48 一人での依頼
話をしながら時間を潰していると、クリスの冒険者タグが出来上がった。
クリスはそれを受け取り、首から下げる。
「クリスの登録も済んだし、早速依頼を受けるか?」
俺がそう言うと、クリスは少し困った顔をする。
「私は……とりあえず町を散策しようかと。
新しい街に着くと、一度歩き回ってみないと落ち着かない質なので……」
「そうか……まあ今日は町に着いたばかりだしな」
馬車に揺られているだけでも疲れるってのは聞いたことがあるしな。
「ミラはどうする?」
俺はミラに聞く。
「ん-、私も今日は依頼はいいかな。
いろいろと買いたいものもあるし」
「分かった。荷物持ちでもしようか?」
俺がそう言うと、ミラは焦る。
「い、いいの。今日は一人で買い物したい気分だから!」
ミラは、言いながら両手をぶんぶん振ってみせる。
見たこともないミラの焦り方に俺は困惑する。
……どうしたんだろうか?
俺がそんな風に思っていると、クリスが俺の肩に手を乗せ、首を横に振る。
「余計な詮索は無粋ですよ」
「どういうことだ?」
クリスは、やれやれと言った感じで話し出す。
「クレイグさん。あなたは――例えば、自分の下着を買う時に、誰かに横でじっと見られていたいですか?」
クリスがそう言うと、ミラは顔を赤くしてうつむく。
「ミラさんにも、一人でゆっくり選びたいものがあるんですよ」
俺もやっと理解して、顔が熱くなるのが分かる。
「いや、すまないミラ。そういったことは考えていなくて……」
「……いいの。荷物持ちをお願いしたいときは、私から言うね」
ミラは、どこかぎこちない笑顔でそう言った。
俺のほうが気まずがっているのを、むしろ気遣ってくれているのかもしれない。
俺は静かにうなずいた。
「……こっちこそ、気が回らなかった」
いやー……男所帯だった弊害が、こんな所でも出てくるとは。
これからはこういったことにも気を配らないといけないな……。
「それじゃあ、俺は一人で依頼を受けてくるよ。体もなまっているし!」
俺はこの気まずい雰囲気を壊すように、肩を回しながら少し大きな声でそう言った。
俺の言葉を聞いて、二人は揃ってうなずく。
「夕方には宿のロビーに集合な!」
◇
二人と別れて、俺は依頼書が貼ってあるボードの前に来ていた。
白色の依頼書は……結構あるな。
薬草採取、探し物の依頼に修理依頼……魔物討伐もあるな。
森ネズミ討伐:一匹百ルア
ギルドからの討伐依頼は受けたことがないし、これにするか。
俺は依頼書を手に取る。
一応、他のボードも見てみるか。
ざっと見たが、青から上の等級は基本的に討伐がメインなようだ。
ゴブリンの討伐依頼もあったが、黄等級の依頼だった。
タスクボアに至っては緑等級だった。
ウォールベアは紫等級って、ミラも言っていたし……。
今のところ、紫等級の魔物までは倒せるって認識で良いのか?
……いや、驕りは禁物だな。
『相手を舐めたやつから死んでいく』
親父にも口酸っぱく言われていたことだ。
俺は首を振って考えを改める。
俺は依頼書を受付へと持っていった。
◇
俺はギルドから教えてもらった場所へと移動していた。
農作物を荒らしている、森ネズミ討伐の依頼者の元にだ。
依頼者の農場は、森に近い柵が壊れていて、ところどころ野菜も食い荒らされていた。
被害にあった場所には、小さな足跡がいくつも重なっている。
「見ての通りさ。
今年は野菜も良い出来なんだ。よろしく頼むよ」
「分かりました。森ネズミはどのくらいいそうですか?」
「どうだろうな……。数匹ではないことは確かだ。
今日だけじゃ終わらないとは思う」
依頼者の男性は渋い顔をしながら言う。
「それじゃあ、明日も来ますよ。
しばらくはこの町に滞在する予定なので」
俺がそう言うと、男性の顔は明るくなる。
「本当か!? それじゃ、明日も頼むよ!」
男性は俺の手を取り、固く握る。
「ええ、任せてください。
明日は仲間も連れてきますので」
男性の顔は、さらに明るいものになる。
少しばかり目も赤くなっているようだった。
俺も期待に応えられるよう、頑張らないとな。
◇
森に入り、奥へと進む。
数日前まで雨が降っていたからか、足跡もそれなりに付いている。
これを辿って行けば見つかるか。
少し進んだところで、物音がする。
――いた!
