52 ミラは綺麗だよ。凄く
宿に戻った後、準備を済ませてロビーに集まっていた。
ミラは相変わらず朝は弱そうだ。
……エミリアさんが見たら怒られそうな大きなあくびをしている。
「クレイグさんは朝が早いですね」
「まあ昔からの習慣だしな。
もしかして、起こしてしまってたか?」
「いえ、大丈夫ですよ。
それにしても、朝からウィルさんと鍛錬に励まれていたようで」
「見ていたのか?」
「ええ、部屋の窓から。
ニニア村でも朝から鍛錬していたのも見ていましたよ」
「えー、私もしたかったなー。
明日は私も誘ってよね!」
「さっきまで大きなあくびしてたのに、大丈夫か?」
俺は冗談交じりに言ってみると、ミラは顔を赤くする。
「今日はたまたまよ。明日は大丈夫!」
そう言ったミラの顔は、まだ瞼が重そうだった。
「私も明日は誘ってもらえると嬉しいですね。
最近は私も体を持て余していたので」
「ああ、分かった」
そんな会話をしながら、宿を後にした。
◇
ギルドへ向かう途中、商店街に寄って朝食を済ませる。
その足で八百屋に向かい、ニンジンを買ってからバリオスの元へと向かった。
「おーい、来たぞー」
俺が声をかけると、バリオスは横たわっていた体を起こす。
『おう。今度はミラとクリスも一緒か』
一通り声を掛け合った後、ミラはバリオスにニンジンをあげる。
バリオスも美味しそうにニンジンを食べていた。
『そういや、朝いたアイツは誰なんだ?』
「ああ、ウィルのことか。この町で仲良くなったんだ」
「ウィルも一緒にいたの?」
「ああ、走るついでにな。そういや、ウィルはマナが見えるらしいぞ。
バリオスを見て驚いていた」
「マナが見えるのですか。珍しいですね」
クリスが感心したように言う。
「まさかウィルが見えるとは思ってなかったよ」
「ウィルはバリオスを見てなんて言ってたの?」
ミラが首をかしげる。
「本当に馬か? とは言っていたな。
まあ、本当のことを話しても良かったんだけど……」
『お前の腹が鳴って、それどころじゃなかったもんな』
「おい、それは言わなくてもいいだろ」
「なるほど、そうだったのね」
ミラとクリスは笑っている。
俺は顔が熱くなるのが分かった。
◇
バリオスと別れて冒険者ギルドへと向かう。
ギルドの中は、もう賑わいを見せていた。
いくつかのパーティーが、テーブルに集まって話し合っている。
あーでもない、こーでもないって声も聞こえるな。
クエストが貼り付けてあるボードの前も、人で賑わっている。
全体の人数は三~四十人ってところか。
「私たちも早く依頼を受けましょ!」
「そうだな」
ミラはかなり張り切っているようだ。
さっきまでの眠たそうな瞼はキッチリと開いている。
俺たちは、ネズミ退治のクエストを受け、テーブルで話し合っていた。
二人とも森ネズミの討伐はしたことがあるみたいで、話し合いはすんなりと終わる。
「改めて思ったんだけど、これが三人で初めての連携だな」
「そうね。気合を入れて行きましょ!」
「ええ、私も、お二人の雄姿を見られるのが楽しみです」
ミラは意気込んでいて、クリスはいつも通りの笑顔だ。
「よし、それじゃあ行くか」
俺がそう言ったと同時に、辺りがざわつく。
……俺、何か変なこと言ったか?
俺たちは周囲を見回す。
周囲の人の視線は、入口の方へと向けられていた。
立って見てみると、それは一人の女性に向けられていた。
淡い緑色のウェーブのかかった長い髪に、スラっとした立ち姿。
身長も高くて、顔もすごい美人だな。
細身だけど、出るところは……って感じの女性だ。
これはみんなが注目するのも分かる気がする。
女性は受付の裏へと入っていった。ギルド関係者なんだろうか?
「いてて……」
その声で別の方向を見てみると、女性が男性の耳を引っ張っていた。
……そういった関係なのかな?
