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39 晴れ間のひととき

 あれから二日が経った。

 雨はまだ降り続いている。

 俺は薪割りをしながら、降り続く雨を見ていた。


「なあバリオス、本当にそろそろ雨止むのか?」


 俺は、横で寝転がっているバリオスに話しかける。

 バリオスは首を上げてこっちに向く。


『今日の夕方くらいには止むぞ。

 嘘だと思うなら、夕方まで待ってみろ』


 目だけを開いてそう答える。

 いつも通りの面倒くさそうな返答だ。


「そうなのか……分かった」


『おう。

 それにしても、この村に来てからいつも()()やってるな』


「薪割りか? まあ、滞在させてもらってるし、これくらいはしないとな」


『そんなもんか』


 そう言って、また横になる。



 この村に着いてからのいつものやり取り。

 俺が薪割りをして、バリオスが見ている。

 俺が慣れているのもあって、村のみんなの薪割りを買って出ていた。

 ただ滞在しているのも性に合わないしな。


 明るい時に少し出歩いたけど、ニニア村はペルナ村くらいの小さな村だった。

 グノットやクオルみたいに村の周りを囲っている壁はなく、世帯数もそれほど多くない。

 ペルナ村を離れてそんなに時間は経っていないが、少し懐かしく感じていた。


 ミラはミラで、村の人に料理を教えているようだった。

 公爵家の料理長仕込みの料理の腕は、村の奥様方にも好評なようだ。


 雨に降られて立ち寄った村だったけど、思いの外充実した日々を過ごしていた。

 明日にはここを立つのか……。





 もう夕方に差し掛かろうという頃、バリオスの言っていた通り、雨は上がっていた。

 空は晴れ、うっすらと雲が残る中、久しぶりの太陽が顔をのぞかせていた。

 男の子と女の子、二人の子供は外で遊んでいる。

 畑の様子を見ている人もいるな。


 俺は背伸びをした後、外で思いっきり体を動かしていた。

 鍛錬はしていたが、どうにも体が固くなっている。

 

「何してるの?」


 その声で振り返ると、ミラがいた。


「体がなまっていたからな。少し動かしていたんだ」


「クレイグっぽいね」


 ミラはいつもの笑顔でそう答える。


「私も少し動かそうかしら」


 そう言って、伸びをした後に腕や脚を回している。

 ミラも体を動かせなかったのを窮屈に思っていたみたいだ。


 屋内と外じゃ、気分も違う。

 何日かぶりの晴れ晴れとした気分で、俺たちは思い思いに体をほぐしていた。





 体もほぐれた頃、遊んでいた子供のうちの一人が、こちらを指さしていた。

 どうしたんだろう?


 すると、子供たちはこちらへ駆け寄ってくる。


「おじさん! おうまさんにのせて!」


 おじ……いや、まだ十代なんだけど?

