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義海賊シン・バークレーとホムンクルス娘たち  作者: kotupon


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泥船?!2

【エリシオン】艦内での驚愕の事実

広大な宇宙を漂う超高性能艦【エリシオン】の艦内。シンは艦内の一角にあるデータステーションで端末を操作していた。眉間に軽く皺を寄せながらスクロールする指が、ある箇所でピタリと止まる。


「ん?…ハハハ、リーイエでも間違えることがあるんだな」シンが独り言のように呟く。


その声を聞きつけ、たまたま近くにいたエルザが顔を覗かせる。「どうしたの?シン」


シンは端末の画面を指差して言う。「おう、エルザ。これ見てみろよ」


エルザはシンの隣に立ち、端末を覗き込む。画面に表示されているのは、ある国の賃金と物価の推移を示したグラフだった。エルザは一瞬無表情のままグラフを読み取ると、不意に吹き出した。「……アハハ!なにこれ。これをリーイエが?…めっずらしい~。あのリーイエがこんな間違いをするなんて!」


青い線で示された賃金の推移は、過去30年間ほぼ横ばいを保ちつつ、実質的には下がっている。理由は明白で、物価が相対的に上がり続けているからだ。一見して変わらないように見える赤い線の物価も、実際には生活に直結する光熱費やガソリン価格、石油製品などがじわじわと上昇していた。


中間層以下の所得は減少傾向にあり、反対に中間層以上、特に上層階級に行くほど所得が増加。このデータは、明らかに経済格差が広がり続けていることを示していた。


その時、不意に艦内の自動扉が開き、冷静沈着そのもののリーイエが顔を覗かせた。「あら、呼んだかしら?」


「ああ、リーイエ。ちょうどいいところに来たな。これ、何のジョークだ?」とシンが端末を手に取って見せる。

エルザは笑みを浮かべる。「あの完璧主義のリーイエが、こんな単純なミスをするなんて珍しいね」


だが、リーイエは一瞬も表情を変えずに真面目な声で答えた。「ミスではないわ。これが真実よ」


リーイエの冷静な一言に、シンとエルザの表情が固まる。


「…マジか?」シンは端末をもう一度覗き込みながら呟く。「…は?いや、いくら何でもおかしいだろ?」


エルザも眉を寄せながらリーイエに詰め寄る。「…リーイエ、本当に?こんなこと、ありえないでしょ?」


リーイエは頷き、さらに説明を加える。「日本の過去30年間、いわゆる『失われた30年』と呼ばれる時期の経済データよ。賃金が実質的に下がり、中間層以下の生活が苦しくなっている一方で、一部の上層階級はますます豊かになっている。その結果、経済格差が広がり、社会の分断が進んでいるの」


シンは額に手を当て、信じられないような表情を浮かべる。「いやいや、待てよ。30年もこんな状態が続いてたら、普通はどうにかしようってなるだろ?なんで誰も対策しなかったんだ?」


「政策の失敗、社会の硬直性、そして人々の変化への抵抗が原因ね」とリーイエが答える。「例えば、企業の利益は上がっていても、それが労働者に還元されることは少ない。むしろ、企業が内部留保として資金を溜め込む傾向が強まった結果、実際にお金が回るべきところに届いていないのよ」


エルザは呆然とした表情でグラフを指差す。「これ、本当に未来の話じゃなくて現実なんだよね?賃金が下がって、物価が実質的に上がって…こんな状態で生活してる人たちがいるなんて」


リーイエは視線を端末に戻しながら答える。「その通り。生活必需品である光熱費やガソリン価格の上昇が、特に中間層以下の家計を圧迫しているの。これらの負担が増えれば、実質的な可処分所得は減少し、生活水準が下がるわ」


「…こんな歪んだシステムが続くってどう考えてもおかしいだろ」とシンが吐き捨てるように言う。「普通ならとっくに改革が起こってるはずだよな?」


「それも難しいわ」とリーイエが静かに答える。「経済格差が固定化されると、既得権益を持つ者が変化を嫌い、現状を維持しようとする圧力が生まれるの。それが、社会全体の停滞をさらに加速させる要因になるわ」


