45 新たな仲間と
次の日の朝、俺は騎士団の人たちと一緒に木を切っていた。
話を聞くと、この村を囲む防護柵を設置するらしい。
魔物騒ぎの後、ずっと気が張りっぱなしだったし、こういう単純作業はむしろありがたい。
少し前まではこれが本業みたいなもんだったしな。
俺が次々と木を切り倒していくと、騎士団の人たちから驚きの声が上がる。
……やっぱり、俺はおかしいみたいだ。
改めて思うが、俺が普通にしていることでも、他の人にとっては驚くほどのことらしい。
騎士団の人にもそう言われた。
ペルナ村を出る時に、ルークに言われたことを思い出す。
『お前基準でものを計るとおかしくなりそう』
まあ、比較対象は親父だったしな。
俺はそれを思い出し、口角が上がる。
一息ついたところで、ミラが飲み物を持ってきてくれる。
「お疲れさま」
「ありがとな」
俺は、持ってきてくれた冷たい穀物茶を一口飲む。
胃の中まで冷たい感覚が広がる。
やっぱり、動いた後はこれだな。
俺が飲んでいると、周りから視線が突き刺さる。
……視線の先には、若い騎士たちがいた。
「あー、俺もミラ様から飲み物をもらいたい!」
そんな声まで聞こえてくる。
なんだか、かなり悔しがっている人もいる。
ミラはそれに気付いた様子はない。
俺は気まずくなってその場を離れると、ミラも当然のように付いてくる。
また嘆きの声が聞こえてくる。
そんなこと言われたって……俺にはどうしようもない。
ミラって、騎士団でも人気があったのかもしれないな。
◇
村人と騎士団のみんなで朝食を終えた。
出発の準備を済ませた後、俺とバリオスは教会の前へと馬車を移動させていた。
今はミラとクリスさんを待っている。
なんだかんだ、この村でもそれなりに過ごしたな。
村の人とも交流があったし、他の町や村でもこういう風に過ごせたらいいな。
魔物は勘弁だけど。
バリオスとも、より近くなった気がする。
魔術を使えるのも知ったし……。
俺はこの村での出来事を思い出していると、バリオスがこっちを向く。
『どうした、そんなにじろじろ見てきて』
「いや、別にー」
『変なやつだな』
そう言うと、バリオスはまた前を向いた。
少しすると、ミラが教会から出てきた。
「お待たせー」
この前新調した鎧が、朝日に照らされて光る。
こうして見ると、本当に様になっている。
冒険者だと言わなかったら、どこかの騎士団の一員にしか見えない。
それに比べて俺は……どこからどう見ても冒険者って感じだ。
クオルでもミラに胸当てを勧められたし、金に余裕ができたら購入するのもありかもな。
「どうしたの?」
俺の視線が気になったのか、ミラがそう言う。
「鎧、似合うと思ってな」
「? ありがと……いきなりどうしたの?」
『そうだよな、こいつ今日変なんだよ』
バリオスが横からそう言う。
「変ってなんだよ……」
俺がそう言うと、ミラとバリオスは笑っていた。
「そういえば、あのドラー帝国の男はどうなったんだ?」
「昨日のうちに遺体をクオルへと運んだわ。
お父様から移送するように頼まれていたから」
本当に、これ以上ことが大きくならなければいいが……。
まあ、これから出発って時に暗いことを考えるのはやめておくか。
ミラにも心配を掛けるだろうし。
「そうだったのか。
まあ報告だけじゃ分からないこともあるしな」
「そういうこと」
「それにしてもクリスさん、遅いな」
「ダリアさんに怒られていたみたいよ。
また服がよれてるとか、襟元がどうとか言われてたみたいよ」
クリスさん、何やってんだよ……。
「ダリアさんは、まるでクリスさんの母親だな」
「そうみたいね」
俺とミラは顔を合わせて笑う。
まあクリスさんにも、そういう一面があるってことか。
◇
「お待たせいたしました~」
なんとも間の抜けた声とともに、クリスさんが現れる。
……魔物が襲ってきたあの日と、同一人物とは思えない雰囲気だ。
クリスさんの横には、怒ったような顔のダリアさんがいる。
「本当にすまないね。
こいつがしっかりしていなくて」
そう言って、クリスさんのお尻を叩く。
クリスさんはその衝撃で少し飛び上がった後、お尻をさすっていた。
「もう、痛いですよ」
クリスさんは少し涙目だ。
よく見ると、クリスさんの格好はいつもの牧師の服とは違って、動きやすそうだった。
「クリスさん、その服は?」
俺は気になって聞いてみた。
「ああ、この服ですか?
これは精霊教の戦闘服……らしいです」
クリスさんにもよく分かっていないみたいだ。
すると、ダリアさんが説明してくれる。
「精霊教の牧師も、軍隊や冒険者の支援に行くこともあるからね。
そういった時のための服さ。
ま、そのお株は今じゃ聖珠教に取って代わられてはいるけどね」
「そうなんですか?」
俺は気になったので、聞き返した。
「そうさ。精霊教の回復魔術は、聖珠教に比べて効果が弱いからね。
だから、精霊教の牧師や信徒が、そういったことに参加することはもうほぼなくなったよ」
「そうだったんですか……」
前にミラが言っていたことと同じだ。
魔物襲撃の時にダリアさんに治療してもらったけど、効果が薄いとは思わなかった……。
聖珠教の回復魔術は、あれよりもすごいのかな?
「何かあった時のために用意しておいて良かったよ。
昨日いきなりクリスからこの村を離れると言われたからね」
そう言って、ダリアさんは笑う。
隣にいるクリスさんは、恥ずかしそうに頬をかいていた。
クリスさんの荷物も馬車に積み込み、いざ出発!
