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姿を見せたもの

大通りに出た瞬間――

街のざわめきが、風のように押し寄せてきた。


商人たちの呼び声。

笑い声。

焼き立てのパンと、生木の匂い。


その中を歩くリレールは、

まるで空気の隙間に紛れ込んだかのように

ふっと存在感を薄めていた。


消えたわけではない。

ただ――

誰の視線にも、引っかからない。


世界の音の間にできた

“小さな空洞”みたいに。


グリディスが最初に気づいた。


「シャドウ……」

彼はおそるおそる彼女の手を取る。

まるで迷子の子どものように。


「……リレール、大丈夫なの?」


「大丈夫よ」

シャドウは淡々と答えた。

「今ならね」


だがその声には、

“閉じた本を二度と開かせない”ような

冷たい確信があった。


グリディスは不安になり、

彼女の腰にそっと腕を回した。

男としてじゃない。

混雑の中で母を探す子どものように。


シャドウは動きを止めたが、

払いのけはしなかった。


「……どうしたの?」


彼は肩に額を押し当て、

震える声でつぶやいた。


「どうして……

どうしてあの子を……ああしたの……?

どうして、リレールだったの?」


シャドウの息が少しだけ細くなる。

冷たく、鋭く、張り詰めた呼吸。


腕に絡む彼の指を見つめながら、

彼女は小さく息を吐いた。


――また震えてる。

この子はいつも、壊れそうなくらい震えて、

それでも前に進もうとする。

問いかける。

怖くても、問いかける。


「……似ていたから」


グリディスは顔を上げた。


「誰に……?」


沈黙。

ひどく長い、痛むような沈黙。


「外側じゃない」

シャドウは視線をそらす。

「内側を壊されて……

それでも、生きるしかなかった者に」


「……あの夢の……?」

グリディスは息を呑む。

「昔見た……鎖につながれた小さな子と……

君に似ている“誰か”……」


シャドウの目が一瞬で鋭くなった。


「グリディス。

あれは夢よ。

ただの夢」


――違う。

わかっていて言っている。

それでも、嘘を選んだ声だった。


「でも……違うんだ」

彼は小さく震える。

「僕……もっと見たんだ……」


シャドウは彼の耳元に唇を寄せ、

刃のように静かに囁いた。


「二度と見る必要はないわ」


胸が締めつけられる。

彼女は知っている。

すべてを知っていて――

言わない。


その時、背後で

ふっと気配が薄れた。


「……リレール?」

グリディスが振り返る。


リレールは確かにそこにいる。

けれど、息の音が弱く、

輪郭が淡く揺れていた。


人々は横を通り過ぎるが、

誰一人として彼女に目を向けない。


「……ここに、います」

リレールはかすかに答えた。

「でも……世界が……

わたしを見てくれない……」


シャドウは細めた目でリレールを見る。

その視線は獣のように鋭く、冷たかった。


「……それは“グラジ”の残り香よ」


「残り……香……?」

グリディスは首をかしげる。


シャドウは彼の瞳を覗き込むようにして言った。


「グラジはただの鎖じゃない。

 “糸”なの。

 教会が『供物』と呼ぶ者を縛るための――

 深く、ねっとりとした糸」


ゆっくりと、

彼女は指先で空気をなでた。


ひやり、と。

その一瞬だけ、空気の温度が落ちる。


「糸は、切っても跡を残すわ」

「糸……の跡……?」


「そしてそれを感じ取れる者がいる」

シャドウは静かに続ける。


「教会の上位祈祷師たち。

 あの“主”に仕える者たち。

 彼らは、切られた糸の震えを嗅ぎ分ける」


リレールの肩がびくりと震えた。


「……じゃあ……来るんですか……?

