58 みんなを守れるようにならないと
ギルド職員さんに連れられて、二階の廊下を進む。
他の扉よりも装飾が豪華な両開き扉の前で、職員さんは立ち止まった。
そして、ノックをした後、口を開く。
「マスター、ワンダラーの皆様を、お連れいたしました」
「入れ」
中からは、何とも威厳のありそうな低い男性の声がした。
その声を聞いた瞬間、背筋がピンと伸びる。
一体何を言われるんだろうか……。
他の三人を見てみると、ミラは少し緊張したようにも見えるが、クリスはいつも通りって感じだった。
ウィルに至っては、両手を頭の後ろで組んでいて、全然気にしていない様子だった。
こういう時、ウィルの図太さが羨ましくも思えてくる。
職員さんが扉を開けると、そこには声の主であろう男性が立っていて、俺たちを見ていた。
鋭い眼光、口元の髭。頭は白髪混じりだ。
ミラの親父さん……ポールさんにも似た圧がある。
着ている服も、職員さんのような布の服ではなく、いつでも現場に駆けつけることのできそうな装備だ。
「さあ、座ってくれ」
ギルドマスターは手を差し出してソファーに座るように促した。
「失礼します」
俺たちは一礼をしてから部屋へと入る。
「おや? ウィルも一緒なのか?」
「おう、そうなんだ。今日からこのパーティーで世話になってるぜ」
「……! そうかそうか」
ウィルを見たギルドマスターは、少し驚いた表情をした後、優しげな顔で微笑む。
さっきまでの威厳のある顔とは打って変わって穏やかな表情だ。
話しぶりからすると、ウィルとギルドマスターはそれなりの仲なのだろう。
ウィルもこの町で冒険者をやっていたから、知らない間柄ではない……か。
ギルドマスターは職員さんに合図を送り、職員さんは退出していった。
俺の横にはミラ、テーブルを挟んだ向かいにはクリスとウィルが座った。
上座にはギルドマスターが座っている。
俺たちがソファーに座ったのを見て、ギルドマスターは口を開いた。
「さてと、まずは自己紹介から。
わしはここの冒険者ギルドのマスターをしているウォーレンだ」
「クレイグです。ワンダラーのリーダーをしています。
呼び方は”ギルドマスター”でよろしいですか?」
「好きに呼ぶといい。大体の冒険者はマスターと呼んでいるがな」
「分かりました。僕たちもそれに合わせます」
俺が言うと、ミラとクリスも自己紹介をした。
「早速だが本題に入ろう。君たちの昇級の件だ」
――!!
え、いきなり昇級!?
まだ少ししかクエストをこなしていないのに?
俺が皆の顔を見ると、ミラもクリスも驚いた顔をしていた。
「良かったじゃん! 昇級おめ!」
ウィルだけは軽いノリで話をしていた。
「ああ……ありがとう」
ギルドマスターは咳ばらいを一つした後に話を続ける。
「それで、昇級を言い渡す前に、一つ確認したいことがある。
――ニニア村の件だ」
俺とミラ、クリスは揃ってマスターの方へ顔を向ける。
ウィルだけはよく分からないといった顔をしていた。
「君たちのお陰で、一つの村を守ることが出来た」
「いえ、たまたま居合わせただけですので……」
「それでもだ。事実には変わりない。ありがとう」
そう言ってマスターは頭を下げる。
俺たちも揃って頭を下げた。
「それと、倒したゴブリンの中から紫色の結晶が見つかったというのは本当かね?
