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45 新たな仲間と

 次の日の朝、俺は騎士団の人たちと一緒に木を切っていた。

 話を聞くと、この村を囲む防護柵を設置するらしい。

 魔物騒ぎの後、ずっと気が張りっぱなしだったし、こういう単純作業はむしろありがたい。

 少し前まではこれが本業みたいなもんだったしな。


 俺が次々と木を切り倒していくと、騎士団の人たちから驚きの声が上がる。

 ……やっぱり、俺はおかしいみたいだ。

 改めて思うが、俺が普通にしていることでも、他の人にとっては驚くほどのことらしい。

 騎士団の人にもそう言われた。

 ペルナ村を出る時に、ルークに言われたことを思い出す。


 『お前基準でものを計るとおかしくなりそう』


 まあ、比較対象は親父だったしな。

 俺はそれを思い出し、口角が上がる。



 一息ついたところで、ミラが飲み物を持ってきてくれる。


「お疲れさま」


「ありがとな」


 俺は、持ってきてくれた冷たい穀物茶を一口飲む。

 胃の中まで冷たい感覚が広がる。

 やっぱり、動いた後はこれだな。


 俺が飲んでいると、周りから視線が突き刺さる。

 ……視線の先には、若い騎士たちがいた。


「あー、俺もミラ様から飲み物をもらいたい!」


 そんな声まで聞こえてくる。

 なんだか、かなり悔しがっている人もいる。

 ミラはそれに気付いた様子はない。

 俺は気まずくなってその場を離れると、ミラも当然のように付いてくる。


 また嘆きの声が聞こえてくる。

 そんなこと言われたって……俺にはどうしようもない。

 ミラって、騎士団でも人気があったのかもしれないな。

 

 



