尽力!
静まり返る会議室。南部暫定評議会の主要メンバー、アイドルース・アッ=ズバイディーを中心に、各地から集まった代表たちが席に着いている。その中にムスタファ・アフワンドの姿もあった。彼はバイダーを統治する指導者として、この会議の場に招かれた。
アイドルースは冷静な表情を浮かべ、ムスタファに視線を向けた。
「ムスタファ、まずは来てくれて感謝する。我々の間に意見の相違があるとはいえ、イエメンの未来について話し合うことが重要だ。」
ムスタファは深く頭を下げ、静かな声で答える。
「アイドルース閣下、こちらこそお招きいただきありがとうございます。この場を設けてくださったことに感謝いたします。」
ムスタファはゆっくりと姿勢を正し、言葉を選びながら話し始めた。
「私たちの国は、内戦によって破壊され続けています。経済基盤もインフラも崩壊し、国民は日々の生活さえままならない。誰も助けてはくれない。国連も、NATOも、BRICSも同じです。この国を守るのは自分たちの力でしかありません。」
会議室の空気が重くなる。アイドルースが腕を組み、ゆっくりと答えた。
「だからこそ、我々は南部暫定評議会を立ち上げた。独立した南部のために戦っている。」
ムスタファは小さくうなずきながら、少し険しい表情で言葉を返す。
「独立した、というより、独立させられた、の間違いではありませんか?サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン――彼らの資金提供と思惑によって、我々は動かされているにすぎない。」
その言葉に会議室がざわめいた。数人が怒りを含んだ視線をムスタファに向けるが、彼は気にせず話を続けた。
「事実、外部勢力がこの地を代理戦争の舞台として利用しているのは明らかです。我々がどれだけ抗ったとしても、真の独立は達成できないでしょう。この国の未来を守るためには、外部の力ではなく、我々自身が立ち上がる必要があります。」
アイドルースが沈黙を破るように、低い声で問いかけた。
「では、どうしろというのだ?我々は限られた資源の中で戦っている。理想を掲げるのは簡単だが、それを実現する手段がなければ意味がない。」
ムスタファは一度目を閉じ、深呼吸をしてから静かに答えた。
「ザマールに神々が降臨しました。」
その言葉に会議室が凍りつく。全員がムスタファを凝視し、一瞬の静寂の後、ざわざわとしたささやきが広がった。
「何を言っているんだ?」
「頭がおかしくなったのか?」
「神々?一体何の話だ?」
アイドルースも困惑の表情を浮かべたが、冷静さを保ちながら問いかけた。
「ムスタファ、落ち着いて説明してくれ。神々とはどういう意味だ?」
ムスタファは毅然とした態度で答える。
「ザマールに降り立った存在――彼らは驚異的な医療技術と、圧倒的な力を持つ。我が妻と長男は、彼らの手によって奇跡的に救われました。腐り落ちる寸前だった腕さえ元通りに戻し、生きる希望を与えてくれたのです。これを神の御業と呼ばずして何と呼べるでしょう。」
その真剣な語り口に、会議室は再び静まり返った。一部の者は眉をひそめたままだったが、他の者たちは真剣に耳を傾け始めていた。アイドルースはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと言葉を発した。
「……その神々とやらが、我々に何を求めているのか。それを知ることが必要だ。」
ムスタファは力強く答えた。
「彼らは何も求めていません。ただ、イエメンが再び平和を取り戻し、我々自身の手で未来を築くことを願っているのです。そのために力を貸してくれている。」
その後、ムスタファとアイドルースは、具体的な協力の進め方について議論を重ねた。食料や医療支援だけでなく、復興に向けた具体的なプロジェクトを展開することで、民衆の生活を改善し、信頼をさらに深める方針を共有した。
ムスタファは確信に満ちた声で言った。
「アイドルース、私はこの土地の未来を明るくしたい。それができるなら、彼女たちの助けを受け入れる価値があると思う。疑念を抱くのは当然だが、まずはこのチャンスを活かすべきではないか?」
アイドルースは、茶を飲み干しながら静かに頷いた。
「…わかった。君の言葉を信じよう。そして、慎重に動こう。」
「…今すぐに同盟締結といかないか?」
焦った様子で聞くムスタファ。
「無理だ。君のことは信頼しているが…君だって分かっているだろう。」
「どうしたんだ…?いつもの君らしくない。」心配そうに声をかけるアイドルース。
バツが悪そうな顔で答えるムスタファ。
「…いや、まあ、…ここに来るときに、「必ず同盟締結を成し遂げてくる」なんて豪語して来たんだ…」
「冷静になって考えてみれば、子供でも分かるのに…」
ザマールの一角、通信室でガブリエルは慎重に操作し、ドローンから送られてきた映像を確認していた。南部暫定評議会との交渉が進まない現状に焦燥を感じつつも、冷静さを保ってシンに連絡を取る。
「シン様、ガブリエルです。ご報告があります。南部暫定評議会との同盟締結には至りませんでした。アイドルース・アッ=ズバイディーとの交渉も行いましたが、慎重な態度を崩さず、結果を得られませんでした。誠に申し訳ございません…」
ガブリエルの声には緊張が滲んでいる。だが、シンはそれを気にも留めず、落ち着いた声で返答した。
「気にするな。そんなに簡単にまとまる話だとは思っていない。いくらムスタファとアイドルースが個人的に親しいといっても、南部暫定評議会全体が動くには時間が必要だ。それに、今の段階で同盟を無理に締結する必要はない。」
ガブリエルはその言葉に少しだけ安堵し、シンの次の指示に耳を傾ける。
シンは少し間をおいてから言葉を続けた。
「ただな、こっちの力を見せつける必要がある。資金力も、軍事力も、あらゆる意味で俺たちのバックグラウンドを理解させる。今からムスタファに連絡を入れろ。そして、俺たちの技術の一端をムスタファにだけ見せるんだ。」
「具体的には…ドローンの姿を見せても良い、ということですか?」
ガブリエルが確認すると、シンははっきりと指示を出した。
「そうだ。ただし、ムスタファ一人にだけだ。他の誰にも見せるな。アイドルースや南部暫定評議会の主要メンバーに見せるのはまだ早い。まずはムスタファを完全に味方につける。それからだ。」
指示を受けたガブリエルは、すぐにムスタファに連絡を取った。暗い室内でドローンが静かに飛来し、その姿を見たムスタファは一瞬息を呑んだ。そのデザインと動きは彼にとって未知のものであり、圧倒的な技術力を感じさせた。
「ムスタファ、これが俺たちの力の一端だ。君はもう分かっているはずだ。この力が君たちを守り、繁栄をもたらす。」
ガブリエルの言葉にムスタファは深く頷き、説得の意志を固めた。
「アイドルースを説得します。南部暫定評議会の主要メンバーにもこの力を感じてもらいます。どうか、もう少し時間をください。」
ガブリエルはその答えを確認し、シンに報告する準備を始めた。
数日後、ムスタファの尽力により、南部暫定評議会の指導者アイドルース・アッ=ズバイディーがザマールを訪れることが決定した。この知らせを受けたガブリエルは再びシンに連絡を入れた。
「シン様、ムスタファの説得により、アイドルース・アッ=ズバイディーがザマールに訪れることが決まりました。」
「よくやった。だが、これが本当の始まりだ。慎重に準備を整えろ。」
シンの言葉に、ガブリエルは力強く応えた。
「了解しました、シン様。必ずや成功させます。」
こうして、南部暫定評議会との本格的な接触への道が開かれた。ザマールの運命は再び大きく動こうとしていた。




