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大剣使いの放浪記 ー創造の円環ー  作者: 秋凪勇輝
王都ヴァレンディア
65/65

65 気負いすぎ

 ウィルが出て行ってから結構な時間が経った。

 いつの間にか陽も暮れて、ギルドの外はもう暗くなっている。


「ウィル遅いねー」


 俺の向かいに座っていたミラが、伸びをしながら言う。


「そうだな。待っててくれとは言ってたんだけど……」


 ウィルが出て行った後、二人には事情を説明していた。

 二人とも「ウィルがそう言っているなら」と、納得してくれてはいたが……まさか、こんなに遅くなるとはな……。


「そろそろ探しに行った方がいいですかね?」


 クリスも心配そうな顔を浮かべている。


 俺は壁に掛かっていた時計に目をやる。

 ――時刻は十九時を回ったところ。

 あまりに遅いと、そうするしかないか……。


「それも考えていた方がいいだろうな……」


 俺は小さくため息をついた。

 その時、ミラが声を上げる。


「あ、ウィルー!」


 ミラの視線を追いかけて振り返ると、そこにはウィルの姿があった。

 ウィルの顔にいつもの笑顔はなく、どこか思い詰めたような顔をしている。

 ウィルは力なく手を挙げて、俺たちに手を振った。

 一体どうしたんだ?


 そのままウィルは無言でこちらに向かって歩いた。

 そして、俺の横に腰を下ろした。


「遅かったねーウィル」


「心配しましたよ」


「本当だぞ。でも、無事に戻ってきてくれて良かったよ」


 けれど、ウィルはうつむいたままだった。

 俺たちは顔を見合わせた。


「なあ――」

「ごめん!」


 俺が声をかけようとした時、ウィルはそう言った。

 大きな声だったから、周りの人もこちらを見ている。

 ウィルもそれに気付き、縮こまる。

 ウィルでもこんなことあるんだな……。


「どうしたんだ?」


「いや、その……」


 ウィルはそう言って、周りを見ていた。

 ……今の状態じゃ言い出せないか。


「それなら、帰ってからにしようか。

 料理長さんも待っているだろうし」


 俺がそう言うと、ウィルはうなずいた。

 ミラとクリスも俺に同意したようにうなずく。


「それじゃあ帰るか」


 俺たちはギルドを後にした。





 帰り道でも、ウィルは一言も喋らず、ずっとうつむいたままだった。

 ウィルがこんなになるなんて、何があったんだろう?

 ……そんなに深刻なことなのか?

 俺は少し不安になった。


 俺たちがタウンハウスへと帰ると、ミラの案内で応接間へと通される。

 俺たちはソファーに座り、ウィルが話し始めるのを待った。


 少しすると、執事さんが飲み物を持ってきてくれた。

 俺たち三人はお礼を言ってから出された紅茶を飲むが、ウィルだけは手を付けなかった。


 これは相当だな……。


 そして、ウィルは意を決したかのように俺たちの方を見て、口を開いた。


「ごめん、俺、勝手な約束を取りつけちまった!」


 ウィルは俺たちに頭を下げる。

 俺たちは、またもや顔を見合わせた。

 そして、俺は口を開く。


「一体どうしたって言うんだ?」


 すると、ウィルは顔を上げた。


「実は――」



 ウィルの話はシンプルだった。


 ――魔術を使えなくなった幼馴染を助けたい。

 勢いで約束してきてしまった。


 ただそれだけだ。


「別にいいんじゃないか?」


 俺はミラとクリスの方を見る。


「うん。私もいいと思うわ」


 ミラはそう言い、クリスは穏やかに微笑んでいる。

 ウィルは俺たちを見て、目を丸くしていた。


「え、いいのか? 勝手なことしちまったんだけど……」


「それくらいなんともないですよ。

 クレイグさんだって、勢いでクエストを引き受けたこともありましたし」


 クリスはそう言って俺の方を見た。


「そうだな……。俺もあの時は成り行きで受けてしまった」


「そんなこともあったのか……。

 俺はてっきりもっと怒られるもんだと……」


「そんなことで怒ったりしないさ。

 俺が言うのもアレだけどさ」


 俺は自嘲気味に笑い、ウィルの方を見た。

 すると、ウィルの顔には明るさが戻ってくる。


「それに、そのエマさんは私たちが泊まっていた宿の娘さんでしょう?