 あの人たち……」


シャドウはリレールを真正面から見つめた。

その瞳には、優しさはなかった。

ただ、真実だけがあった。


「来るわよ。

 いつだって来る。

 間に合うかどうか――ただそれだけ」


グリディスの背筋に冷たいものが走る。


(シャドウは、助けたんじゃない……

 “似ていたから”……

 自分に……)


怖いのは教会じゃない。

シャドウ自身だ、と気づく。


三人は歩き続けた。

だがグリディスの視線は

どうしても後ろの少女へ吸い寄せられた。


リレールの姿は

世界から薄れつつあるのに――

なぜか彼だけは見える。


影のフード。

長い袖。

控えめな輪郭。


だが、ほんの少し揺れた布の下に

確かな“温度”がある。


歩くたび、

影が柔らかく揺れて

その下に隠された細い腰の線が

かすかに浮かび上がる。


急に意識してしまった自分に気づき、

グリディスは顔を赤くした。


「……シャドウ……

 わざと……そうした……?」


シャドウは振り返らずに答える。


「何が?」


「その……服……

 なんか……形が……見える……」


「見えるのは、あんたの責任よ」

シャドウは鼻で笑う。

「私は“隠した”。

 世界の目からはね」


「ぼ、僕は……

 見ようとしたわけじゃ……!」


「ふふ。

 そうね。

 “たまたま”でしょ?」


完全にからかわれている。

だが反論できない。


そこへ、

リレールの小さな声が落ちてきた。


「……あの……わたし……

 変じゃ……ないですか……?」


シャドウの返事は、

短くて、妙に生々しかった。


「――普通よ。

 歩きなさい、リレール」


(今の言い方……!)

グリディスは思わずむせそうになる。


影が再びリレールを包み込み、

その姿は世界から薄れたまま。


だがもう“空っぽ”には見えなかった。

確かにそこにいる“少女”だと

彼だけは分かってしまった。


そうして三人は、

さらに街の奥へと進んでいく。


街のざわめきが次第に遠ざかり、

風に混じる匂いが変わっていった。


――熱い樹脂の匂い。


――鍛冶場の火花の匂い。


――薬草を煮る、甘くて苦い蒸気。


――火の歌いオグネペフの金属の香り。


ここからは“職人の街”。

街の心臓部。


しかし今日の空気は、

どこか静まり返っていた。


ざわめきが収まり、

かわりに緊張が満ちていく。


「……嗅ぎつけてるわね」

シャドウが小さく言った。


「誰が?」

グリディスが息を呑む。


「感じちゃいけない者たちよ。

 そして――

 本来なら何も感じないはずの者たち」


リレールが影の内で震えた。


「……この匂い……

 知ってます……あの場所の……」


そう、あの匂い。


――冷たい石と、鉄の気配。

――安い蝋燭の煙。

――祈りと恐怖の混ざった重い空気。


グリディスは、

胸の奥がひどく冷えるのを感じた。


「教会……?」


「そう。

 この先からが、奴らの“領域”よ」


職人街を抜けると、

足元の石がふいに変わった。


さっきまでの灰色で粗い石ではなく、

白く、妙に滑らかな石。


磨かれすぎて、

自然の匂いがまったくしない。


グリディスは思わずしゃがみこみ、

指で石をなぞった。


「……冷たい……

 さっきよりずっと……」


「“教会の石”よ」

シャドウは淡々と言う。

「ファルデンを押し返すつもりなのよ。

 あの白い石で」


家々は高く、暗く伸び、

窓には木の格子ではなく

金属の装飾がはめられていた。


道も狭くなり、

行き交うのは商人でも職人でもなく――


手首に黒い紐を巻いた者たち。

下位の祈祷師。


その視線は

誰かを探すようで、

けれど同時に

何も見えていないようだった。


シャドウはそっと手を伸ばし、

リレールの首元――

フードの奥、皮膚のすぐ上に触れた。


ふ、と空気が裏返る。


世界の色が一瞬だけ揺らぐ。


そして次の瞬間、

リレールの存在が

“形のない穴”に変わった。


真正面から見ると、

そこには何もない。


ただの空気。

ただの距離。


けれどグリディスがほんの少し

顔を傾ければ――

横目の端に、

震える細い影が見える。


(……リレール……)


