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第三話 逃走

 ある程度の実験を済ませ、破壊した岩や木を片づけた後。アルティマの過剰なパワーに恐怖を覚えたタクマ。このベルトをどうにか捨てる考えをしながら山を下山しようとする。しかし、後ろには既に謎の集団が立っていた。タクマは慌てて振り向くが、彼等の攻撃は始まっていた。

 気付いた時には、すでに後ろに立っていた。いったい誰なんだ。全く気配がしなかった。振り返る勇気がない。山を管理している人間か?それとも動物なのか?ここら一体の空気が何となく変わった気がしたから気付けたが。


 「こんばんは。」


 話しかけてきた。人だ。だが、底知れぬ恐怖を感じる。夜の森だからとか暗闇だからとか、そういうものじゃない。生命の危機を感じる。


 「おーい、聞いていますか?そこに突っ立っているあなたに言っているんですよー。」


 どうする。どうすればいいんだ。足がすくんで動けない。


 「まあ、いいか。ベルトと身柄さえ回収できれば、それでいい。私たちに戦闘の意思はありません。できれば事は穏便に済ませたいのです。なので、大人しく投降していただけませんか?」


 戦闘の意思は無いだと⁉絶対に嘘だ。そんなわけがない。明らかに殺気を向けられている。

 ここで俺はアルティマを持っていることに気付き、少しの勇気が出た。振り返ると一人の男が真後ろに立っていた。鼻息が当たるような至近距離だった。

 「うわぁぁぁぁ!!」

 理解が追い付かない。こんな間近だったのか⁉声の距離ではそんな風には思わなかったのに。


 「これは失礼しました。私はそのベルトを開発した人間から“それ”を回収しろと命令を受けていまして、できればあなたにも同行していただきたいのです。よろしいですね?」


 何だろうこの感覚。嘘を言われている気がする。そもそもこいつは人間なのか⁉こいつ、足音がしないんだ。

 「あの、、、周りの人は誰なんですか?なんだか怖いんですけれど。」


 「んー、あの人たちは私の部下です。そのようなことはございませんよ。素直に従ってもらうことが前提条件ですが。」


 「そうですか、、、」

 これって超危ない話に巻き込まれてないか⁉まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい

どうする⁉どうすればいい⁉素直について行っていいものなのか⁉絶対に殺されるだろ⁉



 「どうしましたか?何かご不明な点でもございましたか?」

 

 「僕の命の保証はあるのでしょうか、、、」


 「正直に申しますとわかりかねます。主人があなたの処遇を決定すると考えられますので、、、あ⁉」



 俺は走った。

 走って走って走り続けた。

 「処遇ってなんだよおおおお⁉ 絶対殺されるだろおおお⁉」

 とにかく走った。でも奴らは常に近くにいたし、俺より後に走り出したはずの奴は俺より前にいた。

 「囲まれている⁉」


 「急に走らないでください。疲れてしまいます。しかし、あなたのその姿勢には感心しません。絶対に我々からは逃げられませんよ。あなたが命の危険を察知しているのは理解できます。しかし、大人しくしている方が得策だとは思いますけれどね。仕方ありません。手荒な真似はしたくありませんでしたが。」


 だめだ。逃げられない。

 なんだ?奴の姿が人間のようには見えない。まるでクモ人間だ。

 絶対俺を殺す気だ!!

 「え、、、⁉ 痛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 左腕があらぬ方向に曲がっている!!!!!!!!!!!死ぬ!!!!!!!!!!!しぬしぬしぬしぬしぬ!!!!!!!!!!!

 

 「次はそのケースごと右腕をねじ切ります。」


 次は右腕だ!!!!!!!!!!!やばい!!!!!!!逃げられるか!!!!!!!このベルトごと持っていかれる!!!!!!!

 、、、、、、ベルト???

 そうだ、、、忘れていた。もうこうするしかない!


 「アルティマ起動!」

 「アルティマ起動。ユーザー確認、ゲノム承認。ナノ粒子形状完了。システム動作。電磁バッテリー100%。擬似ニュークリアシステム動作。オールクリア。アルティメットスーツシステムすべて正常。身体の完全修復に成功。実行します。」


 「なんと。適合していたのですね。素晴らしい。 しかし、この場合どの様にすればいいのでしょうか。仕方ありません。殺しましょう。」


 「絶対に生きのこってやる。戦ってやる!」

 

 暗い森の中で木に張り付いた複数のクモ人間が8本の脚をしならせている。赤黒い複眼が囲むようにギラリと光り、糸を吐きかけてきた。

 拳を固め、糸を切り裂くように突き出したが、次第に白い糸は腕に絡みつき、瞬時に締め付けた。すぐに3人が背後から飛びかかる。


 「うわっ、、、!」


 背中を貫くような攻撃、しかし、スーツは無傷。逆に相手の腕の骨が飛び出し、完全に粉砕している。

 しかし、群れは止まらない。木の間から。頭上から。地を這って襲い掛かってくる。

 素人のパンチが当たるとは思わなかったが、たまたま敵の頭部に正面から当たった。

 頭部が完全に粉砕した。そいつは動かなくなった。腕が折れている奴もまだ動き回っているのに。

 そいつは死んだ。

 俺が殺した。

 俺の拳は震えていた。痛みではない。恐怖だった。自分自身の力が、敵を殺す兵器になってしまう、その恐怖だった。


 そのあとははっきり覚えている。

全員殺した。途中で逃げられそうになったが、追って殺した。リーダーらしき奴は最後まで抵抗していたが、馬乗りになって殴り殺した。

 スーツ全体が赤黒く染まっていた。


 「ハァ、ハァ、ハァ、、、」


 森は静かになった。

 周りには奴らの残骸が散乱していた。砕けた身体、ばらばらになった奴もいる。赤黒い体液の匂い。

 俺はスーツを解除したまま、立ち尽くした。息は荒く、拳は震えている。

 戦いは終わったはずだったーーだが心臓はまだ激しく鼓動し、その音が周りの音をかき消すほどだった。


 「、、、俺が、、、殺した、、、」


 拳に残る、骨の砕ける感触。皮膚を裂いた音。一撃ごとに生き物を殺した感触が蘇る。

 生きるために殺した。結果、死体の山を作った。奴らは敵であり、俺の命を狙っていた。殺さなければ、殺されていたーーでも。


 「うっーー」


 吐いた。ここに来る前に食べた物を全て吐き戻した。

 目の前に広がる光景は、勝利ではなく、地獄だった。


 俺は家まで走って逃げた。











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