 村人と騎士団のみんなで朝食を終えた。

 出発の準備を済ませた後、俺とバリオスは教会の前へと馬車を移動させていた。


 今はミラとクリスさんを待っている。

 なんだかんだ、この村でもそれなりに過ごしたな。

 村の人とも交流があったし、他の町や村でもこういう風に過ごせたらいいな。

 魔物は勘弁だけど。


 バリオスとも、より近くなった気がする。

 魔術を使えるのも知ったし……。


 俺はこの村での出来事を思い出していると、バリオスがこっちを向く。


『どうした、そんなにじろじろ見てきて』


「いや、別にー」


『変なやつだな』


 そう言うと、バリオスはまた前を向いた。



 少しすると、ミラが教会から出てきた。


「お待たせー」


 この前新調した鎧が、朝日に照らされて光る。

 こうして見ると、本当に様になっている。

 冒険者だと言わなかったら、どこかの騎士団の一員にしか見えない。


 それに比べて俺は……どこからどう見ても冒険者って感じだ。

 クオルでもミラに胸当てを勧められたし、金に余裕ができたら購入するのもありかもな。


「どうしたの?」


 俺の視線が気になったのか、ミラがそう言う。


「鎧、似合うと思ってな」


「? ありがと……いきなりどうしたの?」


『そうだよな、こいつ今日変なんだよ』


 バリオスが横からそう言う。


「変ってなんだよ……」


 俺がそう言うと、ミラとバリオスは笑っていた。



「そういえば、あのドラー帝国の男はどうなったんだ?」


「昨日のうちに遺体をクオルへと運んだわ。

 お父様から移送するように頼まれていたから」


 本当に、これ以上ことが大きくならなければいいが……。

 まあ、これから出発って時に暗いことを考えるのはやめておくか。

 ミラにも心配を掛けるだろうし。


「そうだったのか。

 まあ報告だけじゃ分からないこともあるしな」


「そういうこと」



「それにしてもクリスさん、遅いな」


「ダリアさんに怒られていたみたいよ。

 また服がよれてるとか、襟元がどうとか言われてたみたいよ」


 クリスさん、何やってんだよ……。


「ダリアさんは、まるでクリスさんの母親だな」


「そうみたいね」


 俺とミラは顔を合わせて笑う。

 まあクリスさんにも、そういう一面があるってことか。





「お待たせいたしました~」


 なんとも間の抜けた声とともに、クリスさんが現れる。

 ……魔物が襲ってきたあの日と、同一人物とは思えない雰囲気だ。

 クリスさんの横には、怒ったような顔のダリアさんがいる。


「本当にすまないね。

 こいつがしっかりしていなくて」


 そう言って、クリスさんのお尻を叩く。

 クリスさんはその衝撃で少し飛び上がった後、お尻をさすっていた。


「もう、痛いですよ」


 クリスさんは少し涙目だ。

 よく見ると、クリスさんの格好はいつもの牧師の服とは違って、動きやすそうだった。

 

「クリスさん、その服は?」


 俺は気になって聞いてみた。


「ああ、この服ですか?

 これは精霊教の戦闘服……らしいです」


 クリスさんにもよく分かっていないみたいだ。

 すると、ダリアさんが説明してくれる。


「精霊教の牧師も、軍隊や冒険者の支援に行くこともあるからね。

 そういった時のための服さ。

 ま、そのお株は今じゃ聖珠教に取って代わられてはいるけどね」


「そうなんですか?」


 俺は気になったので、聞き返した。


「そうさ。精霊教の回復魔術は、聖珠教に比べて効果が弱いからね。

 だから、精霊教の牧師や信徒が、そういったことに参加することはもうほぼなくなったよ」


「そうだったんですか……」


 前にミラが言っていたことと同じだ。

 魔物襲撃の時にダリアさんに治療してもらったけど、効果が薄いとは思わなかった……。

 聖珠教の回復魔術は、あれよりもすごいのかな?


「何かあった時のために用意しておいて良かったよ。

 昨日いきなりクリスからこの村を離れると言われたからね」


 そう言って、ダリアさんは笑う。

 隣にいるクリスさんは、恥ずかしそうに頬をかいていた。



 クリスさんの荷物も馬車に積み込み、いざ出発!

 ……という時に、クリスさんはダリアさんに呼び止められた。


「クリス。これ、あんたが持っておきな」


 ダリアさんはクリスさんに何かを渡す。

 クリスさんに渡されたのは真っ赤な宝石だった。

 一瞬、クリアストーンかとも思ったが、あれほど透き通ってはいない。

 

