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46 料理が冷める前に

 ニニア村を出て、街道の分かれ道に差し掛かる。

 あの時、バリオスが雨のことを言ってくれなかったら……まっすぐスタッグヘルムに向かっていたかもしれない。

 そう思うと、あの村に寄れたのはやっぱり運が良かった。

 俺たちが通り過ぎていたら、どうなっていたか分からない。

 もしかしたらリーフィア村みたいに……。


 そこまで考えて、頭を振る。

 ――今はやめておこう。


 空もこんなに晴れているんだ。

 今は気温も暖かくなってきたし、ペルナ村を出た時よりも気持ちがいい。

 ミラは荷台で横になって眠っている。

 クリスさんも、目を瞑っていた。


「バリオス、また馬車を引いてもらって悪いな」


 俺は馬車を引いているバリオスに話しかける。


『いや、いいさ。これが俺の仕事だしな』


「疲れたら言えよ」


『これくらいじゃ疲れないさ』


「頼もしいな。

 そういや、雨はどうだ? 降りそうか?」


『いや、しばらくは降らないだろう。

 少なくとも三日くらいは降らないはずだ。降ったとしても小雨だな』


「分かった。この前みたいにならないようで安心だ」


『そうだな』





 昼も過ぎ、陽が傾いてきた頃。

 俺たちは夜営の準備を終え、ミラの作ってくれた晩飯を食べていた。


 旅は順調。

 バリオスのお陰もあって、スタッグヘルムへは明日の昼前くらいには着く予定だ。

 頑張ってくれたバリオスは、今は馬車の近くで休んでいる。


「いやあ、ミラさんの作る料理は美味しいですね」


 クリスさんはミラの料理に満足していた。


「ありがとうございます」


 ミラはそう言って笑顔になる。

 すると、クリスさんは少し困った顔をする。


「私が言うのもおかしな話ではあるのですが、敬語を使われるとその……」


 クリスさんから提案される。

 続けてクリスさんが言う。


「一応、私の方が年上ではあると思うのですが……」


 そういえば、そういった話はまだしていなかったな。


「クリスさんは何歳なんですか?」


 俺はそう聞く。


「私は今二十七ですね。お二人は?」


「俺は十八です」


「私も十八ですよ」


 俺とミラも答える。


「そうでしたか!

 お若いとは思っていましたが、なるほど」


 クリスさんはそう言って感心していた。


「それじゃあ、これからは敬語は無しでいきましょう。

 ミラもそれで良いよな?」


「ええ、分かったわ」


「じゃあ改めてよろしくな、クリス」


「よろしくね!」


 俺たちはクリスさんにそう言う。


「ええ、よろしくお願いします」


 クリスはそう言って、ニッコリと笑う。


 ――?


「えっと……クリスは敬語なのか?」


 俺がそう言うと、クリスはまた困ったような顔をする。


「あー……あはは……。

 私はこちらの方が合っていますので、私だけこのままでもいいでしょうか?

 ほら、一応精霊教の牧師ですし!」


 クリスは興奮気味にそう言う。


「まあ、クリスがそこまで言うなら……。

 ミラも良いか?」


「えー、私は普通に会話したいなー。

 でも仕方ないかー」


 そう言って、唇を尖らせる。

 その様子を見たクリスは、またも困ったような顔をする。


「わがままを言ってすみません。

 ダリアさんからも、精霊教の牧師として恥じないように、と言われているので」


 ミラは渋々といった感じで了承する。


「まあ、こういった形があってもいいじゃないか」


 俺がミラにそう言うと「それもそうね」と言って表情が和らぐ。

 クリスも「ありがとうございます」と言って、安心したような表情を浮かべていた。

 俺たちは食事を再開した。





 夕食も終わって一息ついていたところで、パーティーの方針について話していた。


「――分かりました。

 報酬は頭数で均等割り、それとは別に、パーティー資金用にもう一人分ですね」


 クリスは特に不満もないようだった。


「そういや、クリスって武器は何を使うんだ?

 腕が立つのは分かっているんだが……」


 俺がそう言うと、クリスは恥ずかしそうに言う。


「ありがとうございます。

 私の武器は……これですね」


 そう言って取り出したのは短剣だった。

 俺とミラは覗き込んでそれを見る。


「面白いものでもないでしょう?

 お二人の武器に比べたら、特に変わったものでもないはずです」


 クリスはあっけらかんとして言う。

 確かに、俺たちの武器は特殊かもしれない。


 ルークの作ってくれた大剣に、ガーランド騎士団由来の剣と盾だ。


「むしろ、普通の武器であそこまで出来るのは凄いわね」


 ミラはクリスの腕を褒めていた。

 クリスもそれを聞いて、頭をかいて恥ずかしがっていた。


「私は一応軍人でしたからね。こういった訓練も受けていました。

 私はそれ以上にお二人に興味があります。

 冒険者になる前は何を?」


 クリスから聞かれて、俺とミラは顔を見合わせる。

 そして、俺は口を開く。


「隠す必要はないんじゃないか?