「これで世界は彼女を見ないわ」

シャドウは小さく告げた。

「見える者は……世界より強い者だけ」


リレールは震えた声でつぶやく。


「わ、わたし……

 消えたんですか……?」


「“結び目”になっただけよ」

シャドウの声は冷たい。

「眼には触れない。

 でも――

 糸の残り香は隠せない」


「残り香……?」


「そう。

 グラジの糸は切られても、

 “どこにあったか”の震えだけは残る」


シャドウは道の向こうを睨む。


「だから、見られはしない。

 でも――“気づかれる”わ」


「……ここにいるって……?」


「そうよ、グリディス。

 傷の匂いは隠せないの」


リレールは影の奥で

大きく身を縮めた。


そして三人は進む。

――いや、“二人と一つの影”は進んだ。


やがて道はさらに細くなり、

街の音が完全に消える。


耳鳴りがするほどの静寂。


そして――

その先に、建物が姿を現した。


教会でも、寺院でも、聖堂でもない。


まるで巨大な“骨”を組み合わせて

作られたような、異様な建造物。


長く細い石の板――

肋骨のような形をしたそれらが

積み木のように噛み合わさって

建物を形作っていた。


一本たりとも同じ形の石はない。

継ぎ目にあるはずの漆喰もない。


石と石が、

互いを“喰う”ように噛み合っている。


建物の上部には

飾りも紋章も存在しない。

ただの細長い黒い窓が

垂直に走っているだけ。


そこを見つめていると――

“中に誰か立っている”ような錯覚を覚える。


そして最も異様なのは、

巨大な一枚扉だった。


白い石で作られ、

取っ手がない。


中央に掘られた溝は、

人の手ではなく……

獣の爪の跡のように細く、鋭い。


風が吹いた。

その風さえも、この場所では

入りこむのをためらっているようだった。


「ここが……教会……?」

グリディスは震える声を出す。


「違うわ」

シャドウは静かに言った。

「“教会”は言葉。

 これは――

 『あの者』に近づくための

 人間の模倣よ」


リレールが影の奥で

苦しげに息を飲む。


「……知ってます……

 この匂い……

 ここ……いました……」


シャドウはそっと

“誰にも見えない手”を取り、握った。


「あなたがいたのは地下。

 この上じゃない。

 でも、匂いは同じよ」


三人は、

すり減った旅人のような足取りで

巨大な扉の前に立った。


疲れた青年。

フードをかぶった少女。

そして――

誰の目にも映らない“もう一人”。


ごくごく普通の、

どこにでもいる旅の一団。


シャドウが肩で扉を押すと、

重い石がゆっくりと開いた。


――ギ……ィ……


その音すら

この建物の中では吸い込まれていく。


中は薄暗く、

古い油の匂いと

冷たい石の呼吸が満ちていた。


壁際には下位の祈祷師が二人、

ぼんやりと話し込んでいる。


「ああ、また旅人か」

「好きにさせとけ。どうでもいい」


気にも留めない様子だった。


グリディスは

背中の荷物を少し抱え直しながら

中へ入る。

ただの疲れた旅人のように。


シャドウは軽く肩を落とし、

長旅の風をまとっているふりをした。


リレールは――

世界の眼には存在しない。


三人は、

ただの一組の通行人だった。


……そのはずだった。


――カチッ。


天井のどこかで

小さな鈍い音が鳴った。


誰も気づかないほどの微かな音。


だが祈祷師たちは、

電撃のように反応した。


「あ……?」

「今の……聞こえたか……?」


もう一度。


――カラン……。


まるで小さなガラス玉が

風に揺れたような音。


祈祷師の顔色が一瞬で変わる。


「まさか……」

「いや、勘違いだろ……」


そして――


次の瞬間。


教会全体が

“鳴った”。


   バアアアアアアアアアアン!!


