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その9、oink

「ミノタロスが、強欲?」


俺は耳を疑った。どういうことだ?“7つの大罪”と“12使”は敵対関係じゃねぇのか?不信感と疑問符で頭がいっぱいになる。


『やはり、それも言っていないか。“暴食”は仕留めたのか?』

『、、、いや、取り逃した。おそらく()()()()のどこかにいる。』


羊は大きくため息のようなものを吐いた。ミノタロスは仕事をしなかったようだ。


『“12使”としての役目、当然果たす。しかし、その前にライオン・ストライプ、殺した犯人、突き止めてこい。さもなくば我々、お前たち、信用しない。()()のうんぬん、全てその後だ。』

『トラが身内に殺されたと言うのは確かなのか?』

『ネズミがトラを斬って逃げた。私たち、それ追いかけて、見失った。』

「おい、ひつじ。その5年前の話をもっと詳細に教えろ。」


隊長はいくらでもこの場で情報を引き出そうとしているようだ。電子タバコをポケットにしまっていた。


『断る。お前はその龍、いつまでも喋らせないつもりか。お前らとこれ以上話すつもり、無い。』

「お前。逃げ帰れると思ってんだな、俺たちから」


隊長は両手を地面につけて臨戦態勢になった。


『当然。ここまで、読んでいた。ゴルゴン!』


羊が叫んだ。


「油断したなぁ。竜田。」


どこからか、関西訛りの男の声がして竜田隊長がうめき声をあげた。

「、、っ、、てめぇ、小沢かっっ!」

何か細長い紐のようなものが隊長の腹付近から出てきて、みるみる人の形に膨らむ。

「けっこー久しぶりとちゃうか。やっぱまだケーサツは続けてたか。」

関西弁の男は黒の長髪に髭を剃っていて、なんというか殿様から髭をとったような顔だった。身長は隊長よりは低かったが180以上はありそうだ。少なくとも俺よりはデカい。


「お前と正面から喧嘩しても絶対に勝ち目ないからなぁ。いやぁ、今のは『お前の友達でよかった最高の瞬間』に追加できるわ。」

「、、連絡もよこさねーなと思ってたらっ、、、こんなっ、出会いとはなぁ、」


隊長と小沢という男は久しぶりの再会のようだった。


「まぁ、今動くのはやめとき。痺れ毒(パラライズ)入ってるから。時間経ったら動けるようになると思うわ。そっちの少年も、降参して10歩下がってくれると助かるねんけど」

「、、そいつは、お前よりつえーぞ。小沢」

「、、、ほんまに?」


確かに小沢は隊長よりもずっと非力そうに見える。でもあの男の“12使”の能力が分からない以上、迂闊に近づけない。


「おい、ミノタロス!あいつの能力は!」

「それはズバリ、宣戦布告ってことやなぁ!!」


小沢の姿が一瞬で蛇に変化した。


『ゴルゴンの力は毒だ。魔法で毒を作り噛み付くことで打ち込む。』


ミノタロスが俺を掴んで後ろに飛び退いた。蛇は空に噛み付いて、地面に落ちた。

一瞬で距離を詰められた。目で追えないスピードで。


『ドーピングしているな。だが奴の技は消耗が早い』

「、、、小沢テメー、俺がもう動けねぇとでも、思ってんじゃねぇか?」

地面が急に盛り上がって蛇を覆った。

「なんやこれ!」

隊長が能力を使ったのか!


『それをイうなら、俺を忘れてんじゃねぇカ?』

猪が後ろ足を何度も地面に打ちつけている。


『、、来るか』

ミノタロスが斧を構えた。


『神の突撃ダァァァ!』


俺の方に向かって猪が、一気に、来る!!

ズデーーーン!!

