表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大剣使いの放浪記  作者: 秋凪勇輝
プロローグ ペルナ村
6/24

06 見入ってしまう

 昼飯も食い終わり、いよいよタスクボアの生息域に入る。


「ここから先にタスクボアがいる可能性が高いです。いつでも戦闘できるように準備しておいて下さい」


「いよいよですか」


 ミラさんは剣や盾、防具のチェックを行う。


「よしっ!」


 気合入ってるな。さっきまでと目つきも違う。この感じだと問題はなさそうだ。

 俺も気合入れて探さないとな。

 魔物に先に見つかって、先手を取られでもしたら赤っ恥だ。



 周囲を警戒し、慎重に奥へと進んでいく。

 視覚だけじゃなく、聴覚、嗅覚、全てを研ぎ澄ませていく。

 そう……この山すべてが自分の体だと思えるくらいに―――


「臭っ!?」


「えっ!?」


 あまりの臭さに声をあげてしまった。


「あ、いえ……ちょっと気になることがありまして‥‥」


「え、私そんなに臭いですか?」


 ミラさんは自分の匂いを嗅いでいる。

 どうやら、あまりの臭さに言葉選びを間違えてしまったようだ。


「いえ、決してそういうわけでは……」


 ミラさんは、じゃあどういう事?とでも言いたげな顔を向けてくる。


「恐らくこの近くに獣のフンがあるみたいなんです。なのでもしかしたらタスクボアがいるかも、と思いまして」


「そういうことだったんですね……早とちりをしてしまって申し訳ないです」


「いえ、俺の方こそ勘違いをさせる言い方をしてしまって、悪かったです」


 改めて気合を入れ直し、探索に戻る。



 ほんの少し進んでみると、やはり獣の排泄物が落ちていた。

 まだそんなに時間も経っていない。しかもタスクボアの排泄物の形と似ている。

 やはりこの近くにいるようだ。ここからはさっきよりも慎重に進むぞ。


 また少し進むと、先の方からガサガサという音が聞こえる。

 俺は、声を出さないで、と人差し指を口の前に持っていき、ミラさんに合図する。

 気取られないように覗いてみると、


「いた」


 ミラさんにだけ聞こえるように声を出す。

 するとミラさんも、俺の横で覗き込む。


「あれが…」


 ミラさんも声を絞っている。


「音を消して近づいても絶対に気付かれるので、不用意に近づくのは危険です。こちらが構えた状態で、向こうから来てもらうのが良いです」


 これは経験談だ。俺自身がガキの頃に試した。後ろからこっそり近づいても、いきなりこっちを向いて、俺はビックリして体が固まってしまった。そして突進をモロに食らってしまった。


「ど、どうすればいいのでしょう?」


「あいつは非常に好戦的です。こちらが攻撃を仕掛けたら絶対に向かってきます」


 俺は、その辺の石ころを拾う。


「これを先に当てて、こっちが万全の構えの状態で、向こうから来てもらいましょう」


「わかりました!」


 ミラさんが石を拾う。


「俺は少し離れた位置から見てますね。危なくなったら俺の判断で助けに来ます」

 ミラさんは うんうん と首振って合図する。

 


 俺が少し距離を取ったところでお互いに合図をする。

 ミラさんも心の準備が出来たようだ。

 これから始まるのか……頑張れ!と心の中で応援する。


 ミラさんが石を投げる―――――。

 ?

 石はどこに行った?

 タスクボアの方を見るが、当たってはいないようだし、まだ気づいてもいない。

 外したのか。

 ミラさんはもう一度挑戦するようだった。

 今度こそ当たりますように!

 しかし、今度は右の方に大きく反れてしまっていた。

 タスクボアがそれに気付いて、石の落ちた方向に行ってしまう。

 ああ…行かないで……

 ミラさんの方を見ると、「こっち来て」と、合図をしていた。

 俺はタスクボアを見失わないように、ミラさんの方に向かう。



「ずみ˝ま˝ぜん˝」


 半べそをかいてた。


「いえ、こちらも投擲が不得意だと知らずに押し付けてすいませんでした」

 ミラさんはしゅんとしている。

 幸い、まだ見失ってはいない。



 他の方法……声を出すとかでいいのか?試したことないから分からないな。

 俺が自分で狩るときは、いつも石を投げていた。親父もそうしていたし、多少なりともダメージを与えられるはずだ。当たり所が良ければそれだけで倒したこともある。声を出して逃げられたら探すのにも時間が掛ってしまうし…

 そこでまた、ルークの”あの言葉”を思い出す。

 そういや、そうだな。

 これは俺の戦い方だ。ミラさんにはミラさんの戦い方があるはずだ。声や、音を出す方法で試してみよう。



 俺がタスクボアに目をやりながらそう考えていると、ミラさんが口を開く。


「クレイグさんが投げてください」


「え?」


 俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 やっべ、タスクボアには気付かれてないよな?……大丈夫なようだ。


「私、投げるのが苦手なんです!だからクレイグさんが投げてください!」


「えっと、試験だから手を出すのはダメなはずじゃ…?」


「良いんです!」


 え、いいの?まあ、石を投げるくらいなら良い…のか?基準が分からん!