周りを見ると、似たような光景がチラホラとある。
不貞腐れていたり、頬をつつかれていたり……。
……なんか、視線を向けられている気がする。
その方向を見てみると、ミラだった。
「どうしたんだ?」
「クレイグも、あんな女性が良いのかな、と思って」
ミラの顔は真剣だった……と思ったら、口が少し笑っている。
「からかうのはよしてくれ……」
「えーだってー。面白いんだもん!」
そう言って、カラッとした笑顔を見せる。
本当に楽しんでるなコレは……。
「心配しなくてもいいですよミラさん。
ミラさんも十分に魅力的な女性です」
「えへへー、ありがと。
クレイグもクリスを見習わないとね」
ぐぅ……。
この二人、俺をからかうの上手いな。
クリスもにやけそうな顔をしている。
これはちょっとお返しをするか。
「そうだな。
ミラは綺麗だよ。凄く」
俺は笑いそうになるのを必死にこらえて、出来るだけ真剣な顔をしてそう言った。
「ちょっと、やめてよ……」
ミラの顔はみるみるうちに赤くなっていた。
いや……まあ、ミラは普通に美人だし、俺は間違ったことは言っていない。
こんなに照れるとは思っていなかったけど。
「ミラさんは自覚が足りないようですね。ほら――」
クリスが周りに目を向けると、ミラも同じように目を向ける。
何人かの男性は慌てたように顔をそむけていた。
手を振っている人までいるな。
ミラは顔を赤くしたままうつむいてしまった。
「んじゃ、そろそろ行くか」
「そうですね。ミラさんも、いつまでそうしているんですか?」
顔を上げたミラは、頬が膨らんでいた。
「……クリスは味方だと思ってたのに!」
俺たちは笑いながらギルドを後にした。
◇
農場へ着くと、昨日と同じように依頼主の男性と会う。
ミラとクリスを紹介すると、男性は俺の手を強く握る。
「任せてください!」
ミラは元気のいい声で答えていた。
森の中へ入ると、昨日と同じように、足音を殺しながら移動する。
ミラは鎧の音が少し鳴っているが、これくらいなら大丈夫だろう。
クリスは……足音が聞こえない。
それどころか、見えているのにそこにいる気さえしない。
「クリス、それどうやってるんだ?」
「それ……とは?」
クリスは首を傾げる。
「その……足音を殺したり、気配すら全然感じ取れないんだが……」
「そう! それは私も思ってた」
俺とミラが言う。
「あー、これですか?
体に染みついているものなので……」
「魔術は使っていないの?」
「使っていませんよ。鍛錬次第ですかね」
そう言って、にっこりと笑う。
あれだけのこと……この笑顔から想像できないような鍛錬をしてきたのかな……?
◇
少し進むと、数匹のネズミを見つける。
クリスと俺が回り込む。
俺が合図をすると、ミラが飛び出し、一匹討伐する。
逃げ出したネズミを、俺たちが処理する。
初めてにしては上出来かな?
「上手くいったな」
「ええ、そうね。
森ネズミなら、問題ないかも」
「私も慣れていますから、これくらいは当然でしょうか」
昨日と違って取り逃すこともない。
やっぱりパーティーを組んでいるとやりやすいな。
依頼主の男性も喜びそうだ。
この調子でどんどんいこう。
◇
その後、三十匹くらいを狩ったが、まだ数はいそうだった。
このまま増え続けたら、ほかの農家にも被害が広がりそうだ。
「キリがないな」
「そうね。もしかしたら、近くに巣があるのかも」
ミラがそう言うと、クリスもうなずく。
「森ネズミは繁殖力が強いですからね。
特に今は繁殖期でしょうし……早めに潰しておいた方がいいでしょう」
ミラもクリスの意見に同意するようにうなずく。
「そうか……それじゃ、手分けして巣を探すか。
とりあえず今日は探すだけにしておこう。集合は農場で」
俺が言うと、二人はうなずく。
散開……しようと思った時、
――ドサッ
という音と共に、何かが落ちてくる。
近づいてみると、それは矢の刺さった大きな鳥だった。
――え、凄くない!?
「飛んでる鳥を撃ち落とすなんて……相当な技術を持った方がいるみたいですね」
クリスが言うってことは、相当なんだろうな。
ペルナ村でもそこまで出来る人はいなかったし……。
「騎士団にも弓の部隊があるけど、たまに当てられるくらいの人はいたかな」
ミラもその鳥を見て感心しているようだ。
近くでガサガサといった音が聞こえる。
ネズミか? それとも、この鳥を射った人だろうか?
俺たちは一応身構える。
「あれーお前らいたの?」
「ウィルかよ!」




