43 人間兵器疑惑
ミラが出発してから三日が経った。
幸いなことに、村の人たちに怪我人は出なかった。
被害といえば、家が少し壊れていたところがあったくらい。
村の人たちも、最初の二日は顔がこわばっていたが、今では笑い声が少しずつ戻ってきていた。
これだけのことで済んだのは、不幸中の幸いだったろうな。
もし通り過ぎていたらと思うと、今でもゾッとする。
俺たちがたまたまいて良かった。
俺はミラが帰ってくるまでの間、クリスさんと一緒に村の警備や家の修繕の手伝いをしていた。
あの日から魔物も来ていない。
バリオスがいない間、いつ魔物が襲ってくるとも限らない。
俺は最大限に警戒していた。
こう考えると、バリオスってやっぱりすごいんだな。
魔物を寄せつけないために、ずっと気を張っていてくれていたんだし……。
帰ってきたら改めて礼を言わないと。
◇
いつものように小屋で薪割りをしていると、馬の足音が聞こえる。
――ミラとバリオスが帰ってきたのか?
俺は小屋の外へ出る。
教会の前には、見慣れた二人がいた。
二人の後ろには、数人の馬に乗った騎士がいた。
俺は二人へと近づき、声をかける。
「おかえり」
「ただいま」
『おう』
バリオスはいつも通りだけど、ミラはビシッとしていて騎士っぽい感じがする。
後ろに騎士団の人たちがいるからかな?
ミラは騎士たちを連れて、教会の中へ入っていった。
◇
しばらくすると、ミラが教会の中から出てくる。
そして教会の裏へと、騎士たちを連れて歩いて行った。
それとは別に、また馬の足音が聞こえてくる。
今度は馬車が何台も連なっている。
こうして見ると、かなり威圧感があるというか……やっぱり軍隊って感じがするな。
村の皆も、不安そうに様子を窺っている。
すると、兜を脱いだ責任者らしき人が説明をする。
「この村には、我々ガーランド騎士団の兵が常駐します。
周辺の警備と復旧の支援も行うので、安心して下さい」
その言葉で、村の皆は安堵の表情を浮かべる。
その表情を見て、騎士たちの表情も緩む。
良かった。
こんなに早く話が進むなんて……ミラも上手く説明してくれたようだ。
「お待たせー」
気が付くと、ミラは俺の横に立っていた。
「ありがとうミラ。
ミラがいなかったら、村の人たちのこんな表情は見られなかったよ」
ミラもみんなの顔を見渡す。
そして優しく微笑んで、気恥ずかしそうに頬をかいていた。
「そういや、ポールさんは何て言ってた?」
ミラの表情が変わる。
「多くは話してくれなかったけど、やっぱり、クリスさんが言っていたことは本当だったみたい。
お父様も険しい顔をしていたわ。
こんなにきちんとした騎士団の派遣……。ただの魔物の襲撃だとは見ていないはずよ」
ミラのその表情からすべてが伝わる。
「ミラは、その……騎士団に戻ったりするのか?」
俺は思った事を聞く。
クリスさんの話では、国が動くかもしれない話だ。
そうなってもおかしくはないだろう。
すると、ミラの表情は柔らかくなる。
「いえ、私は戻らなくても大丈夫だって。お父様がそう言ってくれたのよ」
俺はそれを聞いてほっとする。
「心配してくれたの?」
「いや、まあ……そりゃあ。仲間だしな」
俺は恥ずかしくなって顔をそらす。
あーなんか、嫌な予感がするな。
俺の予想通り、にやけ顔のミラが覗き込んでくる。
――その後ろから、クリスさんも覗き込んできた。
「うおっ!?」
俺はそれに驚いてしまった。
ミラは俺の反応を見て驚いた後に、後ろを向いて一瞬だけ体がビクッと跳ねていた。
「いやー、あまりにも仲良く見えたもので」
クリスさんはあっけらかんとして、ニコニコしていた。
この人、本当に心臓に悪い。
「ミラさん、ありがとうございました」
そう言って、クリスさんは頭を下げた。
「いえ、当然のことをしたまでです」
ミラはそう言い、柔らかな表情を見せていた。
顔を上げたクリスさんはこちらを伺う。
「お二人は、明日には出発されるのですか?」
俺とミラはお互いの顔を見る。
「そうですね……この村ももう大丈夫そうですし、明日には出発しようかと思います」
ミラも同じようにうなずいていた。
「そうでしたか。少し相談が――」
「「クリスせんせー!」」
元気いっぱいな声が、クリスさんの言葉を遮る。
声の主は、あの子供たちだった。
クリスさんは、子供たちの方へ向き、視線を低くする。
「元気ですねー。どうかしましたか?」
その表情は、バリオスに殺気を向けた時とは真逆。
とても優しい顔をしていた。
「せんせー! あそんでー!」
男の子はそう言って、クリスさんの腕を引く。
「仕方ないですねー」
クリスさんはそう言って立ち上がる。
「お二人とも、この話はまた後ほど」
クリスさんは子供たちの方に歩いて行く。
「ねぇねぇ、私たちも行かない?」
ミラは、興味津々といった感じだ。
「村の復興は手伝わなくていいのか?」