黒い体毛に、ずんぐりとした体。
大きさは小型の犬くらいだ。
土をかき回すガサガサという音と、何かをかじるガリガリという音があたりに響いている。
今は数匹が、何かを食べているようだった。
俺は気取られないように近づき、背負っていた大剣を振るう。
一振りで三匹は倒せたが、まだ数がいる。
倒せなかった他のネズミたちは逃げていく。
これを何回か繰り返せばいいのかな?
地味だけど、今はこれくらいしか思いつかない。
……とりあえず今はこの方法でいくか。
俺は目印として、近くにあった木に紐を結ぶ。
後でこのネズミたちを回収するためだ。
このまま放置していたら、他の魔物が寄ってくるかもしれない。
ニニア村でも、ゴブリンたちの死骸を騎士団が集めていたと、ミラから聞いた。
よし、また探すか!
◇
あの後、ネズミたちは警戒したのか、それほど見当たらなかった。
それでも、何匹かは倒したんだが……全部で十一匹しか倒せなかった。
足音の感じからすると、まだまだいそうなんだがな。
空も段々と赤くなってきているし、そろそろ帰らないとな。
――と、そこでまた音が聞こえてくる。
息を殺しながら、音のした方に近づいていく。
段々と音が大きくなり、俺は近くにあった草むらから覗き込んでみる。
――いるな。
しかもさっきまで倒していたものよりも二回りほど大きい。
タスクボアの子供くらいの大きさはあるかもしれない。
こんな個体までいるのかよ。
少し慎重になったほうが良さそうだ。
もしかしたら襲ってくるかもしれないし。
今は何かを食べているようだし、今のうちか。
俺はそっと近づいて、大剣を振り下ろす。
ネズミは抵抗することもなく、動かなくなった。
少し可哀そうな気もするけど、これも仕事だ。
また近くで音が鳴る。
――まだいるのか?
俺は音のした方を見る。
ガサガサという音と共に出てきたのは、今倒したものと同じ大きさのネズミだった。
そいつは、こちらを窺うように見ている。
俺は身構える。
今にも飛び掛かってきそうになった瞬間、
――ドッ!
という音と共にそいつは横に吹き飛び、木に刺さる。
よく見ると、そのネズミには矢が刺さっていた。
矢の飛んできた方向を見るが、人影は見当たらない。
どこから撃ったんだ?
俺が様子を窺っていると、赤い髪の男性が現れる。
年は俺くらいだろうか?
手には弓、背中には矢筒を背負っている。
……俺には気づいていないようだ。
男はネズミに刺さった矢を抜き、顔を上げると、俺と目が合った。
「うおっ!!びっくりした!!」
男は大きな声を上げる。
その声で、俺の方がびっくりする。
「いたなら、いたって言えよ!」
男は大きく息をしながら胸を押さえている。
余程驚かせてしまったようだ。
「あー……すいません」
俺は頭を下げる。
「はぁ……まあいいや。お前も冒険者か?」
「……ええ、そうです」
俺がそう言うと、男は不思議そうな顔をする。
「おいおい、お前も冒険者なんだろ?
堅っ苦しい言葉は止めにしようぜ」
男からはそんな提案をされる。
そういや、ハリソンさんにもそんなことを言われたっけな。
これが普通なのか?
「ああ、分かった」
俺がそう言うと、男は続ける。
「これ、お前の獲物だったのか?」
ネズミを指してそう言う。
「いや、別に気にしなくてもいい」
「そうか、ならいいか」
そう言いながらネズミを担ぐ。
なんだか、やけにあっさりしてるな。
「お前はまだ狩っていくのか?」
「いや、もう帰るところなんだ」
「そうなのか。
んじゃ、一緒に戻るか?」
「そうだな、そうするよ」
……なんだかうまく言えないけど、不思議な人だな。
それにしても、どこから矢を撃ってたんだろうか?
俺たちは農場へと戻っていった。




