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56 あいつらに置いて行かれないように

 俺たちは冒険者ギルドへの報告を終えた。

 途中まではウィルも付いてきていたが、「自分の受けたクエストがあるから」と言っていたので別れた。

 

 時間は昼過ぎ、まだ軽いクエストを受けようと思えば受けられる時間だ。


「どうする? まだ何か受けていくか?」


 俺が言うと、二人は首を横に振る。


「いやあ、思ったよりも森ネズミの巣の臭いが……」


「私も思ってた。早く流したいかも」


 クリスが言うと、ミラも続けた。


「そうか。それじゃあ、また晩飯までは自由行動にしようか」


 俺が言うと、二人は同時にうなずいた。



 どうするかなー。

 ウィルに勧誘の話をするにしても、今はクエスト中だろうし……。

 ひと段落ついたらミラとクリスに相談してみるか。





 適当に時間を潰し、晩飯も終えたあと、酒場のテーブルで一息ついていた。


「ウィル、来なかったね」


 ミラは少し残念そうに言う。


「まあ、いつもここに来るって話は聞いてないしな。

 こういうこともあるだろう」


「そうですね。では、ウィルさんの勧誘の件はどうしましょう?」


 俺たちは頭を抱える。


「そうだなぁ……。家に直接行ってみるか?」


「それが良いかもね。でも――」


 そこまで言って、ミラは口ごもる。

 少し間を置いてから、また口を開いた。


「――いきなり三人で押しかけても、困ってしまわないかしら?」


「それもそうか……」


「では、クレイグさんが代表していくのはどうでしょう?

 ウィルさんとも、一番仲がいいですし」


 クリスはいつものニコニコ顔で言う。


「それがいいかもねー。

 私たちまで付いて行ったら、圧をかけているみたいになっちゃうし」


 ミラもクリスの意見に賛成のようだ。


「それもそうだな。

 んじゃ、俺一人で行ってくるよ」


「結果、ちゃんと教えてね!」


 ミラは良い笑顔でそう言った。


「これはクレイグさんの交渉力が試されますね」


 クリスは意地悪そうににやけている。


「……あまりプレッシャーをかけないでくれよ。

 それじゃあ、行ってくるかな」


 俺はそう言って席を立った。


「頑張ってねー!」


「お土産、よろしくお願いします」


 お土産って……ウィルの家は隣だぞ……。

 俺は二人に見送られながら、酒場を後にした。





 酒場を出て、ウィルの家に向かう。

 幸いなことに、家の灯りは点いている。

 ウィルは家にいるようだな。


 俺はウィルの家の前に立つ。

 いざ切り出すってなると、少し勇気がいるな。

 俺は一度深呼吸をし、頬を軽くたたく。

 ピリピリとした痛みが顔に広がる。


 ――よし!

 

 俺は意を決して、玄関のドアをノックした。


 ――コン コン


 ドアをノックした瞬間から、鼓動がやけに大きく聞こえる。

 家の中からはウィルの声がした。

 ウィル相手なのにめちゃくちゃ緊張するな……。

 そして、ドアが開かれる。


「はいはいーって、クレイグか。どした?」


 ウィルの顔はいつも通りだ。

 その顔で首を傾げている。


「あー、少し話があってな。時間いいか?」


「ああ、いいぜ。上がるか?」


 どうしようか。

 家の中で話してもいいんだけど、今の気分的に外の方がいいかもしれない。


「いや、外で話さないか?」


 俺が言うと、ウィルは体を抱きしめるようなポーズをとる。


「それって――」

「ちげーよ!」


 言い終わる前に、ウィルの言葉を遮る。


「冗談だって!」


 ウィルはそう言って、笑い飛ばした。


「そんじゃ、行くか。いい場所知ってんだ。ちょっと待ってろ」


 ウィルは家の中へ入っていった。

 人の気も知らないで――。

 でも、少しは緊張もほぐれたかな。





 ウィルに連れてこられた場所は、町を見渡せる少し小高い丘だった。

 坂を上りきると、屋根の列と街灯の明かりが一望できる。

 俺たちは、少し開けたところに並んで腰を下ろした。


「こんな場所、あったんだな」


「おう。俺のお気に入りだ」


 そう言ったウィルは、町の方を見ながら目を細める。

 この場所に、いろんな思い出があるんだろうな。


「それで、話って?」


 こちらを向いたウィルの顔は、いつも通りの人懐こい笑顔だった。


 いよいよ本題か。

 こういう時は、いろいろ遠回しに言うより、スパッと言った方がいいか。


「ウィル、俺たちのパーティーに入らないか?」


 言った後、鼓動が速くなるのが分かった。

 思っていたよりも、かなり緊張しているみたいだ。


「すまないな、いきなり……」


 ウィルの様子をうかがうと、さっきまでと違って、少しだけ表情が固くなっていた。

 頬の筋肉がこわばっているのが分かる。


「……理由を聞いてもいいか?」


 その声は、少し気落ちしているように聞こえる。

 でも、ここは正直に言うしかないか。


「ウィルといると、楽しいからだ」


 俺が言うと、少しの沈黙が流れる。

 そして、ウィルが笑い出す。


「なんだよ、それだけかよ」


「あー……気も合うし、それに弓の腕も凄い!

