表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/64

62 橋上の行軍

 バリオスの引く馬車で、俺たちは橋を進む。

 頑丈な石造りに、俺の胸元まである欄干。

 橋の幅も、馬車が四台は同時に通れるくらいには広い。

 ……本当に昔の人はどうやって造ったんだろうな。


 俺たちの他にも橋を渡っている人は多い。

 行商人の馬車や農家らしき人のけん引馬車、歩いて渡っている人もいる。

 

 橋の左手には海も見え、潮の匂いがこちらまで来ている。

 潮の匂いがするだけで、今までとは違う場所に来たんだと実感する。



「よっと」


 ウィルは俺の横に移動すると、馬車の屋根に軽快に上がった。


「おーい、落ちるなよー」


「分かってるって。こう見えてもバランス感覚が良いんだぜ?」


 ウィルは「おー」と楽しそうに声を上げた。

 景色でも見ているのかな?


 その声を聞いて、馬車の中からはカトレアさんのクスクスという笑い声も聞こえてくる。

 反対側を進んでいる人たちも、こちらを見て笑っている。

 ただでさえバリオスで目立っているんだけど……まあ、ウィルも楽しそうだし、これくらいはいいか。

 

「私も外を見たいかなー」


 ミラはそう言って俺の横に座った。

 そして、俺の顔を見て微笑む。

 朝は少し気まずかったけど、こうやってすぐいつもの調子に戻れるのは、ミラのいいところかもしれない。

 こっちとしても、あまり気を遣わずに済むしな。


「なんかいいよねー」


「何がだ?」


「男友達って感じがしてさ、私だって女友達が欲しいなー」


 ミラは少し意地悪そうな顔をして言う。


『それを言うなら俺だって馬友達が欲しいぞ。

 可愛い子が良いな!』


 バリオスまで乗ってきた。


「機会があればな。

 まあでも、今は男三人にミラ一人だし、次は女性が入ってくれた方が良いか」


『馬仲間は!?』


「お預けだな」


 いつの間にか上からのぞいていたウィルが答える。

 バリオスは文句を垂れていたが、バリオスだって仲間欲しいよな。

 二頭で馬車を引いてもらうのも悪くはないかもしれない。

 ……いつになるか分からないが。





 橋を半ばまで進んだあたりでウィルが声を上げる。


「なんか、前詰まってんな」


「そうなのか?」


「馬車も止まってるし、何かあったのかも。

 ちょっと見てみるわ」


 屋根の上でゴソゴソと音がする。

 どうやら立ち上がって、前を見ているみたいだ。


「さっきも言ったけど、落ちるなよー」


「分かってるってー」


 少しすると、ウィルからの返事が返ってくる。


「どうだった?」


「なんか、王国騎士団がこっちに向かってるっぽい。みんな道の真ん中を空けてたぜ」


「そうなのか? んじゃ、俺たちも空けておくか。

 バリオス、横に寄せてもらっていいか?」


『わかった』


「ウィルも戻って来いよー。落ちたら助けられないし」


「あいよー」


 ウィルは登った時と同様に、軽快な動きで馬車へと戻った。


「前の馬車も止まったし、バリオスもここらで一旦休憩だな」


『おう』





「私は見学しよっかなー」


 馬車を停めると、カトレアさんは先に馬車を降りた。


「クリスはいいのか?」


「ええ、私は大丈夫です。

 それより、クレイグさんは王国騎士団の行軍を見たことないのではないですか?」


「そうだな。騎士自体は見たことあるけど……」


「行軍はそうそう見られるものではありませんよ。

 いい機会ですし、見てきたらどうですか?」


 クリスはにこやかに言っていたが、過去のことを考えると、今はそっとしておいた方が良さそうだ。


「それもそうだな。ミラとウィルはどうする?」


「私も一応見ておこうかな。ガーランド騎士団との違いも気になるし」


「俺も行くぜ。こういうのってワクワクするよな!」