……という時に、クリスさんはダリアさんに呼び止められた。
「クリス。これ、あんたが持っておきな」
ダリアさんはクリスさんに何かを渡す。
クリスさんに渡されたのは真っ赤な宝石だった。
一瞬、クリアストーンかとも思ったが、あれほど透き通ってはいない。
「これは……?」
クリスさんが聞く。
「お守りだよ。私が若いころ、南のダンジョンで見つけたものさ」
「ダリアさんも、昔は冒険者だったんですか?」
ミラがそう聞く。
「冒険者なんて立派なものじゃないさ。
冒険者ギルドが出来る前の話だからね。今だとただの盗掘だよ」
「へぇ、そうだったんですね」
ミラがそう言うと、ダリアさんはにこやかに微笑んだ。
「ま、あんたたちもそのうち挑戦することになるだろうさ。
応援しているよ」
「はい!」
ミラは元気いっぱいに返事をしていた。
「ダリアさん、これ……大事なものではないのですか?」
クリスさんはそう聞く。
「ああ、いいさ。
お守りって言っても、私にはもう必要のないものだからね。
ガーランド騎士団がこの村に常駐してくれるっていうじゃないか。
私が持っているよりも、あんたに渡した方がいいと思ってね」
「そうですか……。分かりました」
クリスさんは静かにうなずき、その宝石を懐にしまった。
「無茶するんじゃないよ、三人とも」
「はい、分かりました」
俺たちは各々返事をする。
ダリアさんに別れを告げてから、俺は手綱を握り、馬車を走らせた。
◇
馬車は少しずつ村の出口へと向かう。
途中、一緒に遊んでいた子供たちと出会う。
「おねえちゃんたち、どこにいくのー?」
女の子が、俺の横に座っていたミラに話しかける。
俺は馬車をいったん止めた。
ミラは馬車から降りていく。
「おねえちゃんたちは次の町に行くのよ」
「そうなの? いつもどってくるの?」
ミラが困った表情をする。
すると、クリスさんが馬車から降りる。
「こらこら、お姉さんたちを困らせてはいけませんよ」
クリスさんは女の子に話しかけていた。
「……クリスせんせいもいっちゃうの?」
馬車から降りてきたクリスさんを見て、女の子は涙目になり、とうとう泣き出してしまった。
「こら、なくんじゃない!」
隣にいた男の子が、女の子を叱る。
男の子も涙目だった。
クリスさんは二人の前でしゃがんだ後に、二人の頭を優しく撫でていた。
「私は、少し用事が出来ましてね。
お兄さんやお姉さんの手伝いをすることになりました。
終わったら戻ってきますよ」
そう言うと、女の子は少し泣き止む。
「ぜったいに……もどってくるの?」
「ええ、もちろんです」
クリスさんは優しく微笑みかけてから立ち上がる。
すると、泣き声を聞きつけた母親が駆けつける。
クリスさんは、母親と少し話しているようだった。
話も終わり、クリスさんは馬車に乗り込む。
子供たちが手を振ると、クリスさんとミラも手を振っていた。
俺は手綱を握りなおし、馬車をゆっくりと走らせた。
◇
馬車は村を進んでいく。
しかし、俺にはどうしても引っかかっていることがあった。
これをしておかないと……気分が悪い。
「すまん、バリオス。
少し止まってくれるか?」
『ん? どうした?』
一軒の家の前でバリオスに馬車を停めてもらう。
――あのおじいさんの家だ。
あのおじいさんとは、あれから話してはいない。
顔を見かけることはあったが、どうにも避けられていたみたいだ。
あの夜、緊急事態だったとはいえきつい言い方をしてしまった。
俺はあの夜のことを謝ろうと思っていた。
「どうしたの?」
ミラも声をかけてくる。
「ああ……あの夜、おじいさんに怒鳴ってしまっただろ?
……謝っておこうと思って」
そう言うと、ミラは黙ってうなずいていた。
俺は馬車から降り、家のドアの前に立つ。
ゆっくりと深呼吸をしてから、ドアをノックする。
すると、家の中から返事が聞こえる。
俺は緊張していた。
握った拳は少し汗ばんでいる。
そして、ドアが開く。
おじいさんは俺だとすぐに気づき、顔をしかめる。
何も言ってこない。
俺は意を決して口を開く。
「あの夜は、怒鳴ってしまってすみませんでした!」
そう言って頭を下げる。
「……フン」
その言葉とほぼ同時にドアが「バタンッ!」と、勢いよく閉まる。
……はぁ。
俺は心の中でため息をつく。
またドアをノックしようとも思ったが、この感じでは取り合ってくれないだろう。
俺は肩を落としたまま馬車へと戻った。
俺の様子を見て、ミラが声をかけてくれる。
「……あの夜、クレイグのしたことは間違いじゃなかったわ」
「……そうか。ありがとな」
自分の口から出た声は、俺が思っていたよりも元気のないものだった。
俺の声を聞き、クリスさんも声をかけてくれる。
「あのおじいさんは、少し変わっている方でして……。
十年間この村にいた僕のことも嫌っていました。
この村では、筋金入りのよそ者嫌いとして通っています」
「そうだったんですか……」
俺は少しやるせない気持ちになる。
「そういうこともあるって!
私だって騎士団にいた時に同じような想いをしたこともあったわ」
ミラは明るく振る舞う。
「やっぱり、二人とも大人だな」
俺は少し苦い思いをしながら馬車を走らせた。




