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55 先輩はちゃんと見に来る

 ――次の日の朝。

 昨日の約束通り、俺たちは鍛錬をした。

 ミラは相変わらず眠そうだったが、終わりの頃にはいつも通りの目つきになっていた。


「ウィルにはいつ言うつもりなの?」


「今日の調査が終わってからかな。

 朝言っても、ウィルも困るだろうし」


「それもそっか」


 今朝はウィルとは出会わなかった。

 まあ、そうだよな。

 いつも同じ時間に鍛錬しているとも限らないし。


 仲良くなったとは思ってたけど……考えてみれば、ウィルと出会ってまだ三日目なんだな。

 なんだか、もっと一緒にいるような気さえしてくる。

 ……ウィル次第とは言ったが、いい返事はもらいたいよなぁ。

 ミラもクリスも、ウィルにはいい印象を持っているみたいだし。





 俺たちはギルドに寄って依頼を引き受けた後、農場へと来ていた。

 昨日よりは被害もマシになったらしく、依頼主の顔も少しだけ明るい。

 それでも、畑の隅にはかじられた野菜が残っている。

 俺たちは依頼主の男性に声をかけ、森へと入った。


 ウィルに教えてもらった穴へと向かう。

 昨日と違って、森ネズミの姿はない。

 これも、昨日討伐した成果なのかもしれないな。

 それでも……まだいることには変わりはない。

 俺は気合を入れ直した。





 穴へと辿り着くと、俺たちは配置へとつく。

 ミラとクリスが中に入り、俺は外。

 俺の武器はデカいから、中では振れないだろうと二人に言われたからだ。

 俺も解体用のナイフは持っているが、武器としては少し頼りない。

 俺の役目は、逃げて来たネズミや中に入っていくネズミの掃討だな。


「今回はクレイグの出番はないかもね」


 ミラは得意げな顔をしてそう言う。


「ミラさん、油断は禁物ですよ」


「分かってるってー」


 それほど心配はしていないが、クリスが良いブレーキ役になってくれそうだ。


「それじゃあ二人とも、頼んだぞ」


「分かりました」


「任せて! クレイグも外をお願いね」


「ああ」


 二人の顔つきはさっきよりも引き締まったものになっている。

 これなら、本当に心配ないかもな。 


 穴に入っていく二人の背中を見送りながら、俺は大剣の柄を握り直した。



―――――――――――――――



 私たちは穴の中へと入る。

 私が前、クリスは後ろ。

 腰に付けたランプが辺りを照らしている。

 本当は光の魔術を使ったクリアストーンとかがあればいいんだけど……。

 私たちの今の資金じゃ、それほど高価なものは使えないから、仕方ないか。


 幸い、穴は一本道だった。

 クリスも辺りを見回してくれていたけど、他に道はないようだった。


「一本道で良かったね」


「そうですね。それでも、何があるか分かりません。

 気は引き締めていきましょう」


「うん」



 少し進むと、先に広い空間があるのが分かった。

 キーキーといった鳴き声も聞こえる。


「この先ね……」


「そのようですね」 


「どうする? 少し覗いてみる?」


 私が言うと、クリスは首を横に振る。


「こちらが灯りを持っている以上、すぐに気付かれるでしょう。

 それなら、一気に突入して片付けたほうが良いと思います。

 幸い、この空間はあまり広くないようですし」


「そんなことまで分かるの?」


「ええ、感覚ですが……。音の反響具合から、そこまで広い空間だとは思いません」


 私は感心した。

 クオルで魔物と戦っていたのは、基本的に森だったし、今までそんなこと考えたこともなかった。


「クリスからは色々学べそうね」


「それはお互い様ですよ」


 クリスは微笑む。

 私も、恥ずかしくないようにしなくちゃ。


「それじゃあ私が先に出るから、クリスはサポートをお願い」


「分かりました。危険を感じたらすぐに逃げましょう」


「ええ、分かったわ」


 私たちは一気にその空間へと出る。

 灯りが空間を照らす。

 クリスが言った通り、そんなに広い空間じゃない。

 床一面に転がった木の根や、かじられた骨の欠片が目に入る。


 私は、近くにいたネズミへと剣を振り下ろす。

 ネズミの断末魔が聞こえて、動かなくなった。


 クリスは空間を目まぐるしく移動し、一匹二匹とネズミを仕留めていく。

