56 あいつらに置いて行かれないように
俺たちは冒険者ギルドへの報告を終えた。
途中まではウィルも付いてきていたが、「自分の受けたクエストがあるから」と言っていたので別れた。
時間は昼過ぎ、まだ軽いクエストを受けようと思えば受けられる時間だ。
「どうする? まだ何か受けていくか?」
俺が言うと、二人は首を横に振る。
「いやあ、思ったよりも森ネズミの巣の臭いが……」
「私も思ってた。早く流したいかも」
クリスが言うと、ミラも続けた。
「そうか。それじゃあ、また晩飯までは自由行動にしようか」
俺が言うと、二人は同時にうなずいた。
どうするかなー。
ウィルに勧誘の話をするにしても、今はクエスト中だろうし……。
ひと段落ついたらミラとクリスに相談してみるか。
◇
適当に時間を潰し、晩飯も終えたあと、酒場のテーブルで一息ついていた。
「ウィル、来なかったね」
ミラは少し残念そうに言う。
「まあ、いつもここに来るって話は聞いてないしな。
こういうこともあるだろう」
「そうですね。では、ウィルさんの勧誘の件はどうしましょう?」
俺たちは頭を抱える。
「そうだなぁ……。家に直接行ってみるか?」
「それが良いかもね。でも――」
そこまで言って、ミラは口ごもる。
少し間を置いてから、また口を開いた。
「――いきなり三人で押しかけても、困ってしまわないかしら?」
「それもそうか……」
「では、クレイグさんが代表していくのはどうでしょう?
ウィルさんとも、一番仲がいいですし」
クリスはいつものニコニコ顔で言う。
「それがいいかもねー。
私たちまで付いて行ったら、圧をかけているみたいになっちゃうし」
ミラもクリスの意見に賛成のようだ。
「それもそうだな。
んじゃ、俺一人で行ってくるよ」
「結果、ちゃんと教えてね!」
ミラは良い笑顔でそう言った。
「これはクレイグさんの交渉力が試されますね」
クリスは意地悪そうににやけている。
「……あまりプレッシャーをかけないでくれよ。
それじゃあ、行ってくるかな」
俺はそう言って席を立った。
「頑張ってねー!」
「お土産、よろしくお願いします」
お土産って……ウィルの家は隣だぞ……。
俺は二人に見送られながら、酒場を後にした。
◇
酒場を出て、ウィルの家に向かう。
幸いなことに、家の灯りは点いている。
ウィルは家にいるようだな。
俺はウィルの家の前に立つ。
いざ切り出すってなると、少し勇気がいるな。
俺は一度深呼吸をし、頬を軽くたたく。
ピリピリとした痛みが顔に広がる。
――よし!
俺は意を決して、玄関のドアをノックした。
――コン コン
ドアをノックした瞬間から、鼓動がやけに大きく聞こえる。
家の中からはウィルの声がした。
ウィル相手なのにめちゃくちゃ緊張するな……。
そして、ドアが開かれる。
「はいはいーって、クレイグか。どした?」
ウィルの顔はいつも通りだ。
その顔で首を傾げている。
「あー、少し話があってな。時間いいか?」
「ああ、いいぜ。上がるか?」
どうしようか。
家の中で話してもいいんだけど、今の気分的に外の方がいいかもしれない。
「いや、外で話さないか?」
俺が言うと、ウィルは体を抱きしめるようなポーズをとる。
「それって――」
「ちげーよ!」
言い終わる前に、ウィルの言葉を遮る。
「冗談だって!」
ウィルはそう言って、笑い飛ばした。
「そんじゃ、行くか。いい場所知ってんだ。ちょっと待ってろ」
ウィルは家の中へ入っていった。
人の気も知らないで――。
でも、少しは緊張もほぐれたかな。
◇
ウィルに連れてこられた場所は、町を見渡せる少し小高い丘だった。
坂を上りきると、屋根の列と街灯の明かりが一望できる。
俺たちは、少し開けたところに並んで腰を下ろした。
「こんな場所、あったんだな」
「おう。俺のお気に入りだ」
そう言ったウィルは、町の方を見ながら目を細める。
この場所に、いろんな思い出があるんだろうな。
「それで、話って?」
こちらを向いたウィルの顔は、いつも通りの人懐こい笑顔だった。
いよいよ本題か。
こういう時は、いろいろ遠回しに言うより、スパッと言った方がいいか。
「ウィル、俺たちのパーティーに入らないか?」
言った後、鼓動が速くなるのが分かった。
思っていたよりも、かなり緊張しているみたいだ。
「すまないな、いきなり……」
ウィルの様子をうかがうと、さっきまでと違って、少しだけ表情が固くなっていた。
頬の筋肉がこわばっているのが分かる。
「……理由を聞いてもいいか?」
その声は、少し気落ちしているように聞こえる。
でも、ここは正直に言うしかないか。
「ウィルといると、楽しいからだ」
俺が言うと、少しの沈黙が流れる。
そして、ウィルが笑い出す。
「なんだよ、それだけかよ」
「あー……気も合うし、それに弓の腕も凄い!
