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61 橋を渡る前に

 朝、ミラと顔を合わせると、なんとも気まずい空気が流れた。

 目を合わせると、ミラは逸らしてしまう。

 カトレアさんは説明しておいてくれるって言っていたけど……。

 俺から声をかけるって言っても、何て声をかければいいか分からないんだよな……。


 そんなこんなで準備も終わり、いざ出発という時に、気まずそうな顔をしたミラが近づいてきた。


「あの……クレイグ、昨日はごめんね」


 ミラは顔を伏せながら言う。

 カトレアさんからはちゃんと伝わっていそうだ。

 少し離れた場所から、カトレアさんが苦笑いにも似た顔でこちらを見ていた。

 ……俺はミラに向き直る。


「いや、大丈夫だ。これからは少し意識をしてもらえると助かるかな」


「うん、分かった……」


 ミラは少し気まずそうな声で答える。


 俺はミラの肩に手をそっと乗せる。

 ミラの肩は少し跳ねた。


「俺も気にしてないし、それに……ミラがその調子だと、俺も調子が狂ってしまう」


 ミラと視線が合うと、俺は出来る限りの笑顔を作った。

 すると、ミラも笑顔を作ってくれる。


「さあ、出発しよう!」


「うん!」


 俺が言うと、ミラはいつもの調子で答えてくれた。

 ミラの調子も戻ったようで何よりだ。


 俺たちが馬車に乗り込もうとすると、入口の前でクリスがニヤニヤを隠し切れない顔で立っていた。

 クリスの横を通り過ぎる前に、脇腹を突いた。


「ア”ッ!」


 なんとも変な声を上げていた。





 王都までの道のりは順調。

 俺たちは、バリオスを気遣いながら進んでいた。

 俺とバリオス以外は、昼飯を終えてから昼寝中だ。

 予定ではあと二日で王都か……。

 

 王都は久しぶりだな……。

 親父に連れられて立ち寄ったのが、最初で最後だ。

 もうどんなところだったか覚えてないし、楽しみだ。


「あれ? もう【リーンデル大橋】まで来たのか?」


 さっきまで昼寝をしていたウィルが、俺の横から身を乗り出してきた。


「ああ、流石バリオスってとこだな」


『これくらいなんともないぜ』


 少し前方には、石造りの大きな橋。

 クオルやスタッグヘルムと王都をつなぐ唯一の橋だ。

 全長も長くて、対岸はかなり先だ。

 

