40 魔物襲来
俺は勢いよく教会のドアを開けた。
急いで教会に入ると、ダリアさんが目を丸くしていた。
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
その声を聞き、クリスさんも出てくる。
「魔物がこの村に近づいています。早く避難を!」
俺は焦っていた。
「少し落ち着いてください。何があったんですか?」
クリスさんのその言葉で、少し冷静さを取り戻す。
俺は一度深呼吸をする。
頭の中が少し冷える。
――そして、バリオスとの会話を伝えた。
◇
「分かりました。とりあえず、村の皆を避難させましょう。
この教会は石造りですし、一番安全です。
村のみんなには、ここに集まるよう伝えてください」
クリスさんは眉一つ動かさず、すぐに話を整理し始めた。
さっきまで変な人だと思っていたのが嘘みたいに、声も落ち着いている。
指示を出す声を聞いているうちに、胸のざわつきが少しずつ引いていった。
説明し終えると、ミラも出てきた。
説明している間に、ダリアさんがミラを呼んできてくれていたみたいだ。
ダリアさんは教会に残って村人の安全確保。
俺とミラ、そしてクリスさんが村の皆に避難を促すことになった。
俺はバリオスの方へと向かう。
バリオスは立ち上がって待っていた。
「バリオス、ありがとう。
魔物はあとどれくらいで村に来そうだ?」
『個体差はあるが、もう少しだ。
思ったよりも移動が速い。数もそれなりにいる』
「どの方向から来る?」
『向こうだ』
バリオスは鼻先で指す。
あの方向は……昼間にクリスさんがいた森の方か……。
少し不安がよぎるが、今は――
「分かった。まずは村の人たちを避難させる。
……その後、魔物を討伐するのを手伝ってもらえるか?」
俺はバリオスにそう言う。
『おう、任せろ。あいつらに好きにさせてたまるか』
――心強い。
この前の魔術のこともあるが、最初に会った時に感じたあの威圧感。
そんなバリオスの横で、俺は少し震えていた。
「……頼りにしてるぜ」
『おう』
◇
身支度を終えたミラと合流し、家を回っていく。
クリスさんは一足先に教会を出たようだった。
家を訪ねていくと、思ったよりもすんなりと聞いてくれた。
俺の薪割りやミラの料理教室、バリオスに子どもたちを乗せたことなど、思っていたよりも村の人たちに受け入れてもらっていたらしい。
村の人たちは、急ぎ足で教会へと向かって行った。
俺はミラと合流した。
「あと一件か……」
俺は、最後の家に向かいながらそうつぶやく。
「そうね、急ぎましょ」
俺たちは最後の家へと急いだ。
◇
「ごめんください」
ミラは扉をノックしながら言う。
すると、家の中から返事が聞こえ、おじいさんが出てくる。
「なんだい?」
おじいさんは不機嫌そうな声で答える。
「村に魔物が迫っています。今すぐに避難をお願いします」
ミラは冷静な声でそう言った。
「魔物~?」
おじいさんは訝しそうにこちらを見る。
「ええ、そうなんです。他の方たちはもう避難しました。
おじいさんも避難をお願いします」
ミラがそう言うと、おじいさんは笑い飛ばした。
「この村に魔物~? そんなことあるものか。
さあ、わしはもう寝るから帰ってくれ」
そう言って、俺たちを帰そうとする。
ミラは説得を試みるが、おじいさんは聞く耳を持ってくれない。
次第に、ミラの声も焦ったものに変わっていく。
俺は痺れを切らして、声を上げる。
「おい、じいさん。いい加減にしろ!」
そう言ったところで、ミラに制止される。
おじいさんは怒り出す。
「いい加減にするのはあんたたちだ!さっさと帰って――」
その時、森の方からかん高い声が聞こえる。
おじいさんはその声に驚き、その場で尻もちをついていた。
俺はおじいさんを急いで担ぎ上げ、近くで待機していたバリオスに強引に乗せる。
「ミラ、早くじいさんを!」
「わかった!」
ミラとバリオスは急いで教会へと戻る。
おじいさんは何かを言っていたようだが、俺の耳にはもう入らなかった。
俺は急いで家の中に入り、他に人がいないか確認する。
幸い、まだ中の灯りは消えていなかった。
部屋を一つずつ手早く見て回る。
全部屋を見終え、人がいないのを確かめてから、外へ飛び出した。
◇
外へ出ると、いくつかの影が見えた。
三、四……いや、もっといる。
月明かりに照らされた緑色の皮膚に、子供くらいの小さな体。
手には武器を持っている。
――ゴブリンだ。
俺は背中に背負っていた剣を構える。
すると、こちらを見るや否や襲いかかってくる。
動きは直線的。
俺はタイミングを合わせ、剣を振る。
剣を伝わり、手に切り裂く感触が伝わる。
ゴブリンは真っ二つになっていた。
襲いかかってくるゴブリンを次々と片付けていく。
……おかしい。
普通これくらい倒していたら、他のゴブリンは怯むはずだ。
どうなってんだ?