 俺たちはクリスに見送られながら外に出た。



 外に出ると、多くの人が馬車から降りていた。


「こういう時って、みんな馬車を降りるものなのか?」


 俺は隣にいたミラに聞いてみる。


「いえ、そんなことはないわ。

 今回は橋の上だし、みんな見物しているだけじゃないかしら?」


「そんなもんか」


 近くにいた親子も、肩車をして騎士たちが通るのを待っている。

 子供の方は目を輝かせながら橋の先を覗き込んでいた。


「パレードみたいなもんか」


「一般の人たちから見るとそうかもしれないわね。

 でも、この時期に王国騎士団が動くなんて……もしかしたら、ニニア村関係かも?」


「そっちの考えもあるか……。クリスも結構な案件だって言ってたし」


 もしそうなら、俺たちが見つけたあの結晶は、思っていた以上に厄介な代物だったのかもしれない。


「でも、それならお父様が王都へ行くと思うし……」


 ミラはそうつぶやいた後、う~んと、頭をひねらせていた。



「見えてきたぞ」


 ウィルの言葉で、俺も橋の先を見てみる。

 ――結構な人数がいるみたいだ。

 クオルでもガーランド騎士団を見たが、その時に見た隊列とは違って見えた。


「これだけいると威圧感があるな」


 俺はミラに話しかける。

 しかし、ミラは騎士団から目を離さなかった。


「……どうかしたか?」


 ミラは視線を向けたまま、小さくつぶやく。


「……近衛騎士団ね」


「近衛って……確か、王家専属の騎士だっけ?」


「そうね。あの一団の中に王家の人がいるはずだわ。

 もしかしたら、国王陛下が乗っているのかも」


「マジか……。頭、下げておいた方がいいのか?」


「大丈夫よ。リーンデル王国はそこまで厳しくないから。

 でも、国によっては必要になることもあるわね」


「そうなのか。教えてくれてありがとな」


「どういたしまして」


 ミラと話していると、自分の知らないことの多さを思い知らされる。

 ……これからいろんな所に行くんだ。

 分からないことはしっかり聞いて、自分のものにしていかないと。



 しばらくして、騎士団一行が通り過ぎる。

 ウィルとカトレアさんは小さく歓声を上げながら眺めている。

 

 通り過ぎる馬車の中に、一際豪華な装飾が施された馬車があった。


「あれが王家の人の乗っている馬車かな?」


「そうね……というか、あれは国王陛下が乗っている馬車ね」


「マジか……」


 ……親父が殴ったことのある人だ。

 そう思った瞬間、なんだか妙に気まずくなって、俺は視線を逸らした。


「陛下が通るから検問もやってたのかもね」


「それはあるかもしれないな」


 周囲が歓声を上げる中で、ミラだけは険しい顔つきのまま騎士団を眺めていた。





 騎士団が通り過ぎると、周囲のみんなは馬車へと戻っていった。

 橋の先の方からは馬車が動き出す車輪の音も聞こえてくる。

 ミラはまだ騎士団の後ろを見つめていた。


「ミラ、行くぞ。気になるのも分かるけど、俺たちはやれることはやったんだ。

 後のことは向こうに任せよう」


 俺が声をかけると、ミラはハッとした表情を浮かべる。


「そうね……。ごめんね、ちょっと気になっちゃって」


「俺が言うのもなんだが、ポールさんやエミリアさんに任せておけば大丈夫だって」


 言ってから、少し無責任だったかもしれないと思った。

 それでも、ミラの顔は明るかった。


「それもそっか。考えすぎてたかも!

 いつもとは立場が逆になっちゃったね」


 ミラはいつもの調子を取り戻していた。


「待たせちゃってごめんね。行きましょうか」


 ミラはそう言うと、馬車へ乗り込んでいった。

 ミラの調子も戻ったみたいだ。

 俺も馬車へ向かった。





 橋も終わりに差し掛かる頃、カトレアさんに声をかけられた。


「クレイグ君、橋を降りたところで少し止まってくれる?」


「分かりました」


 何かあったのかな?

