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大剣使いの放浪記  作者: 秋凪勇輝
プロローグ ペルナ村
7/24

07 カッコいい騎士と、おかしい木こり

 そいつは灰色の熊だった。それも、見たこともない程巨大な。

 この辺で見かける熊よりも二倍はあろうかと思うほど大きい。


 今は春先。熊が出るには少し早い時期だ。なぜこんなところに…しかも見たことのない奴が…。

 タスクボアの血の匂いにつられて起きてきたのか…?

 謎の熊はこちらを値踏みするように睨みつけてくる。

 こちらも睨みつけたまま目を逸らさない。



 落ち着け…冷静になれ。経験上、パニックを起こして上手くいった試しがない。

 状況を整理する。

 出てきたのはでかい熊。恐らく魔物だろう。

 ミラさんは無事みたいだ。だが、剣も盾も持っていない。

 俺の方は…体の痛みは背中だけ。十分動けるレベルだ。

 殴られたのか…。噛みつかれていたらただじゃすまなかったはずだ。

 手足を動かす…良かった、付いてる。

 武器はあるか!?背中に担いでいた剣に腕を回す。良かった、持ってる。

 剣のおかげでダメージは軽減されたのか…ルークに感謝だな。


 …そろそろ動くか。



 俺はミラさんに小声で話しかける。


「今、正体不明の魔物と対峙しています。腕の力を緩めますので、すぐに俺から離れてください」


「わかりました」


 声色から、ミラさんも少しずつ状況を理解してきたようだった。


 立ち上がり、力を緩める。と同時に背中から剣を抜き、熊に向かって突撃する。そのままの勢いで熊に向かって横薙ぎを食らわせる。


 ドガァッ!


 ―――――!?切れない!?

 そのまま熊は後方へ吹き飛ぶ。


 ズザザザ―――――


 ハッ、お返しだ!

 


 抜いた剣を改めて見てみる。

 あんなに巨大な熊の攻撃を受けても、折れてもいなければ、曲がりすらしていない。ガードするのにも使えそうだ。過信は禁物だが…。しかし、ルークの腕は確かなものだと改めて思う。こりゃあ足を向けて寝られないな…。

 それにしても、切れない魔物なんて初めてだぞ。



「あれは…ウォールベアですね」


 うまく離れて装備を回収したミラさんが横に来て言う。


「ウォールベア?」


「ええ。毛が硬くて、斬撃がほとんど効かないんです。なので、普通は火の魔術による攻撃で対応します…」


「そうですか…」


 おいおい、マジかよ。相性最悪の敵じゃねーか。



 話しをしているうちにウォールベアとやらは態勢を立て直し、俺の方に襲い掛かってくる。

 両手で体重を預けるようにのしかかってくる。俺はすんでのところでそれを避ける。そして振り下ろしを一発入れる。ウォールベアは声を上げながら倒れこむ。


 やっぱり切れないか…ダメージは与えていると思うんだが…

 今度は立ち上がりざまに、大きい腕で薙ぎ払ってくる。避けきれなくて、咄嗟に剣でガードするが大きくのけぞってしまう。


「ぐっ……!」


 やばい…!今攻撃されたら、いいのを一撃をもらってしまう…。

 俺は覚悟をするが、ミラさんが俺の反対側から攻撃をし、注意はそれたようだ。助かった…。


「ありがとうミラさん」


「いえ、お互い様ですよ」


 攻撃を受けるのは得策ではないな…。


 ウォールベアは今度はミラさんの方に攻撃を仕掛ける。しかしウォールベアの攻撃はミラさんの盾によっていなされる。そして突きを一撃いれる。


 ―――――すげぇ!


 いとも簡単にあいつの攻撃を捌くなんて…。でも、ミラさんの表情に余裕はなさそうだった。ああいう技術にはかなりの集中力が必要なんだろう。毎回上手くいくとは限らないし、ミラさんに頼りきるのは駄目だろう。しかも、ミラさんはさっきのタスクボアで消耗している。消耗戦になるとこっちが不利だ。早いところで決着をつけないと…!



