1031many color mysterious astray〜少女の選択〜
日本 札幌
令和七年 春
朝 晴れ
しばらく好き勝手したくて、私はまず探し歩く。無人の市内を――やがて、駅前に着いた。と、私は振り返った。声をかけられたからだ。キミも探しているのか? と。
青年は、「他の暇潰しをしたほうがいいよ」と、親切な調子で続けた。
「私は天涯孤独」私はさりげなく言った「だから平気」
「ボクもだよ」青年はなにげなく答えた「でも平気じゃない。恐ろしい目に遭うかもしれない。そうだろう?」
「うまくやりましょう?」
「ボクと?」相手は少し驚いた。
私は頷いて、「名前は? 私は――いや、その前に聞くわ。キミがそうなんじゃないの?」
「ボクはロリコンじゃない」青年はなにげない表情できっぱり答えた「そしてキミはボクの好みじゃない。かといって嫌いでもない」と、肩をすくめる「よって顔は溶かされない」
「完璧な答えね。もっとも私達は初対面よ?」
「ならキミが前を歩けばいい。正面からだけだろ?」
「分かったわ。私はユキコ」
「ゴロウだ」
「ゴロウ、どこへ行く? 手掛かりは?」
昼、私達を乗せた列車は道北の名寄に着いた。田舎の駅前に出ると人の姿はなかった。
と、背後から声をかけられた。振り返ると、二十代の男は、「男の方、もちろんお金をやるから挑んでこないか?」と、ゴロウにさりげなく言った「佇むか?」
「もちろん」
二人は対峙した。
それは翌日の夕方になっても続いた。
「分かった」ふと男は言った「キミじゃないな。試して悪かった」
その“試し”は、翌朝に美深――名寄の隣町――でも。田舎の駅前で相手を変えて、ゴロウは次の日の朝まで行った。そして、また同じ結果になった。
謝って相手が去ると、「無欲なのね」と、私はゴロウに声をかけた「それとも弱虫なだけ?」
「申し訳ないだけだよ。ただ殴ってお金なんて」
「普通じゃない? まっ、偉いけどね」
「偉くないな」背後から声がした。
振り返ると、若い男がゴロウを指差し、「そこの小型ポコチン野郎、ボクと戦おう。お金はなしだがな」
ゴロウは顔をしかめながら、「目的は?」
「ボクは正義の人だ」正義? 「したっけボクとの戦いに応じるヤツは何かしらの悪いヤツの可能性が高い。だから戦うのさ」
はぁ? 私は呆れる。何でそんなこと言うわけ? そんなこと言われて戦うヤツなんて……
「分かった。戦う」
えっ?
「殴り合いだ。来い」
「ちょっとゴロウ、何で応じるわけ?」私は聞いた。
「理由、お楽しみとして楽しめ」
はぁ?
殴り合いは翌朝まで続き、それから場所を、美深よりさらに北にある中川町に移して行われた。
――それにしても二人とも、ダメージが見受けられないわね。
と、その日の昼、無人の中川駅前で私は思った。まるでロボットみたい。
と、私は左の頬を叩かれた。
何!? 軽い力があったほうを見る。
「ゼロパーセント?」と、三十代の男は不思議そうに言った「キミは誰だ?」
「何で叩くのよ!?」私はキレた「このクソボケ野郎!」
「すみません。私はコレクターなんです」と、男は丁寧に答えた。
「はぁ? コレクター?」
「だけどキミは違う。どうやら寝ぼけたようです」
「コレクターって何の?」と、ゴロウの声。そちらを見ると、二人の男は殴り合いをせずこちらを気にしている。
「面白いのに似たのを」と、コレクターは笑みを浮かべる「最大九十一パーセント」
「自慢してもらいたいものだな。連れて来いよ」
コレクターは肩をすくめる。「ダメだよ。きっと欲しがるから」
ゴロウは眉をひそめた。「欲しいな。絶対に全部もらう」
えっ? 私は戸惑いながら、「欲しいの? ゴロウ」
「欲しいよ」
何で……?
「お前ら二人ともダメだね」と、正義の人が言った「叩き潰してやる」
「私は帰る」と、コレクター。
「逃げるなよ、ポコチン野郎」
コレクターは肩をすくめた。「下川で戦おう」
翌朝、名寄の隣町下川の入り口で私達四人は集まった。
「無人のうちに始めようか」と、正義の人が言った「二人とも殺してやる」
「それは困るわね」
私達は一方を見る。
二十代の女性がいた。「四人とも、私の部下になりなさい」
部下?
「誰だ?」と、正義の人「お前の目的は?」
「私はモトハシ。目的は世界征服」
世界征服? 私はぽかんとした。
と、モトハシは三人の男を順に見ていく。「――どうやら三人ともその気はないようね」と、そっと息をつく。
ふと、彼女は笑う。「私が犯人よ」
えっ?
犯人?
告白した彼女は、「信じる?」と、私達にさりげなく問いかけた。『信じる』って……
「信じるよ」
ゴロウ!?
「私は興味がない」と、コレクター。
と、正義の人はモトハシを指差す。「よし、殺してやる」
モトハシは頷く。「殴り合いよ。楽しめるわ、しばし」
やってやるわ。私はワクワクする。
「みんな待て」と、ゴロウは鋭く言った「見られている」
見られている? 私は辺りを見回す――いないじゃない。
ゴロウは、「戦いはやめろ、モトハシ」
「ならそうするわ」
えっ?
「さようなら」と、彼女は去った。続いてコレクターも。
私はガッカリしながらゴロウに、「見られているから何? ダメなの?」
「通報されたいのか? したっけ逮捕されたいのか?」
「……はぁ」
ムカつく……
「キミはどうして残っている?」と、ゴロウは正義の人に聞いた「目的は?」
「証拠探しだ」正義の人は答えた「お前と一緒にいれば見つかるかもしれない」
「好きにしろ」
――それにしてもムカつくわ……
数週間後の朝、私達三人は音威子府の無人の駅前にいた。
「証拠は見つかったか?」と、ゴロウは正義の人に微笑する。相手は舌打ちした。
「証拠なんてどうでもいいわ!!」私は叫んだ「殴り合いましょう!」ピークだった「さぁ!」
「よくないわね」と、モトハシが現れた「見られているわよ。ずっとでしょ?」
「だからこうなってるのよ!」私は彼女に言う「ちょうどいいわ。戦いましょう、モトハシさん。私はあなたが一番嫌い。征服なんて辛すぎるわ」
「私は戦わない」相手はなにげなく返した「二人もよね?」
「もちろんだ」と、正義の人。
「ああ」と、ゴロウ「ユキコ、なぜ今戦いたい?」
「今?」
彼は頷く。「明らかに今はその時じゃないだろ?」
「そうね。でもいつまで経っても見つからないじゃない。私は好き勝手したい。もう今がその時よ。相手は世界征服を企んでいるんだから」
ゴロウは寂しげな顔をした。「ならボクが戦うよ」
「えっ? 何で?」
答えず、彼はモトハシに迫った――
その日から、彼はだんだん元気がなくなっていく。
その日から数日後、正義の人は私達から離れていった。
翌朝、私はゴロウに言った。腹を立てながら。
「元気を出してよ。負けたけど大丈夫なんでしょ?」
「……そうだな……」
私は内心溜息をついた。「愛してるわ」
数日後、ゴロウは自殺した。
そんな彼に私は嫉妬した。
――モトハシ。
ゴロウの仇を――
いや。
私はそもそも何が――
――私もそうするわ。
私は決めて、考える。
――とりあえず寿司を食べに行こう。
〈了〉




