表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/54

42 託された報せ

「「――えっ!?」」


 俺とミラは同時に声を上げる。


 確かに、いろいろとおかしいことはあった。

 バリオスに対しての殺気や、異常な速さの動き。

 ただの牧師ではないと思っていたが……。


 クリスさんは相変わらずニコニコしている。


「そこでお二人に相談なのですが、このことをガーランド騎士団に伝えてもらえないでしょうか?」


 ガーランド騎士団か……。

 俺たちは冒険者なのに、何でだ?


「俺たちは冒険者なのですが、なぜガーランド騎士団に?」


 俺は思ったことを聞く。

 ミラも俺の横で同じく、首を縦に振っていた。

 すると、クリスさんは少し顔が険しくなる。


「そうですね……。下手をすれば、戦争につながるかもしれません。

 冒険者ギルドで扱うには、少し規模が大きすぎると感じます」


 その言葉で、背中がゾワッとする。


 ――戦争。


 俺はリーフィア村であったことを思い出す。

 目の前で何もかも消え去る感覚。

 あんな悲惨なことがまた起こるかもしれないのか!?


 横を見ると、ミラも不安そうな顔をしていた。

 俺たちが沈黙していると、クリスさんは言葉を続ける。


「あくまで可能性の話です。

 ですが、事を荒立てない方がいいでしょう。

 無暗に騒げば、リーンデル王国中が混乱に巻き込まれるかもしれません」


 俺とミラは息を呑んでうなずく。


「……分かりました。私が行きます。

 私は元ガーランド騎士団なので、話が通しやすいと思います」


 ミラはそう言う。

 この役はミラが最適だろう。


「そうだったのですね。それではお願いします」


 クリスさんは納得したようにうなずいていた。


「クレイグはこの村に残って、村を見ていて」


「分かった」


 俺はうなずく。


「今日はもう遅いので、クオルへ行くのは明日にしましょう。

 あなた方も疲れているでしょうし」


「それでは遅いのではないですか!?」


 ミラは少し声を荒げて言う。

 クリスさんは、目つきが鋭くなり答える。


「事を急いては上手くいきません。

 それに……女性をこんな夜中に行かせるわけにもいきませんしね」


 クリスさんは諭すようにそう言った。

 ミラも、ハッとした後に、うなずいていた。


「それにしても……この人、殺す必要はあったんですか?」


 気付けば、俺はそう聞いていた。


「……クレイグさんは、人を殺すのがいけないことだと?」


「……全部そうとは限らない、というのが俺の思いです」


 親父にはそう教えられてきた。

 人を殺すということが、時には必要だということを。

 凄惨な現場を見てきたからこその意見だっただろう。


 クリスさんは俺の顔を見て、ゆっくりと答える。


「……本来、人を殺すのはいけないことです」


 そう答えたクリスさんの顔は曇っていた。


 クリスさんは、黙って男の手を持ち上げる。

 手の甲には、何やら怪しげなタトゥーが彫られていた。

 ミラの方を見てみるが、ミラも分かっていないようだった。


「これは、自爆の刻印です。

 戦争時には、ドラー帝国がよく使っていました。

 ……巻き込まれた兵士は数多い。

 下手に生かしておいた方が危険でした」


 クリスさんは思い出すかのように、苦い顔をしていた。


「……分かりました。変なことを聞いてしまって、すいませんでした」


 俺は頭を下げる。


「いえ、いいんですよ。その考えは自然です。

 むしろ聞かれない方が、あなた達を疑っていたかもしれません」


 そう言って、いつもの笑顔を浮かべていた。


「さて、戻りましょう。

 村の皆も不安でしょうし」


 クリスさんは、男に布を被せる。


 ようやく肩の力が抜けるのを感じた。

 バリオスも、もう魔物は居ないって言っていたしな。


 俺たちは教会の中へと入った。




 ――翌日


 村の人たちは、一晩を教会で過ごした。

 不安はあるだろうが仕方ない。

