49 同じ方向かよ!
農場に戻ってきた俺たちは、依頼主の男性に成果を話していた。
赤髪の男性は、別の討伐依頼のついでに、たまたま見かけた森ネズミを仕留めたらしい。
二人の話を聞いていると、どうやらこの町の人みたいだ。
かなり親しげな様子だしな。
「後は、ギルドに報告するだけだな」
「そうだな。仕留めた魔物はここに置いておいていいのか?」
足元のネズミを見下ろしながら尋ねる。
「ああ。報告すれば、後はギルドの職員が処理してくれるぞ。
お前、もしかしてこういうのは初めてか?」
「そうなんだ。薬草採取くらいしかしたことなくてな。
討伐依頼はこれが初めてなんだ。等級も白だしな」
俺は首から下げていたタグを見せる。
俺がタグを見せると、赤髪の男性は目を丸くする。
「へぇ~。そんなに厳つい武器担いでんのにな!」
俺の大剣を見て笑いながら言う。
かなり陽気な人だな。
「いやぁ、ごめんごめん。お前面白いやつだな。
俺はウィル。お前は?」
「俺はクレイグだ」
差し出された手を取り、握手する。
「んじゃ、ギルドに報告しに行こうぜ!」
そう言って俺の肩を叩く。
「ああ、そうだな」
俺たちはギルドへと向かった。
◇
冒険者ギルドに報告すると、査定係らしき人がギルドから出て行く。
俺たちは査定が終わるまで、時間を潰すことにした。
いい時間だし、酒盛りを始めている人もいる。
料理のいい匂いと、楽しそうな話し声も聞こえてくる。
ウィルは気さくに話しかけてくる。
「そういや、いつ冒険者になったんだ?」
「もうすぐ一か月だな」
「へぇ、もうすぐ一か月なのに、討伐依頼は初めてなのか。
それもまたおかしな話だな。そんなに薬草採取が好きなのか?」
そう言ってからかい気味に聞いてくる。
「いや、そういう訳じゃないが、たまたま受ける機会がなくてな。
清掃や薬草採取しか出来なかったんだ」
「ふーん、そうなのか。
お前、相当腕が立ちそうなのにな」
ウィルは俺の腕や胸を見ながらそう言う。
「ありがとな。ウィルの方こそ弓の腕は良いんだろ?
結構な距離からネズミを仕留めていたしな。等級は?」
俺がそう言うと、さっきまで明るかったウィルの顔が少し暗くなる。
「まあ……そこそこってところだよ。等級も黄色だしな」
そう言って、タグを見せてくれる。
黄色ってことは、俺たちよりも二等級上か……。先輩だな。
「十分良いんじゃないのか?
ギルドの説明じゃ、中級冒険者だろ?」
「ま、上を見たらきりがないからな。
俺なんて、そこら辺に転がってる石ころみたいなもんだよ」
なんか、明るいかと思ったら急に暗くなるし、よく分からない人だな。
「クレイグは……仲間はいるのか?」
「ああ、いるぞ。
俺たちは三人パーティーだ。ウィルはどうなんだ?」
「俺は一人さ。誘われることはあったけど……どうにもな。
お前たちは仲良くやれよ」
ウィルはそう言い、俺の肩に手を置く。
その目はどこか悲しげだった。
「お待たせいたしましたー」
ギルド職員が声をかけてくる。
受付をしてくれた人とは別の人だ。
「おう、待ってたぜ」
「あれー? ウィルさん、パーティーを組んだんですか?」
人懐っこそうな女性のギルド職員はそう言う。
「ちげぇよ。たまたま一緒になっただけなんだ」
ウィルと職員さんは楽しそうに話をしている。
俺は職員さんと目が合う。
「――あ、すいません。報酬を渡すのが先でしたね。
これがウィルさんの分で、これが……クレイグさんの分ですね!」
それぞれの前にトレーが置かれる。
俺の方は……千二百ルア。十二匹倒したから間違いないな。
ウィルの方は百ルア。
他の獲物は倒してなかったのかな?
「おー、ありがとな」
ウィルは笑顔で受け取る。
「今日はあの一匹だけだったのか?」
「そうだな。他の討伐依頼を受けていたんだけど、獲物が見つからなくてな。
まあこんな日もあるさ」
「そういうものなのか。覚えておくよ」
職員さんは一礼してから戻っていった。
「さて、報告も済んだし、帰るかな」
ウィルが立ち上がる。
俺もミラたちを待たせるわけにもいかない。
ウィルに続いて立ち上がった。
「それじゃ、ここまでだな。
また会ったらよろしくな!」
そう言って拳を突き出してくる。
「ああ、こちらこそ」
俺はその拳に拳を合わせる。
ウィルの顔が笑顔になる。
俺も自然と笑顔になった。
俺たち二人はギルドを出る。
「それじゃあな」
ウィルが別れを告げる。
「ああ、またな」
俺も別れを告げる。
それぞれが思い思いに歩みを進める。
―――――。
「同じ方向かよ!」
ウィルが声を出す。
「そうみたいだな」
俺たちは自然と笑い合う。
「さっきのやり取りいらなかったじゃん!