倒しても倒しても、次々と襲いかかってくる。
いくら何でも数が多い。
十までは数を数えていたが、そこから先は数える気にもならない。
――ッ!
足に鋭い痛みが走る。
視線を落とすと、短い刃が脛に刺さっていた。
刃の根元で、ゴブリンがいやらしく笑っている。
「――おらぁ!!」
頭部に蹴りを入れる。
ゴブリンの頭が吹き飛び、体はその場に倒れる。
「はぁ……はぁ……」
その後は、ひたすら剣を振るうことしか考えていなかった。
気が付くと、辺りにはゴブリンの影はなくなっていた。
「――教会は!」
俺は痛みを我慢して教会へと急いだ。
◇
教会へ戻ると、そこには無数のゴブリンの死体があった。
剣で突いたような跡、踏みつぶしたような跡……。
ミラは息が上がっている。
バリオスは鋭い視線で辺りを見回していた。
――良かった……。
俺は、少し体の力が抜ける。
「クレイグ!」
ミラの声が聞こえる。
俺は手を上げて応えた。
「無事なようで何よりだ」
「クレイグは!?大丈夫!?」
ミラは俺のことを心配してくれていた。
足に痛みはあるが、まだ戦える。
「ああ、大丈夫だ。
バリオスもありがとな」
『これくらい当然だ』
バリオスの方は息も上がっていない。
流石ウマガミ様だな。
「あとどれくらいいそうだ?」
そう聞くと、バリオスは辺りを見回す。
『……もう反応はないな』
バリオスの体に握りこぶしを当てる。
俺はホッとして頬が緩むのが分かった。
ミラも安堵の表情を浮かべていた。
「そういえば、クリスさんは?」
俺は二人に聞く。
「こっちには来ていないわ。そっちにもいなかったの?」
「……俺も合流はしていない」
顔が冷たくなり、血の気が引いていくのが分かる。
ミラも顔が青ざめていくのが分かった。
「バリオス、クリスさんのいる方向は分かるか?」
『多分……あっちだ』
バリオスが指した方向は、やはりあの森の方向だった。
「俺が見てくる。ミラとバリオスはこのままここにいてくれ」
「……分かった。無理はしないでね」
二人に見送られながら、俺は森へと急いだ。
◇
森へ入ると、いくつものゴブリンが横たわっていた。
近寄って調べると、喉元が切り裂かれている。
……一撃。それも、全てのゴブリンが同じ状態だ。
クリスさんがやったのか?
もしそうだとしたら相当な手練れだ。
俺は先を急ぐ。
ゴブリンの死体は、森の奥まで続いていた。
焦りで、嫌な想像までしてしまう。
クソッ……!どこにいるんだ!?
――その時、男性の悲鳴が聞こえた。
「クリスさん!?」
俺は声のした方向へと急いだ。
◇
声のした方向へ進むと、そこには――月光に照らされたクリスさんが立っていた。
――!?
クリスさんの足元には、男性が横たわっている。
俺の足音で、クリスさんがゆっくりとこちらへ向く。
「おや、見つかってしまいましたか」




