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57 四日なんて待っていられるかよ

 次の日の朝、俺たちは三人揃って宿を出た。

 ――と、そこには、弓と矢筒まできっちり装備したウィルの姿があった。


「おせーぞ!」


 ウィルは開口一番にそう言う。


「どうしたんだ? こんな朝早くから」


「お前がパーティーに誘ったんだろ?」


 俺たちはその言葉を聞き、呆気に取られて顔を見合わせた。

 ウィルは俺たちを見て、首を傾げる。


「すまない。てっきり四日後に返事を貰えるものだと思ってたから」


「四日なんて待っていられるかよ」


 ウィルは俺を睨むように見るが、その目の端は、わずかに笑っていた。

 その言葉を聞き、ミラの顔がパッと明るくなる。


「ウィル、私たちのパーティーに入ってくれるの!?」


「おう! これからよろしく頼むぜ」


「こちらこそよろしくね!」


 ミラは子供のように喜んでいる。

 ウィルはその様子を見て、少し気恥ずかしそうにしていた。


「ウィルさん、これからよろしくお願いします」


「俺からも、よろしくな」


 クリスと俺がそう言うと、ウィルは照れくさそうに手を挙げて応えた。

 




 四人揃って冒険者ギルドに向かう途中、クリスが口を開く。


「そういえば、ウィルさんは黄色等級ですよね?

 私たちは白等級なんですが、こういう場合、受けられるクエストはどうなるんでしょう?」


 クリスに言われて、ハッとする。


「言われてみればそうだな。ウィルは何か知ってるか?」


「いんや、知らね。俺はずっと一人でやってたからな。

 まあ、なるようになるっしょ!」


 ウィルはさほど気にする様子もなく笑っている。


「でも、白等級の依頼しか受けられなかったら困らない?」


 ミラも心配そうな顔をしながら言う。


「ん-……その時はその時じゃね?

 お前らが黄色等級まで上がるまで、俺もそれに合わせりゃいいだけだ」


 ウィルは明るく言っているが、本当にいいのだろうか?


