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59 まずは段階を踏んでから

 ギルドマスターとの話も終わり、俺たちはカウンターへと足を運んでいた。

 俺とミラとクリスの三人は、タグをカウンターへと預けた。

 新しいタグに更新するためだ。

 更新には時間が掛かると言われていたので、俺たちはその辺のテーブルで待つことにした。


「それにしても、クレイグ達もいろいろやってたんだな。

 こんなに早く昇級するなんてよ」


「たまたま遭遇しただけのことも多かったけどな。

 それでも……今まで出会ってきた人たちや、救えた村があったことは良かったと思う」


 俺が言うと、ミラとクリスもうなずいていた。


 実際に、成り行きで巻き込まれた場面もあった。

 魔物強化薬の件もあるし、これから先も似たような場面に出くわすかもしれない。

 そう考えると、今までの経験は無駄じゃなかったかもしれないな。


「んで、どうする? 昇級したけど、何かクエスト受けていくか?」


 ウィルが飄々とした様子で聞いてくる。


「俺は大丈夫だけど、ミラとクリスはどうだ?」


「私は大丈夫よ。四人での連携もしておきたいし」


「私も大丈夫です」


 二人とも賛成なようで良かった。


「それじゃあ、タグを貰ったら青等級あたりのクエストを受けてみるか。

 昇級したばかりでいきなり黄色等級ってのも、段階を飛ばしている気もするし」


「分かりました。いくら黄色等級に上がったからといって、その下の等級の経験をしておくに越したことはないですからね」


「さんせーい!」


 クリスとミラも俺の意見に賛同してくれた。

 ウィルも特に口を挟むことはなく、俺たちを笑ってみていた。





「お待たせいたしましたー!」


 少し待っていると、この前対応してくれた元気の良い職員さんが、俺たちの新しいタグを持ってきてくれた。

 初めて登録した時よりも、時間的にはかなり早い。

 更新するのって、簡単なのかな?


 職員さんは、名前を確認しながらタグをそれぞれに渡していく。


 手渡されたタグを見てみる。

 ……本当に黄色等級に上がったんだな。

 改めて新しいタグを手に取ると、実感が湧いてくる。

 タグを指でなぞりながら、そう思う。


「これからは、等級に合った振る舞いをしていかないとな……」


「えー、別にそんなに気負う必要はないと思うぜ?

 俺を見てみろよ。こんなんだし」


 ウィルはいつもの調子で胸を張ってみせる。


「ウィルさんはもっとちゃんとして下さいよ。

 まあ、私としては接しやすくていいですけど」


 職員さんはウィルをからかうように見ながら、にこやかに言った。


「それと、ウィルさんもパーティーに入ったんですね!