床が震え、

空気が弾け、

壁が低く唸る。


音というより衝撃。

世界の奥を叩くような振動。


祈祷師たちは

耳を塞ぎながら壁にもたれかかり、

叫んだ。


「こ、こ、コロナ!?(※鐘)」


「鳴ってる!!」

「誰かが入った!!」

「強い……強すぎる!!」


グリディスは怯えたように

シャドウの袖をつかむ。


「ぼ、僕ら!?

 そんなはず……!」


シャドウは低く囁いた。


「顔に出すな。

 深呼吸しろ。

 “私たちじゃない”顔をしなさい」


リレールは影の奥で

完全に気配を消していた。

祈祷師の目は彼女を“認識すらしない”。


祈祷師たちは走り回り、

慌てて大声を張り上げる。


「上へ知らせろ!!」

「“アイ”級の反応だ!!」

「急げ!!」


グリディスは小声で尋ねた。


「“眼”って……何のランク……?」


「最悪よ」

シャドウは顔色ひとつ変えずに言う。

「“主”に届くほどの反応。

 つまり――

 上位祈祷師が来る」


そして、

その言葉の通り。


奥の扉が開き、

白い衣をまとった三人の上位祈祷師が現れた。


彼らは急ぎ足で進み、

鋭い眼光で室内を見渡した。


青年。

旅装の女。

それだけ。


「……空振りか?」

「だが、確かに鳴った」

「“強い者”が入ったはずだ」


一人が指を鳴らし、

淡い光の“線”――ミリアリの糸――を引き出した。


彼はそれを棒のように構え、

空間をゆっくりと撫でる。


グリディスの横を通り過ぎた瞬間――


糸が小さく震えた。


ほんの少し。

触れたか触れないかほど。


「……微弱な痕跡……」

「だが確かに“何か”がいる」


シャドウのまぶたがわずかに動く。


グリディスは息を止めた。


リレールは完全に“空気”になっていた。


糸はぼんやりと彷徨い、

リレールの場所を

絶対に“視認”できない。


だが――

教会は気づいてしまった。


「上へ通せ!!」

「‘主の声’を聞く者を呼べ!!」


そのときだった。


――トン。


上階で

ひとつの足音が響く。


普通の足音。

ただ歩いただけの音。


……なのに、

建物全体が呼吸を止めた。


祈祷師たちは

弾かれたように跪き、

額を床に押しつけた。


「お、おいでになった……!!」

「“あの方”が……!!」

「ひ、ひざまずけ!!」


影。

圧。

冷たい力。


怪物が来る足音。


英雄ヒーロー”であり、

狂信者アポストル”であり、

父の十三人の影の一人。


だが――

まだ姿は見せない。


ただ、

この場の空気を

完全に支配していた。


そして誰も、

まさかその“反応”を生んだのが

あの疲れた旅の三人だとは

疑いもしなかった。


――その瞬間。


世界のどこかで

「ひとつの震え」が走った。


場所は、

ファルデンの森の境界。


そこは“父”が踏み入れない領域。

そして、その影であるアポストルでさえ

勝手に越えてはならない〈禁の線〉。


森は静かだった。

風は細く、

木々は眠る獣のように呼吸している。


その境界を、

ひとりの男が歩いていた。


歩幅は一定。

姿勢は揺れない。

影だけが地面をなめるように伸び続ける。


――ダリオン。


彼は森に触れない。

森も彼に触れない。

互いが互いを嫌うように

境界だけが永遠に続いていた。


だが――


足が止まった。


ほんの一瞬。

目が見開かれ、

まるで胸の奥を掴まれたような呼吸が漏れる。


「っ……!」


空気が震えたわけではない。

光が揺れたわけでもない。


これは――

《気配》でも《術》でもない。


もっと深い。


もっと原初の。


《グラジュ》

――“父の糸”。


それが、

“息子”の存在に触れた。


世界がひっくり返るほどの衝撃だった。


ダリオンは

ゆっくりと膝をついた。


片膝では終わらない。

両膝が土に沈み、

背が折れ、

額が静かに地面へ触れた。


押し倒されたのではない。