 俺たちのパーティーは、全員が前衛だし……。

 でもやっぱり一番は、一緒にいると楽しいからだな」


 慌てて言葉を足すと、ウィルはなおも笑っていた。


「他の二人はどう言っているんだ?」


「もちろん二人とも同じ意見だ。

 二人とも、ウィルが仲間になるのは大賛成だってさ」


「そうか……」


 短くそう言って、ウィルは再び町の方へ目を向けた。

 俺も……今はかける声を持っていない。

 ウィルが口を開くまで黙っていることにした。


 少しの沈黙の後、ウィルは口を開いた。


「……ありがとう」


「どういたしまして?」


「なんだよ、その答え方」


 ウィルが突っ込んでくれて、ようやくいつもの空気に戻った気がした。

 俺たちは顔を見合わせて笑う。



「それにな、宿屋の女将さんから聞いたんだ。

 ウィルの親父さん、凄かったんだろ?」


「そんなことまで聞いてたのかよ」


「ああ。実は、俺の親父も戦争で活躍していたらしいんだ」


「そうなのか?」


「ああ、暴風って呼ばれていたらしい」


「おいおい、英雄じゃねーかよ。

 暴風に憧れて冒険者になってるってやつも多いんだぜ?」


「そうなのか……。でも、ウィル親父さんも英雄だろ?」


「いやまあ……そうなんだけどよ」


 ウィルは頭をかきながら、少しだけ視線をそらす。


「俺さ、旅に出るまで親父のこと知らなかったんだ。

 それで、今まで知らなかった分、親父に教えてもらった剣技で世の中に返せるように……って思ってるんだ」


「ウィルだって、昔は親父さんみたいになるって言ってたんだろ?

 一緒に世界を回って、有名になってやろうぜ」


「そうだな……」


 ウィルは空を一度見上げて、短く息を吐いた。

 悩んでいる顔ではない。何かを整理しているような顔だ。



「他には何か聞いたのか?」


「あー……幼馴染のことだな」


「そこまで知ってんのか。ダセーだろ、俺。

 幼馴染だけパーティーに入っちまってよ」


 自分で言いながら、ウィルは苦笑いする。

 冗談めかしているが、引っかかっているのは分かる。


「そんなことないだろ。

 それって過去のことだろ? 今からでも十分取り返せるだろ」


 俺が言うと、ウィルはジト目でこちらを見てくる。


「お前って、こういう時はポジティブなんだな」


「そうか?」


「そうだよ!」


 ウィルは俺の背中を叩いて、笑い飛ばした。



「そうか、お前たちの言いたいことは分かった。それでも――」


 ウィルはそこまで言って、言葉を詰まらせる。


「少し考えさせてくれ。

 俺にだってそれくらいはさせてくれよ?」


「ああ、分かった」


 いきなりこんな話をされても、困惑するだろう。

 俺だって、無理にウィルを仲間にしたいわけじゃない。

 考える時間は誰にだって必要だ。


「この町にはあとどれくらいいるんだ?」


「予定ではあと四日くらいだな」


「分かった。その期間の中では返事をする。

 だから少し待っていてくれないか?」


「ああ」


 ウィルは自然と拳を突き出していた。

 俺も同じように拳を出す。

 こつん、と軽い音がして、二人で小さく笑った。





 ウィルと別れて宿に戻った後、ミラとクリスにウィルとの話を報告していた。


「そうなんだー。いい返事もらえるといいね」


 ミラは、そう言って微笑んでいる。


「ウィルさんにも考える時間は必要ですもんね。

 気長に待ちましょう」


 クリスもそう言っていた。


「そうだな。返事がもらえるまでは、クエストをこなしつつ、いつも通りに過ごそう。

 ウィルにも余計な心配を掛けたくないしな」


 二人はうなずく。


 ――いい返事をもらえるように、俺たちも頑張らないとな。



―――――――――――――――



 俺はクレイグと別れた後、パーティーに誘われたことについて考えていた。


 まさか、あんなふうに考えていてくれたなんてな。

 クレイグにはああ言ったけど、俺の中ではもう決まってる。


「よし!」


 そうとなれば、今日は早めに寝ないとな。

 あいつらに置いて行かれないように――。

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