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54 大人のお姉さん

 俺たちは部屋に荷物を置いてから、ロビーに集まった。

 女将さんと話し、ウィルが来たら、先に酒場に入っていると伝えてもらえることになった。


 三人で酒場に入ると、一か所だけ人だかりが出来ている……。

 そこを覗き込むと、さっきの女性が男性客に囲まれていた。

 女性は男性たちを追い払う。


「ごめんね。一緒に飲もうって人が多くってさ」


 女性は俺たちに謝ると、座ってくれと促す。


「あの……もう一人合流する予定なんですが、大丈夫ですか?」


 俺は恐る恐る聞いてみる。


「ん? いいわよー」


 女性の返事は良いものだった。

 これで一安心だな。


「さ、早く注文しちゃいましょ! 私お腹減っちゃった」


 やっぱり、見た目の印象と違う人だな。

 少しミラに似ている気がする。


 俺たちがメニューを見ていると、ウィルが合流する。


「お待たせー……って、そっちのねーちゃんは?」


 ウィルは女性を見て首を傾げる。


「たまたま一緒に食うことになってな。大丈夫だったか?」


「おう。俺は全然問題ないぜ」


 ウィルはそう言って席に着く。

 ウィルもウィルで、なんだかんだこういうのは気にしないタイプで助かった。


「おい、ウィル! お前もそのテーブルなのかよ!」


 女性に群がっていた男性客から、そんな言葉が飛ぶ。


「ん? おう、そうだぞ」


 ウィルは気にする様子もなく答える。


「ちくしょう、羨ましいぜ!」


 男性たちは落胆していた。


「――? なんなんだ?」


 ウィルは本当に分かっていないらしく、首を傾げる。

 ウィルって……その辺ほんと鈍いよな。



 料理を注文したあと、女性が口を開く。


「そういえば、自己紹介がまだだったわね。

 私はカトレア、よろしくね!」


 カトレアと名乗った女性は、ニッコリと笑った。

 俺たちは順に自己紹介をしていく。

 そして、俺とミラを交互に見る。

 何だ……? またお約束ってやつか?


「……何ですか?」


 俺は先回りして聞く。


「ああ、ごめんね……そっかー」


 なんか含みのある言い方だな。

 ミラも首を傾げている。

 ……何なんだろうか?


「カトレアさんは、冒険者ギルドの方なんですか?

 朝、ギルドで見かけたんですけど」


 ミラが尋ねる。


「関係者って言えばそうね。

 私、普段は【オークブロム共和国】で、魔導技師をしているの。

 この町の冒険者ギルドの機器の整備を頼まれていてね、それでギルドにいたのよ」


「そうだったんですか」


「あなたたちが付けている冒険者タグも、私が開発したの」


 カトレアさんはニッコリと笑う。


「このタグ、凄いですよね。お金の預け入れも出来るし」


 俺はタグを手に取って言う。


「そうそう。俺もかなり助かってるぜ」


「まだお若いのに、これだけのものを開発されるとは……」


 ウィルとクリスも続けて言う。


「ありがと。そんなに褒めても、今日の晩御飯代くらいしか出ないわよ?」


 カトレアさんはいたずらっぽく笑う。


「えっ!? 今日はクレイグの奢りじゃないのか?」


 カトレアさんの言葉に、ウィルが食いつく。


「ウィルの分は俺が出すよ。沢山食いそうだしな」


「マジか!! じゃあ、遠慮なく食えるな!」


 ウィルは大きな口を開けて笑う。


「あら、クレイグ君たちは白等級なのかしら?」


 カトレアさんは俺のタグを見て言う。


「ええ、俺たち三人はそうですね。ウィルは黄等級ですけど」


 俺が言うと、カトレアさんは、からかうように笑って言う。


「ウィル君は、後輩にご飯を奢ってもらうのかな~?」


 その言葉で、ウィルは少し怯む。


「……今日はたまたまかな~? こいつらの手伝いをしてたからな」


 ウィルは、カトレアさんから視線をそらして答えた。


「えっ? あなたたち、パーティーなんじゃないの?

 仲良いからそうだと思ってたわ」


「いや、俺は……」


 カトレアさんの言葉で、ウィルはまた表情が曇る。

 ……ウィルって、仲間とか実力のことになると、表情が曇るんだよな……。

 何かあったのか?


 カトレアさんもその表情を見たのか、少し困ったように笑う。


「そっか、ごめんね。変なこと聞いてしまって」


 ウィルは、そうでもないと返してはいたが、眉は下がっていた。



 料理が運ばれてくると、みんなの顔は輝いていた。

 昨日とは違うものを頼んでいたが、どれも美味しそうだ。

 女将さんも、俺たちの反応を見て、笑みを見せている。


 みんなで乾杯をしてから、料理をいただく。

 ミラは蒸し鶏のサラダとチーズグラタン。

 クリスは肉と魚のプレート。

 カトレアさんは魚料理と白ワイン。

 ウィルはまた肉料理を頼んでいた。……俺もだが。

 みんなそれぞれで、料理を楽しんでいるようだ。


「う~ん、美味しい♪」


 ミラが口いっぱいに料理を頬張りながら言う。


「可愛い~!」


 カトレアさんはそう言うと、ミラに抱きついた。

 ミラは何が起こったのかわからないまま、固まっていた。


「ねえねえ、クレイグ君! ミラちゃん可愛い!