 横を見ると、ミラは噴き出していた。


「確かにクレイグ、大人っぽいものね」


 そういや、ミラにもそんな事言われたな。


「じゃあ、お兄さんがお馬さんの様子を見てくるから、ちょっと待っててね」


 ミラはそう言った後に、小声で俺に話す。


「私が子供たちの相手をしているから、クレイグはバリオスに聞いてきてくれるかしら?」


 子供たちの相手はミラがしてくれるみたいだ。

 これはありがたい。


 俺はバリオスの元へと向かった。



「おーい、バリオス」


『何だ?』


 横たわっていたバリオスは体を起こす。


「お前に乗りたい子供たちがいるんだけど、大丈夫か?」


 すると、バリオスはゆっくりと立ち上がった。


『いいぜ、連れてってくれ』


 俺は驚いた。

 こういうのはあまり気乗りがしない方だと思ってたんだけどな。


 俺の表情を見て、バリオスが話しかけてくる。


『そんなに変か?』


 俺の心を見透かされたみたいだ。


「ああ……こういうのは嫌いなのかと思ってたから」


『嫌いだったらお前たちも乗せてないさ』


 そう言われてみればそうか。

 そういや、初めて会った時からバリオスは人間に友好的だった。

 唯一取り乱したのが、つい先日のことだ。

 元々人間が好きなのかもな。


「こっちだ」


 俺はバリオスを連れて行った。



 ミラの元に戻ると、子供たちはいなかった。


「子供たちは?」


「お母さんに言ってきてって、お願いしたの」


 言われてみればそうか。

 何かあってからじゃ遅いし、確認は取っておいた方がいいだろう。


「ありがとな」


「クオルでも、子供たちの相手はしていたからね」


 ミラは胸を張って、鼻高々にそう言った。


「ミラらしいな」


 さっき言われたことを、そのままミラに返す。

 ミラは言葉の意味を分かったのか、微笑んでいた。





 少し待つと、子供たちは母親を連れてやってきた。

 母親は、バリオスを見て、驚きの表情を見せていた。

 まあ、そうだろうな。でかいし。

 逆に、子供たちははしゃいでいた。


「あの……本当に大丈夫ですか?」


 お母さんは少し不安げな表情を見せていた。


「大丈夫です。私が後ろで支えますから」


「俺も横で見ているので、安心してください」


「……それじゃあ、お願いします」


 さっきよりも声が明るくなっている。

 お母さんも納得してくれたようだ。


「危ないかもしれないから、一人ずつね」


 ミラは子供たちにそう言っていた。

 子供たちも「うん、分かった!」と言っていた。

 子供たちはじゃんけんをしている。


 俺は小声でバリオスに話しかける。


「ゆっくり目にお願いな」


『ああ、分かった。任せておけ』


 俺はミラをバリオスに乗せた後に、男の子を乗せる。

 男の子は、最初は少しふらついていたが、ミラが後ろからしっかりと支える。

 男の子は目を輝かせていた。


 その後、村を一周した。

 男の子は、畑仕事をしている人には手を振り、自慢していた。

 その人も手を振り返していた。

 俺とミラは軽く会釈をした。


 男の子の番が終わると、次は女の子。

 同じルートを回って戻る。


 二人とも大いにはしゃいでいた。

 お母さんも、最初とは違って笑顔で「ありがとうございました」と言って帰っていった。





「喜んでもらえて良かったね」


 ミラが笑顔でそう言う。


「そうだな」


 俺もそう返す。


「バリオスもありがとうね!」


 ミラはそう言って、バリオスを撫でていた。

 なんか、ものすごくいいことをした気がする。

 俺も自然と笑顔になった。

 ミラはバリオスを連れて、小屋へと戻っていった。


 そんな時、ふと、ある人物が目に留まる。

 ――クリスさんだ。

 森の手前で突っ立って奥の方を見ているようだ。

 どうしたんだ?


 俺は気になってクリスさんへと近づく。


「何をしているんですか?」


 指先がピクリと動いた後に、クリスさんは振り返る。


「用を足していました」


 え? こんな所で?

 顔もいつものニコニコ顔だ。


「トイレなら教会にもあるはずですけど……」


「そうでした! これは失礼」


 そう言って、クリスさんは去っていった。

 ……何だったんだろう?





 夕食も終わり、俺はいつものようにバリオスのいる小屋へと来ていた。

 バリオスはいつものように横になっていた。


「今日は歩けて良かったな」


 俺はバリオスにそう言う。


『ああ、そうだな』


 バリオスは目線だけこちらに向けて、短く答えた。


「子供、好きなのか?」


『……別に。でもまあ、久しぶりに乗せたな』


「久しぶりって、前はいつだよ」


 俺は気になって聞く。


『いつだったかな……忘れてしまったぜ』


 バリオスのその声は、どこか寂しさが感じられた。

 そうと決まれば――


 俺はバリオスの横に腰をおろす。


『何だ?』


「寂しそうな声をしていたからな。今日は添い寝してやるよ」


 俺はからかい半分でそう言う。


『いいって』


 バリオスは身じろぎして、俺をどかそうとする。


「いいだろ? 初日だけしか横で寝てないんだからさ」


 バリオスは初日しか横で寝させてくれなかった。

 あの心地よさ、毎日でも寝ていたいくらいだ。

 俺はバリオスにしがみつく。


『おい、いい加減にしろって――』


 そこで、バリオスの言葉が止まる。

 首を上げて、外の方を見ている。


「どうした?」


 俺も外を見る。


『……魔物が来る』


「――魔物!?」


 俺は咄嗟に身構える。

 バリオスは続ける。


『この村に来てからは、少しだけ気を張っていたんだ。

 魔物が近寄ってこないようにな』


「そうだったのか……」


『ああ。でも、今回はそれが効かない』


「マジかよ……」


『まだ遠いが……確実にこっちに向かっているな』


「俺、ミラとダリアさんに伝えてくる」


『ああ、頼んだ』


 俺は教会へと急いだ。

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