59 まずは段階を踏んでから
ギルドマスターとの話も終わり、俺たちはカウンターへと足を運んでいた。
俺とミラとクリスの三人は、タグをカウンターへと預けた。
新しいタグに更新するためだ。
更新には時間が掛かると言われていたので、俺たちはその辺のテーブルで待つことにした。
「それにしても、クレイグ達もいろいろやってたんだな。
こんなに早く昇級するなんてよ」
「たまたま遭遇しただけのことも多かったけどな。
それでも……今まで出会ってきた人たちや、救えた村があったことは良かったと思う」
俺が言うと、ミラとクリスもうなずいていた。
実際に、成り行きで巻き込まれた場面もあった。
魔物強化薬の件もあるし、これから先も似たような場面に出くわすかもしれない。
そう考えると、今までの経験は無駄じゃなかったかもしれないな。
「んで、どうする? 昇級したけど、何かクエスト受けていくか?」
ウィルが飄々とした様子で聞いてくる。
「俺は大丈夫だけど、ミラとクリスはどうだ?」
「私は大丈夫よ。四人での連携もしておきたいし」
「私も大丈夫です」
二人とも賛成なようで良かった。
「それじゃあ、タグを貰ったら青等級あたりのクエストを受けてみるか。
昇級したばかりでいきなり黄色等級ってのも、段階を飛ばしている気もするし」
「分かりました。いくら黄色等級に上がったからといって、その下の等級の経験をしておくに越したことはないですからね」
「さんせーい!」
クリスとミラも俺の意見に賛同してくれた。
ウィルも特に口を挟むことはなく、俺たちを笑ってみていた。
◇
「お待たせいたしましたー!」
少し待っていると、この前対応してくれた元気の良い職員さんが、俺たちの新しいタグを持ってきてくれた。
初めて登録した時よりも、時間的にはかなり早い。
更新するのって、簡単なのかな?
職員さんは、名前を確認しながらタグをそれぞれに渡していく。
手渡されたタグを見てみる。
……本当に黄色等級に上がったんだな。
改めて新しいタグを手に取ると、実感が湧いてくる。
タグを指でなぞりながら、そう思う。
「これからは、等級に合った振る舞いをしていかないとな……」
「えー、別にそんなに気負う必要はないと思うぜ?
俺を見てみろよ。こんなんだし」
ウィルはいつもの調子で胸を張ってみせる。
「ウィルさんはもっとちゃんとして下さいよ。
まあ、私としては接しやすくていいですけど」
職員さんはウィルをからかうように見ながら、にこやかに言った。
「それと、ウィルさんもパーティーに入ったんですね!
おめでとうございます!」
「おう、ありがとな!」
ウィルと職員さんはそんなやり取りをしていた。
職員さんは俺たちにタグを渡すと、自身の業務へと戻っていった。
「それじゃあ、クエストを見に行くか」
俺たちはクエストが貼ってあるボードへと足を向けた。
◇
「おーい、そっちにも行ったぞー!」
ウィルの声と同時に、別の個体の額に矢が突き刺さる。
「分かった!」
俺はウィルの声がする方向へと大剣を構える。
――そして、飛び出してきた魔物を叩き伏せた。
クリスとミラも、各々が魔物と戦っていた。
ミラが注意をひきつけ、その間にクリスが死角から一突きで魔物を仕留める。
……前よりずっと、パーティーとして形になってきた気がするな。
「お疲れー!」
ミラの元気のいい声が響く。
「これくらいなら問題はなさそうですね」
クリスは落ち着いた声でそう言った。
俺たちが受けたクエストは、フォレストウルフの討伐。
家畜の被害が出ていた牧場からの依頼だった。
「これで全部か?」
俺はウィルに声をかける。
「多分な。この辺にはもう敵のマナは見えないし、これでクエスト達成だな」
ウィルのマナを見る能力ってのは便利だな。
俺は討伐したフォレストウルフを見る。
数は六。
狼の群れだとこんなものだろう。
俺もみんなも、息の上がった様子はない。
やっぱりこれくらいだとそんなに難しい依頼じゃないみたいだ。
人数が増えたこともあるし、一人当たりの負担も減っている。