「これは……?」


 クリスさんが聞く。


「お守りだよ。私が若いころ、南のダンジョンで見つけたものさ」


「ダリアさんも、昔は冒険者だったんですか?」


 ミラがそう聞く。


「冒険者なんて立派なものじゃないさ。

 冒険者ギルドが出来る前の話だからね。今だとただの盗掘だよ」


「へぇ、そうだったんですね」


 ミラがそう言うと、ダリアさんはにこやかに微笑んだ。


「ま、あんたたちもそのうち挑戦することになるだろうさ。

 応援しているよ」


「はい!」


 ミラは元気いっぱいに返事をしていた。


「ダリアさん、これ……大事なものではないのですか?」


 クリスさんはそう聞く。


「ああ、いいさ。

 お守りって言っても、私にはもう必要のないものだからね。

 ガーランド騎士団がこの村に常駐してくれるっていうじゃないか。

 私が持っているよりも、あんたに渡した方がいいと思ってね」


「そうですか……。分かりました」


 クリスさんは静かにうなずき、その宝石を懐にしまった。


「無茶するんじゃないよ、三人とも」


「はい、分かりました」


 俺たちは各々返事をする。

 ダリアさんに別れを告げてから、俺は手綱を握り、馬車を走らせた。





 馬車は少しずつ村の出口へと向かう。

 途中、一緒に遊んでいた子供たちと出会う。


「おねえちゃんたち、どこにいくのー?」


 女の子が、俺の横に座っていたミラに話しかける。

 俺は馬車をいったん止めた。

 ミラは馬車から降りていく。


「おねえちゃんたちは次の町に行くのよ」


「そうなの? いつもどってくるの?」


 ミラが困った表情をする。

 すると、クリスさんが馬車から降りる。


「こらこら、お姉さんたちを困らせてはいけませんよ」


 クリスさんは女の子に話しかけていた。


「……クリスせんせいもいっちゃうの?」


 馬車から降りてきたクリスさんを見て、女の子は涙目になり、とうとう泣き出してしまった。


「こら、なくんじゃない!」


 隣にいた男の子が、女の子を叱る。

 男の子も涙目だった。

 クリスさんは二人の前でしゃがんだ後に、二人の頭を優しく撫でていた。


「私は、少し用事が出来ましてね。

 お兄さんやお姉さんの手伝いをすることになりました。

 終わったら戻ってきますよ」


 そう言うと、女の子は少し泣き止む。


「ぜったいに……もどってくるの?」


「ええ、もちろんです」


 クリスさんは優しく微笑みかけてから立ち上がる。

 すると、泣き声を聞きつけた母親が駆けつける。

 クリスさんは、母親と少し話しているようだった。


 話も終わり、クリスさんは馬車に乗り込む。

 子供たちが手を振ると、クリスさんとミラも手を振っていた。


 俺は手綱を握りなおし、馬車をゆっくりと走らせた。





 馬車は村を進んでいく。

 しかし、俺にはどうしても引っかかっていることがあった。

 これをしておかないと……気分が悪い。


「すまん、バリオス。

 少し止まってくれるか?」


『ん? どうした?』


 一軒の家の前でバリオスに馬車を停めてもらう。

 ――あのおじいさんの家だ。

 あのおじいさんとは、あれから話してはいない。

 顔を見かけることはあったが、どうにも避けられていたみたいだ。

 あの夜、緊急事態だったとはいえきつい言い方をしてしまった。

 俺はあの夜のことを謝ろうと思っていた。


「どうしたの?」


 ミラも声をかけてくる。


「ああ……あの夜、おじいさんに怒鳴ってしまっただろ?

 ……謝っておこうと思って」


 そう言うと、ミラは黙ってうなずいていた。


 俺は馬車から降り、家のドアの前に立つ。

 ゆっくりと深呼吸をしてから、ドアをノックする。

 すると、家の中から返事が聞こえる。

 

 俺は緊張していた。

 握った拳は少し汗ばんでいる。


 そして、ドアが開く。


 おじいさんは俺だとすぐに気づき、顔をしかめる。

 何も言ってこない。

 俺は意を決して口を開く。


「あの夜は、怒鳴ってしまってすみませんでした!」


 そう言って頭を下げる。


「……フン」


 その言葉とほぼ同時にドアが「バタンッ!」と、勢いよく閉まる。


 ……はぁ。


 俺は心の中でため息をつく。

 またドアをノックしようとも思ったが、この感じでは取り合ってくれないだろう。

 俺は肩を落としたまま馬車へと戻った。


 俺の様子を見て、ミラが声をかけてくれる。


「……あの夜、クレイグのしたことは間違いじゃなかったわ」


「……そうか。ありがとな」


 自分の口から出た声は、俺が思っていたよりも元気のないものだった。

 俺の声を聞き、クリスさんも声をかけてくれる。


「あのおじいさんは、少し変わっている方でして……。

 十年間この村にいた僕のことも嫌っていました。

 この村では、筋金入りのよそ者嫌いとして通っています」


「そうだったんですか……」


 俺は少しやるせない気持ちになる。


「そういうこともあるって!

 私だって騎士団にいた時に同じような想いをしたこともあったわ」


 ミラは明るく振る舞う。


「やっぱり、二人とも大人だな」


 俺は少し苦い思いをしながら馬車を走らせた。

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