灯台
彼女のちょっとした仕草にどきっとした。
目の前に置かれたカップを彼女が取り上げる。視線はカップに注がれた紅茶の表面に置かれている。
今日のリップは濃い目のピンク。色気よりむしろ、可愛さが強調されているように思える。
「何?」
視線があった拍子に彼女が呟く。
「いや、なんとなく」
多分、少々慌てた表情をしながら、カップを口に運んだ。舌を少し火傷したと思う。
小首を傾げ、彼女は照れたように微笑む。
喫煙者は全体の30%。むしろマイノリティとして保護が必要なレベルと思う。
まあ、世の中はそうは思うはずがないけど。
吸い終わった煙草を携帯灰皿の中に押し込みながら、空を仰ぐ。
陽射しは強い。今日も30℃超え。乾燥はしているのか、風は心地よい。
運転席は快適に空調されている。
ちょっとしたドライブ。
子供の頃、両親と行った灯台。もう何年過ぎたのだろう。
海沿いのバイパス。
視界の隅に白い灯台。
彼女の好きな曲が流れる。ライトなテイストのR&B。とりとめのない会話。安らいでいく。
路面には相変わらず、強い陽射しが反射している。
「素敵な景色」
満面の笑みで彼女が云う。仕事に行き詰まっていた彼女の久しぶりの表情。
「ありがとう」
「お役に立てて光栄ですよ」
灯台は思っていたより小さかった。所々塗装が剥がれて、コンクリートの地肌が見えている。
コントラストとしてのロケーションは見事なもの。彼女の笑顔が花を添えた。
安らかな彼女の寝顔。つい顔がほころんでしまう。いつまでも見ていたい。
夏が終わりますね。
今日、3度目の吐血をした。窓を開けると紫煙は外へと音もなく流れていった。
ずっと前に書いた文章の焼き直しです。
少し練習を兼ねて書いてみました。