51 仲間って、こういうものなのかな
楽しい時間っていうのは、あっという間に過ぎるものだ。
料理は美味しかったし、話も弾んだ。
あれだけ騒がしかった酒場も、今では残っている人もまばらになっている。
「いやー楽しかったぜ。ありがとな」
ウィルはそう言って席を立つ。
「こちらこそ楽しかったよ。また一緒に食おう」
「うん、私も! また一緒にご飯しよ」
「ええ、ぜひ。またご一緒しましょう」
俺が言うと、ミラとクリスも続いた。
「おう、それじゃあな」
ウィルはそう言うと、酒場から出て行った。
「気持ちの良い方でしたね」
クリスが言うと、ミラもうなずいていた。
今日が初対面だったのに、思ったよりも話が弾んだ。
ミラとクリスも楽しそうにしていたし、誘ってよかったな。
「ウィルと仲良くしてくれて、ありがとね」
皿を下げに来た女将さんに言われる。
「こちらも楽しい時間を過ごせてよかったです」
俺が言うと、女将さんの顔が少し曇る。
「いつもああだったら良いんだけどねぇ……」
その言葉で、俺たちは顔を見合わせる。
みんなの頭の上には、疑問符が浮かんでいるように見えた。
「いつもは違うんですか……?」
ミラは言う。
「あ、あー……声に出てしまっていたかい?
……まあ、あの子もいろいろあってね」
あれだけ明るく振る舞っていたのに……。
そういや、時々表情が暗くなることはあったな。
詳しく聞いてみたい気持ちはあるが……今はやめておくことにした。
「ま、仲良くしてあげてね」
女将さんは笑顔でそう言うと、皿を下げていった。
なんとも気まずい空気が流れる。
俺は流れを変えるために口を開く。
「そういや、今日受けた依頼なんだけど……」
「ネズミ退治だっけ?」
「そうだ。ネズミの数が結構多いみたいでさ。
明日は仲間を連れてくるって言ってしまったんだが……大丈夫か?」
あまりにも突っ走って安請け合いしてしまったかもしれない。
あの時は、ミラやクリスも了承してくれる前提で話していたが……。
「良いんじゃないかしら? 私も買い物は済んだしね」
「私も町の様子は見ましたし、大丈夫ですよ」
俺は二人の返答で安心した。
「そうか、良かった。
すまないな、二人の了承も得ずに勝手に受けてきてしまって」
「いいよー。今日はゆっくりできたし、私の方こそごめんね。
本当は、私も行きたかったんだけど」
「私も、勝手を言ってしまってすいませんでした」
逆に二人に謝られてしまった。
「いや、大丈夫だ。
それじゃあ……今度からは、新しい街に着いたら一日目は自由行動にしようか」
「賛成ー!」
「ありがとうございます、クレイグさん」
二人の反応を見て、俺は胸の中が温かくなったような気がした。
仲間って、こういうものなのかな。
会計を済ませた後、俺たちも酒場を出ることにした。
◇
次の日の朝、いつものように鍛錬をしようと、クリスを起こさないように部屋を出る。
宿の外に出ると、
――トン、――トン
と、一定の間隔で何かを打つような音が聞こえてくる。
――何の音だ?
宿の裏手から聞こえている気がする。
宿の横を抜けて、裏へと回る。
ウィルの家の方かな?
俺は音のする方へと歩いて行く。
音の主はウィルだった。
家の裏に広がった庭で弓を射っている。
弓を引き絞り、的へと放つ。
――トン
矢は、中心に吸い込まれるように的に当たる。
……すごいな。
いくつかの矢が刺さっているが、どれも中心に当たっている。
ウィルは、まだ俺には気づいていないようだった。
集中力もすごいんだな……。
何本か続けて射ったあと、ウィルが弓を降ろしたタイミングで声をかける。
「よっ。朝から頑張ってるな!」
俺が声をかけると、ウィルは飛び上がる。
「うおっ! びっくりさせるな……ってクレイグか!」
ウィルはこちらへと寄ってくる。
「お前も早いんだな。今から鍛錬か?」
「そうだ。朝から体を動かしていないと落ち着かなくてな」
「そうなのか。俺と一緒だな!」
ウィルは笑う。
「それにしても凄いな。全部真ん中に当たってるじゃないか」
「あー……あれか?
射手なら、みんな出来るんじゃね?」
ウィルは気に掛けていない様子でそう答える。
ペルナ村でも弓を使っている人はいたけど、ここまでの腕前の人はいなかったはずなんだけどな……。
もしかして、自信がないのか?
