表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/55

44 立派な牧師

「私を……あなた達の旅に同行させてもらえませんか?」


 クリスさんから、思いもよらない言葉が飛び出し、戸惑ってしまう。

 ミラの方を見るが、ミラもこちらを向いていた。

 俺たちの様子を見て、クリスさんがほほ笑む。


「あなた達は本当に仲がいいですね」


 クリスさんの言葉で、俺は気恥ずかしくなり、ミラから顔をそむける。

 そして、クリスさんの方を見て言う。


「突然のことで驚いてしまいました。

 ……理由を聞いてもいいですか?」


「分かりました」


 クリスさんはそう言い、落ち着いた口調で話し始める。


「私が元ドラー帝国の軍人だというのは話しましたよね?

 ……あの戦争は本当に悲惨なものでした」


 クリスさんは、一度だけ視線を落とす。


「今、その脅威がまた広がろうとしています。

 今回のニニア村のように、また被害が出るかもしれない」


 クリスさんの表情は、暗いままだ。

 ……俺は一つ提案をしてみる。


「それなら尚更、リーンデル王国軍に志願するというのは?」


 すると、クリスさんは遠い目をして話し出す。


「前にも話しましたが、戦争が終わってから十年……。

 まだ、ドラー帝国のことを良く思っていない人がいるのも事実です。

 私も、余計な軋轢は生みたくありません」


 クリスさんは、少し思い詰めたような表情で言葉を続ける。


「冒険者なら、そういったしがらみは正規の軍よりも少ないでしょう。

 それに……背中を預けるなら、この村を守ってくれたあなた方のような方でないと」


 そう言って、クリスさんは微笑んだ。


 俺たちは、思っていた以上にクリスさんに信頼されているようだ。

 だが……クリスさんには悪いが、少しだけ()()みる。


 ……黒い靄は出ていない。


 これはクリスさんの本心のようだ。


「少し……相談してもいいですか?」


「分かりました。

 それでは、私は教会へ戻りますね」


 クリスさんはそう言って、教会へと歩いて行った。





 クリスさんが去った後、俺たちは自然と向き合う。


「いきなりだったな」


「ええ、そうね」


 少しの沈黙が流れる。


「ミラはどう思う?」


 沈黙に耐え切れなくて、俺はミラに聞く。


「そうね……。

 クリスさんは悪い人じゃなさそうだし、私は良いと思う」


「そうだよな。俺も同じことを思ってた。

 普段は変な人だけど、ちゃんとした大人だし」


 俺がそう言うと、ミラは少し笑っていた。


「そういえばクレイグは、あの()()()は使ったの?」


「ああ、別に黒い靄はなかったな」


「そうなのね。それじゃあ大丈夫じゃないかしら?」


「俺もそう思ってはいるんだが、問題は……」


 俺が言葉を濁すと、ミラが続ける。


「バリオスのことね?」


 ミラは俺の顔を伺いながらそう言う。

 俺は小さくうなずく。


 そう、問題はそこだ。

 最初の取っ付きが良くなかったしな……。

 最近は最初よりも対応が柔らかくなったが、果たしてどうだろうか?


