見られた顔
朝は霧の中からぎこちなく現れた。
華やかさもなく、ただ柔らかな光を投げかけ、まるで「まだ生きてるよ、残念だけど」とでも告げるように。
夢の中で彼女の名――プサイレン――を聞き、あの気まずい目覚めを迎えた後も、グリディスはまだ夢の残滓を漂っていた。
口に出すことはなかったが、瞳の奥には何かが残っていて、シャドウはそれに気づいた。表には出さず、内側で静かに。
彼が先に目を覚ました。
頭をかき、数分間ただ火の残り火を見つめる。まだ消えてはいない。
騒ぎたくなかった。彼女を起こしたくもなかった。
背を向けて眠るシャドウは、マントに包まれ、どこか――いつもと違って見えた。
グリディスは目を細めた。
髪は灰色。
顔もいつものようではない。挑発も、からかいもなく。
ただ静かで、疲れ切った――本当の顔。
彼は無言で見つめた。なぜか怖くも、驚きもしなかった。
ただ思った。「きれいだ」と。
声もかけず、触れもせず。そっと立ち上がり、音を立てないように枝を拾いに行った。
戻ったとき、彼女はもう座っていた。
髪は再び黒く、顔はまた薄笑いを浮かべている。
ただ瞳の奥だけが――何かを知っているように。言わずに、そしてもう二度と言わないように。
……
彼女は無言で歩いた。視線は前へ、けれど心は風に散る葉のように朝へ戻っていく。
彼が目を覚まし、ただ見て、そして――受け入れた。
灰色の髪も、紅の瞳も、本当の顔も、それを「普通」として。
彼女はどんな反応も覚悟していた――気まずさ、恐れ、せめて冗談でも。
なのに返ってきたのは「……行こう」だけ。
まるで恐ろしいものを見ても、そのまま受け入れるかのように。
それは耐え難かった。
――「そんな簡単に受け入れるなんて、許されない」
悔しいのか、怖いのか、ただ慣れていないのか。
誰かに本当の姿を見られて、それでも去られなかったことが。
彼は今も彼女の後ろを歩いている。まるで朝の奇妙な瞬間など存在しなかったかのように。
その時、森が彼女の中でざわめいた。
――「お前は恐れている」
声は耳からではない。思考の隙間に、水滴のように忍び込む。
森の囁き。ドリアードの声。
シャドウは目を細めた。返事はしない。ただ呼吸が乱れた。
――「お前は思っているより深く隠れている。だがひびが入った。お前は開きかけている。そして、それに耐えられない。彼は光。お前はその光を恐れているのだろう? 仮面の子よ」
「くだらない……木なら枝でも伸ばしてなさい」
そう言い返したかった。だが唇は動かなかった。胸の奥で何かがひび割れたから。
――「お前たちの行き先は間違っている。だが“必要な道”でもある。古き者たちは教えるだろう。あるいは、試みるだろう。彼を通して――お前は自分を知る。樹皮は鍵だ。彼は語り、お前は聞く。望むならば」
そして、間が落ちた。苔のように柔らかく、長く。
――「幸運を。とくに……痛みの顔の影よ」
繋がりは途切れた。シャドウは水面から顔を出したように息を吐いた。
背後ではグリディスがまたポケットを弄り、三度目の試行錯誤。
「ほんと、しつこい樹皮だわ……」
「え?」彼が顔を上げる。
「なんでもない。ただ――森の声も、耳を澄ませば聞こえるかもね」
グリディスは半信半疑で彼女を見る。
「……怒ってる声、とか?」
「どう起こすか次第よ、坊や」シャドウは鼻で笑った。
彼は頷き、また樹皮を取り出し耳に当てた。
「……今は怒ってないみたい」
シャドウは顔を背けた。
――馬鹿……ちっちゃくて、温かくて……そして、私のもの。