ウィルの表情は少し曇っているし、これ以上この話題は触れない方がいいかもしれない。
俺がそんな風に思っていると、ウィルは表情がコロッと変わる。
「それよりもさ、クレイグの大剣、触っても良いか?」
「ああ、いいぞ」
俺は背負っていた大剣をウィルに渡す。
「おお! お……っ!」
ウィルの体はよろけ、転びそうになる。
俺はそれを支えた。
「――重すぎんだろコレ!」
ウィルは大きな声を出す。
「おいおい、まだ朝早いんだぞ?」
俺が言うと、ウィルはハッとした顔をして周囲を見回す。
――静けさが辺りを包む。
「お前、やっぱとんでもないぞ。
俺も力はある方だと思ってたけど、さすがにこれは無理だ」
ウィルは俺の大剣を抱えながら言う。
「そうなのか……。ミラにも言われたよ」
「そうだろうな!」
ウィルはそう言って、また笑う。
「それ振ってるところも見せてくれよ!」
「ああ、分かった」
俺たちは二人揃って鍛錬をすることにした。
◇
陽も高くなってきたし、もう少しでみんな起きる頃かな。
走るついでに、バリオスの様子も見に行くか。
「それじゃあ、俺はそろそろ走りに行くよ」
「え、まだするのか?」
ウィルは目を丸くする。
「ああ、少し寄りたい所もあるしな」
「へぇ~……俺も付いて行っていいか?
ここまで一緒にやってたんだ。最後まで付き合うぜ」
「分かった。遅れるなよ?」
「誰に言ってんだよ」
そう言って笑い合った後、俺たちは走りに行くことにした。
◇
ウィルの案内で町の中を走る。
ウィルは思ったよりも走るのが速かった。
俺は遅れないように付いていく。
「おいおい、さっきの威勢はどうしたんだよ?」
ウィルがからかうように言ってくる。
「まだ全然余裕だぞ?」
「ほーう?」
そう言って、ウィルはペースを上げる。
負けちゃいられないな。
俺もウィルに合わせてスピードを上げる。
町はまだ静かだったが、商店街を通ると、パンの焼けるいい匂いがした。
腹も減ってくるし、さっさとバリオスの所に寄って朝飯にしよう。
ウィルに声をかけ、厩舎の前で止まってもらう。
二人で息を整える。
「寄りたかった所ってここか?」
「ああ、そうだ」
「え、お前ら、馬も持ってんの!?」
ウィルは驚いたように言う。
「うーん、まあそうだな。馬車もあるぞ」
ウィルは驚きを隠せないような顔をしている。
「お前ら……すげーな」
◇
ウィルと一緒に厩舎の中に入り、バリオスに会いに行く。
「おはよう」
『……おう?』
バリオスは少し困惑しているようだった。
察したのか、それからは話しかけてこない。
「……こいつがお前たちの馬か?」
「ああ、そうだ。バリオスっていうんだ」
ウィルは、バリオスを舐めまわすように見ている。
…………。
ちょっと見過ぎじゃないか?
「どうかしたか?」
俺が言うと、ウィルは俺を見る。
「この馬……本当に馬か?」
「えっ? どうしたんだいきなり」
「ああ、いや……マナの流れがな。
普通の馬とも、魔物とも違うんだよな」
そう言って、またバリオスに目を向ける。
「ウィルはマナが見えるのか?」
俺は思わずそう聞いていた。
「ん? ああ、そうなんだ。
まあ、ちょっとしたものしか見えないんだけどな。
なんかお前ら変だよな。クレイグはマナが見えないし」
マナが見える人にはそういう風に見えているのか。
……やっぱり俺にはマナがないのかな?
「うーん。この馬はまたちょっと特別っていうか……そんな感じだ!」
俺は、自分でもよく分からないことを口走る。
「? そうなのか。
まあ、よく分かんねえけど、そういうもんか!」
ウィルはそう言って笑い飛ばす。
――なんとか誤魔化せたか?
――ぐぅぅぅ
その時、俺の腹が鳴る。
その音を聞き、ウィルはまた笑う。
「腹減ってんのか!
俺も腹減ったし、そろそろ戻ろうぜ!」
「ああ、分かった」
ウィルは外へと歩き出す。
「すまんバリオス。様子を見に来ただけなんだ。
後でニンジン持って、また来るよ」
『……おう……?』
バリオスは少し困ったように首を傾げていた。
その時、入口の方からウィルの声が聞こえる。
「おーい、クレイグ。
置いて行っちまうぞー!」
「今行くー!」
俺は返事をした。
「それじゃあな」
俺はバリオスに挨拶を済ませて、厩舎を出た。