お前、ホント面白いやつだな」
ウィルは笑いながら俺の肩を軽く叩く。
「いや、今回のはたまたまだろ」
「んじゃ、とりあえず行くか!」
ウィルの声で、俺たちは改めて歩みを進めた。
◇
宿に戻るまで、ウィルとはずっと一緒だった。
途中、「いつまで付いてくるんだ?」「お前こそ」というやり取りが何回かあった。
その度に笑い合っていた。
宿屋街も、そろそろ端だな。
「んじゃ、本当にここまでだな」
俺は泊まる予定の宿屋の前に立つ。
「おー! ここに泊まる予定だったのか。
ちなみに、俺の家は隣だ」
隣には普通の民家があった。
俺たちはまた笑う。
「ここは良いぞ。安いし、飯も美味い。俺も後で食いに行く予定なんだ」
「そうだったのか。一緒にどうだ?」
「……仲間いるんだろ? 悪いからいいよ」
ウィルはまた影を落とす。
こんな表情をされたら、ここで強引に誘っても悪いな……。
「……分かった。それじゃあな」
俺はウィルと別れた。
宿に入ると、ミラとクリスはもうロビーで俺を待っていたようだった。
俺が一番最後だったか。
「クレイグ遅いよー。私お腹すいちゃった」
ミラは少し頬を膨らませて言う。
「すまん、初の討伐依頼で時間配分をミスった」
俺がそう言うと、「いいよー!」と、笑顔で言ってくれた。
ミラも本気で怒っているわけじゃなくて良かった。
「クレイグさん、何か良いことありましたか?
いい顔をしていますよ」
「そう、私も思った!」
クリスとミラはそう言う。
「ああ、たまたま冒険者の人と一緒になってな。
いろいろと教えてもらっていたんだ」
俺がそう言うと、クリスは笑みを浮かべる。
「女の人ですか?」
クリスがそう言うと、ミラの肩が少し跳ねる。
「いや、男だ。どうかしたか?」
「いえ、こういったことを聞くのはお約束かと思いまして」
いつものひょうひょうとした感じで言う。
お約束ってなんだよ……。
「ね、ミラさん?」
クリスはミラにも聞く。
「――? ええ、そうね?」
ミラはよく分からないといった感じだ。
……なんなんだ、このやり取り。
「とりあえず、着替えてくるよ。
もう少しだけ待っていてくれ」
「りょーかい」
「分かりました」
俺は部屋へと戻った。
◇
俺は着替えを済ませ、ロビーへと戻る。
「お待たせ」
「遅いよー。ほら、行こ!」
ミラは待ちきれないとばかりに急かす。
クリスは俺たちを見て笑っていた。
「――お!」
宿の入り口を見ると、ウィルがいた。
「おーい、ウィル!」
俺がそう言うと、ミラとクリスもそちらを見る。
「おークレイグ。さっきぶりだな」
ウィルはこちらへと近づいてくる。
「この二人が、クレイグの仲間か?」
「ああ、そうだ。ミラとクリスだ」
俺は二人を紹介する。
二人は軽く自己紹介をしていた。
ウィルも二人に軽く挨拶する。
「んで、ミラちゃんがお前の彼女か?」
「違います」
ミラはまたも、即答する。
「お、おう……」
ウィルはミラに気おされたようにたじろぐ。
「でも、こういうのはお約束だろ?」
ウィルが言うと、クリスはウンウンとうなずいていた。
え、これもお約束なの?
「んじゃ、俺は行くわ」
ウィルがそう言って立ち去ろうとすると、クリスが口を開く。
「ウィルさんは一緒に食べないんですか?」
「そうそう、クレイグが仲良くなった人でしょ?
私たちも、お喋りしたいよねー」
クリスとミラは顔を合わせて「ねー!」と言い合っていた。
……仲いいなこの二人。
俺は二人を見て思わず笑う。
「……だそうだ」
俺がウィルにそう言うと、少し困った顔をした後に答える。
「そうか……それじゃ、一緒させてもらおうかな!」
言い終わった後には、晴れやかな顔をしていた。
結果的に、少し強引に誘ってしまったけど……これで良いよな?
俺たちは四人で酒場の方へと向かった。




