第62話「遠足決戦」
ああ、ぽんた王国にダンプが迫ってきます。
決戦の時は今なんですが…コンちゃんがいるからきっと余裕。
でもでも長老はまだ1億円に未練あるみたい。
ダンプで突っ込むような連中がお金はらってくれるはずありません。
なんたって十五人割なんですから!
ニンジャ屋敷の方は、さっきから歓声が続いてます。
ポン太・ポン吉の「ニンジャー」が受けてるんでしょう。
でも、道路に面したおそば屋さんの中、張り詰めた空気なの。
現場監督さんはつるはし。
シロちゃんは銀玉鉄砲。
コンちゃんは窓で見張り。
わたしもコンちゃんと一緒です。
「コンちゃん、大丈夫かな?」
「わらわの術をもってすればイチコロなのじゃ」
「頼んだよ~」
って、誰かいません。
長老……どこに……厨房でそば、こねてます!
「なにやってんですか!」
「いや、昼に三十人分だから」
「敵が来てるんですよ! 仇が! こわもてが!」
「……」
「まさかまだ一億円とか思ってませんか!」
「未練が……」
「バカー!」
わたし、チョップを食らわすけど、長老は黙ってそばをこねつづけ。
ダンプ軍団の爆音が近付いてきました。
道路に見えます。
お店に向かって突っ込んできました。
「きゃー!」
「うむ、わらわの術で……」
コンちゃんが窓に向けて、迫ってくるダンプに向けて手を伸ばしました。
そんなコンちゃんの目が険しくなります。
「あ?」
コンちゃんの術が出る前に、ダンプが地面に「落ちて」しまいました。
突っ込んできたダンプ、先頭集団は落とし穴にはまってます。
後続集団はそんなダンプにぶつかって、モウモウと煙をあげていますよ。
「えーっと、コンちゃんの術?」
「い、いいや……わらわの術ではないが……」
長老、こねているそばの固まりをポンポンしながら、
「罠をしかけていて……駐車場より近付くと……重い車だと……」
「長老、さすが、なんだかんだ言っても戦う気だったんだ」
「罠、しかけているの忘れてた」
「……今、一瞬しまったとか思いませんでした?」
「……」
「突っ込んで来たら、損害賠償請求とか思ってませんでした?」
長老、厨房に逃げちゃいました。
まだお金もらえるとか思ってるみたいです。
ダンプで突っ込むなんてマンガみたいなコテコテ攻撃をする連中がそんな律儀な事、する訳ないじゃないですか。
わたし達、窓に張り付いて事故現場を確認。
うわ、荷台にこわもてさん達が乗っていたみたいで、みんな飛ばされてぐったりしてます。
「だ、大丈夫かな?」
「あれが悪人の末路なのじゃ」
「助けに行かないでいいかな?」
「ポン、おぬしもお人好しじゃのう」
「だって~」
落とし穴にはまったダンプの運転席から、一人はい出てきます。
煙でよく見えないけど、なんだか助けに行かないといけないような!
「わたし、助けに行く!」
「ポン、うかつに動くではないっ!」
もう、心配でいてもたってもいられません。
駆け寄って肩を貸します。
「大丈夫ですかっ!」
現場監督さんみたいに、体格のいい人です。
ちょっと重たいけど、今は火事場のなんとやら。
ああ、わたしにしがみついてきます。
服なんか破けてますよ。
「大丈夫ですかっ!」
「つ・か・ま・え・た」
え……冷や汗たらり。
わたし、見事策にはまっちゃったみたい。
しがみついてるんじゃなくて……わたしを捕まえてるんです。
体格いいから、すごい力。
「つかまえた」
顔をあげたら、ゴットファーザーみたいな悪人顔。
ニヤリとした口元、見ただけでゾッとします。
「だだだだましましたね!」
「仕事でね」
「わ、わたしなんかつかまえてどーするんですっ!」
わたし、後ろ手につかまれてしまいます。
ゴットファーザー、声を大にして、
「タヌキ爺、娘は預かった、黙って出て来い!」
「わたしを人質にとってもムダです、長老の娘じゃない!」
「しっぽ」
「さわんないでください!」
「ふふ、ねーちゃん黙ってな、後で可愛いがってやるからよ」
「ひー、中学生スキーですか! 犯罪者ー!」
「うるさいねーちゃんだな、その通りアウトロー!」
手下のこわもてさんがやってきて、バトンタッチされちゃいました。
口にガムテープ貼られちゃいましたよ。
「出て来い爺、妙な動きを見せたら、娘を……タヌキ娘を狸汁にするぞゴラ!」
って、ゴットファーザー、銃をわたしに突き付けます。
長老が出てきました……でも、玉にしたそばをポンポンしながら。
まだ昼の心配してるみたいです。
「親分、中にまだいますぜ」
わたしを捕まえてるこわもてさん、なかなかよく見てます。
ゴットファーザー、銃を空に向けて一発。
「中にいる連中、全部出て来いやゴラ!」
コンちゃん・シロちゃん・現場監督さんが出てきます。
手下のこわもてさん達、シロちゃんが出てきたらザワザワ。
そう、シロちゃん婦警さん姿、ミニスカポリスだけど。
「サツまで呼んでやがるとは、タヌキ爺やるな、タヌキのくせに」
チャッて銃口を長老に向けるゴットファーザー。
シンとする現場。
長老達はお店を背にしてます。
こっちは落とし穴にはまったダンプを背にしてます。
静かだけど、背後の川のせせらぎがはっきり聞こえます。
「よーし、タヌキ爺から血祭りだ」
「フゴフゴ!」(殺しちゃうの!)
