04 木こりEND
工房の中で待っていると、ミラさんが思ったよりも早く戻ってきた。
どこかに預けていたであろう荷物も持ってきている。
「お待たせ…いたしました」
走ってきたのか、少し息が乱れている。
「おかえりなさい。思ったよりも早かったですね」
俺は少し笑いながら言う。
戻ってきたミラさんは、剣も盾も装備していて、それは騎士然としたものだった。
てか、盾がでけえ。構えたらほとんど体が隠れるくらいじゃないか‥?
それにしても、鎧を着て、こんなに大きい盾まで装備した状態で走ってくるとは‥騎士ってのは噓ではなさそうだ。
「おかえりなさい」
ルークもあいさつする。そして続けざまにこう言う。
「先ほどは不快な思いをさせてしまって、すいませんでした」
ルークはそう言い、頭を下げる。俺も一緒になって頭を下げた。
ミラさんが出て行ったあと、二人で悪いことをしたな。と、話し合っていて、謝ることにしていたのだ。
するとミラさんは目をまん丸にしてキョトンとしていた。が、俺たち二人に向き直ってこう言った。
「いえいえ。知らない人が訪ねてきて、素性も明かさないままお願いをするなんて、疑われても仕方ありません。こちらこそ申し訳ありませんでした」
ミラさんも思うところがあったようだった。
その後、少しだけ「いえいえこちらこそ」と言い合っていた。知らない人が見てたら、なんだこいつらって思うだろう。
心のわだかまりが解けて気分が楽になる。やっぱりこういうのは早めに解決すべきだよな。
さて、出発…しようと思ったが、タスクボアを狩る目的を聞いていなかった。流石にそれくらいは聞いてもいいよな?
「ミラさん、さっき聞きそびれたんですけど、タスクボアを狩る目的を教えてもらってもいいですか?もちろん、言えなければ言わなくても大丈夫なんですが」
「はい。えーっと、上司からタスクボアの討伐の試験を出されていまして、その証として牙を持って来いと言われたのです」
この手の質問は普通に答えてくれるのね。素性に関するものはダメって事か。
「分かりました。それでは、そろそろ出発しましょうか」
「はい!!!!」
随分と気合の入った返事だな。山に入るのはいつもの事だが、俺も気合を入れていくか!
◇
村の中を通り自分の家に向かって歩き出す。
朝会った行商人の人にまた挨拶をする。
畑に出ている村の人にも挨拶をする。また飴ちゃんを貰ってしまった。ミラさんも貰ってたし、一体何個持ってるんだ…?
◇
山を登っていくと、少し開けた場所に出る。
さて、家に着いたし、余計な荷物は置いていこう。
「寄りたいって言っていたのはここですか?」
「はい、そうです」
ミラさんは家を見回して感心しているようだった。街のほうとは家の様式が違うし、珍しいのだろう。
俺もこの家は自慢だ。せっかくならいい家に住みたいと言った、家づくりガチ勢の親父と一緒に、一年かけて建てた家。と言っても俺はちょっと手伝っただけだが。外観も、俺と親父が住んでいるとは思えない程、小洒落た造りになっている。一言でいうと、おしゃれな山小屋だ!
また話がそれてるって?いいじゃん、自慢くらいさせてくれよ!
「素敵なお家ですね」
やばい、顔がにやける。また気持ち悪い顔になってそうだ。
「ありがとうございます」
ミラさんに顔を見られたくないので、顔をそむけて答える。
何とか耐えたぞ!
「ミラさんも、必要のないものは置いて行っていいですよ」
「それでは、お言葉に甘えて」
家の中に入る。懐かしくもなんともない。さっき出てきたばかりなんだから。
「へぇー!家の中も素敵ですね!木のいい香りもするし」
ミラさんは目を輝かせながら家の中を見ている。
「あはは、褒めすぎですよ」
おい、不意打ちだって。また顔見れなくなるじゃないか。
「どこでもいいんで、好きなところに荷物置いていいですよ」
「ありがとうございます!」
荷物を置いた後も、家の中が気になるのか、いろいろ見てるな。
そろそろ限界だ。
「そろそろ行きましょうか」
耐えられなくなり、そう切り出す。
「わかりました」
やっと逃れられるぜ。
家の外に出て、最終の確認をする。
「タスクボアの特徴とかは分かっています?」
一応は確認しておかないとな。
「大きい猪の魔物…としか…」
戦うのも初めてなのか。
「分かりました。それじゃあ―――」
待たせたな、やっとタスクボアの説明だ!
タスクボアとは、牙のでかい猪の魔物だ。
体もでかく、パワーもある。好戦的で、そこそこ凶暴な魔物。
基本、突進しかしてこないが、首の振り回しにも気を付けたい。
突進を回避して、横からの攻撃がメインの攻撃になるだろう。
猪の習性上、一回見た場所の付近にいる可能性が高い。毎日山に入っているから、大体の生息場所は把握している。俺にとっては比較的見つけやすい魔物だ。今の季節は春先だけど、猪は冬眠しないしな。
「とまあ、そんな感じです」
「わかりました。ありがとうございます」
こんなにテキトーな説明でも律儀にお礼されるとは。
「何か所かはアテがあるので、近いほうから順番にみていきましょう」
ウンウンと頷いている。
「まあ二人ならなんとかなるでしょう」
俺もこの剣の初陣だし、張り切っていこう。
ん?ミラさんは微妙な顔をしている。どうしたんだ?
「あのー……」
「どうかしましたか?」
「申し上げにくいのですが、一応この討伐は、試験として課されているので、私一人でやりとげたいのです」
そういえば試験だって言ってたな……完全に勘違いしてたぜ。
「あ、ああ。そういえばそうでしたね」
「すいません…」
ミラさんはなんともばつの悪そうに言った。
「じゃあ俺は、危なくなったら手を貸すって事でも大丈夫ですか?」
「はい。よろしくお願いします」
こればっかりは仕方ないか。邪魔するわけにもいかないし。
ミラさんが悪いって訳ではない。協力するって決めたのは俺だ。
この件が無事に終わっても、また何かあって出発できなくなるとか……
そんなことないよな!?
―木こり END―
Fin
ネタです…まだまだ続きます!