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43 人間兵器疑惑

 ミラが出発してから三日が経った。

 幸いなことに、村の人たちに怪我人は出なかった。

 被害といえば、家が少し壊れていたところがあったくらい。

 村の人たちも、最初の二日は顔がこわばっていたが、今では笑い声が少しずつ戻ってきていた。


 これだけのことで済んだのは、不幸中の幸いだったろうな。

 もし通り過ぎていたらと思うと、今でもゾッとする。

 俺たちがたまたまいて良かった。


 俺はミラが帰ってくるまでの間、クリスさんと一緒に村の警備や家の修繕の手伝いをしていた。

 あの日から魔物も来ていない。

 バリオスがいない間、いつ魔物が襲ってくるとも限らない。

 俺は最大限に警戒していた。


 こう考えると、バリオスってやっぱりすごいんだな。

 魔物を寄せつけないために、ずっと気を張っていてくれていたんだし……。

 帰ってきたら改めて礼を言わないと。





 いつものように小屋で薪割りをしていると、馬の足音が聞こえる。


 ――ミラとバリオスが帰ってきたのか?


 俺は小屋の外へ出る。

 教会の前には、見慣れた二人がいた。

 二人の後ろには、数人の馬に乗った騎士がいた。


 俺は二人へと近づき、声をかける。


「おかえり」


「ただいま」

『おう』


 バリオスはいつも通りだけど、ミラはビシッとしていて騎士っぽい感じがする。

 後ろに騎士団の人たちがいるからかな?


 ミラは騎士たちを連れて、教会の中へ入っていった。





 しばらくすると、ミラが教会の中から出てくる。

 そして教会の裏へと、騎士たちを連れて歩いて行った。


 それとは別に、また馬の足音が聞こえてくる。

 今度は馬車が何台も連なっている。


 こうして見ると、かなり威圧感があるというか……やっぱり軍隊って感じがするな。

 村の皆も、不安そうに様子を窺っている。

 

 すると、兜を脱いだ責任者らしき人が説明をする。


「この村には、我々ガーランド騎士団の兵が常駐します。

 周辺の警備と復旧の支援も行うので、安心して下さい」


 その言葉で、村の皆は安堵の表情を浮かべる。

 その表情を見て、騎士たちの表情も緩む。


 良かった。

 こんなに早く話が進むなんて……ミラも上手く説明してくれたようだ。


「お待たせー」


 気が付くと、ミラは俺の横に立っていた。


「ありがとうミラ。

 ミラがいなかったら、村の人たちのこんな表情は見られなかったよ」


 ミラもみんなの顔を見渡す。

 そして優しく微笑んで、気恥ずかしそうに頬をかいていた。


「そういや、ポールさんは何て言ってた?」


 ミラの表情が変わる。


「多くは話してくれなかったけど、やっぱり、クリスさんが言っていたことは本当だったみたい。

 お父様も険しい顔をしていたわ。

 こんなにきちんとした騎士団の派遣……。ただの魔物の襲撃だとは見ていないはずよ」


 ミラのその表情からすべてが伝わる。


「ミラは、その……騎士団に戻ったりするのか?」


 俺は思った事を聞く。

 クリスさんの話では、国が動くかもしれない話だ。

 そうなってもおかしくはないだろう。

 すると、ミラの表情は柔らかくなる。


「いえ、私は戻らなくても大丈夫だって。お父様がそう言ってくれたのよ」


 俺はそれを聞いてほっとする。


「心配してくれたの?」


「いや、まあ……そりゃあ。仲間だしな」


 俺は恥ずかしくなって顔をそらす。

 あーなんか、嫌な予感がするな。

 俺の予想通り、にやけ顔のミラが覗き込んでくる。

 ――その後ろから、クリスさんも覗き込んできた。


「うおっ!?」


 俺はそれに驚いてしまった。

 ミラは俺の反応を見て驚いた後に、後ろを向いて一瞬だけ体がビクッと跳ねていた。


「いやー、あまりにも仲良く見えたもので」


 クリスさんはあっけらかんとして、ニコニコしていた。

 この人、本当に心臓に悪い。

 

