あどけない死
十歳の日の戦慄を忘れることはない
そのとき私は 遊び半分で息を止めていた
五秒 十秒
奇妙に澄んだ心境だった
十五秒 二十秒
フッと魔が差す 自分を実験している絵が浮かぶ
二十五秒 三十秒 三十五秒
苦しかった
四十秒
私は理性を欠いて 虫のように ただ何かと戦っていた 怖かった
五十一秒
息を吐き 続いて激しく呼吸する そして
ついさっきの恐慌が まちがいなく死の気配だったと確信した
頭に殴られた余韻がある
私はものをつかわなかった
凶器も劇薬もあやとりのろーぷも
では すべての危機の根源は 私にあった
如何なるキラーにも成し得ない ものを使わない殺人が まさしく 私には出来た
家の廊下の奥の暗がりに死神を見つけた気分だった
今 十五歳の夏を過ごす私は あの日よりずっと綺麗になった
息を止めるだけでは死ねないことを知り
死はもっと簡単だと もっと気まぐれだと気付いた
あたらしい花も 咲かせた
それでも ふと暗がりを振り返れば死はたたずんでいる
あの あどけない日よりも ずっと間近に…