俺たちのパーティーは、全員が前衛だし……。
でもやっぱり一番は、一緒にいると楽しいからだな」
慌てて言葉を足すと、ウィルはなおも笑っていた。
「他の二人はどう言っているんだ?」
「もちろん二人とも同じ意見だ。
二人とも、ウィルが仲間になるのは大賛成だってさ」
「そうか……」
短くそう言って、ウィルは再び町の方へ目を向けた。
俺も……今はかける声を持っていない。
ウィルが口を開くまで黙っていることにした。
少しの沈黙の後、ウィルは口を開いた。
「……ありがとう」
「どういたしまして?」
「なんだよ、その答え方」
ウィルが突っ込んでくれて、ようやくいつもの空気に戻った気がした。
俺たちは顔を見合わせて笑う。
「それにな、宿屋の女将さんから聞いたんだ。
ウィルの親父さん、凄かったんだろ?」
「そんなことまで聞いてたのかよ」
「ああ。実は、俺の親父も戦争で活躍していたらしいんだ」
「そうなのか?」
「ああ、暴風って呼ばれていたらしい」
「おいおい、英雄じゃねーかよ。
暴風に憧れて冒険者になってるってやつも多いんだぜ?」
「そうなのか……。でも、ウィル親父さんも英雄だろ?」
「いやまあ……そうなんだけどよ」
ウィルは頭をかきながら、少しだけ視線をそらす。
「俺さ、旅に出るまで親父のこと知らなかったんだ。
それで、今まで知らなかった分、親父に教えてもらった剣技で世の中に返せるように……って思ってるんだ」
「ウィルだって、昔は親父さんみたいになるって言ってたんだろ?
一緒に世界を回って、有名になってやろうぜ」
「そうだな……」
ウィルは空を一度見上げて、短く息を吐いた。
悩んでいる顔ではない。何かを整理しているような顔だ。
「他には何か聞いたのか?」
「あー……幼馴染のことだな」
「そこまで知ってんのか。ダセーだろ、俺。
幼馴染だけパーティーに入っちまってよ」
自分で言いながら、ウィルは苦笑いする。
冗談めかしているが、引っかかっているのは分かる。
「そんなことないだろ。
それって過去のことだろ? 今からでも十分取り返せるだろ」
俺が言うと、ウィルはジト目でこちらを見てくる。
「お前って、こういう時はポジティブなんだな」
「そうか?」
「そうだよ!」
ウィルは俺の背中を叩いて、笑い飛ばした。
◇
「そうか、お前たちの言いたいことは分かった。それでも――」
ウィルはそこまで言って、言葉を詰まらせる。
「少し考えさせてくれ。
俺にだってそれくらいはさせてくれよ?」
「ああ、分かった」
いきなりこんな話をされても、困惑するだろう。
俺だって、無理にウィルを仲間にしたいわけじゃない。
考える時間は誰にだって必要だ。
「この町にはあとどれくらいいるんだ?」
「予定ではあと四日くらいだな」
「分かった。その期間の中では返事をする。
だから少し待っていてくれないか?」
「ああ」
ウィルは自然と拳を突き出していた。
俺も同じように拳を出す。
こつん、と軽い音がして、二人で小さく笑った。
◇
ウィルと別れて宿に戻った後、ミラとクリスにウィルとの話を報告していた。
「そうなんだー。いい返事もらえるといいね」
ミラは、そう言って微笑んでいる。
「ウィルさんにも考える時間は必要ですもんね。
気長に待ちましょう」
クリスもそう言っていた。
「そうだな。返事がもらえるまでは、クエストをこなしつつ、いつも通りに過ごそう。
ウィルにも余計な心配を掛けたくないしな」
二人はうなずく。
――いい返事をもらえるように、俺たちも頑張らないとな。
―――――――――――――――
俺はクレイグと別れた後、パーティーに誘われたことについて考えていた。
まさか、あんなふうに考えていてくれたなんてな。
クレイグにはああ言ったけど、俺の中ではもう決まってる。
「よし!」
そうとなれば、今日は早めに寝ないとな。
あいつらに置いて行かれないように――。