 そう思いながら、俺はバリオスに頼んで馬車を停めてもらった。


「クレイグ君だけ、ちょっと来てもらえるかな?」


 カトレアさんはそう言って馬車を降りていく。

 三人を見てみると、みんなきょとんとしていた。


「クレイグだけでいいのか?」


 ウィルはカトレアさんに聞いたが、どうやら俺だけでいいみたいだ。


「ちょっと行ってくるよ」


「はーい」


「お土産、よろしくお願いしますね」


 クリスはまた妙なことを言い出した。


「あ、俺も俺もー!」


「え、ずるーい。私にもー!」


 ウィルとミラまで乗っかってくる。


「何しに行くかも分かんねーのに……」


 それでも、みんなの顔を見ていると、不思議と嫌な気分にはならない。


「まあ、なんか見繕ってくるよ」


「「よろしくー!」」


 ほんと、元気いいな……。



 俺はカトレアさんに連れられて、騎士の前まで来ていた。

 ……一体、なにをするんだ?


「すみません、少しお願いがあるんですけど……」


「どうしましたか?」


「実はですね、この先王都に行く予定なんですけど、向こうの橋の手前で止められまして――」


 カトレアさんは、向こうの橋の手前で止められたことを騎士に話していた。

 俺たちの馬車の方を指差すと、騎士もそちらへ目を向け、何度かうなずいていた。


「それで、王都に入る時も止められると思うので、許可証みたいなものを頂けないかと思いまして」


 王都側でも止められるかもしれない。

 ――俺はそこまで考えていなかった。

 カトレアさんは、そこまで考えていたのか。


「事情は分かりました。それでは、そちらの方は?」


 騎士は俺に向かって言う。

 俺は首から下げていた冒険者タグを取り出して見せた。


「なるほど、冒険者の方ですか。

 では、そちらも身分を示せるものはありますか?」


 今度はカトレアさんに向かって聞く。


「私は――」


 カトレアさんも何かを取り出して見せていたが、俺の位置からは確認できなかった。

 すると、騎士は背筋を正し、カトレアさんに向き直った。


「かしこまりました。すぐに手配をしてきます」


 騎士はそう言い残し、去っていった。


「カトレアさんって――」


 俺が言いかけたところで、カトレアさんに止められる。


「女性にはあまり詮索しない方が良いわよ?

 でも安心して。別に怪しいことしてるわけじゃないから」


 カトレアさんは笑顔で答えた。

 やっぱり、俺が思っていた以上にカトレアさんは凄い人みたいだ……。



 しばらくして、騎士が戻ってくる。


「お待たせいたしました。これをお持ちください」


 そう言って差し出されたのは、丸められた紙だった。

 丁寧にリボンで結んである。

 カトレアさんは、俺に受け取るように促していた。

 俺はそれを受け取る。


「ありがとうございました」


 俺が言うと、騎士は穏やかに笑った。


「良い旅路を」


 



 俺たちは騎士の元を離れ、馬車へと向かっていた。


「カトレアさん、ありがとうございました。

 俺、全然気が回らなくて……」


「最初はみんなそんなものよ。私だって、最初は同じ事で苦労したわ」


 カトレアさんは懐かしそうに笑った。


「ま、先人の知恵ってやつ?」


 そう言うカトレアさんは、威張るでもなく誇るでもなく、いつものカトレアさんだった。


「さ、待たせてるし、戻りましょう」


「……あ、お土産頼まれてるんでした」


 俺の言葉を聞き、カトレアさんは笑い出す。


「こんなに短い距離で? それじゃあ、一緒に見ていきましょっか!」


 俺はカトレアさんと一緒にお土産を選びに行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