 もうパーティーを組んでいるんだし」


「それもそうかもね」


 ミラはうなずく。

 クリスは俺たちの様子をうかがっていた。


 ミラは一呼吸置いた後に話し始める。


「私は、ガーランド公爵、ポール・ガーランドの嫡女。

 ミラ・ガーランドです。

 冒険者になる前は、ガーランド騎士団に所属していました」


 ミラは騎士や貴族の顔つきになっていた。


 ミラがそう言うと、クリスの細い目が少し開かれる。


「そうだったのですか。それなら、ゴブリンを退けたのもうなずけます。

 それと、話し方はこのままでいいのでしょうか?

 貴族様に合わせた話し方の方がいいのでしょうか?」


 俺の時とほとんど一緒の反応だな。

 ミラも、それを分かっていたのか、表情が和らぐ。


「いいえ、クリスの話しやすいものでいいわ。

 私もその方が楽だし」


 ミラはそう言って笑顔になる。

 続けてミラは、自分の旅の目的を話していた。



「――そうだったのですか。

 まだお若いのにそこまで考えているとは……」


 ミラから話を聞いたクリスは、感心していた。

 それを聞いたミラは、少し恥ずかしそうにしていた。


 確かに……誰だって言うのは簡単だけど、実際に行動に移せる人は少ない。

 貴族なら家のこととかもあるだろうし、尚更かもしれない。

 ポールさんとエミリアさんも、ミラのことを尊重しているから出来ることなのかもな。


「さて、私の話は終わり。

 次はクレイグの番ね!」


 ミラからそう言われる。

 俺の方はそんなに大したものじゃないんだけどな。


「俺はペルナ村で、木こりをしていたんだ」


 俺は簡潔にそう言った。

 クリスは少し動揺しているようだった。


「……木こり……ですか?

 それであんなに大きな大剣を……?」


 クリスにそう言われて、説明が足りなかったことを理解する。


「ああ……すまない。

 これは、親父に習っていたんだ」


 俺がそう言うと、クリスはうなずく。


「それにしても、こんな重量級の武器を振り回すなんて……。

 クレイグさんのお父さんもすごい方のようですね」


「……ありがとう」


 俺はそれだけを伝えた。


「クレイグのお父さんって、すっごい人だったのよ!」


 ミラはまるで自分のことかのように元気いっぱいにそう言った。

 しかし、言ってから気付いたのか、俺の顔を伺って一言。


「ごめんなさい……」


 と小声で言った。


「いや、良いんだ。親父のことをそれだけ言ってくれるのは嬉しいよ」


 俺はミラに素直にそう伝えた。

 ミラは少しばつが悪そうにしながらも、笑顔を作ってくれた。

 俺も、それに合わせて笑顔を作る。


「何やら、聞いてはいけないことでしたか?」


「いや、そんなことはない。

 むしろ俺からも言いたいくらいだ」


 俺の親父は凄かった。

 それは伝えるべきかもしれない。


「俺の親父は戦争の時、活躍していたんだ。

 親父から直接聞いたわけじゃないんだけど、ミラの親父さんから教えてもらったんだ。

 ……何でも英雄だったとか」


 俺はそう言う。

 ……言ってから気付く。


「そういえば、クリスはドラー帝国の軍人だったな。

 俺も配慮が足りなかった。すまない」


 俺はそう言って頭を下げる。

 あまりにも無神経だったかもしれない。

 すると、クリスが口を開く。


「ああ、いえ、私はドラー帝国の軍人と言っても、革命軍の方でしたから。

 そういった心配はしなくても大丈夫ですよ」


 クリスは優しく微笑む。

 その言葉と表情でホッとする。


「それにしても、リーンデル側の英雄ですか……。

 もしかして、ケヴィンさんですか?」


「親父のこと、知ってるのか?」


 俺は前のめりになる。


「ええ、もちろん。すごい人でしたよ。

 話をしたことはありませんでしたがね。

 私も、戦争の終盤ではリーンデル王国側についていましたから」


 クリスは少し下を向き、思い出すように言う。


「そうだったのか……」


 クリスも色々と抱えているのかもしれない。

 この先はまだ聞かない方がいいかもしれないな。


「まあ、私の話はいいんです!

 それで、ケヴィンさんもペルナ村にいるのですか?」


 やっぱり、この質問はくるよな……。

 まあ、隠すこともない。


「親父はひと月ほど前に亡くなったんだ」


 それまで穏やかだったクリスの表情が一気に変わる。


「それは本当ですか!?」


 声も先ほどより大きくなっている。


「ああ、本当だ」


 クリスの顔が、見たこともないような悲しい顔をする。

 そして、少しした後、口を開く。


「惜しい人を亡くしましたね。

 ケヴィンさんは皆の憧れでしたから……」


 そう言ってまた顔を伏せる。

 そして、パッと顔を上げる。


「すみません。私から話を振っておきながら……。

 この話はここまでにしましょう。

 料理が冷めてしまいますし!」


「ああ、そうだな」


 横にいたミラもうなずき、料理に手を伸ばす。

 少し冷えた料理は、それでも美味しかった。



 明日はいよいよスタッグヘルムだ。

 気分を変えていかないとな!

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