崩れ落ちたのでもない。


“引かれた”のだ。


巨大な意志に、

否応なく。


「……な……ん、だ……これは……」


声は掠れていた。

彼ほどの存在が

声を震わせるなど、本来あり得ない。


だが今の震えは――

恐怖ではない。


畏れ。


世界が生まれ変わった瞬間に

立ち会った者だけが抱く感情。


静寂が続く。


そのとき、

画面に黒で文字が浮かぶように、

世界に“名”が刻まれる。


━━━━━━━━━━

【第九使徒】

ダリオン

巡礼者パロミニク

――世界が黙したとき歩く者

━━━━━━━━━━


ダリオンは

顔を上げ、

遠く――

カルト(カルド)の街の方角へ視線を向けた。


そして、

祈るように、

呟くように、


「……現れた……」


森がざわめく。

風が止まる。


“何かが始まった”ことを

世界そのものが悟った。


――場面転換。


黒い大広間。


光がないのではない。

“光が拒絶されている”。


床には白い霧のようなグラジュが流れ、

壁には細い裂け目が無数に走っている。


玉座に、

ひとりの男が座っていた。


表情はない。

呼吸もしない。

まるで、

世界で最も静かな“死”。


だが――


ズン、と。


音ではない。

空気の震えでもない。


《存在》が揺れた。


その揺れに呼応するように

玉座の男のまぶたが、

静かに、静かに開く。


赤でも金でもない。

色ですらない。


“支配の色”。


その目に宿った光は

世界のどんな炎よりも冷たかった。


「…………」


息を吸う。


それだけで

霧のようなグラジュが

床を走り、

壁を這い、

音もなく渦を巻いた。


そして――


「……子だ」


世界が割れるような声ではない。

呟き。

それだけ。


なのに、

大広間にいた影たちは

一斉に頭を伏せた。


「ついに……」


男は立ち上がる。


ゆっくりと。

だが、その一歩は

山脈すら動かすほどの“意思”を持っていた。


玉座の前に

三つの影が跪く。


それは――父の“頂点”。


━━━━━━━━━━

【第〇使徒】

※ト書き風(演出)

━━━━━━━━━━


★【第0使徒】

ファエロン —《迷子ポテリャンヌィ

小さな吟遊詩人の姿。

手には銀の鈴。

笑顔は優しく、

瞳の奥は底なし。


★【第2使徒】

ミルラ —《飢えた者》

煤にまみれた顔。

炎を見つめるような瞳。

息遣いが荒く、

戦いを待つ獣のよう。


★【第8使徒】

ノラエル —《無慈悲》

白髪。

静かな呼吸。

すべてを“正しさ”で裁く刃の気配。


━━━━━━━━━━


父は三人を見下ろし、

指先で軽く霧を払った。


「……ダリオンが膝をついた」


その一言で

三人のアポストルの瞳がわずかに揺れる。


膝をつくはずのない存在。

跪くことのない男。


その彼が――膝をついた。


つまり。


“歴史が動いた”。


父は続けた。


「これは幻ではない。

 誤報でもない。

 偽りでもない。」


薄く笑う。


世界を断ち切るような、

鋭すぎる笑み。


「――見つかった。」


空気が震えた。


「ファエロン」

「ミルラ」

「ノラエル」


名前を呼ぶたびに、

三人の肩へグラジュが触れ、

その存在を祝福するかのように揺れた。


「カルドへ向かえ」

「ダリオンと合流しろ」

「そして――」


一拍。


長い、一秒。


「“現れた子”を見つけ出せ。」


最後の一言は、

世界への宣告のようだった。


「我が手に……

 “真実”を届けよ。」


三人のアポストルは

同時に頭を垂れる。


ファエロンは鈴を鳴らし、

ミルラは炎のような息を吐き、

ノラエルは静かに空気を断ち切った。


そして――


城全体が、

彼らの出発を告げるように

深く、重く、震えた。

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