「ホントこの橋すげーよな。誰が作ったんだろう?」


「さあな……。でもかなり昔からあるんだろ?」


「そう。言い伝えがないくらい、いつ誰が作ったかも分からないの。一説では、古代遺物(アーティファクト)の一種じゃないかって言う人もいるわね」


 今度は俺を挟んで反対側から、カトレアさんが身を乗り出してきた。

 どうやらカトレアさんも目を覚ましたらしい。


古代遺物(アーティファクト)~? そんなに凄いものだったのか。

 いつも気にしないで通っていたぜ」


「ここ以外にも、こういった場所は多いわ。

 古代の建造物や遺跡、水の中に沈んだ神殿なんかもあるわね」


 ウィルは目を輝かせながらカトレアさんの話を聞いている。


 古代遺跡か……。

 俺もそういうものに憧れていた。


「ワクワクしてくるな、クレイグ!」


「そうだな。俺も小さい時から聞かされていたし、それを見るのも冒険者になりたかった理由の一つだ」


「わかってんなークレイグ! やっぱロマンあるよな!」


 ウィルはそう言って、俺の背中をバシバシと叩く。


「ちょっ……痛いって」


「あー、すまんすまん。ちょっとテンション上がっちまってな!」


 ウィルは満面の笑みを浮かべていた。

 カトレアさんも、俺たちを見て笑みを浮かべていた。





 橋の手前まで辿り着くと、そこは行商人たちで賑わっていた。

 日用品や食料品、屋台まで出ている。


「すごい盛り上がりだな」


「ここはクオルとの中継地点だからね。

 ここと対岸はいつも商人の人たちで賑わっているよ」


 いつの間にか起きてきたミラが、俺の横に来ていた。


「そうなのか」


「クレイグって、通ったことないの?」


 ミラは首を傾げながら聞いてくる。


「小さいころに、親父に連れられて通った一度だけだな」


「そうだったの。これからは一緒にいろんなものを見ていこうね!」


「ああ、よろしくな」


 俺が言うと、ミラは笑みで返してくれた。



「みんな、必要な物はあるか?」


「私は大丈夫だよー」

「俺もいいぜー」

「私も特には」

「私も欲しいものはないかな」


 みんなも大丈夫だな。俺たちはすぐに橋を渡ることにした。


 橋の前に到着すると、馬車や人が列をなしている。

 その先には、騎士団らしき人が立っているようだった。


「少し物々しい雰囲気だけど、いつもこうなのか?」


「いえ、いつもはこうじゃないんだけど……何かあったのかしら?」


 俺たちの番になると、騎士団の人たちに止められる。


「止まれ」


 俺は言われたように馬車を停めた。


「所属と行き先は?」


「冒険者です。行き先は王都です」


 俺はそう言って、タグを見せた。

 騎士団の人は俺のタグを確認する。

 そして、バリオスや馬車全体を見る。


「この馬は何だ?」


 やっぱり聞かれるよなぁ。


「見た目はちょっと厳ついですけど、僕たちの馬です」


「そうか。見たこともないくらい大きいな。

 それに……この馬車は、ガーランド騎士団の物ではないのか?」


 検問をしている騎士団は鋭いな……。

 誤魔化しても仕方ないし、ここは素直に言おう。


「この馬車は、ガーランド騎士団から頂いたものです。

 確認していただければ分かると思います」


「本当か? 少し横にずれろ。

 お前たちが通るのは確認が出来てからだ」


 俺たちは騎士団の人たちに誘導され、横にずれた。


「少し足止めか……」


「いざとなったら私がこれを使うから安心して」


 ミラは胸に手を当てて言う。

 これって……ガーランド家の徽章のことか。


「いいのか?」


「んー、まあ仕方ないかな。

 確認を取るのも時間が掛かるし」


「そうは言ってもな……。

 出来るだけミラの想いを尊重したいと思ってるんだけど」


「大丈夫大丈夫! これくらいはあると思っていたから」


 ミラは笑って答えてくれたが、どうにも割り切れない気持ちがある。


 その時、カトレアさんが声をかけてくる。


「どうしたの?」


「あの……検問に引っかかってしまって」


「ふーん、そうなの」


 カトレアさんは少し悩むようにうつむいた。

 そして、顔を上げた。


「よし、お姉さんに任せなさい!」


「ちょ――」


 胸を張ってそう言った後、俺が言い終わる前に馬車から出て行ってしまった。

 カトレアさんは騎士へと近づき、話をしている。


 騎士は何かに気付いたようで、背筋を伸ばしカトレアさんに頭を下げていた。

 その様子を見ていたミラから声をかけられる。


「カトレアさんって、もしかして凄い人なのかな?」

 

「……そうみたいだな」



 やがて話も終わり、カトレアさんが戻ってくる。


「通っても大丈夫だってー」


 カトレアさんはいつも通りのフランクな感じだ。


「すいません、ありがとうございます」


 俺たちは、カトレアさんに頭を下げていた。


「いいのいいの。馬車にも乗せてもらってるしね!

 それと、馬車に揺られていて体が固くなっちゃった。少し体を動かしてもいい?」


「ええ、大丈夫です。俺たちも一旦降りるか」


 俺の声掛けで、みんな馬車を降りた。



 みんな思い思いに体を動かしている。

 カトレアさんの呼びかけがなかったら、そのまま通過していたかもしれない。

 今度からは適度に休憩も入れよう。

 バリオスにも気分転換をしてもらいたいしな。


 みんなの様子を見ていると、クリスだけ山の一点を見つめていた。


「どうしたんだ?」


 俺が声をかけると、クリスはいつものニコニコした顔ではなく、鋭い目つきをしていた。


「少し……堅気じゃなさそうな人がいたもので」


 俺もその方向を見てみたが……全然分からない。


「そうなのか? もしかして、ドラー帝国絡みか?」


 俺はなるべく大きな声を出さないようにした。


「まだ分かりません。しかし、その可能性もあるかと」


「そうか……。ニニア村の件もあるし、バリオスに魔物の動きも聞いてみるか?」


「そうですね。それが一番かと」


 俺とクリスはバリオスの方へと向かった。

 騎士に変に思われないように、小声で話す。


「バリオス、ちょっと相談なんだが――」



『なるほどな。分かったちょっと待ってろ』


 バリオスは集中したように目を閉じる。

 少しすると、一つ息を吐いた後にこちらを向いた。


『今のところ、魔物の気配に変わった動きはない。安心しろ』


 俺とクリスは、同時に胸をなでおろす。


「バリオスさん、ありがとうございました」


 クリスはそう言って頭を下げた。


『いいってことよ』


 バリオスは俺たちから視線をそらして答えた。


「一応、騎士に言っておくか?」


「そうですね。これだけ騎士がいれば、ここで大きく動くとは思いませんし、報告して牽制した方がいいかもしれません。……私が話をしてきます」


「そうか……頼む」


 クリスは騎士へと報告しに行った。


 この前のニニア村を襲った仲間なんだろうか……。

 出来れば違っていてほしいんだけどな。


 クリスの報告で、数人が山へと入っていった。


「お待たせしました。みなさんも体がほぐれたようですし、そろそろ行きましょう」


「ああ、そうだな」


 俺たちは馬車へと乗り込み、橋へと進んだ。

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