05 山歩き
いろいろあったが、やっと山に入れるな。っと、その前に。
俺は親父の墓の前に向かう。
行ってきます
よし、出発しよう。
「その大きな剣は何ですか?」
俺の前にある地面に刺さった大剣をみて、ミラさんが不思議そうに尋ねてくる。
その剣は、俺の剣よりも更に重厚な造りになっている。
「ああ、これはおや……父親の墓の替わりなんです。生前に大切にしていたので、そのままあの世まで持って行けるように、遺骨と一緒にしているんです」
埋葬方法は、宗教や土地によって、土葬、火葬と色々あるが、俺と親父が信仰している宗教では火葬が一般的だったので、それに倣い火葬にした。
「…そうだったのですね。余計なことを聞いてしまったみたいです…」
ミラさんは申し訳なさそうにしている。
「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ気を使わせてしまって申し訳ないです」
こうなる事は予想できたか……ちょっと軽率だったな…
「とんでもないです」
ミラさんは続けて言う。
「…私も、お墓参りをしていってもよろしいですか?」
考えてもいなかった返しが来て、ちょっとビックリしてしまう。
「ええ、構いませんよ」
ミラさんが参っている間待つとするか。
―――――お待たせしました、いえ、というやり取りをしつつ、ミラさんが言う。
「お父様思いのクレイグさんがいて、お父様も嬉しいでしょうね」
「はは、そう思っていてくれると嬉しいですね」
本当にそうだとありがたいな。
「さて、出発しましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
山に入る前に一応確認をしておく。
「山歩きは初めてですか?」
「いえ、訓練で何回も歩いたことあります」
「わかりました」
それならそんなに心配することもないか。
そこでふと思い出す。さっきルークに言われた『自分の基準でものを計るな』
短い間だろうけど仲間だし、相談しておいて損はないだろう。
「一応ミラさんの様子を見ながら歩きますけど、速かったり遅かったり、疲れたりしたら言ってくださいね」
こんな感じで良いかな?
「ありがとうございます」
良かったみたいだ。
◇
山に入り少し歩く。いつもの見慣れた光景だ。親の顔より……は流石に言い過ぎだな。
そこで、ある植物が目に留まる。そういやコレがあったな。見慣れた光景過ぎて忘れてた。
ミラさんも知ってるかもしれないが、一応聞いてみるか。
「ミラさん、この草知ってます?」
俺は、横に大量に生えている草を指さして言う。
「いえ、初めて見る植物ですね。これが何か?」
ここにはこんなに沢山あるのに…他の場所には無い草なのか?一応共有しておこう。
「この草の葉を靴の中に敷くと、疲れにくくなるんですよ」
「え!?本当ですか?」
疑うような目で見てくる。そりゃそうだよな。
この草…って言っても、名前は分からないんだよな。俺たちは【変な草】って呼んでる。
葉が分厚くて、「弾力がある」とはまた違った、押しても戻ってくる変な感触。それでいて、簡単に切れる。
俺は子供の頃、やんちゃなクソガキだった。そんな子供が、こんな変な草に興味を示さないわけがない。遊び半分で靴の中に入れて遊んでいたんだ。え?今でもクソガキ?そんなことないだろ!
今となっては何でそんなことをしたのか分からない。ガキのすることは理解不能だ。
その状態で、親父に付いていって山に入ったら、「今日は疲れてないのか」って、感心されるくらいだった。それで、もしかしたら…ってな。
その後、親父も試しに使ってみたんだが、疲れにくかったんだ。
腐らないし、植物なのに、潰れても水も出てこない。流石に使い続けているとへたってくるんだけどな。その時は新しいのに取り換える。加工も簡単だし、火で燃やして簡単に処理も出来る。
本当に変な草なんだんよな。
今じゃなくてはならない物になっているんだけど。
「俺も入れてるんですよ。……ほら」
靴を脱ぎ、それを見せる。
「へぇー。本当なんですね」
「騙されたと思って一回試してみてください。」
「分かりました」
俺のもへたってきてるし、新しくしておこう。
俺は葉を4枚刈り取り、2枚をミラさんに渡す。
葉に足を乗せ、解体用のナイフで足の形より少し大きめに切り、靴の中に入れ、履いてもずれないように、少しずつ調整していく。こんな感じで…と、ミラさんにナイフを渡す。同じようにミラさんも葉を切っていき、切り取った葉を靴の中に入れて履く。
「うーん…変な感じがします…」
「最初は感触に慣れないかもしれないですけど、履いてるうちに馴染んできますよ」
◇
またしばらく歩く。ペースも確認したが、丁度いいらしい。ここまで休憩もなく順調だ。このまま行くと、タスクボアの生息域まではもう少しだな。
空を見る。太陽がもう真上だった。
丁度良く座れるスペースもあるし、この辺で昼飯にしよう。
「タスクボアのいる場所まではもう少しなので、この辺で一旦休憩にしましょう。時間も丁度昼ですし」
その後も、昼飯を食いながら他愛のない会話を交わす。
仲間と旅をするってこんな感じなのかな。悪くない…というより、良い。最近は一人で入っていた山も、今日が初対面だった人とですらこれだけ楽しく感じるのなら、旅への欲求も高まる。
……依頼受けてよかったな。
そういや、さっきの草はどうだろう?気に入らなければ捨てていってもらってもいいし。
「さっきの草の具合はどうですか?」
気になったので聞いてみる。
「クレイグさんが言ってた通り、最初は違和感がありましたけど、今はもう大丈夫です。それに、いつもより疲れてないですね。少し感動しています」
そこまでの反応を貰えるとは思ってなかったな。
「お役に立てたならよかったです」
「騎士団でも導入を検討してもいいかも…」
ええ!?そこまで!?
すごいな。あの変な草。
2024/11/06 父親の剣の描写を加筆修正しました。