 バリオスがいてくれるとはいえ、いつ魔物がまた来るかは分からない。

 俺とクリスさんは、バリオスと一緒に、小屋で寝ていた。

 陽が昇ると、みんなは一時的に家へと戻っていった。



 そして今、俺はミラを見送りに来ていた。


「必要な物は持ったか?」


「ええ、もちろん!」


 ミラは手に持っていた袋を見せてくる。

 中に入っているのは、ゴブリンから出てきた結晶と、村で起こったことが書かれている紙だ。


 あの後、クリスさんが今回の出来事を紙にまとめてくれていた。

 書かれていたことは、簡潔だった。

 村が魔物に襲われたこと。

 その魔物から紫色の結晶が出てきたこと。

 ドラー帝国の紋章が刻まれたネックレスを持っていた人間がいたこと。

 ――ただそれだけだった。


「それにしても、クリスさんって独特な字を書くよな」


 俺はミラにそう言う。


「そうね、丸っこくて可愛い字よね」


 そう言って笑みを浮かべる。


「あの人からは想像もできない字だよな」


 俺も思わず笑みが出る。


「何の話をしているんですか?」


 ――!!


 突然、後ろから声をかけられる。

 声の主はクリスさんだった。


「あー、いえ、少し話をしていただけです」


 俺は、適当に話を逸らす。

 クリスさんは静かにこちらを見ていた。

 

 ミラは、どう見ても誤魔化しているようにしか見えない顔をしていた。

 しかし、クリスさんは気にする様子もなくミラに声をかける。


「ミラさん、一つだけお願いが」


「何ですか?」


 ミラは首を傾げる。


「私のことは、騎士団に伝えないで欲しいのです」


「どうしたんですか?」


 俺は声をかける。


「あー……実は私、ドラー帝国出身なんですよね。

 ドラー帝国が無くなったとはいえ、悪い風にとらえる人もいますので……」


 クリスさんは、いつもの笑顔は崩さなかったが、声のトーンは少し落ちていた。


「分かりました。

 そういうことでしたら伏せておきます」


「ありがとうございます」


 クリスさんは深々と頭を下げていた。



「バリオスも頼んだぞ」


 俺は、横にいたバリオスにそう言う。


『任せておけ!俺を誰だと思ってる。

 陽が昇りきる前に着く自信だってあるぜ!』


 バリオスは自信満々にそう言ってのける。


「頼もしいな!」


 俺はそう言って、バリオスの首に拳を当てる。


「私からも、お願いします」


 クリスさんもバリオスにそう言い、頭を下げていた。


『……ああ、任せろ』


 バリオスは、短くそう言った。

 その声には前ほどのトゲはなかった。

 俺はそれを見て、頬が緩む。


『なんだよ』


「いや、別にー」


 そう言うと、バリオスは睨んできたが、俺は視線をそらした。



「行ってきます」


 バリオスにまたがったミラはそう言う。

 その顔はいつものミラではなく、騎士の顔をしていた。


「おう、気を付けてな」


 そう言うと、ミラは手を振った後、バリオスと共に駆けていった。



 ミラを見送りながら、俺は気になっていたことをクリスさんに聞いてみた。


「そういえば……クリスさんは、なぜあの男がいる場所が分かったんです?」


「昨日の夕方ごろ、クレイグさんに森の手前で話しかけられましたよね。

 あの時、靴跡を発見しましてね。

 雨上がりで森に入る村人はいませんし、何か嫌なものを感じまして」


「そうだったんですか……。

 それなら、なぜ誤魔化したんです?」


「余計な心配をさせたくなかったからですよ。

 まあ、それも全部意味はなくなりましたが」


 クリスさんは自嘲気味にそう言う。


「……この村を救ってくれて、本当にありがとうございました」

 

 クリスさんは、そう言って頭を下げた。


「いえ、これくらいは……お世話になっていましたし、見過ごせませんでしたから」


 俺はそう返した。

 クリスさんはいつもの笑顔だ。

 それを見ていると、俺も自然と笑顔になる。



 ――ミラ、頼んだぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