 今日、連れて帰ってもいい?」


「え、あー……ダメですね」


「え~こんなに可愛いのに、独り占めするなんて!

 可愛い子はみんなの財産なのよ?」


 カトレアさんは頬を膨らませて抗議する。 


「まあ、可愛いのはそうですけど……今はまだ食事中ですし……」


 カトレアさんはハッとして、ミラを離す。


「え、あ、ごめんね。私、可愛い子見たら我慢できなくて」


 カトレアさんはミラに謝っていた。

 ミラは……まだ固まっていた。

 そして、口を開く。


「カトレアさん!」


「はい!」


「石鹸何使ってるんですか!? すごいいい匂いがします!」


 カトレアさんは目を丸くしたあと、笑い出した。


「そうね……これは――」


 カトレアさんはミラに色々と説明している。

 ミラも食いつくように聞いている。

 ……どういった状況なんだ、これは?


 俺はクリスを見る。


「まあ、美女二人がこうしているのは、眼福なんじゃないでしょうか?」


 ウィルを見る。


「ん? 何?」


 ウィルは料理をがっついていた。

 うん、ウィルはそうだと思ってたよ。





 食事も終わり、解散の流れになった。

 カトレアさんは、まだミラをお持ち帰りしたいようだったが――丁重に断っておいた。

 断りを入れると、カトレアさんはガックリと肩を落としていた。


「いや~人の金で食う飯ってのは美味いもんだな!!」


 ウィルはそう言いながら、俺の肩を叩く。


「こいつ……本当に容赦なく食いやがって」


 まだ俺の財布には余裕はあるが、気持ちいいくらい好き放題食っていた。

 三人は俺たちを見て笑っている。


「それじゃ、明日、森ネズミの討伐頑張れよー!」


 ウィルは手を振って帰っていった。



「はぁ~……」


 俺がため息をつくと、ミラが話しかけてくる。


「ウィル、本当に沢山食べてたね。思わず笑っちゃった」


「あれだけ食べてもらえると、作った方もさぞ嬉しいでしょう。

 クレイグさんの財布は……まあ……」


 クリスはそう言って、祈るようなポーズをとる。


 ……まあ、仕方ないか。

 奢るって言ってしまったし、こんなこともあるだろう。

 ウィルも楽しそうだったしな。


 俺は支払いをしに、財布の中身を確認しながら女将さんの方へと歩いて行く。


「あの……いくらでしょうか?」


 俺は女将さんに聞く。


「支払いかい? あの綺麗な女の人が全部払ってくれたよ?」


「えっ!?」


 カトレアさんの方へ振り返ると、小さく手を振っていた。

 俺はテーブルの方へと急いで戻った。


「カトレアさん……支払ってくれてたんですか!?」


 俺が言うと、カトレアさんは優しく微笑む。


「ええ、ごめんね、勝手に払っちゃって。あなたたち、まだ白等級でしょ?

 これからいろいろと必要になるだろうし、ここは私に払わせて」


「でも――」


「それに――」


 俺の言葉は、カトレアさんに遮られた。


「未来への投資ってところかな」


 そう言ったカトレアさんの顔は、とてもいい笑顔だった。


「クレイグさん」


 今度はクリスが俺の肩に触れる。

 そうか……。


「ありがとうございます。このお礼は必ず」


「ふふふ、楽しみにしているわ。それじゃあ、またね♪」


 その言葉を残し、カトレアさんも去っていった。


 なんだかなぁ……。

 旅に出てから、貰ってばかりな気がするな。

 悪いとは思うけど……それと一緒にいつか返さなくちゃならないという思いも込み上げてくる。

 ――早くみんなに返せるようにならないと。



 俺たちが酒場を出ようとすると、女将さんに声をかけられた。


「いつもウィルと仲良くしてくれてありがとね」


「いえいえ、こちらも楽しく過ごせていますので。なあ」


 俺が振り返ると、二人もうなずいていた。


「そう言ってもらえると、私も嬉しくなるね」


 女将さんは笑みを浮かべる。


 ――俺は気になったことを聞いてみる。


「そういえば、ウィルは……昔、何かあったんですか?

 なんか、自分の実力だったり、その……()()という言葉に敏感みたいなんですけど……」


 俺の言葉で、女将さんは複雑そうな表情を浮かべた。

 聞いちゃいけないことを聞いてしまったか?

 少しの沈黙の後、女将さんは口を開く。


「そうだねぇ……あなたたちには話しても良いかもね。

 この後、時間はあるかい?」


 俺は二人を見る。

 二人とも神妙な面持ちだったが、うなずいてくれた。


「……大丈夫です」


「そうかい。それじゃあ、後で呼びに行くから」


 女将さんの顔は少し晴れやかなものになっていた。

 いつも明るいけど――ウィル……一体何があったんだ……。



―――――――――――――――



「――あー、私。今大丈夫?」


「―――――」


「そう、良かった。

 今日、ミラちゃんとクレイグ君に会ったわ」


「―――――」


「ええ、二人とも良い子だったわよ。

 それと……おっかない牧師さんも仲間になったみたいね」


「―――――」


「うん、そう」


「―――――」


「まさかあの子がね……」


「―――――」


「まあ、もうちょっと観察してみようかな。

 ミラちゃんも可愛いし」


「―――――」


「分かってるわよ。ほどほどにしとく」


「―――――」


「それじゃあね」

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