 ウォールベアは、ミラさんに突進する。今度は上手く捌ききれなくて、ガードしてしまい、大きく後ずさる。


「くぅっ……!!」


 まずい……!


 俺は急いで近づき、その勢いのまま思い切りウォールベアの横っ腹に突きを放つ!


 ドンッ!!!


 またウォールベアは吹き飛ぶ。しかし、今回は手ごたえがある。骨の折れる感覚が剣越しに伝わってきた。ヤツは痛みで唸り声を上げ、のたうち回っている。これなら…いけるか…!?


 すると、ミラさんが声をかけてきた。


「ありがとうございました…。危ないところでした」


 俺はミラさんにさっき貰った言葉をそのまま返した。

 ミラさんはフフフと笑ってくれる。


「それにしても凄いですね…。あのウォールベアに対して物理攻撃で、あれほどダメージを与えるなんて…。騎士団でも恐らくここまで出来る人なんていませんよ。あなたの体はどうなっているんですか?」

 どうなっているって言われても…。そんなにおかしいのか。俺の体。


「えー…鍛錬の成果です…」


「ははは…」


 乾いた笑いだ。呆れも若干は入っているだろう。



 ウォールベアの方を見るとまだこちらに向かってくるようだった。

 おいおい、タフすぎるだろ。でも、ダメージは入っているはずだからさっきまでの勢いはないはずだ。


「次の一撃は私が捌きます。その隙にクレイグさんが攻撃してください」


 ミラさんが言う。


「わかりました」


「私の左後ろにいてくださいね」


 ミラさんは笑顔で言う。


「わかりました」


 正直に言おう。ミラさんがかっこいい。

 


 ウォールベアは突進してくる。しかし先ほどの威圧感は無く、勢いも衰えている。

 ミラさんに攻撃を仕掛ける。しかしミラさんは、先ほどのような華麗な盾捌きで攻撃を左に逸らす。

 俺はその隙を逃さず脳天に渾身の一撃を叩き込む!


「ふっ―――――!!」


 バキィィィッッ!!!


 俺の一撃は的確にウォールベアの頭をとらえていた。音から察するに、頭蓋骨が砕けたのだろう。ウォールベアは小さく唸り声をあげ動かなくなった。



 倒した……か…。


「はぁ…なんとかなったか」


 安堵とともに疲労感が襲ってくる。


「ミラさんがいなかったら、ここまで上手く倒すことは無理でした。ありがとうございます」


 俺はミラさんに感謝を告げる。


「いえ、クレイグさんがいたからこそ倒すことが出来ました。こちらこそありがとうございます」

 そう言い合い、二人で笑い合った。



 戦闘に関してはお互いがカバーし合っていたし、最後の連携もいいものだった。言うことは無いだろう。冒険者を始めるにしても、またこういうイレギュラーがあるかもしれない。早く信頼できる仲間を見つけないとな。



「しかし、ウォールベアをこんな風に倒すだなんて…聞いたことがありません。さっきも言いましたが、あなたのパワーは規格外ですね」


「ははは…ルークにもよく言われます」


 ミラさんも安心したのか、地面に足を投げ出してウォールベアの方を見ている。俺もそうしたいが、こんなイレギュラーが起きたんだ。もうしばらくは警戒していよう。一度目は失敗したし…。

 でも、マジで何とかなってよかった。下手したら二人ともやられてたし、村の方にも被害が出ていたかもしれない。大切な人達が傷ついたり、いなくなってしまうのはもうごめんだ。



 それにしてもミラさんは凄かったな。相手が弱っていたとはいえ、土壇場であんなに綺麗に攻撃を捌くなんて…。しかも、俺に成功させると宣言していた様なものだったし。相当な胆力の持ち主だ。やはり、騎士団の中でも相当な実力者だろう。俺の考えは間違っていないはずだ。



