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52 ミラは綺麗だよ。凄く

 宿に戻った後、準備を済ませてロビーに集まっていた。

 ミラは相変わらず朝は弱そうだ。

 ……エミリアさんが見たら怒られそうな大きなあくびをしている。


「クレイグさんは朝が早いですね」


「まあ昔からの習慣だしな。

 もしかして、起こしてしまってたか?」


「いえ、大丈夫ですよ。

 それにしても、朝からウィルさんと鍛錬に励まれていたようで」


「見ていたのか?」


「ええ、部屋の窓から。

 ニニア村でも朝から鍛錬していたのも見ていましたよ」


「えー、私もしたかったなー。

 明日は私も誘ってよね!」


「さっきまで大きなあくびしてたのに、大丈夫か?」


 俺は冗談交じりに言ってみると、ミラは顔を赤くする。


「今日はたまたまよ。明日は大丈夫!」


 そう言ったミラの顔は、まだ瞼が重そうだった。


「私も明日は誘ってもらえると嬉しいですね。

 最近は私も体を持て余していたので」


「ああ、分かった」


 そんな会話をしながら、宿を後にした。





 ギルドへ向かう途中、商店街に寄って朝食を済ませる。

 その足で八百屋に向かい、ニンジンを買ってからバリオスの元へと向かった。


「おーい、来たぞー」


 俺が声をかけると、バリオスは横たわっていた体を起こす。


『おう。今度はミラとクリスも一緒か』


 一通り声を掛け合った後、ミラはバリオスにニンジンをあげる。

 バリオスも美味しそうにニンジンを食べていた。


『そういや、朝いたアイツは誰なんだ?』


「ああ、ウィルのことか。この町で仲良くなったんだ」


「ウィルも一緒にいたの?」


「ああ、走るついでにな。そういや、ウィルはマナが見えるらしいぞ。

 バリオスを見て驚いていた」


「マナが見えるのですか。珍しいですね」


 クリスが感心したように言う。


「まさかウィルが見えるとは思ってなかったよ」


「ウィルはバリオスを見てなんて言ってたの?」


 ミラが首をかしげる。


「本当に馬か? とは言っていたな。

 まあ、本当のことを話しても良かったんだけど……」


『お前の腹が鳴って、それどころじゃなかったもんな』


「おい、それは言わなくてもいいだろ」


「なるほど、そうだったのね」


 ミラとクリスは笑っている。

 俺は顔が熱くなるのが分かった。





 バリオスと別れて冒険者ギルドへと向かう。

 ギルドの中は、もう賑わいを見せていた。

 

 いくつかのパーティーが、テーブルに集まって話し合っている。

 あーでもない、こーでもないって声も聞こえるな。

 クエストが貼り付けてあるボードの前も、人で賑わっている。

 全体の人数は三~四十人ってところか。


「私たちも早く依頼を受けましょ!」


「そうだな」


 ミラはかなり張り切っているようだ。

 さっきまでの眠たそうな瞼はキッチリと開いている。


 俺たちは、ネズミ退治のクエストを受け、テーブルで話し合っていた。

 二人とも森ネズミの討伐はしたことがあるみたいで、話し合いはすんなりと終わる。


「改めて思ったんだけど、これが三人で初めての連携だな」


「そうね。気合を入れて行きましょ!」


「ええ、私も、お二人の雄姿を見られるのが楽しみです」


 ミラは意気込んでいて、クリスはいつも通りの笑顔だ。


「よし、それじゃあ行くか」


 俺がそう言ったと同時に、辺りがざわつく。

 ……俺、何か変なこと言ったか?


 俺たちは周囲を見回す。

 周囲の人の視線は、入口の方へと向けられていた。

 立って見てみると、それは一人の女性に向けられていた。


 淡い緑色のウェーブのかかった長い髪に、スラっとした立ち姿。

 身長も高くて、顔もすごい美人だな。

 細身だけど、出るところは……って感じの女性だ。

 これはみんなが注目するのも分かる気がする。

 女性は受付の裏へと入っていった。ギルド関係者なんだろうか?

 

「いてて……」


 その声で別の方向を見てみると、女性が男性の耳を引っ張っていた。

 ……そういった関係なのかな?

