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大剣使いの放浪記  作者: 秋凪勇輝
プロローグ ペルナ村
9/24

09 お風呂回(男)

 俺たちは料理を堪能した後、片づけはこっちでやっておくからと言われ、家に帰ることにした。


 美味いもの食って風呂に入って寝る。こんなに素晴らしいことはない。



 ミラさんと一緒に家に帰る…が。はぁ…何でこんなことに…。ミラさんも村の人も、俺の事を信用してくれているって事なんだろうけど…なんだかなー。


「料理美味しかったです!また食べられたらいいなー!」


 ミラさんはかなり上機嫌だ。よほどこの村の料理が口に合ったようだ。東国のものも食べられたし。


「喜んでもらえて良かったです」


「それに、この後あんなに素敵なお家で……はぁ……♪」


 俺の悩みの種なんだが…ミラさんも喜んでるし、もう気にするのはやめよう。



 家に着き、ドアを開けて家に入る。

 ミラさんはさっきよりも更に上機嫌になっているようだった。


「それじゃ、俺は風呂の用意をするんで、適当にくつろいでいてください」


「はい!わかりました!」


 さてと、水を汲みに行くか。俺は樽を取り出し水を汲みに行…こうとしたところで呼び止められる。


「その樽は何に使うんですか?」


「今から水を汲みに行くんです。もう少しかかるので待っててください」


 すると、ミラさんは得意げな顔になり、胸を張っていた。どうしたんだろう?


「実は私、水の魔術が使えるんです!」


 そういえば、ミラさんが魔術を使うのを見たことがなかったな。


「戦闘に使えるほどではないのですが、お風呂に水を溜めるくらいならできますよ!泊めていただけるのですから、それくらいはさせて下さい」


 それなりに疲れてはいるし、ここはミラさんに甘えておこう。


「それじゃあお願いしますね」



 俺は風呂場に案内する。


「それじゃあお願いします」


「はい!任せてください!」


 ミラさんは手を前にかざすと「ウォーター」と唱えた。すると、かざした手から水が出始めた。


「へー便利ですね」


 そうでしょうそうでしょう!とでも言いたげな顔をしている。


「そういえば、クレイグさんはどんな魔術が使えるんですか?」


「俺は…魔術は使えないんです」


 隠してもしょうがないし、素直にそう告げる。


「え!?そうなんですか…。魔術を使えない人には初めて会いました…」


 まあそうだろうなー。俺も、俺以外に魔術を使えない人には会ったことがないし。


「でも、今は魔術が使えないだけで、いつかきっと使えるときが来ますよ!」


 ミラさんから励まされる。素直に受け取ろう。


「ありがとうございます」



 この調子だと結構早めに水が溜まりそうだな…。火を起こしておくか。


「それじゃあ俺は火を起こしてきますんで、温度が丁度になったら先に入ってください」


「え!?そんなこと出来ません!私は後で良いですよ」


「ミラさんの方が鎧も来てるし…先に入ってください」


「わかりました…お言葉に甘えさせていただきます」


 今回は早めに折れてくれたな。誰だっていつまでも汗をかいたままでは嫌だろう。


「それと、ここにある石鹸とか自由に使ってもらって大丈夫なんで」


 そう言うと、ミラさんはまたもや得意げな顔になる。


「私はお泊りセットを持ってきているので大丈夫です!」


 年頃の女性は流石だな…。抜け目がない。おっさんくせぇ?俺はまだ十八だ!



 俺は家の裏手に回り、火を起こす。ミラさんは中で温度をみているようだ。

 すると、上の窓から声が聞こえる。


「クレイグさーん。温度が丁度良くなったので入りますねー」


「はーい。どうぞー」


 少し待っていると、ミラさんが入ってくる音がする。


「熱かったり、温かったりしたら言ってくださいねー」


「わかりましたー」



 火を眺めながら今日あったことを思い出す。


 旅に出ようとしたらミラさんが訪ねてきて一緒に山に入る…。タスクボアを倒したと思ったら、ウォールベアが出てきて…。その後は皆で食事。美味いものも食えたしなぁ…。それでミラさんがうちに泊まることになって…。今まで生きてきた中でも、かなり慌ただしい一日だったな…。


「~~~♪~~~♪」


 鼻歌が聞こえてきた。俺は思わず小さく笑ってしまう。まあこんな一日があっても良いか。



「もう出まーす」


 という声が聞こえてきた。俺も、


「はーい」


 と返す。


 水を流す音が聞こえてくる。え、捨ててしまうのか?


「お湯流すんですかー?」


「え!?ん-、恥ずかしいじゃないですかー!」


 あ、それもそうだな。男同士じゃないし、そんなもんなのだろう。でも、そこは恥ずかしがるのね。


「あ、あはは。そうですよねー。それじゃあ、また水を溜めるのをお願いしていいですか?」


 適当に合わせておいた。


「わかりましたー」


 何とかなったか…?



 しばらくするとまた声が聞こえてくる。


「丁度いい温度になりましたー」


「はーい。今行きまーす」


 ちょっと火力を高くしていくか。火の番はさせられないし。



 家の中に入るとミラさんが寝巻で髪の毛を拭いていた。


 ―――――!?


