第四話 覚悟
走って逃げかえったタクマ。人を殺した感覚は消えることは無かった。焦りと不安を消すためにつけたテレビジョンも意味をなさず時間だけが進むのだった。
朝が来た。人を殺した感覚はまだこの手に残っている。日の光は眩しい。昨夜のことはニュースになるのだろうか。俺は当然犯罪者だ。天国には行けないな。
だって仕方ないじゃないか。殺されそうになったんだから。彼らを殺すつもりはなかったんだ。でも途中からは殺すために攻撃していたな。最低だ。やっぱりただの人殺しだ。そういや昨日のあいつ、組織に属している風な話し方だったな。また狙われるのだろうか。また俺を殺しに来るのだろうか。怖い。また人を殺さないといけないのか?もう嫌だ。人殺しは。
―――違う。死にたくないだけだ。あいつらなんてどうでもいい。俺を殺そうとしたんだ。殺されたって文句は言えないはずだ。絶対に死んでやるかよ。生き延びてやる。殺そうとしてきた奴は全員殺す。それだけだ。
あの日から一週間が経過したが何も起きなかった。この間のことはニュースにもならなかったし、警察が家に来ることも無かった。平和に日常を過ごすことができた。でも心の中は穏やかではなかった。常にスーツを持って移動していたし、夜道は特に怖かった。いつ襲撃に合うかわかったもんじゃないし。
「おい、聞いてんのか?」
「あぁ、すまんすまん。なんだっけ。」
こいつは俺の学校での唯一の友人といえる存在のユウマだ。親に高校までしか面倒を見てもらえず、学費を自分で払いつつ、しっかりと貯金をしている超人だ。バイトではなく、色々な仕事をして日々お金を稼いでいる。どんな仕事をしているのかは知らないが、作家?みたいなことをいているらしい。
「タクマ。最近どうしたんだ。何かあったのか?金か?融資してやろうか?トゴだが。」
「闇金業者め、お金じゃないよ。ただ――。夜予定あるか?」
「ん?今日はー、20時からなら大丈夫だぞ。飲みに行くか?」
「あぁ、軽く飲みに行こう。」
こいつは絶対に信頼できる奴だからこそ打ち明けるべきだと思った。何よりユウマは頼りになる。今まで何度も助けられてきた。相談くらいはするべきだ。
あと、最近気になる人間がいる。授業中に絶対に近くに座ってこっちをチラチラ見てくる女がいる。おそらくあいつらの仲間だ。俺を狙っているんだ。あちらから来ないならこっちから仕掛けてやる。
「俺は17時くらいからぶらぶら買い物しているから、ゆっくり来てくれ。」
「ん?おう。仕事片付けてすぐ向かうよ。」
これで時間は与えてやったぞ。来るなら来やがれ。
――結局何も起きずに20時になってしまった。流石にバレたのか、電車の中も、買い物風のことをしている時も、あの女は現れなかった。白だったのか?いや、そんなはずはない。絶対に俺をチラチラ見ていた。――はずだ。
「待たせたな。」
「スネ〇ク風に言うな。ちょっと似てるのもムカつく。」
「だろ?似てるだろ?結構むずいんだぜ。」
こんな冗談を交わしながら飲み屋に入り、少しだけ酒が入ったところで本題に移ることにした。
とりあえず話したのはあの日、あいつらを殺した直前までをすべて話した。最初は冗談だと思われていたが、ベルトを見せてみると少し真剣に話を聞いてくれるようになった。そのあと、あいつらを殺したことを告白した。ユウマは何も言わずただ聞いてくれた。気付いたら俺は泣いていた。話しているうちにどんどん言葉が出てきて止まらなかった。誰にも言えずにいたことが言えた。
俺が落ち着いてから、ユウマは衝撃的なことを言った。
「タクマ。お前、ヒーローにはなれないかもしれないな。」
「どういうことだ?」
「おそらく、そいつらの目的はまだ準備段階なんだ。今は組織の存在が世間にバレたらまずいんだよ。だから、その事件がニュースにならずに済んだんだ。それだけの武力があれば警察も自衛隊も相手にならないはずなのに世間バレは防いだ。つまり――。」
「よくわかんねーな。結局俺はどうすればいいんだ?」
「タクマは秘密裏にそいつらを壊滅させないといけないんだ。世間バレした時にそいつらが何をするかわからないからな。」
「バレたら何をするんだ?」
「――皆殺し。ないしは日本征服。酷ければ世界征服かもしれない。でも。よくわからないな。」
「皆殺しって、なんだよ。そんなにやばいのかよ。」
「あぁ、なによりの証拠はそのベルトとスーツだ。まだ、スーツの性能を視ていないから信じれられないが、話が本当ならやばい代物だ。そんな技術は現代科学では再現できないはずだし。ナノテクなんて空想上の物だからな。」
「なんだよ。俺は結局戦わないといけないのかよ。」
「あぁ、そうだ。覚悟を持て、言葉だけではなく、心からの本当の覚悟だ。」
「――。」
「あ。あと今日からは一人で行動するな。常に誰かといるんだ。俺でもいい。」
「あー。やっぱり寝てるときに襲われるからか?」
「それもあるが、おそらくお前は常に監視されている。さらに会話も聞かれているだろう。であれば、タクマだけではなく、俺も狙われるようになるはずだ。よくも仲間にしてくれたな!」
「――あっ!すまない。そこまで考えてなかった。軽率だった。」
「冗談だ。しかし、これからは慎重に行動するべきだな。あらゆる全てを。」
「わかった。誓うよ。」
「いいか。覚悟だ。死なない覚悟と、殺す覚悟だ。」
そのあと、これからの行動と計画を筆談で済ませ、俺たちは夜を繫華街で過ごした。日が昇ってからはユウマの家でベルトの解析をした。変身は止められた。逆探知される可能性があるからだそうだ。そんなことあるのか?変身だけで。そうしてユウマはベルトを手に取り、配線をパソコンとベルトで接続して解析を始めてしまった。そうこうしているうちに俺は眠ってしまった。
信頼できる仲間が出来たタクマ。それは安心感を覚えるのと同時に、守るものが増えたと不安感を植え付ける物だった。