一応、ガーランド騎士団からの報告は上がってはいるが、確認しておきたかったのでな」
「ええ、本当です」
「そうか……分かった。ありがとう。
あの結晶については、どこまで知っているかね?」
そこまで言われて、少し緊張が走る。
そこでクリスと目が合う。
今は隠しておくべきだろうか……クリスも余計な騒ぎを起こしたくはないだろうし。
「いえ、詳しくは何も……。ただ、たまたま出てきた物だったので、少し気になって報告をしました」
「そうだったのか。あれは、先の戦争で使われた代物でな。
速やかにガーランド騎士団へ報告してくれたのは、良策だ。
余計な騒ぎを起こさずに済んだ」
やっぱり、クリスが言っていたように、相当な代物だったらしい。
あの時、クリスの判断に従っておいて良かったな。
「しかし――」
そこまで言って、マスターの顔つきが少し険しいものになる。
「冒険者ギルドへの報告はしていないな?」
その声には、わずかに怒気がこもっていた。
すかさず、クリスが口を開く。
「それは――」
「え、ええ、そうです。ミラがガーランド騎士団の所属だったもので……。
そちらに話を通した方が良いかと思いまして」
俺は慌ててクリスの言葉に被せるように言った。
パーティーのリーダーは俺だ。
クリスの提案だったとしても、俺の判断でこうなった。
そこは責任を持つべきだろう。
あの時はまだ、クリスも冒険者になっていなかった。
「すみませんでした」
俺はそう言って、頭を下げた。
マスターの方からは、ため息とも鼻息ともつかない息が聞こえる。
「……頭を上げていいぞ」
その声で俺は頭を上げる。
「君たちはもうギルドに登録されている冒険者だ。
次からはちゃんとギルドにも報告するように」
「はい……分かりました」
「まあ、今回は事が事だっただけに、君たちの行動が正解だった」
マスターは人差し指で頬をかきながら言う。
その顔は穏やかなものになっていた。
「さて、それでは昇級を言い渡す」
「君たちは黄色等級への昇級だ」
「「――え!?」」
俺とミラは素っ頓狂な声を上げる。
俺たちは顔を見合わせた。
ミラは目を丸くしていて、クリスは……目が細いからよく分からない。
ウィルは、なぜか得意げな顔をしていた。
「君たちは知らないかもしれないが、あの結晶が出てきた魔物は凶暴性が増していてな。
普通のゴブリンの討伐は黄色等級なんだが、少なくとも緑等級相当と考えていい。
しかも、それを五十体以上も討伐したんだ。正当な昇級だよ」
確かに、あのゴブリンは凶暴だった。
バリオスの威圧も効かないって言っていたし……。
そんな連中を相手にしていたのかと、今さらながら実感する。
「本当は緑等級に上げてもいいくらいなんだが……君たちはまだ冒険者に登録したばかりだ。
ギルドの規定でも、二段階の昇級は認められていない。これから一層励んでくれ」
「分かりました……。クリスも一緒に討伐していたのですが、この町に来てから冒険者登録をしたんです。
クリスはどうなりますか?」
「そうなのか? それなら、彼も一緒に黄色等級に昇級して構わんだろう。
すでに白等級にはなっているのだしな」
「ありがとうございます」
俺は再び頭を下げた。
俺に続いて、ミラとクリスも頭を下げた。
「はっはっは、こんなに頭を下げられるとは思ってもいなかったよ。
他にも、クレイグ君とミラ君については、グノットからの報告も入っているよ。
白等級ながら、上の等級の冒険者の先頭に立って依頼をこなしたとな」
「先頭に立って……って、あれはただの溝掃除で――」
「それでも依頼は依頼だ。
グノットの商工会の人たちからも感謝状を受け取っているという話だ」
俺はミラの方を見る。
ミラはニッコリと微笑んでいた。
「良かったね!」
「ああ……そうだな」
まさか、あの時の溝掃除が、ここまで評価されているとは思わなかったな……。
「ウォーレンのおっさん、俺の昇級は?」
「ウィルは何もしていないだろう。お前の昇級はないぞ」
「ちぇー」
口ではそう言っていたが、ウィルの顔は良い笑顔だった。
◇
マスターからの話も終わり、俺たちは部屋を後にしようとしていた。
三人が部屋を出たところで、マスターから声をかけられる。
「クレイグ君」
「何でしょうか?」
まだ怒られることとかあったかな?
俺が不思議そうに見ると、マスターはニッコリと笑う。
……ちょっと怖いんだけど。
「ウィルをパーティーに入れてくれてありがとう。
あいつ、腕は良いんだが、なかなかパーティーを組まなくてな」
ああ、そっちね。
「……僕たちもウィルを必要としていましたから。
ちょうどいいタイミングだったのかもしれません」
「そうか。ウィルのこと、よろしく頼むよ」
マスターのその言葉を聞いて、背筋が少し伸びる気がした。
――ちゃんと、みんなを守れるようにならないとな。