エルザは目を細めながらリーイエを見つめる。「でも、このデータをみんなが知れば、何かが変わるんじゃない?少なくとも、問題を認識することはできるはずよ」


リーイエは小さく息をつき、淡々と答えた。「情報を共有することは重要ね。ただ、それだけでは根本的な解決にはならない。社会全体が変化を受け入れ、行動を起こす必要があるわ」



シンは日本の経済格差や停滞について調べた際の衝撃から、さらに詳しく日本について掘り下げて調査を始めた。しかし、深く調べるほどに浮かび上がってきたのは、国家の防衛・防諜、産業、法制度の脆弱性だった。


端末の画面に次々と映し出されるデータを見つめるシンの表情は次第に険しくなっていく。


「……なんだこれは…?穴だらけだな、日本は…」とシンが呟く。


それを聞きつけたリーイエとエルザが彼の背後に立つ。エルザが画面を覗き込みながら冷静に問いかけた。「どういうことかしら?」


シンは溜息をつき、端末を指差した。「防衛も防諜もザル。産業スパイが好き放題やってるし、技術者は海外に流出してる。国家としてのセキュリティが機能してない」

「優秀な技術者がヘッドハンティングされて、アメリカや中国、他のアジア諸国に引き抜かれてる」とシンが指摘する。「企業が人材を大切にしないせいで、優れた技術が次々と国外に流れていく。これじゃあ国内で技術革新が進むはずがない」


リーイエが端末を操作しながら補足する。「産業スパイも深刻ね。日本の技術は世界的に評価されているけど、守るべき情報が流出しているケースが後を絶たない。これは国家安全保障の問題に直結するわ」


「それに加えて、この国は土地や水源地の管理も杜撰すぎる」とシンが苦々しげに続ける。「外国人、特に中国人が良質な水源地を次々と買い占めてるわ。土地の購入に関する法整備や規制がまったくないせいで、外資がやりたい放題ね」努めて冷静に言うリーイエ。


日本国内の土地や不動産の現状が浮かび上がった。


「投資目的で高級マンションや高級アパートが中国人投資家に買われてる。実際に住んでるわけじゃなくて、ただの投資用資産としてだ」


エルザは眉をひそめる。「それって、国内の住むべき人が住めなくなるってことよね?」


「その通りだ」とシンが頷く。「地方の水源地もそうだが、これらの土地は一度買われると簡単には取り返せない。もし紛争が起きた場合、戦略的に重要な場所が外国の手に渡っているというのは、国として致命的なリスクだろ」


リーイエが冷静に結論を述べる。「日本の土地や不動産市場に対する規制の欠如は、国家の主権や安全保障を脅かしている。現状の法制度を見直す必要があるわね」



次に端末に映し出されていたのは、日本の防衛体制の現状についてのデータだった。


「見てくれよ」とシンが指差すのは、兵器や戦闘機に関する情報だった。

「自国で開発した兵器は少なく、ほとんどがアメリカのお下がり。しかも、型落ちの一昔前の代物だ。現代戦に対応できるとはとても思えない」


エルザは目を見開いて端末を覗き込む。「兵器の性能が低いだけじゃなくて、国家機密の防諜も脆弱だなんて……これ、もしサイバーテロでも起きたら?」


「なす術ないだろうな」とシンが続けた。「国内の重要インフラや防衛システムは、デジタル化が進む現代において脆弱すぎる。そもそも、政府や企業がデジタルセキュリティの重要性を理解してないんじゃないかと思うくらい、法整備や対策が遅れている」


リーイエが冷静に分析を加える。「この状態では、サイバーテロが起きた場合、被害は甚大ね。特に日本は主要な産業国であり、経済やインフラへの攻撃が世界的な影響を及ぼす可能性が高いわ」


日本の問題を調査する中で、ある記事を目にした。その内容は驚愕と失望を同時に抱かせるものだった。サイバーセキュリティ戦略本部の担当大臣が、パソコンを使用できないどころか、それを当然のように答弁したというものだ。


