「繋がりの印」
彼らはしばらく歩き続け、やがて小道が平らになった。
シャドウが手を振る――休憩の合図。
グリディスは倒れた幹に腰を下ろし、両手を湿った樹皮に置いた。
森はまるで二人の呼吸を聞いているようだった。
彼はこっそり彼女を見た。右目には、意地だけで立っている疲れた少女。
だが左目には――胸から流れ出す紅灰の光の流れ。
それはただ溢れているだけではなかった。糸のように震えながら腰へと伸び、
そこに眠る刃に吸い込まれていく。まるで金属がその光を貪っているように。
「……君から……武器に流れてる」
あまりに正直すぎる言葉が漏れた。
彼女は一瞬だけ動揺したが、すぐに仮面をかぶり直した。
「馬鹿言わないで。ただの刃よ。」
「違う。見えるんだ。あれは君の光を飲んでいる。」
胸の奥が熱を帯び、シャドウは深く息を吸った。
「……静かに。誰かが近い。」
グリディスには何も聞こえなかった。ただ、森は静かに息を潜め、
左目だけが真実を見せた。刃は心臓のように脈打っていた。
(もし刃が彼女の光を吸い尽くしたら――彼女自身はどうなる?)
シャドウの指が柄に触れる。刃が震え、待ちわびていたように光を飲み込む。
《プルートの微笑》が一瞬だけ赤く脈打ち、空気が震えた。
その瞬間、彼女の姿がひび割れる。
髪は灰色に染まり、瞳は紅の火花を宿す。
「……変わった」
グリディスの声は自分でも聞こえないほど小さかった。
刃は彼女とともに呼吸した。吐息に合わせて明滅し――森が囁き始める。
枝の軋み、針葉のざわめき、滴る雫。
千の口が一度に囁くように。
――光……影……血……異邦……同胞……
左目に広がる緑の波。
森全体が収束し、彼らへ押し寄せる。
シャドウは刃を胸に当てる。声を聞いている。だがそれは水底から響くように遠い。
「誰だ……?」
グリディスの声は震えていた。
返事はない。ただ次の囁き。
――印……繋がり……選ばれし……
「出てこい」
シャドウは歯を食いしばり、一歩前へ。
「舌だけ動かす奴は嫌いだ。」
枝が揺れ、大地が震える。
再び声が通り抜けた。
――影は導く……だが光は従うか……
激痛が頭を裂き、グリディスは膝をついた。
「……見える……繋がっている……」
熱が額を焦がし、片目から紅の涙が零れ落ちる。
「くそっ!」
シャドウが肩を掴み、倒れ込むのを防ぐ。
「おい! 生きてるの!?」
彼は顔を上げた。
右目には、獰猛な少女。
だが左目には――胸から流れ出す紅灰の波。
「……流れてる……君の中から……」
「……妄想ね。」彼女は眉をひそめた。
彼の震える指先が伸びる。
「光……呼んでる……」
胸の奥が焼けるように脈打ち、彼女は思わず息を呑んだ。
「やめろ。私を惑わすな、ガキ。」
彼はただ流れを見ていた。
彼女はただ、それを感じていた。
森がざわめく。声が再び頭を裂く。
――彼女はお前と繋がっている。印。影と光。
「やめろ……!」
彼は頭を抱え、地に崩れ落ちた。
そのとき金属音が空気を裂いた。
シャドウが刃を抜く。
紅灰の波が彼女の胸から迸り、鋼に吸い込まれる。
痛みが消えた。森が静まり返る。
グリディスは大きく息を吸った。
「……反応してるのか」
シャドウが震える刃を見下ろし、低く呟く。
彼は顔を上げた。
右目にはただの少女。
左目には――静かに流れる光の川。
「……君が止めたんだ」
彼女は細めた目で睨む。
「ガキ、あんた一体何者?」
その言葉は、なぜか優しく響いた。粗くても、どこか年長の声。
彼女が無意識に、羽のように庇ったかのように。
「……わからない」
グリディスは俯きながら答えた。
刃を収め、シャドウは息を吐く。
「森があんたで遊んでるだけよ。離れるな。二度と拾ってやらない。」
背を向け歩き出す。
だが視線の端で、彼が立ち上がるのを確かめた。
グリディスはよろめきながら立ち上がった。
心臓はまだ嵐のように打ち続けていた。
――彼女は、俺の静けさだ。
たとえ彼女が知らなくても。