「なんか悪いな」


「いいっていいって。

 それに、俺がいろいろ教えてやるからさ!」


 ウィルはそう言いながら俺の背中をバンッと叩いた。

 少しよろけそうになったが、ウィルの顔は気持ちのいい笑顔だった。

 俺もその顔を見て、目尻が下がるのが分かった。


「ああ、よろしく頼むよ」





 俺たちは冒険者ギルドに入り、パーティー登録を済ませた。


 ギルド職員の話では、パーティーに違う等級が混ざっているときは、「受けられるクエストの種類はパーティーメンバーの平均値」ということだった。

 等級ごとに数値が割り振られていて、その平均が基準になるらしい。

 白は一、青は二、その上も一つ等級が上がれば一ずつ増えていくみたいだ。

 俺たちは白三人に黄色一人だったから、どちらにしろ白等級のクエストしか受けられないようだ。


「ま、仕方ねーわな」


 ウィルは笑いながらそう言った。


「悪いな――」

「おっと、さっきも言ったが、別に気にしちゃいねーよ」


 俺が言いかけたところで、ウィルに遮られる。


「んじゃ、さっさとクエストこなして昇級しちまおうぜ!」


 ウィルはそう言って、さっさとクエストボードの方に歩いて行った。

 俺たち三人は顔を見合わせた後、ウィルの後を追いかけた。



 白等級のクエストは、薬草採取しかなかった。 

 まあこんな日もあるか。

 俺が受付を済ませると、後ろにいたミラが話しかけてきた。


「ねぇねぇ、バリオスも誘ってみない?」


 そういや、前に薬草採取をした時はバリオスは大活躍だったな。


「そうだな。ずっと厩舎にいて暇だろうし、いい気分転換になるかもな」


「うん! バリオスもきっと喜ぶよ!」


 ミラは嬉しそうにしている。

 ウィルが仲間になったことも伝えないといけないし、ちょうどいいかもな。





 ウィルとクリスに伝えてから厩舎へと向かう。

 二人は、俺たちとバリオスが戻ってくるのをここで待ってくれるみたいだ。


 俺とミラが厩舎につくと、バリオスはいつものように横になっていた。


「バリオス、おはよ!」


 バリオスは重そうに首を持ち上げる。


『おう、ミラか。今日はどうした?』


「今日はバリオスも誘おうと思って」


「また薬草採取のクエストを受けたんだ。

 いつもここに居るだけじゃ、バリオスも暇かと思ってな」


『そういうことだったのか。

 いいぜ、俺も体がなまっていたんだ』


 バリオスはゆっくりと立ち上がり、体をぶるぶると震わせた。


「それとね、新しい仲間も紹介したいの!」


『仲間? もしかして、前に一緒に来ていたやつか?』


「そうだ。いいやつなんだ。バリオスもきっと気が合うと思うぞ」


『分かった。お前らが言うんだったらそうなんだろうな。

 俺のことは話してあるのか?』


「いや、まだなんだ。町から少し離れたところで話そうと思ってる。

 町の中じゃ、人目が多いしな」


『了解だ。それじゃあ行くか』


 ミラは手綱をバリオスに装着する。

 手綱を持つミラは、いつもよりも楽しそうに見える。

 俺はその様子を見て、自然に微笑んでいた。





 クリスとウィルの二人と合流し、森への道を進む。

 人が少なくなってきたタイミングで、俺たちは歩道の横に移動した。


「どうした? 森へ入るんじゃないのか?」


 ウィルは首を傾げながら言う。


「仲間を紹介しようと思ってな」


 俺が言うと、ウィルは更に困惑した。


「その馬のことだろ? 前にも紹介してくれたじゃねえか。

 ほら、バリオスって名前だって」


「そうなんだけどな。改めて紹介するよ。バリオスだ」


 俺が言うと、ミラとクリスは少し意地悪そうに微笑んでいた。

 バリオスはウィルに近づき、舐めまわすように見た後、口を開く。


『バリオスだ。よろしくな』


 その瞬間、ウィルは目を見開き、少し後ずさりした。


「うおっ、ビックリした! え? お前らの声か?」


 ウィルは目を見開いたまま、俺とクリスを交互に見比べている。


『おい、どこ見てんだ。目の前にいるだろ』


 バリオスのその言葉で、ウィルはバリオスに向かい合う。


「……マジか?」


 ウィルはそのまま固まったまま、瞬きも忘れてバリオスを見上げている。

 バリオスは動じた様子もなく、じっとウィルの前に立ち続けていた。


「いやあ……ただの馬じゃないとは思ってたけど、まさか喋れるとはな」


 ウィルはバリオスをまじまじと見つめている。


「ほら、バリオスはよろしくって言ってるよ?」


 ミラは少しいたずら気味にウィルに言う。


「ああ……ああ、よろしくな!」


 そう言って、ウィルはバリオスを撫でた。


『おう』





 森に入ると、ウィルが薬草の場所を案内してくれた。

 昔から森に入ってよく遊んでいたらしい。その分、親からもよく怒られたそうだ。

 なんともウィルらしいというかなんというか。

 俺も似たようなものだったし、ウィルもやんちゃしてたんだろうなと、しみじみ思う。


「それにしても、バリオスはすげーな。

 大体の場所を言っただけで、ピンポイントで薬草を見つけていくんだもんな」


「バリオスさんにこんな特技があったとは……私も知りませんでした」


 ウィルとクリスが口々に言う。


「そっか、クリスも初めての薬草採取だもんね。

 まあ私たちも二回目なんだけど」


 ミラはこちらを見る。


「そうだな。その初めての薬草採取でバリオスに出会ったんだもんな」


 俺はミラからの視線をバリオスに向ける。


『お前たちもあの時が初めてだったのか』


「そうよ。バリオスのお陰でたくさん集まったからね。

 これからも、薬草採取の時はよろしくね」


 ミラは笑顔でバリオスを撫でていた。


『おう、任せとけ。これくらい朝飯前だ』


 バリオスは鼻を鳴らしながら自慢げにそう言う。


「それにしても、ほんとに人間と喋ってるのと変わらねーな。

 人間にも慣れてるみたいだし」


「バリオスは昔、ウマガミ様って言われていたらしいよ!」


 ミラは胸を張ってそう答える。

 まるで自分のことかのように誇らしげだ。


『おう、もっと敬っていいぞ』


 バリオスも悪い気はしてないみたいだ。

 ウィルもなんかバリオスに頭を下げてるし。

 こういったやりとりを見ていると、自然と笑顔になってしまうな。


「クレイグさんもご機嫌ですね」


 クリスから声をかけられる。


「俺も、村を出る時にはこんなに賑やかな旅になると思ってなかったからな」


「……そうですね。賑やかなのは良いことです。

 私も……昔はこういう考えは持てませんでしたから」


 クリスはいつもの笑顔でそう言う。

 クリスも……今はこんなに笑顔でいるけど、戦争の時にはいろいろあったんだろうな。

 そんなことを考えていたら、クリスに声をかけられる。


「どうしたんですか? 表情が固くなっていますよ?」

 

「なんでもない。さあ、続けて薬草を集めようぜ」


「「おー!」」

『おう』





 ウィルとバリオスのお陰で、袋はあっという間に薬草でいっぱいになった。

 ウィルもこんなにたくさん採ったのは初めてだと感心していた。


 その後、バリオスと別れてから、冒険者ギルドへと向かった。

 カウンターで薬草を渡すと、ギルドの職員さんからも驚かれてしまった。


 集計まで時間が掛かると言われたので、俺たちはその辺のテーブルで休むことにした。

 すると、また別のギルド職員さんから声をかけられる。


「すみません、ワンダラーの皆さんでお間違いないでしょうか?」


 俺たちは顔を見合わせる。


「ええ、そうです」


 俺たちが疑問に思っていると、職員さんは口を開く。


「ギルドマスターがお呼びになっています。

 二階の応接室までお越しください」


 職員さんはそう言って、俺たちを二階へと促す。


「なんだろうね?」


「さあ……?」


「お前ら何かやったんじゃねーの?」


 ウィルがニヤニヤしながら口を挟む。


「何もないはずなんだけどな……」


 俺たちは、職員さんに促されるまま二階へと上がった。

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