声になりません。
「ムー!」
「なんだ、お別れ言いたいのか?」
ゴットファーザー、ガムテープはがしてくれます。
「すすす素直に出てきたのに殺すんですか!」
「仕事でね」
「鬼っ! 悪魔っ!」
「命を助けるとか、約束してない」
ゴットファーザー、銃口を外しません。
余ってる手でポケットからタバコ。
こわもてさんがスッと火を差し出します。
「山の向こうのダム工事で、タヌキのしっぽをしたのが、妙な術で邪魔をしたって情報がはいっている」
わ、わたしはやってな~い!
術を使うのはコンちゃん・ミコちゃんです。
「生かしておいたら、今後の仕事の妨げになるんでね」
うわ、引き金にかかった指が!
「待てっ!」
「!!」
コンちゃんの声にみんなの動きが止まります。
わたし、目で語ります。
テレパシーって言うのかな。
『コンちゃん、なにか術を!』
『任せておくのじゃ……しかし』
『しかしなんですか!』
『わらわが術を繰り出すのも、うかつにやってはバレるやもしれん』
『こ、ここからコンちゃん・シロちゃん、しっぽ見えてません』
『用心は用心じゃ』
『術って頭で念ずるだけじゃダメなんです?』
『一応格好というのがあるのじゃ』
ああ、必殺心臓マッサージとか、手を伸ばして宙をモミモミするアレですね。
「何だ、ねーちゃん、俺のクラブで働いてみるか?」
「無粋なヤツじゃ……わらわはそこのタヌキ娘に言っておきたい事があるのじゃ」
「んだと?」
「このタヌキ爺を殺して、娘も当然殺すのであろうが」
ゴットファーザー、黙っちゃいました。
静かに、
「別れの言葉、短めにな」
「なーに、すぐ済む……」
深呼吸するコンちゃん。
息をしっかり吸ったところで、
「わらわは店長と結婚したのじゃ!」
「え!」
いきなりな結婚宣言。
わたし、ダンプに轢かれたくらいのショックです。
バック暗転して、稲光とかする表現。
「わらわは店長と結婚したのじゃ!」
バックが暗転して稲光……心理描写。
こわもてさんやゴットファーザーがきょろきょろしてますよ。
バックが暗転してるんじゃなくて、本当に暗転してるんです。
滝のような雨。
襲い掛かる濁流。
「え!」
「……」
青空が見えます。
体を起こすと、川原ですね。
いきなり濁流が襲ってきたところまでは覚えてます。
「流された……んですよね?」
流されたなら、上流を見ればいいんですよ。
おお……ぽんた王国で見てた山が小さくなってます。
「!!」
そう、ゴットファーザーとにらみあってたんですよ。
急いでぽんた王国に戻らないと!
ポン太もポン吉も長老。
コンちゃん・シロちゃん、そしてレッド。
みんなが無事でありますように!
でもでも、なんだか戦闘シーン、ことごとく飛んじゃってますね~
「無事でしたか!」
「ポン姉、死んだかと思ったぜ!」
「えへへ、しっかり生きてます、泥んこですけど」
「ふふ、本当だ、泥のお化粧か?」
「わたし、きれい?」