「まあ、聞いてみるしかないよなぁ」


「そうね。とりあえずバリオスにも話しに行きましょ」


 俺はうなずくと、ミラと一緒にバリオスの元へと向かった。





 小屋に着くと、バリオスはいつものように寝転がっていた。

 クオルまでの往復もしてもらっていたし、そのおかげでニニア村への対応も早かった。

 バリオスには感謝してもしきれない。


 そんなバリオスにちょっと話しづらい感じはあったが、話さないと進まないしな。

 俺たちは、休んでいるバリオスに話しかける。


「なあバリオス。休んでいるのにすまないが、ちょっと相談があるんだ」


 俺は恐る恐る尋ねる。


『何だ?』


 バリオスは首だけ持ち上げ、こちらを向く。


「その、旅なんだが……クリスさんも一緒に行っても大丈夫か?」


 俺は単刀直入に言う。


『……』


 バリオスは、俺たちを見たまま黙っている。

 なんとも言えない空気が辺りを包む。

 俺はいたたまれなくなり、言葉を続ける。


「バリオスが嫌だったら、クリスさんの方は断る。

 嫌な人間を無理して受け入れる必要はないから」


 俺はそう言ってバリオスの返事を待つ。

 ミラも不安そうな顔をしている。


 しばらくの沈黙の後、バリオスは答える。


『……あの男も一緒で良いぜ』


 その言葉で、俺とミラは同時に息を吐く。


「そうか……。無理はしてないんだよな?」


『ああ。最初こそ最悪だったが……今はそうでもない。

 あいつなりに考えて行動した結果だろう。

 しかも、お前らが信用しているんだ。それなら、尚更断る理由がねえよ』


 俺はその言葉を聞いてほっとする。

 ミラも胸をなでおろしていた。


「ありがとな、バリオス」


 ミラも一緒にお礼を言っていた。


『礼はよせ。そんなに言われるようなことはしていない。

 それに……俺たちは仲間だろ?』


 その言葉で胸の奥が熱くなる。


「そうか、そうだよな」


 横を見ると、ミラも笑顔になっていた。


「んじゃ、クリスさんに伝えてくるよ」


「いってらっしゃーい」

『おう』


 俺は二人に見送られながら教会へと向かった。





 教会でクリスさんに全てを伝えると、今度はクリスさんの方からバリオスに会いたいと言ってきた。

 俺はクリスさんを連れて、小屋へと戻った。


「おーい。クリスさん、連れて来たぞ」


 俺の言葉に反応して、二人ともこちらを向く。

 ミラは察したのか、バリオスから離れて俺の横に来る。


 クリスさんはバリオスに近づいていく。


「まともに話すのはこれが初めてですね。

 その……初対面の時はすみませんでした」


 クリスさんは、そう言って頭を下げる。

 それを見ても、バリオスは何も言わない。


 えっと……大丈夫なんだよな?

 俺は少し不安になる。

 横を見ると、ミラも心配そうな顔をしていた。

 ここで余計な口を出すのも少し気が引ける。

 俺たちは黙って見守ることにした。


 クリスさんは、頭を上げて言葉を続ける。


「それと、旅の同行の許可をいただき、ありがとうございます」


 すると、バリオスは一度鼻息を鳴らしてから口を開く。


『……最初からそう言えばいいんだよ。

 余計なことは言わなくていい。……もう仲間なんだろ?』


「……ありがとうございます」


 クリスさんは、さっきよりも柔らかい声でそう言って、もう一度頭を下げた。

 俺はそれを見て、ようやく肩の力が抜けた気がした。

 ミラはバリオスに飛びついていた。

 バリオスはわざとらしくため息をついていたが、嫌そうには見えない。

 それを見て、俺は笑いがこぼれる。

 なんともミラらしいと言うかなんというか。

 クリスさんもそれを見て微笑んでいた。





 一息ついた後に、クリスさんはダリアさんに報告してくると言い、教会へと戻っていった。


 陽もだいぶ傾き、そろそろ晩飯の時間になっていた。

 騎士の人たちもテントを張り終え、火を焚いていた。


 結構な人数がいるが、役割分担がしっかりしていて、人の動きに無駄がない。

 流石は騎士団って感じだな。


 ミラの話では、炊き出し用食料も結構持ってきているみたいだ。

 今夜はそれにあやかろうという話になっていた。


「俺たち、本当に手伝わなくていいのか?」


 俺はミラに聞く。


「ええ、これも騎士団の仕事よ。

 こういう時にしっかり動いておかないと、いざって時に動けなくなっちゃうから」


「へぇ、しっかりしてるんだな」


 俺は騎士団の動きを見ながらそう答える。


「ミラもこういうことはやっていたのか?」


「勿論!訓練の一環で、定期的に街でやっていたわ」


 俺が村でのんびり過ごしていた時に、ミラはもう人のために動いていたのか。

 そう思うと、自分が少し恥ずかしくなる。


 ――人のために……か。



「あ!!」


 そんなことを思っていると、ミラが声を上げる。


「どうした?」


「ほら、あれ……」


 ミラが指さした方向は、教会だった。

 見てみると、そこにはダリアさんと……クリスさんかあれは!?


 クリスさんらしき人は、髪が短くなっていた。

 狼のようだった髪型は短くなっていて、長かった襟足はなくなっている。

 胡散臭かった牧師は、今やどこからどう見ても立派な牧師に見える。


 俺たちの目線に気付いたクリスさんは、いそいそとこちらへ来る。


「いやー、あはは……。

 ダリアさんに報告したら、髪を切られてしまいました」


 クリスさんは頭を触りながら、恥ずかしそうに言う。


「絶対にそっちのほうがいいですよ!」


 ミラは自信満々にそう言う。


「俺もそっちの方がいいと思います。

 前のはその……胡散臭く見えましたよ」


 そう言うと、クリスさんはまたもや恥ずかしそうにする。


「そうでしたか……」


「だから言ってただろ。髪を切っておけって」


 いつの間にか横に来ていたダリアさんからは、そんな言葉が飛ぶ。

 クリスさんは縮こまってしまっていた。


「二人とも、こいつをよろしくね」


 まるで子供を思うかのようなダリアさんに、俺たちは二人で返事をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