猪は30度ぐらいズレた方向にいた隊長を吹き飛ばしていた。隊長は呻き声をあげながら、ガッツリ公園の方に飛ばされていった。


「、、、今のは?」

『失敗ダァァァ!』

返事がめちゃくちゃ良い。

「でも結果おーらいだぁぁぁ!」

小学生ってこんな元気だったのか。早川もちょっと拍手してんじゃねぇよ。

蛇が岩の隙間から這い出して、戻っていった。


『次に会うときは、こちらから、出向くだろう。ホグ、引き上げるぞ。』

「兄ちゃん!あんたの奏さんは連れてくぜ!俺たちは!“革命軍”!俺はたいちょーの狸山翔太!そして!」

『その飼い豚の“師走の太陽(ロコ・モーター)”ホグ・サン様だゼ!』

「はぁ!?」


俺は声を荒げてしまった。だいぶ年下の子供に。たぶん初めて。

「ほな、すまんがしばらく味方できんわ、竜田。ほら乗りなされ、早川サン。透明化打ち込むで。」

早川は俺に何か言いたそうで、でも結局何も言わずに猪の背中に乗った。じわじわと全員が姿を消しながら猪が走り出した。俺はその猪を追えなかった。早川のことが気に掛かったせいなのか、待てということもできなかった、、、



倒れていた隊長の方に行って、肩を貸して公園のベンチに座った。いつの間にか夕暮れでカラスが鳴いていた。サッカー少年たちはいつの間にか帰っていた。


「さて、やっと痺れも解けてきたとこだが、、」

隊長が立ち上がって俺の方を向いた。

「お前から聞かなきゃいけねー言葉が増えたぜ、ミノタウロス。」

サングラスの中の瞳が完全に警戒モードになっていた。そうだ。この牛は7つの大罪の一角と言われていた!


「この期に及んで俺たちの詮索に意味がないとか言ってんじゃねぇ。これは重大な、信頼の問題だ。」


隊長はピストルを取り出して何歩も俺たちから距離をとった。

『ふむ。白龍(ホワイト・ドラゴン)に一切の手出しをさせないつもりか。そんなおもちゃで我と渡り合えるとでも?』

「おめーは甘いんだよ。全然見渡せてねー。」

隊長は自分の頭に銃口を当てた。


「大体、少しずつだがわかってきた。お前ら“12使”にスペアの鍵はねぇ。そして“12使”は全員揃ってることが望ましい。」

『なるほどな。自害して白龍(ホワイト・ドラゴン)を欠員にさせようという魂胆か。たいした閉心術だな、奴の力の出る隙もないと言ったところのようだ。だがお前に自死する覚悟があるのか?』

「三つ質問する。俺の納得が行かねー場合、引き金を引く。」

ちょっとずつわかってきたけどこの牛は多分交渉が上手くない。余裕を出そうと相手の考えを全部読んでる風を装ってるけど、返す刀がないことが丸わかりだ。いつもの有利な立場が明らかに揺らいでいる。


「一つ目の質問だ。お前は俺たち人間の敵か、味方か?」

『解釈によるな。しかし我々“12使”がいなくなれば、お前たちの運命は誰も知るところではなくなってしまうだろう』

「のらりくらりと答えやがんな。だがこれは俺の直感に従って味方としておくぜ」

そんなテキトーでいいのかよ、って心の中でツッコんでしまった。


「二つ目の質問。お前はなぜ“12使”であり、“7つの大罪”でもある?」

『それは()()に関わる。故に言えない』

隊長はピストルの引き金に指をかけた。

「これはブラフじゃねぇぞ。」

隊長の声色は単調で冷たかった。


『、、、××××××××××××、××××××、』

「、、なんて?」


俺は思わず聞き返した。ミノタロスは確かにハッキリと言葉を発していた。しかし、それを頭で確かめようとする前に何者かが言葉を溶かしていったのだ。

『言ったはずだ。()()()()()()()、と』

全く不思議な感覚だった。何か、大いなる力がどこからか介入した。まるで生理現象のようにシームレスだった。


「じゃあ三つ目の質問だ。()()とは、何のことだ?」

『同じだ。それも記憶にかかわる。』

「てめー、そればっかりかよ!」

隊長が怒鳴ってカラスが飛び立った。夕暮れの中で、俺たちは無力さを噛み締めていた。


『、、、ただ、これだけは言えるだろう。』


夕日を背負ったミノタロスが言葉を貯めて、口を開いた。


()()は戦いの合図となる』





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