 それなら尚更放っておけませんしね」


 クリスはいつもの笑顔でウィルに言う。


「そうそう。お世話になった人の助けになりたいのは誰だってそうよ」


 今度はミラがウィルに言った。


「そうか……ありがとな!」


 ウィルは完全にいつもの調子に戻った。

 やっぱりウィルはこうじゃないとな。


「それで、何かあてはあるのか?」


「いやー……それが……」


「……本当に勢いで受けてきたんだな」


 俺が言うと、ウィルはばつが悪そうに目線をそらした。


「ミラとクリスは、似たような事象は知らないのか?」


「んー……私はちょっと分からないかな。

 魔術が使えなくなるって、私の知っている限りでは、聖珠教とクレイグくらいしか知らないし。

 ウィルの話だと、エマちゃんは聖珠教の洗礼も受けてなさそうなんでしょ?」


「そうだな。エマからはそんな話は聞いていない。

 もし受けていたらそう言うはずだし」


 ……知らなかったのって俺だけだったのか。

 ボロが出ないように少しの間黙っておこう。


「毒関係でしたら私が治せるとは思いますが、そういった毒の話は聞いたことがありませんね」


「そうなのか……」


「ウィルさんから見てのエマさんはどうでした? その……マナの具合は」


「普通にあったな。少し弱まっていたけど、クレイグみたいに全くないって程じゃあなかったぜ」


「それじゃあ聖珠教みたいな感じかしら?」


「どっちかって言うと、そうだと思うぜ」



 俺たちは頭をひねりながら意見を出し合う。

 ――しかし、いい意見はなかなか出てこない。

 すると、ミラがポツリと呟く。


「……バリオスは何か知らないかしら?」


「バリオス? 何でまた?」


 ウィルが不思議そうな顔をしてミラを見る。


「バリオスはああ見えて長生きだから、もしかしたら何か知ってるかもな」


「そういやそうか」


「まあ、ダメ元で聞きに行ってみるか」


「そうだな! よし、行こうぜ!」


 ウィルは居ても立ってもいられないといった様子だ。

 俺たちはウィルに促されて席を立つ。

 すると、ミラが俺の横に来る。


「ウィル、元気出たみたいで良かったね」


 そう言って、笑みを浮かべた。


「そうだな」


 俺たちは厩舎へと向かった。





 厩舎に着くと、ウィルはバリオスに事情を説明した。

 バリオスは静かにウィルの話を聞き、やがて口を開いた。


『似たようなことは知っているな。

 だが、確証があるわけでもない。一回見てみないとな』


「うおおぉ、マジか!」


 ウィルは飛び跳ねて喜んでいた。


『それでも、俺の思っているものと違うかもしれないから、あまり期待はするな』


「お、おう……そうだな」


 ウィルはぴたりと動きを止め、バリオスを見た。


「それじゃあ、明日来てもらう?」


「そうだな! 俺、ちょっと言いに行ってくるわ!」


 ウィルはそう言って、厩舎を飛び出した。

 残された俺たちは、呆気に取られていた。


「……もしかして、ギルドを出て行った時もあんな感じだったのですか?」


「ああ。引き留める間もなかったな」


 俺たちはウィルの去った方を見て、笑いがこぼれる。


「それでも――」


 クリスが口を開く。


「協調性に欠けるのはいただけませんね。

 ここはクレイグさんから怒ってもらわないと」


「そうそう、料理長だって晩御飯の準備をして待ってくれているんだもの。

 ウィルの気持ちも分かるんだけどねー」


 二人は不満を口にしつつも、本気では怒っているわけではなさそうだった。


「そうだな。ここはちゃんと言っておかないとな」


 俺たちは顔を見合わせて笑う。

 バリオスに挨拶をしてから、屋敷へ向かった。


 ――明日は原因が分かればいいな。

 会ったこともない人だけど、ウィルの大事な幼馴染だ。

 何とかしてやりたいと思うのは当然だろうしな。


「原因、分かるといいね」


 横を歩いていたミラが、俺の心を読んだようなことを言う。


「そうだな」


 うっすらと街灯が照らす屋敷の門を見て、俺たちは屋敷へと入った。

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