俺は騎士団がいる方を見てみる。
……なんだか忙しそうにしてるけど。
「まだ準備段階よ。
それに、まずはテントとかの設営があるから、私たちがいたほうが邪魔よ」
そう言って俺の背中をぐいぐい押す。
「そうなのか? それならいいか」
俺がそう言うと、背中にかかる力が弱くなる。
「何事も息抜きは必要よ!」
「そんなもんか」
思えばあの夜から、ほとんど気が緩んでいないような気がする。
……まあ、これくらいならいいか。
俺たちはクリスさんたちの後を追った。
◇
俺たちが追い付くと、クリスさんは、木に的を設置し終えたところだった。
「あなた達も来たのですね」
クリスさんにそう言われる。
「ええ、少し息抜きに」
俺がそう言うとクリスさんは笑っていた。
「ねーねー、はやくー!」
男の子はクリスさんを急かす。
「はいはい。じゃあいつものからやっていきましょうか」
クリスさんは的から離れたところに線を引き、そこに男の子を立たせる。
そして、投げ方のおさらいをしているようだった。
俺はミラの方を見てみる。
ミラの顔は強張っていた。
「ミラも教えてもらったらどうだ?」
「私は大丈夫かな~アハハ……」
乾いた笑い声だった。
子供たちは的当てを始める。
何回か投げた後に、クリスさんが修正して、また投げる。
何回かすると、徐々に的に当たるようになってきた。
子供たちは大喜びだ。
今度はクリスさんも投げる。
何回か投げるが、全部的のど真ん中に当たっている。
「すごいな」
俺は思わず声に出ていた。
「本当ね」
ミラも驚いていた。
すると、男の子たちが話しかけてくる。
「おねえちゃんたちもやってみてよ!」
ミラは男の子に手を引かれる。
「え、あ、えっと……」
ミラは困ったような表情を浮かべてこちらを見る。
「諦めたほうがいいかもな」
俺は一言だけそう言う。
ミラは渋々線の引かれた場所に立った。
子供たちの顔はキラキラしている。
ミラも、覚悟を決めたように石を手に取った。
――そして、投げる。
石は的から大きく外れ、森の中に落ちた。
子供たちは口を開けてミラを見つめている。
ミラはこちらに振り向く。
顔を真っ赤にしていた。
「……まあ、そういうこともあります」
クリスさんは冷静だった。
ミラは恥ずかしくなったのか、足早に俺の横に来る。
「……次はクレイグの番ね」
「……ああ、分かった」
俺はミラに言われるがままに線の前に立つ。
少し肩を回してから石を拾う。
さっきミラの一投で、子供たちの期待はちょっとだけしぼんでいた。
とりあえず軽く投げよう。
あまり強く投げると的が壊れるかもしれない。
俺は適当に投げた。
シューという音が鳴り、中心からは外れたが、的に当たる。
それを見た子供たちははしゃいでいた。
「すっげー!」
「すごーい!」
的からは外れてしまったが、子供たちからはそんな言葉を貰ってしまった。
ミラとクリスさんは目をまん丸にしていた。
「いやー、すごいですね。あんなに速く投げることが出来るとは……」
「そうかな?」
「ねーねー! もっとはやくなげることはできるの!?」
子供たちはそんなことを言いながら、目を輝かせている。
「もう少しくらいなら……」
「本気で投げることは出来ますか?」
クリスさんからはそんなことを言われてしまう。
「はい……。的が壊れるかもしれないので、外してもらえますか?」
「分かりました」
クリスさんはそう言って、木から的を外す。
子供たちとミラは目を輝かせている。
……ミラまでかよ。
俺は三人の期待を背負いながら投げる。
――ドッ!!
鈍い音がして、石は木にめり込んでいた。
「すっげーーー!!」
ミラと子供たちはさっきよりもはしゃいでいた。
クリスさんは……顔が引きつっていた。
「クレイグさんは兵器か何かですか?」
クリスさんからはそんな言葉が飛び出す。
「流石に言い過ぎでは!?」
俺は思わずそう返した。
◇
それからは、クリスさんがミラに教えたり、俺が子供たちの相手をしていたりした。
気が付くと、陽は少し傾いてきていた。
「それじゃあ、今日はこのくらいにしておきましょうか」
クリスさんがそう言う。
ちょうど良く、子供たちの母親が来ていた。
子供たちは母親の元へと駆けていく。
「ほら、先生たちにお礼は言ったの?」
「「せんせいたちー。ありがとー!」」
そう言って、手を振っている。
俺たちは手を振り返す。
そして、お辞儀をして帰っていった。
「あなたたちが村を守ってくれたおかげです」
クリスさんは言う。
「ええ、守り切れてよかったです」
ミラはそう答える。
俺はうなずくだけにしておいた。
クリスさんの顔も柔らかくなる。
そして、少し顔つきが真剣なものになる。
「そういえば、さっきの話の続きですが……」
「相談したいって言っていたことですか?」
俺は聞き返す。
「ええ、そうです。
私を……あなた達の旅に同行させてもらえませんか?」