 でも、一応俺の考えは伝えておく。

 するとミラさんは顔を真っ赤にして俯きながら、


「その方法でいきましょう」


 と、小さく返事をした。



 気を取り直して再戦だ!


 俺はさっきのようにミラさんから距離を離す。

 ミラさんは横に生えていた、あの”変な草”をガサガサ鳴らしている。

 すると…作戦は成功したようだ!タスクボアはミラさんの方へ向かって歩いていく。このままいけば不意打ちを食らわせることも可能だ…が、ミラさんはタスクボアの前に出る。


 ミラさんにはミラさんの戦い方があるって、さっき言ったじゃないか!何も言うことは無い!


 タスクボアが突進してくる!が、盾を使って上手くそらしている。その隙を狙って一突き。直撃はしたけど、それだけで仕留める事は出来なかったようだ。

 タスクボアの首振りも、盾を使って防ぐ。盾の使い方が上手い…のかな?こういう戦闘は見たことがないから分からない。それにしても、あんなに細身なのによく攻撃を受け続けられるな。相当な訓練をしていそうだ。


 ミラさんを見ていると、攻撃よりも守備の方に重きを置いている戦い方で、攻撃は威力よりも手数重視。俺とは真逆。盾の使い方も、受ける一辺倒ではなく、そらしたり、目くらましにも使っているようだった。

 攻撃も大雑把なものではなく、盾で防御し、チャンスの時に的確に当てにいっている印象だ。

 ………これは俺の出番はないかもな。

 それにしても、剣ってのは切るものじゃないのか?ミラさんは突きを主体にして戦っている。

 ミラさんの剣は一般的なロングソードのようだが、幅も狭いし、剣の先も尖っている。切ることも出来るようだが、突き主体の武器なのかな?

 やっぱりその人、その武器によって戦い方も違うもんなんだな。

 


 そうして見入っている間に、そろそろ決着がつきそうだ。俺が出て行ってないってことは、もちろんミラさんの勝ちだ。

 最後の一撃が入り、タスクボアは斃れる。


 ミラさんは、はぁ、はぁ、と肩で息をしている。少しの間息を整る。そしてタスクボアに近づいていく。ミラさんも、ちゃんと倒せたか確認しているようだ。タスクボアが死んだふりをしているのを見たことがないから、これ終いだろう。


 俺はミラさんに近寄る。


「お疲れさまでした。初めて戦う魔物でも、危なげなく討伐しましたね」


「はい、ありがとうございます。クレイグさんのアドバイスのおかげです!」


 ミラさんは笑顔でそう言う。

 そう言われると照れてしまうな。


「後は牙を剥ぎ取るだけですね」


「そうですね!」


 ミラさんは手際よく鞄からナイフを取り出し、剥ぎ取る為にしゃがみ込む。

 相当上機嫌のようだ。鼻歌まで歌っている。



 と、その時―――――。


 タスクボアの向こう側から ガサガサッ と音が鳴り、大きい灰色の何かがミラさんに向かって飛び出してくる。


「―――――っ!!!」


 声が出ない。

 俺は咄嗟にミラさんに覆いかぶさるように飛びつく。


 ドカッッ!!!!

 

 ―――――背中に衝撃が走る。衝撃の勢いで目を瞑ってしまう。

 何だ?何をされた?体に地面との接地感がない。体が宙に浮いているのか!?そして、そのまま背中から何かにぶつかる。

 

 ドゴォォォ!!!!


 いってぇ………こんな衝撃は久しぶりだ………

 はっ!……ミラさんは……!?

 

 恐る恐る腕の中を見る。そこにはミラさんがいた。

 良かった。


「怪我はないですか?」


「え、ええ」


 まだミラさんは混乱しているようだ。



 くそっ、いつもならこんなことにはならないのに…久しぶりに複数人で山に入ったから気が抜けてたか… 



 俺は飛び出してきた何かを見る。

 この山では見たことない奴が出てきたみたいだ。



 これは俺も気合入れてかからねえと駄目そうだな。

2024/11/06 ミラの武器の描写を加筆修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