 周りを見ると、似たような光景がチラホラとある。

 不貞腐れていたり、頬をつつかれていたり……。

 


 ……なんか、視線を向けられている気がする。

 その方向を見てみると、ミラだった。


「どうしたんだ?」


「クレイグも、あんな女性(ひと)が良いのかな、と思って」


 ミラの顔は真剣だった……と思ったら、口が少し笑っている。


「からかうのはよしてくれ……」


「えーだってー。面白いんだもん!」


 そう言って、カラッとした笑顔を見せる。

 本当に楽しんでるなコレは……。


「心配しなくてもいいですよミラさん。

 ミラさんも十分に魅力的な女性です」


「えへへー、ありがと。

 クレイグもクリスを見習わないとね」


 ぐぅ……。

 この二人、俺をからかうの上手いな。

 クリスもにやけそうな顔をしている。

 これはちょっとお返しをするか。


「そうだな。

 ミラは綺麗だよ。凄く」


 俺は笑いそうになるのを必死にこらえて、出来るだけ真剣な顔をしてそう言った。


「ちょっと、やめてよ……」


 ミラの顔はみるみるうちに赤くなっていた。

 いや……まあ、ミラは普通に美人だし、俺は間違ったことは言っていない。

 こんなに照れるとは思っていなかったけど。


「ミラさんは自覚が足りないようですね。ほら――」


 クリスが周りに目を向けると、ミラも同じように目を向ける。

 何人かの男性は慌てたように顔をそむけていた。

 手を振っている人までいるな。

 ミラは顔を赤くしたままうつむいてしまった。


「んじゃ、そろそろ行くか」


「そうですね。ミラさんも、いつまでそうしているんですか?」


 顔を上げたミラは、頬が膨らんでいた。


「……クリスは味方だと思ってたのに!」


 俺たちは笑いながらギルドを後にした。





 農場へ着くと、昨日と同じように依頼主の男性と会う。

 ミラとクリスを紹介すると、男性は俺の手を強く握る。


「任せてください!」


 ミラは元気のいい声で答えていた。



 森の中へ入ると、昨日と同じように、足音を殺しながら移動する。

 ミラは鎧の音が少し鳴っているが、これくらいなら大丈夫だろう。


 クリスは……足音が聞こえない。

 それどころか、見えているのにそこにいる気さえしない。


「クリス、それどうやってるんだ?」


「それ……とは?」


 クリスは首を傾げる。


「その……足音を殺したり、気配すら全然感じ取れないんだが……」


「そう! それは私も思ってた」


 俺とミラが言う。


「あー、これですか?

 体に染みついているものなので……」


「魔術は使っていないの?」 


「使っていませんよ。鍛錬次第ですかね」


 そう言って、にっこりと笑う。

 あれだけのこと……この笑顔から想像できないような鍛錬をしてきたのかな……?



 少し進むと、数匹のネズミを見つける。

 クリスと俺が回り込む。

 俺が合図をすると、ミラが飛び出し、一匹討伐する。

 逃げ出したネズミを、俺たちが処理する。


 初めてにしては上出来かな?


「上手くいったな」


「ええ、そうね。

 森ネズミなら、問題ないかも」


「私も慣れていますから、これくらいは当然でしょうか」


 昨日と違って取り逃すこともない。

 やっぱりパーティーを組んでいるとやりやすいな。

 依頼主の男性も喜びそうだ。

 この調子でどんどんいこう。





 その後、三十匹くらいを狩ったが、まだ数はいそうだった。

 このまま増え続けたら、ほかの農家にも被害が広がりそうだ。


「キリがないな」


「そうね。もしかしたら、近くに巣があるのかも」


 ミラがそう言うと、クリスもうなずく。


「森ネズミは繁殖力が強いですからね。

 特に今は繁殖期でしょうし……早めに潰しておいた方がいいでしょう」


 ミラもクリスの意見に同意するようにうなずく。


「そうか……それじゃ、手分けして巣を探すか。

 とりあえず今日は探すだけにしておこう。集合は農場で」


 俺が言うと、二人はうなずく。

 散開……しようと思った時、


 ――ドサッ


 という音と共に、何かが落ちてくる。


 近づいてみると、それは矢の刺さった大きな鳥だった。

 ――え、凄くない!?


「飛んでる鳥を撃ち落とすなんて……相当な技術を持った方がいるみたいですね」


 クリスが言うってことは、相当なんだろうな。

 ペルナ村でもそこまで出来る人はいなかったし……。


「騎士団にも弓の部隊があるけど、たまに当てられるくらいの人はいたかな」


 ミラもその鳥を見て感心しているようだ。

 

 近くでガサガサといった音が聞こえる。

 ネズミか? それとも、この鳥を射った人だろうか?

 

 俺たちは一応身構える。


「あれーお前らいたの?」


「ウィルかよ!」

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