シンはその記事を読み上げながら、顔をしかめる。

「『従業員や秘書に指示をしてきたので自分でパソコンを打つことはない』?……おいおい、これ本気で言ってんのか?」


エルザが呆れたように肩をすくめる。「『サイバーセキュリティ戦略本部』の担当者がこんなことを言うなんて、冗談でも信じられないわね。しかも後日の答弁では、『スマホは便利なので1日に何回も使っている』とか……。これって、問題が何なのか理解すらしていないってことでしょ?」


「……トチ狂ったのかしら」とリーイエが冷静な口調で言い放つ。その声に怒りが滲んでいる。


「こんな人間を重要なポストに任命するなんて、日本の政府はどうなってるんだ?」とシンが怒りを込めて呟く。


リーイエは冷静に分析を加える。「おそらく、適材適所という概念がないのよ。能力ではなく、党内の派閥や政治的な取引で役職が決まる。だから、実務能力がない人物が要職に就くことになるの。これが日本の政治の病巣ね」


エルザも同調する。「でも、この人だけが問題じゃないわよね?サイバーセキュリティの担当者がこれなら、他の分野も似たようなものなんじゃない?」


「それが現実だろうな」とシンが言葉を継ぐ。「調べた限り、現場の官僚や専門家には優秀な人材がいるみたいだが、その上に立つ連中がこれじゃ話にならない。肝心なところで、正しい決定が下せないんだ」


「この時代に、『パソコンが使えない』なんて話にならないだろう」とシンが苛立ちを見せる。「デジタル化が進んでいるのに、それを管理する人間がデジタル音痴じゃ、国全体が危機に陥るぞ」


エルザが補足する。「しかも、サイバー攻撃のリスクが高まっているのに、対策がまるで追いついていない。これじゃ、もし本当にサイバーテロが起きたら、重要なインフラや情報が丸裸にされるわ」


リーイエは冷静に結論づける。「日本は、自分たちがどれだけ脆弱な状態にあるかを認識していないのよ。まさに、『平和ボケ』という言葉がぴったりね。これを放置すれば、近い将来、取り返しのつかない事態が起きるわ」



さらに調査を進め、日本の官僚機構や行政機関の実態を掘り下げた。


「官僚組織の中にも優秀な人間はいるが、年功序列や縦割り行政のせいで、その能力が活かされていない。改革が必要な部分は山ほどあるのに、保守的な体質がそれを阻んでいる」とシンが端末のデータを指差す。


エルザが資料を読みながら補足する。「例えば、防衛やサイバーセキュリティ関連の部署では、専門知識を持たない人が指揮を執っていることが多いのよね。予算や人員も不足していて、現場は疲弊している。これでどうやって国を守るの?」


リーイエが冷静に結論を述べる。「行政の仕組みそのものを見直す必要があるわね。特にデジタル化が進むこの時代、サイバーセキュリティの強化は喫緊の課題なのに、担当者がその重要性を理解していないどころか、基礎的な知識すら持っていないなんて……驚きを通り越して呆れるわ」


日本の国民性にも目を向けざるを得なかった。


「日本の国民がこれを許しているのも問題だろう」とシンが指摘する。「こんな答弁がまかり通るなんて、他の国だったら暴動が起きてもおかしくないぞ?」


エルザが頷く。「確かに。危機感が足りないというか、何か問題が起きても『仕方がない』で済ませてしまう文化があるのかも。能天気と言えば能天気だけど、それがこの国の弱点になってるのよね」


リーイエが冷静に付け加える。「それに、政治に関心を持たない人が多すぎるわね。無関心でいることが、こうした状況を助長しているのよ。国民が目を覚まさない限り、政治家や官僚の質も変わらないでしょうね」



シン、リーイエ、エルザたちは、日本の現状について議論を続けていた。その中でエルザがふと漏らした言葉が、場の空気を一変させた。


「核戦争が勃発するのって2030年……だったわよね?その時、日本ってまだ存在していたのかしら?」


静まり返った空気の中、リーイエがすぐさま答える。

「詳細な資料やデータは失われているけど、戦争当時、日本は確かに存在していたわ」


2030年に勃発した核戦争。世界を巻き込んだ大規模な破壊は、瞬く間に文明を崩壊させた。その結果、生き残った人類はわずか推定1,000万人。広大な地球に点在する彼らは、荒廃した大地と毒された環境の中で、命を繋ぐために必死にもがいていた。