「ミラさん、ありがとうございました」


 そう言って、クリスさんは頭を下げた。


「いえ、当然のことをしたまでです」


 ミラはそう言い、柔らかな表情を見せていた。

 顔を上げたクリスさんはこちらを伺う。


「お二人は、明日には出発されるのですか?」


 俺とミラはお互いの顔を見る。


「そうですね……この村ももう大丈夫そうですし、明日には出発しようかと思います」


 ミラも同じようにうなずいていた。


「そうでしたか。少し相談が――」


「「クリスせんせー!」」


 元気いっぱいな声が、クリスさんの言葉を遮る。

 声の主は、あの子供たちだった。


 クリスさんは、子供たちの方へ向き、視線を低くする。


「元気ですねー。どうかしましたか?」


 その表情は、バリオスに殺気を向けた時とは真逆。

 とても優しい顔をしていた。


「せんせー! あそんでー!」


 男の子はそう言って、クリスさんの腕を引く。


「仕方ないですねー」


 クリスさんはそう言って立ち上がる。


「お二人とも、この話はまた後ほど」


 クリスさんは子供たちの方に歩いて行く。


「ねぇねぇ、私たちも行かない?」


 ミラは、興味津々といった感じだ。


「村の復興は手伝わなくていいのか?」


 俺は騎士団がいる方を見てみる。

 ……なんだか忙しそうにしてるけど。


「まだ準備段階よ。

 それに、まずはテントとかの設営があるから、私たちがいたほうが邪魔よ」


 そう言って俺の背中をぐいぐい押す。


「そうなのか? それならいいか」


 俺がそう言うと、背中にかかる力が弱くなる。


「何事も息抜きは必要よ!」


「そんなもんか」


 思えばあの夜から、ほとんど気が緩んでいないような気がする。

 ……まあ、これくらいならいいか。


 俺たちはクリスさんたちの後を追った。





 俺たちが追い付くと、クリスさんは、木に的を設置し終えたところだった。


「あなた達も来たのですね」


 クリスさんにそう言われる。


「ええ、少し息抜きに」


 俺がそう言うとクリスさんは笑っていた。


「ねーねー、はやくー!」


 男の子はクリスさんを急かす。


「はいはい。じゃあいつものからやっていきましょうか」


 クリスさんは的から離れたところに線を引き、そこに男の子を立たせる。

 そして、投げ方のおさらいをしているようだった。


 俺はミラの方を見てみる。

 ミラの顔は強張っていた。


「ミラも教えてもらったらどうだ?」


「私は大丈夫かな~アハハ……」


 乾いた笑い声だった。



 子供たちは的当てを始める。

 何回か投げた後に、クリスさんが修正して、また投げる。

 何回かすると、徐々に的に当たるようになってきた。

 子供たちは大喜びだ。


 今度はクリスさんも投げる。

 何回か投げるが、全部的のど真ん中に当たっている。


「すごいな」


 俺は思わず声に出ていた。


「本当ね」


 ミラも驚いていた。


 すると、男の子たちが話しかけてくる。


「おねえちゃんたちもやってみてよ!」


 ミラは男の子に手を引かれる。


「え、あ、えっと……」


 ミラは困ったような表情を浮かべてこちらを見る。


「諦めたほうがいいかもな」


 俺は一言だけそう言う。

 ミラは渋々線の引かれた場所に立った。


 子供たちの顔はキラキラしている。

 ミラも、覚悟を決めたように石を手に取った。

 ――そして、投げる。

 

 石は的から大きく外れ、森の中に落ちた。

 子供たちは口を開けてミラを見つめている。


 ミラはこちらに振り向く。

 顔を真っ赤にしていた。


「……まあ、そういうこともあります」


 クリスさんは冷静だった。

 ミラは恥ずかしくなったのか、足早に俺の横に来る。


「……次はクレイグの番ね」


「……ああ、分かった」



 俺はミラに言われるがままに線の前に立つ。

 少し肩を回してから石を拾う。


 さっきミラの一投で、子供たちの期待はちょっとだけしぼんでいた。


 とりあえず軽く投げよう。

 あまり強く投げると的が壊れるかもしれない。


 俺は適当に投げた。

 シューという音が鳴り、中心からは外れたが、的に当たる。


 それを見た子供たちははしゃいでいた。


「すっげー!」

「すごーい!」


 的からは外れてしまったが、子供たちからはそんな言葉を貰ってしまった。

 ミラとクリスさんは目をまん丸にしていた。


「いやー、すごいですね。あんなに速く投げることが出来るとは……」


「そうかな?」


「ねーねー! もっとはやくなげることはできるの!?」


 子供たちはそんなことを言いながら、目を輝かせている。


「もう少しくらいなら……」


「本気で投げることは出来ますか?」


 クリスさんからはそんなことを言われてしまう。


「はい……。的が壊れるかもしれないので、外してもらえますか?」


「分かりました」


 クリスさんはそう言って、木から的を外す。

 子供たちとミラは目を輝かせている。

 ……ミラまでかよ。


 俺は三人の期待を背負いながら投げる。


 ――ドッ!!


 鈍い音がして、石は木にめり込んでいた。


「すっげーーー!!」


 ミラと子供たちはさっきよりもはしゃいでいた。

 クリスさんは……顔が引きつっていた。


「クレイグさんは兵器か何かですか?」


 クリスさんからはそんな言葉が飛び出す。


「流石に言い過ぎでは!?」


 俺は思わずそう返した。





 それからは、クリスさんがミラに教えたり、俺が子供たちの相手をしていたりした。

 気が付くと、陽は少し傾いてきていた。


「それじゃあ、今日はこのくらいにしておきましょうか」


 クリスさんがそう言う。

 ちょうど良く、子供たちの母親が来ていた。

 子供たちは母親の元へと駆けていく。


「ほら、先生たちにお礼は言ったの?」


「「せんせいたちー。ありがとー!」」


 そう言って、手を振っている。

 俺たちは手を振り返す。

 そして、お辞儀をして帰っていった。



「あなたたちが村を守ってくれたおかげです」


 クリスさんは言う。


「ええ、守り切れてよかったです」


 ミラはそう答える。

 俺はうなずくだけにしておいた。

 クリスさんの顔も柔らかくなる。

 そして、少し顔つきが真剣なものになる。


「そういえば、さっきの話の続きですが……」


「相談したいって言っていたことですか?」


 俺は聞き返す。


「ええ、そうです。

 私を……あなた達の旅に同行させてもらえませんか?」

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