四人での初めての連携だったけど、上手くいった方だと思う。
「よし、それじゃあギルドに報告に行こうか」
俺たちはギルドへと戻ることにした。
◇
ギルドに戻って報告を済ませると、もう空は赤色に染まっていた。
宿屋へ戻る途中では、子供たちが親に連れられて帰る姿も目に入り、料理のいい匂いもあちこちからしてくる。
今日は二回もクエストへ出かけたし、腹もかなり減っている。
「今日は一緒に晩飯食うよな?」
隣を歩いていたウィルに声をかける。
「おう、俺も腹減ってるからすぐに行くわ。
宿のロビーで待っててくれ」
ウィルは腹をさすりながら言う。
「今日はウィルが加入したからお祝いしないとね!」
俺たちの会話を聞いていたミラも、満面の笑みで言う。
その言葉を聞いて、クリスも同じように笑みを浮かべていた。
ウィルは少し照れたように顔をそらしていた。
◇
準備を済ませてロビーで待っていると、ウィルが顔を出す。
「お待たせー……って、クレイグだけか」
「ああ、もう少ししたら来ると思うぞ」
「りょーかい」
少しの間待っていると、見知った顔が現れる。
「あれー? クレイグ君とウィル君じゃない」
「こんばんは、カトレアさん」
現れたのはカトレアさんだった。
「君たちも今からご飯?」
「ええ、そうです。カトレアさんも今から?」
「そうなの。ここのご飯美味しくって、すっかりファンになっちゃった!」
大人っぽい見た目をしているのに、こういう所は子供っぽいというかなんというか……ミラも同じようなところもあるし……。
女性ってのは、みんなこんな感じなんだろうか?
「お待たせー!」
カトレアさんと話していると、ミラの声が響く。
「あー! カトレアさん!」
ミラは嬉しそうな表情を浮かべて、カトレアさんへと寄って行く。
二人は手を取り合って喜んでいた。
ミラは嬉しそうに、今日あった出来事をカトレアさんに報告していたようだった。
”黄色等級”や”ウィルが加入した”という言葉も聞こえてくる。
……こうしてミラとカトレアさんを見ていると、なんだか姉妹のようにも思えてくる。
俺はその光景を、微笑ましく見ていた。
「何ニヤついているのですか?」
「うおっ!」
突然後ろから話しかけられて驚いてしまう。
そこにはクリスが立っていた。
「……なるほど。ミラさんとカトレアさんを見ていたのですね?
もしかして、ああいうことがしたいのですか?」
クリスは、手をつないでくれと言わんばかりに、両手を俺の方へと差し出してくる。
俺は両手を出さず、クリスを見た。
「……そんなに渋い顔をしないでください。
私はただ、クレイグさんが喜ぶかと思って……」
クリスはあからさまに悲しそうな顔をする。
――が、俺には分かる。
これは俺をからかっているだけだ!
ここ数日のやり取りで、きちんと覚えたからな!
「……騙されないからな」
「おや、バレていましたか。
クレイグさんも学習が早いですね」
クリスは表情をコロッと変えて、涼しげに言った。
なんなんだよ……でも、この感じがパーティーの良さなのかもな。
「ねぇねぇ、カトレアさんもご飯に誘っていい?」
いつの間にか俺の前に来ていたミラが聞いてくる。
「良いんじゃないか? 二人はどうだ?」
「俺はいいぜ」
「私も大丈夫です」
俺たちの反応を見て、ミラの表情は明るくなる。
ミラの後ろにいたカトレアさんの表情は、すこし困惑したようだった。
「ウィル君のパーティー加入や、昇級の祝いの席なのに、私がいてもいいのかしら?」
「大丈夫じゃね? 俺は気にしてねーよ? なあ、クレイグ」
クリスも同意したようにうなずく。
「俺も大丈夫だ。たくさんで飯食った方が美味いしな」
俺たちの言葉を聞き、カトレアさんの表情も明るくなる。
「それじゃあ、ご一緒させてもらおうかしら」
「やったー! 早く行きましょ!」
ミラはそう言って、カトレアさんの手を取って酒場の方へと入っていった。
「ミラさんはなかなかパワフルですね」
「まあ、元騎士団員だしな」
俺たちも笑いながら、酒場へと入っていった。