この過酷な状況の中、シンたちは一つの不可避な事実に直面する――日本という国が、完全に消滅していることだ。


艦内の会議室。リーイエがシステムから引き出したデータを提示する。スクリーンには、核戦争後の被害状況が赤いマークで示されている地図が映し出されていた。その中に、日本列島の形はなく、完全に沈黙を意味する「無反応領域」として表示されている。


「……日本、消滅してるわね」とリーイエが冷静に報告する。


エルザが重い口調で呟く。「この地図を見る限り、太平洋全体が深刻な被害を受けているわ。直接的な核攻撃があったのか、それとも放射能や津波による二次的な影響か……いずれにしても、日本のような島国が耐えられるはずもない」


シンは腕を組んで画面を見つめる。「わずか1,000万人しか生き残らなかった世界で、あの日本が姿を消すとはな……。まあ、この状況じゃ仕方ないのかもしれないが、それでも――」


リーイエはさらに詳細なデータを読み上げる。

「核戦争前の日本は、すでに経済的にも政治的にも厳しい状況に置かれていた。防衛やサイバーセキュリティの弱さ、人口減少、そして外国依存のエネルギー政策。どれもこれも、戦争という非常事態に対応できるだけの力を削ぎ落としていたのよ」


エルザが付け加える。「加えて、日本は大都市圏への人口集中が進みすぎていた。核攻撃や放射能汚染が起これば、一瞬で壊滅的な被害を受ける構造だったのよね。逃げ場なんてなかったでしょう」


シンは苦い表情を浮かべながら言う。「つまり、国そのものが無防備だったってわけだ。核戦争に巻き込まれるのは時間の問題だったんだな」


会議は重苦しい空気に包まれる中、エルザがふとした思いを口にする。

「それにしても、日本が消滅したなんて……。あの国が持つ文化が、こんな形で失われるなんて信じられないわ」


シンも静かに頷く。「寿司、ラーメン、茶道……世界中で愛された文化が消えてしまった。酒や温泉のような伝統的なものも、核戦争の影響で全て失われたのかもしれない」


リーイエが考え込むように言う。「戦争前のデータを見ても、日本の文化は多くの国で高く評価されていたわ。それが完全に失われるのは、歴史全体の損失と言えるでしょうね」


更にリーイエは冷静な視点から分析を加える。「でも、消滅したのは国としての日本であって、人としての日本人の精神や技術が完全に消えたわけではないかもしれない。世界中に散らばった生存者の中に、もしかしたら日本文化を伝える人たちがいるかもしれないわ」


ふとシンが低い声で呟く。「それでも……ガキどもに罪はねぇだろうに…」


全員がシンの言葉に耳を傾ける。


「戦争を引き起こしたのは、大人たちだ。それなのに、未来を担う若い世代や子どもたちが犠牲になるのは許せねぇ。日本が消滅したとしても、ガキどもの未来だけは……」


その言葉に、リーイエやエルザも深く頷く。彼らにとっても、日本が抱えていた問題や文化の消失以上に、未来の可能性を担う命が失われたことが何よりも心に重くのしかかっていた。


議論はやがて、核戦争そのものの教訓に移る。


「日本だけじゃない。多くの国がこの戦争で姿を消したわ」とリーイエが言う。「それでも1,000万人が生き残った。それが何を意味するかを考えないといけないわ」


エルザが続ける。「人類は、この惨劇を繰り返さないために、過去の過ちを直視する必要があるわね。たとえ資料やデータが失われても、記憶や教訓を未来に繋げる努力を怠ってはいけないわ」


シンは深いため息をつきながら言う。「日本が消滅したのは残念だが、その文化や精神が完全に消えたとは思えない。どこかに、生き残った者たちがその火を守っているかもしれないな……」


会議を終え、シンたちは未来の日本の消滅を受け止めつつ、これからの世界に希望を見出そうと決意する。


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