。

「ポン姉……」

 あ、ポン吉、心配そうな顔してわたしの頭、なでなでしてくれます。

「本当に大丈夫か、オレ、心配だ」

「うう……」

 なんだか鼻がツンとしてきましたよ。

 やさしくされたから……よりも……

 なでなでされて……店長さんになでなでされたの、思い出しちゃいました。

「うわ、ポン姉、なんで泣くかな!」

「うう……いろいろあるんです、いい女には」

「いい女って誰だ?」

 あ、いい返答です。

 わたし、ポン吉をチョップ! チョップ!

「ここにいるでしょー!」

「あ、笑った笑った、元気になった」

「ふふ……わざと言いましたね?」

「で、いい女はどこ?」

 わたし、ポン吉のほっぺたを引っ張ります。

「わざとボケてくれたと思ったのに~」

「痛いイタイ……ツッコミのつもりなのに」

「さらにギュー!」

「痛~い!」

 あ、いい事思いつきました。

「ねぇねぇ、引越しはすぐ?」

「なにも聞いてないぜ」

「明日は川で遊びましょう」

「!!」

「最後に思う存分遊んで、思い出つくりましょう」

 そう、遊んで嫌な「コンちゃんの結婚」、ちょっと忘れましょう。

 そしてこれからどーするか、考えましょう。


「ふふふ……」

 そうそう、着替えを出してもらったとき、中にスク水も入ってたんですよ。

「どうですか、ポン太、ポン吉、ドキドキしますか?」

 ポン太はポカンとしてます。

 ポン吉はニコニコして、わたしの手をとると、

「ポン姉、早く行こうぜ、泳ごうぜ!」

「鉄砲水の後で濁ってるよ~」

 って、わたしも水に入る気満々なんですけどね、なんたってスク水です。

 ポカンとしているポン太をつかまえて、

「ほら、一緒に行きますよ!」

「は、はい……」

「長老はお昼おはんの準備おねがいしま~す!」

 って、長老、酒瓶をあおりながら手を振ってます。

 川遊び、ちょっと不安だったんですよ。

 鉄砲水の後で川が濁ってるかと思ったらすっかり綺麗。

「あっちまで競争です!」

 わたし、真っ先にダイブ。

 対岸に到着。

 二着ポン太、ポン吉が最後でした。

 ポン太はクロールで速いはやい。

 ポン吉はタヌキなのに犬かきでゆっくりしっかり。

 川は綺麗で思わず泳いだけど……水冷たすぎ。

 わたし達、思わず陽の当る大きな岩の上で体育座り。

 三人そろって唇を青くしながら、

「ああ、お陽さまが温~い」

 わたし達、並んで対岸のぽんた王国を見ます。 

「さみしくないですか?」

「は? なにが? オレ引越し楽しみだぜ!」

「そーですかー!」

 わたし、ポン吉の頭をなでなで……ちょっと強めに。

 聞きたいのはポン太の意見です。

 引越しでちょっと表情暗いんだもん。

「ポン太はどうなんですか?」

「え? ボク?」

「ですよ、元気ないです、ここを離れるの、嫌じゃないんですか?」

「……」

「大体どこに引っ越すんですか?」

 一瞬ポン吉がなにか言いそうになりました。

 でも、そんなポン吉をポン太が目で制止。

「その事なんですけど……長老が新しいおそば屋さんに雇われたそうなんです」

「長老素早いですね」

「ボクも今まで通りお醤油やお味噌を作って暮らしていけるそうです」

「どゆこと?」

「大豆を使った名産品が他にもあるらしくて……」

「引越し先はしっかりした所なんですね」

「だから心配しないでください」

「だってポン太、元気ないし」

 って、ポン太微笑むと、

「住んでた所があんなになったら、誰だって……」

 ポン太やポン吉の心配はしなくてよくなりました。

 そしたら急に自分の事が心配になってきます。

 わたし、パン屋さんに帰ってもいいのかな?

 店長さんとコンちゃんの愛の巣に……お邪魔じゃないかな?

 でもでも、最後に店長さんの顔が見たい見たい!


「ポンちゃん、一緒に行かないでいいですか?」

「うん……わたし歩いてパン屋さんに帰ります」

「ポン姉、元気でな!」

「ふふ、ポン吉すごい楽しそう」

「新しい所に行くからな~」

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