 私もクリスに負けないようにネズミを倒していった。



 目につくネズミを全て討伐し、私はクリスの方を見た。

 クリスの方も、ひと段落ついたようだった。


「これで全部かしら?」


「そのようですね。とりあえず一旦戻りましょうか」


 私たちは入口へと戻ることにした。



―――――――――――――――



 ミラたちが穴に入ってから少し時間が経った。

 入っていくネズミも、出てくるネズミもいない。

 ……暇だな。


「わっ!!」


 突然後ろから大きな声をかけられる。

 慌てて振り返ると、そこにはウィルが立っていた。


「驚かすなよ」


「わりぃわりぃ、ぼーっと突っ立ってたんでな。

 少しくらい緊張した方がいいだろ?」


 ウィルはそんなことを言いながら俺の肩を叩く。


「一応クエスト中なんだけどな」


「そうだったのか。そういやミラちゃんとクリスがいねーな。

 二人で入ってんのか?」


「そうなんだ。俺の武器じゃ、狭いところでは取り回しが利かないからな」


「なるほどなー。……ネズミいるけどいいのか?」


 ウィルはそう言って、穴の方を指差す。

 見てみると、そこにはタスクボア程の大きな森ネズミが、今まさに穴に入ろうとしていた。

 穴の中にはまだ二人がいる。


 ――まずい!


 俺は咄嗟に、その辺に落ちていた拳大の石を全力で投げつけた。


 ―――――ドッ!!


 石はネズミに直撃して、動かなくなった。

 ウィルはそれを見て、目を丸くする。


「……お前、どんなパワーしてんの?」


「いやあ、アハハ……」


 俺は乾いた笑いしか出なかった。





 しばらくしてミラとクリスが出てきた。


「どうだった?」


「バッチリ! 巣にいたネズミは全て討伐出来たわ」


「そうだったのか。お疲れ様」


 俺は二人にねぎらいの言葉をかけた。


「それはそうと、ウィルもいたのね」


 ミラはウィルを見て言う。


「おう、俺が教えた巣だしな。気になって様子を見に来たんだ。

 お前らだったら大丈夫だと思ってたけど、一応先輩だしな!」


 ウィルはにこやかに言う。


「ありがとうございます、ウィルさん」


 クリスもお礼を言っていた。

 ウィルは少し照れ臭そうに頬をかいていた。


 クリスは穴の横に置かれたネズミを見る。


「これは……」


「穴に入ろうとしていたからな。俺が仕留めておいた」


「そうだったんですね。それにしても大きいですね」


「もしかしたら、この巣のボスだったのかな?」


 ミラは首を傾げながら言う。


「どうだろう……。

 こんな大きいのは見たことないし、もしかしたらそうだったのかもな」


 俺が言うと、ミラとウィルはうなずいていた。


「可能性は高いですね。巣の中にも、これほどの個体はいませんでしたし」


 そう言った後、クリスは短剣を持ち出し、俺が仕留めた大きなネズミを斬る。


「何してるんだ?」


 俺が声をかけると、クリスは言う。


「もしかしたら……と思いまして」


 俺とミラは息をのむ。

 ニニア村を襲った、魔物強化薬のことだろう。


「で、どうだ?」


「大丈夫みたいですね」


 俺とミラは胸をなでおろした。


「何かあったのか?」


 ウィルは不思議そうにこちらを見ている。


「い、いや、何でもない。これだけ大きかったら食えるのかと思ってな!」


 俺が言うと、ウィルはドン引きした顔をしていた。


「え……お前ら、森ネズミ食うのか……?」


 あー……誤魔化し方間違えたか?


「いいえ、私とミラさんは食べませんよ。

 クレイグさんだけです」


 クリスの顔は晴れやかだった。

 ていうか、俺だけ食うことになってんだけど!?


「森ネズミって、臭くて食用に向かないって聞くけど……クレイグは食べるの?」


 ミラまでそんなことを言ってきた。


「あー、いや、まあ食ったことはないけど、食えるのかと思って!」


 これはもう突き通すしかない。


「お、おう。そうか……。

 まあ人それぞれだしな……」


 ウィルの顔は引きつっていた。

 あーこれはいつか誤解を解かないとな……。


 俺たちは穴の中のネズミをまとめた後、農場へと戻っていった。

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