「あ、そういえば…」


 ミラさんが口を開いたかと思えば、おもむろに立ち上りタスクボアの方を見る。


「そういえばそうでしたね」


 タスクボアの牙の事だ。あんなに緊張感のある戦闘をしていて忘れていたのだろう。


「やっと剥ぎ取ることが出来ますね」


 ミラさんはそう告げると、周囲を見回しながらタスクボアの方へ歩いていく。


「何かあってもまた守りますよ」


「頼りにしてます!」


 そう言い笑顔を向けてくる。ミラさんはよく笑うな。俺もつられて笑顔になる。

 笑顔はいいことだ。今は戦争がないとはいえ沈んだ顔をしいているよりも、そうでない方が良いに決まっている。誰かが笑っているのは心地が良い。俺ももっと人が笑顔になれるような人間になりたいものだ。



 ミラさんが牙を剥ぎ取っている間、俺は周囲を警戒しながらウォールベアを観察していた。


 俺の思った通り、ウォールベアは冬眠明けの様だった。体は大きいが、肉つきが良くない。これがちゃんとした状態だったら、俺の攻撃も通ってなかったかもしれない。色々と運が良かったようだ…。もっと強くならないと…!



 幸い、何も起こらずに順調に作業は終わり、ミラさんは牙を鞄の中にしまっていた。…でかすぎてはみ出てるけどな。

 俺は気になったことを聞いてみる。


「他の部位はいらないんですか?」


「ええ。牙しか持ってこいと言われていないので、他の部位は必要ありません」


 マジか!良いことを聞いた。タスクボアの肉は美味いんだ。


「それじゃあ他の部位は貰ってもいいですか?」


「ええ。どうぞ」


 やったぜ!これは村の皆も喜ぶぞ!

 それにしても、こいつどうすんだ?俺はウォールベアの方を見ながら聞いてみる。


「こいつはどうします?」


「ウォールベアは私もどうしようかと思っていたんです。普段は火の魔術で倒してしまうので、こんなに綺麗な状態なのは初めてなんです」


「いつもはどんな風にしているんですか?」


「毛皮は武具の素材にしたり、調度品にも使っているとか。後、肉は食べたりしますね」


 え、こいつ食えるのか!まあ熊は美味いしな。



 二人でうーんと唸っていると、ミラさんが口を開く。


「そういえば…」


 ん?何だろうか?


「報酬の話をしていませんでしたね」


 え?報酬貰えるのか。あ、依頼だから貰ってもいいのか…。完全に失念してたな。

 ミラさんは続ける。


「私も依頼を受けてもらえたのが嬉しくなって、飛び出して行ってしまってすいませんでした。それで…五十万ルアでどうでしょうか?」


 は!?五十万ルア!?五十万ルアって言えば、この村だったら三年は暮らせるぞ!?そんなに貰ってもいいのか!?いや、駄目だろう。


「いやいや、流石に貰い過ぎです!そんなに頂けません!」


「いえ、クレイグさんがいなければタスクボア、もっと言えばウォールベアも倒すことが出来ませんでした。クレイグさんも危険に巻き込んでしまったし…受け取ってください!」


「そんなこと言ったら俺だってミラさんを危険にさらしてしまったし、ウォールベアを放置していたら村が危なかったです。受け取れません!」


 またも押し問答が始まる。



 最終的に、タスクボア、ウォールベア、十万ルアを、報酬で受け取ることになった。


 タスクボアは町に卸すとそれなりの値段になるし、ウォールベアも武具の素材として高額で取引されているようだった。折衷案としてこの報酬に決まったのだ…が、ミラさんはまだ少し不服そうだった。



 そうと決まればこいつらを村に運ばないとな!日はまだ高いが、春先だし、暗くなるのは早いだろう。俺たちは可能な限り早く村に帰ることにした。



 今夜は肉がたくさん食えそうだぜ!


2024/11/06 

武器の描写が乏しく感じたので、02でクレイグ、05で父親、06でミラの武器の描写を、それぞれ加筆修正しました。

03でクレイグの能力を修正しました。詳細は後書きに書いてあります。

よろしければご確認ください。

全体的に情景描写、心理描写などの細かいところも一部加筆修正しました。

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