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スカッと系

スカッと!ぶつかりおじさんの末路

作者: 地野千塩
掲載日:2026/08/22

 ある朝、通勤途中の駅の出来事だった。


「邪魔!」


 ドンっとぶつけられた。突然のことだ。「痛い」と言えるはずもない。


 相手はおじさんだった。わたしを見下ろすと、ツバも吐いて去っていく。


 周りには多くの通勤客もいたが、見て見ぬふりだった。別のおじさんは、憐れみ深い表情を見せていたが、それだけ。


 涙が出そうだ。田舎から出てきて都心で働き始めて五年。やっぱり田舎の人達のが優しかったなぁと思い出すと鼻がツンとして視界が滲む。


「で、でも会社に行かなきゃ……」


 おじさんにぶつけられた右足はジンジン痛むが、仕方ない。わたしは瞼をこすると、前を歩き始めた。


 数日後。おじさんにぶつけられた右足がまだ痛む。青黒いアザもできていた。若い女だからって舐められたのだろうか。悔しい。わたしは小柄な方だし、会社でも後輩の男性社員に舐められることも珍しくない。


 そんな時だった。自宅で適当にSNSをやっていた。あの出来事も呟いたら、コメントがついた。


 珍しい。わたしのSNS、ろくにフォローもいないのに。コメントによれば、わたしが使っている駅、「ぶつかりおじさん」がいるらしい。駅で迷惑行為をするおじさんの蔑称らしいが、コメントを送ってきた人も被害を受けたらしい。


「わたしなんておじさんにぶつけられたせいで、スマホの画面壊れたし。許せない! あんなヤツ、野放しにしていていたら、いつか事故が起きるよ」というコメントが。


 それには同意。確かあの駅、知的障害者の女性も利用していたし。それに怒りを隠していないコメント主を見ていたら、わたしにも火がついてしまった感じ。


「そうか。泣き寝入りは良くないよなぁ……」


 ということで、わたしはコメント主と連絡をとり、駅で落ち合うことにした。


 わたしと同じぐらいの年齢の女性だった。小柄で、メガネをかけている。パッと見ると、おとなしそうだが、声は低めだし、単なる可愛らしい人ってわけでもなさそう。名前はミツキ。SNS上の名前なので、お互い本名は知らないが。


「ユウナさんはどのあたりで被害にあったの?」

「あのホームの階段の踊り場あたりです」

「ひっど! 階段から落ちたら死ぬじゃん。許せないー!」


 今日は休日なので、乗客は少ないが、それでも人波が来ると、安全地帯とは言い難い。


「ミツキさん、とりあえず、駅員さんに言ってみる?」

「ええ。もちろん!」


 ということで、駅員にこのことをち伝えたが、困っている様子だった。もう何度も似たようなクレームを聞かされたって顔。


「わたしどもも困っているんですよねぇ。ちょっと有名なおじさんで」

「駅員さん、その人の特徴やよく出没する時間はわかります?」


 ミツキは諦めずに、さらに駅員に聞き込んでいた。まるで探偵みたいじゃないか。実際、駅員の情報から似顔絵まで作ってしまった。これがけっこう上手いし、あのおじさんの特徴通りだ。


「まさかミツキさん、自分で捕まえるつもり?」

「ええ。駅員さんまで困っているんだから。絶対捕まえる!」

「えー?」


 そこまでやるかは謎だったが、乗り掛かった船だ。それに探偵みたいで面白い。


 それからは朝早く出て、ミツキと駅で合流。時間がゆるすかぎり、二人でぶつかりおじさんを探していた。


 乗客も少なくない駅だ。朝のラッシュ時は人波にのまれ、なかなか成果は出ない。


「でも何でそこまでするんです?」


 ある朝、疑問を口にしていた。正直、そこまでするのは、単なる仕返しや正義感以上のものがありそう。


「実はさあ、わたしの弟、歩きタバコが目に当たって失目するかもって瀬戸際だったんだ」


 息をのんだ。確かに歩きタバコの手も位置、子供の目の高さ……。


「犯人は行方しらず。でも弟の顔にやけどの跡は残ったしね。おかげでいじめにもあったり」


 あっけらかんと語っていたが、理由は分かった。同時にわたしもやる気出てきたし、ミツキのことも興味をもった。もっと知りたいと思う。


「ミツキさん、今度カフェでも行かない?」

「いいね。ユウナさんは、なんか趣味とかある?」

「趣味っていうほどでもないけど……」


 その時だった。ふと、顔を上げたら、視線の先に探していた人物がいた。ふてぶてしく、大股で歩いていた。人波に混ざっても、わたしにはおじさんの姿がくっきり見える!


「いた!」


 ミツキは声を上げたが、行動は冷静そのもの。おじさんには近づかず、スマホで動画を撮っているではないか。


「え、動画撮るだけ?」

「大丈夫。泳がせているだけ!」


 そう、本当に泳がせているだけだった。おじさんは、その後、近くの人にぶつかり、転ばせていた。しかも知的障害者の女性を。


 まさか選んでやってる? 一見弱そうに見える人を選んでる?


 腹の底から怒りが湧いてきそうだったが、すぐにミツキは被害者を助けに行った。わたしも勝手に身体が動き、助けに向かっていた。


「あ、ありがと……。今まで助けてくれたの、あなたたちだけ……」


 他の人たちは見て見ぬフリだったが、ミツキだけは違ったみたい。都会の人は冷たいなんて思っていたけれど、間違いだった。


 結局、ミツキが撮影していた動画はSNSに投稿され、おじさんは炎上してしまった。ネット民がおじさんの顔から身元を特定し、本名や住所まで晒されていた。ネットの噂によると、おじさんはこの件で会社も解雇され、引っ越したらしい。


 でも、それはどうでも良いことだ。あの一件からミツキとも仲良くなった。今日は同じく被害を受けた知的障害者の女性が働いているカフェへ行く予定だ。


「ミツキさーん、お待たせ。一緒に行きましょう!」

「ええ。楽しみよ!」


 ミツキは笑顔だ。しかもあの一件から、探偵の仕事にも興味を持ったらしく、新しい目標もできたらしい。


「なんかわたしたち、もう友達っぽくない?」


 わたしも笑顔で言うと、ミツキは深く頷いていた。

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