街のリズムに乗って
フードを下ろし、顔に触れる。
彼女のまぶたが震えた瞬間、髪はまるで墨を垂らされたように黒く染まり、瞳は深い闇色に変わっていった。体のラインさえも変わり、肩は少し柔らかく、形はより均一になり――まるで街にいくらでもいる流れ者の少女にしか見えなかった。
グリディスは目を離せずに見つめていた。
「どう?」とシェドウが言った。
「新しいわたしのバージョン、気に入った?」
「……まるで別人だ」
グリディスは正直に答える。
彼女は口元を歪めて笑った。
「覚えておきな、グリディス。街で生き残るのは、強い者じゃない。目立たない者よ」
衣服を直し、帯を結び直すと、シェドウはくるりと踵を返し、門の方へ歩き出した。
考え込んでいたグリディスは、その背中に顔から突っ込んでしまう。
「きゃっ!」
シェドウは小さく声を上げ、びくっと跳ねた。
グリディスは慌てて飛び退き、真っ赤になって叫んだ。
「わ、わざとじゃない!」
シェドウは立ち止まり、唇を噛み、慌てて顔をそむける。頬が熱く染まっていくのを見られたくなかった。
胸の奥に奇妙な震えが走った――柔らかくて温かい何かが、神経の奥底に触れたような。
彼女は小さく呟いた。
「次にやったら……噛むわよ」
だがその声には、怒りが足りなかった。
二人は街へと足を踏み入れる。
商人の声、槌の音、パンと煙の匂い――すべてが川のように混ざり合って流れ込んでくる。
グリディスの視線は細かなものを追った。歪んだ文字で描かれた酒場の看板、魚の入った籠を抱える少年、奇妙な楽器を奏でる街角の音楽家――それはリュートとも、ただの木箱とも言えた。
その時、五人のシャグレッツが目に入った。若く、騒がしく、背には武器。肩を並べ歩く彼らの上に、グリディスの左目が反応する。
それぞれの頭上に渦巻く奇妙なもの――色の違う光が水に投げ込まれた絵の具のように混ざり合い、ただ濁った渦を生んでいた。
シェドウは立ち止まり、壁に背を預ける。息を鋭く吸い込み、顔をしかめた。
「……感じる?」彼女が囁く。
「見える」グリディスは答えた。
「森でも、ドライアドでもない。壊れているみたいだ」
胸の奥に、冷たさと熱が一度に流れ込むような感覚――シェドウは奥歯を噛み締める。
「彼らのせいじゃない」グリディスが小さく言った。
「知らないだけだ」
「……かもね。でも、もしこれが伝染するなら――」
グリディスはそっと彼女の手に触れた。
「そう考えるな。後で調べればいい」
シェドウは彼を見た。指が震えていた。恐怖からではない。先ほど門前で彼にぶつかられた時と同じ、あの奇妙に温かい震え。
慌てて手を引っ込めると、そのまま歩き出す。
夕陽が傾き、街は黄金色に染まっていく。
家々の窓は光を反射し、世界そのものが大きく息をつくようだった。
森では時間が重く粘るように流れていた。だが街の時間は、色を変え、音を変え、甘さと苦さを同時に含んで流れていく。
「……嫌いだ、こうやって街が呼吸するの」
シェドウが呟く。
「落ち着きすぎて、逆に怖い」
「ぼくは逆だ」グリディスは笑う。
「森の後なら、これが……生き返るってことだ」
彼女は鼻で笑ったが、心の中では否定しなかった。
やがて、〈土の壺〉と描かれた看板の宿屋の前に立つ。
中からは笑い声と、煮込まれた肉と酸っぱいエールの匂いが溢れていた。
「やっと休める」シェドウが言う。
「街で一番好きな場所よ、酒場。少なくともここには正直なルールがある」
「どんな?」グリディスが尋ねる。
「金のある奴は食える。ない奴は――戦うか、盗むか」
彼は顔をしかめたが、言い返さなかった。
扉を押すと、熱気と音が一気に溢れ出す。
その瞬間、グリディスは思った。
街はただの壁や道じゃない。生きた巨大な存在で、自分たちを飲み込んでいる――問いもせずに。
そして、確信した。
――彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
もし少しでも面白いと思ったら、リアクションや ブクマをしていただけると嬉しいです。
作者の励みになります!
X - https://x.com/OrtievsvaldJP
次の展開もぜひお楽しみに!