 おめでとうございます!」


「おう、ありがとな!」


 ウィルと職員さんはそんなやり取りをしていた。

 職員さんは俺たちにタグを渡すと、自身の業務へと戻っていった。


「それじゃあ、クエストを見に行くか」


 俺たちはクエストが貼ってあるボードへと足を向けた。





「おーい、そっちにも行ったぞー!」


 ウィルの声と同時に、別の個体の額に矢が突き刺さる。


「分かった!」


 俺はウィルの声がする方向へと大剣を構える。

 ――そして、飛び出してきた魔物を叩き伏せた。


 クリスとミラも、各々が魔物と戦っていた。

 ミラが注意をひきつけ、その間にクリスが死角から一突きで魔物を仕留める。


 ……前よりずっと、パーティーとして形になってきた気がするな。



「お疲れー!」


 ミラの元気のいい声が響く。


「これくらいなら問題はなさそうですね」


 クリスは落ち着いた声でそう言った。


 俺たちが受けたクエストは、フォレストウルフの討伐。

 家畜の被害が出ていた牧場からの依頼だった。


「これで全部か?」


 俺はウィルに声をかける。


「多分な。この辺にはもう敵のマナは見えないし、これでクエスト達成だな」


 ウィルのマナを見る能力ってのは便利だな。


 俺は討伐したフォレストウルフを見る。

 数は六。

 狼の群れだとこんなものだろう。


 俺もみんなも、息の上がった様子はない。

 やっぱりこれくらいだとそんなに難しい依頼じゃないみたいだ。

 人数が増えたこともあるし、一人当たりの負担も減っている。

 四人での初めての連携だったけど、上手くいった方だと思う。


「よし、それじゃあギルドに報告に行こうか」


 俺たちはギルドへと戻ることにした。





 ギルドに戻って報告を済ませると、もう空は赤色に染まっていた。

 宿屋へ戻る途中では、子供たちが親に連れられて帰る姿も目に入り、料理のいい匂いもあちこちからしてくる。

 今日は二回もクエストへ出かけたし、腹もかなり減っている。


「今日は一緒に晩飯食うよな?」


 隣を歩いていたウィルに声をかける。


「おう、俺も腹減ってるからすぐに行くわ。

 宿のロビーで待っててくれ」


 ウィルは腹をさすりながら言う。


「今日はウィルが加入したからお祝いしないとね!」


 俺たちの会話を聞いていたミラも、満面の笑みで言う。

 その言葉を聞いて、クリスも同じように笑みを浮かべていた。

 ウィルは少し照れたように顔をそらしていた。





 準備を済ませてロビーで待っていると、ウィルが顔を出す。


「お待たせー……って、クレイグだけか」


「ああ、もう少ししたら来ると思うぞ」


「りょーかい」



 少しの間待っていると、見知った顔が現れる。


「あれー? クレイグ君とウィル君じゃない」


「こんばんは、カトレアさん」


 現れたのはカトレアさんだった。


「君たちも今からご飯?」


「ええ、そうです。カトレアさんも今から?」


「そうなの。ここのご飯美味しくって、すっかりファンになっちゃった!」


 大人っぽい見た目をしているのに、こういう所は子供っぽいというかなんというか……ミラも同じようなところもあるし……。

 女性ってのは、みんなこんな感じなんだろうか?


「お待たせー!」


 カトレアさんと話していると、ミラの声が響く。


「あー! カトレアさん!」


 ミラは嬉しそうな表情を浮かべて、カトレアさんへと寄って行く。

 二人は手を取り合って喜んでいた。

 ミラは嬉しそうに、今日あった出来事をカトレアさんに報告していたようだった。

 ”黄色等級”や”ウィルが加入した”という言葉も聞こえてくる。


 ……こうしてミラとカトレアさんを見ていると、なんだか姉妹のようにも思えてくる。

 俺はその光景を、微笑ましく見ていた。


「何ニヤついているのですか?」


「うおっ!」


 突然後ろから話しかけられて驚いてしまう。

 そこにはクリスが立っていた。


「……なるほど。ミラさんとカトレアさんを見ていたのですね?

 もしかして、ああいうことがしたいのですか?」


 クリスは、手をつないでくれと言わんばかりに、両手を俺の方へと差し出してくる。

 俺は両手を出さず、クリスを見た。


「……そんなに渋い顔をしないでください。

 私はただ、クレイグさんが喜ぶかと思って……」


 クリスはあからさまに悲しそうな顔をする。

 ――が、俺には分かる。

 これは俺をからかっているだけだ!

 ここ数日のやり取りで、きちんと覚えたからな!


「……騙されないからな」


「おや、バレていましたか。

 クレイグさんも学習が早いですね」


 クリスは表情をコロッと変えて、涼しげに言った。

 なんなんだよ……でも、この感じがパーティーの良さなのかもな。


「ねぇねぇ、カトレアさんもご飯に誘っていい?」


 いつの間にか俺の前に来ていたミラが聞いてくる。


「良いんじゃないか? 二人はどうだ?」


「俺はいいぜ」


「私も大丈夫です」


 俺たちの反応を見て、ミラの表情は明るくなる。

 ミラの後ろにいたカトレアさんの表情は、すこし困惑したようだった。


「ウィル君のパーティー加入や、昇級の祝いの席なのに、私がいてもいいのかしら?」


「大丈夫じゃね? 俺は気にしてねーよ? なあ、クレイグ」


 クリスも同意したようにうなずく。


「俺も大丈夫だ。たくさんで飯食った方が美味いしな」


 俺たちの言葉を聞き、カトレアさんの表情も明るくなる。


「それじゃあ、ご一緒させてもらおうかしら」


「やったー! 早く行きましょ!」


 ミラはそう言って、カトレアさんの手を取って酒場の方へと入っていった。


「ミラさんはなかなかパワフルですね」


「まあ、元騎士団員だしな」


 俺たちも笑いながら、酒場へと入っていった。

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