 俺は思わず目を逸らしてしまう。

 さっきまで鎧を着ていたから分からなかったが、その…健全な男子には目の毒とだけ言っておこう…。

 マジか…いや、でも、俺は紳士だから!!!とりあえず平常心…。


「ありがとうございました。それじゃ、俺も入りますね」


 流石俺!声にも動揺は出てなかったはずだ。


「じゃあ私は火を見ておきますね」


 律儀なミラさんだ。そう言うと思ってたぜ。


「湯冷めして風邪でも引いたら大変なので家の中でゆっくりしててください。火もちょっと強めにしてきたので、大丈夫です。疲れも溜まっているだろうし、寝てても大丈夫ですよ」


「えー…わかりました…」


 しょんぼりした声でそう答える。

 なんか、ミラさん、朝と性格変わってね?



 服を脱いで風呂に入る。


 ザバー―――――


 やっぱり風呂は気持ちいい。一日の疲れが抜けていくようだ…。いつもとは違う香りがするな。ミラさんの使ってる石鹸の香りか…。変態じゃないぞ!?ただ普通にいい香りだと思っただけだ!疑う余地もない!


 湯船から上がり、頭を洗って泡を流そうとしていると、


「お湯加減どうですかー?」


 と、声を掛けられる。


「丁度です。ありがとうございます」


 俺はそう返す。


「良かったです。それじゃあ、お背中流しますねー」


「え!?ちょっ―――――」



 ガラガラガラガラ―――――



 言い終わる前に風呂場の戸が開かれる。

 おいいいいいいい!?何してんだこの女性(ひと)!?しかも背中を流すだって!?嘘だろ!?

 幸い、前はタオルで隠していたが、ただ置いてあるだけ。立つことも出来ない。頭を洗っているから目も瞑っている。下手に暴れても最悪の未来しか見えない。どうすることも出来ないんだが!


「自分で洗えますから!!大丈夫ですから!!」


 俺はそう叫ぶ。


「えー。私、結構得意なんですよ!それに、今日のお礼も兼ねてるんで!」


 ミラさんは無邪気な声でそう言う。


「本当に!!本当に大丈夫なんで!!!」


 俺は声だけで必死に抵抗する。


「そんなに遠慮しなくてもいいですよ!それじゃあ流しますねー」


 バシャアァァッ


 頭にお湯が掛かる。

 もう完全に主導権はミラさんだ…。もう抵抗も無駄だろう。俺はなすがままされることにした。


「それじゃあ、洗っていきますねー」


「はーい…」



 ミラさんは手慣れた手つきで洗っていく。


「クレイグさんの背中、大きいですね。私、弟がいて、洗ってあげることがあるんですけど…大きさが全然違います」


「へー。弟さんは何歳なんですか?」


 俺は気になったので聞いてみた。


「九歳です」


 俺は九歳の弟と同じ扱いか…。それはそれで悲しい…。



「傷もたくさんありますね」


 そう言い指で触ってくる。


「うおっ!?」


 びっくりして声を上げてしまった。


「あ、痛かったですか!?」


「いえ、びっくりしただけです…。傷は鍛錬のせいですね。結構きついこともやってたんで」



 実際きつかったが、俺が望んで親父に頼み込んだ事でもある。丸太受けや、投石…。他にもいろいろな事をした。耐えられるようになったら次の段階に進んで…。気づいたらこんな体になっていた。そのおかげで今があるし、今となっては親父との思い出だ。



「そうだったんですね。クレイグさんの強さの秘密が分かったような気がします!それじゃ、流しますね」


 そう言い、お湯をかけてくれる。


 ザバァァァァァ


 やっとこの時間も終わりか。長かったような、短かったような。


「これで完了!」


 やり遂げた感のある声でミラさんが言う。

 ありがとうございました。どういたしまして。というやり取りを挟んでミラさんは風呂場から出て行く。嵐のような女性(ひと)だった…。



 風呂から上がると、ミラさんは俺が風呂から出てくるのを待っていたようだった。

 こういうところはキッチリしてるのに、他のところでポンコツっぽいんだよなー。



「帰るのは明日ですか?」


 俺は気になったので聞いてみる。


「はい、そうです。村の人が明日グノットまで荷馬車で行くらしいので、乗せていってもらう予定です。クレイグさんも一緒に行くんですよね?」


 ルークの言った通りか。やはり普通の人はそうなんだな。俺がおかしいだけか。


「いえ、俺は歩いていくつもりですよ」


 そう言うと えっ!? と驚かれてしまった。


「これから旅をするので、出来るだけ歩くようにする予定なんです。馬車で行けないところもあるだろうし、鍛錬も兼ねてるので」


 ミラさんは感心したように へぇー と言っていた。そして何か考え込んでいるようだった。

 そしてこう言う。


「私も一緒に行きます」


 ―――――え?


「クレイグさんのその考え、とてもいいと思います。是非、私も一緒に連れて行ってください」


 さっきまでのホンワカした顔とは違って、騎士の顔をしている。

 そういう風に頼まれてしまっては俺も断ることが出来ない。


「分かりました。では一緒に行きましょう」


「よろしくお願いします!」



 俺たちは明日の約束をして、それぞれの部屋に行く。



 さて、明日が本当の出発だ!

ここまでがプロローグです。

思ったよりも長くなってしまって申し訳ないです。次回からは次の町に行きます!

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