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38 まだまだ雨は止みそうにない

 次の日、俺は雨の音で目が覚めた。

 辺りはまだうっすらと明るくなってきた頃合いだ。

 まだ雨が降ってるのか……。一体いつになったら止むんだろう。


 背中が温かい。

 そういえば、昨日はバリオスに寄りかかって寝たんだったな。


『やっと起きたか』


 俺が目を覚ますと、バリオスが話しかけてきた。


「ああ、おはよう」


『もういいだろ?さっさと起きてくれ』


 バリオスは首だけ持ち上げ、こちらを見る。


 そうは言うが、バリオスの体温はすごく心地が良い。

 今日は二度寝したくなる気分だ。

 いつもはこの後鍛錬をしているけど、雨も降っているし、今日くらいはいいだろう。


「おやすみ」


 俺はそう言って、二度寝の態勢に入る。


『……おい』


 その声と共に、辺りが急速に冷えだす。

 バリオスの体温も下がってきて、背中が凍えるくらいに冷たくなる。


「さむっ!」


 俺は慌てて起き上がる。

 バリオスは俺を少し見た後、首を戻して横になった。


「今のは……?」


 俺はバリオスに問いかける。

 バリオスは、さもめんどくさそうに答えた。


『お前らの言葉では……魔術ってやつだったか?』


 そう言うと、辺りがまた寒くなる。

 バリオスの寝ている周辺の藁は、霜が降りたみたいに白くなっていた。


「……霊獣って魔術が使えるのか?」


『知らん。他に俺みたいなやつと会ったことはないからな。

 ま、魔物でも使うやつはいるがな』


 そう言うと、辺りは元の温度に戻る。


 魔物でも魔術を使うやつがいるのか……。

 ペルナ村ではそういった魔物はいなかったから、次からはそれも頭に入れておいたほうが良さそうだ。


「ミラはバリオスが魔術を使えることを知ってるのか?」


『知らないだろうぜ。お前らと過ごすようになってから使ったのは、今が初めてだからな』


「そうなのか。他には使えるのか?」


『いや、これだけだ』


「そうか。何かあった時は頼りにしてるぜ」


『おーう』


 気が付くと、辺りはかなり明るくなっていた。


「んじゃ、俺はそろそろ行くわ」


『おう』


 俺は教会へと戻った。





 教会へと戻ると、ダリアさんとクリスさんはもう起きていた。

 暖炉の火と、パンの香りが部屋を包んでいた。

 とりあえず、挨拶はしておこう。


「おはようございます」


 クリスさんは軽く会釈だけをする。

 朝食の準備をしていたダリアさんが話しかけてきた。


「あら、早いんだね。昨日はベッドがなくてすまなかったね」


「いえいえ、雨がしのげるだけで十分です。

 バリオスの寝床を用意してもらってありがとうございます」


 俺はそう言って頭を下げる。


「律儀だねぇ。朝食が出来るまでゆっくりしていな」


 ダリアさんは俺を見てそう言う。

 クリスさんも小さくうなずいていた。


 このまま世話になりっぱなしじゃ、どうも気分が悪い。


「何か手伝えることはありますか?手持ち無沙汰なもので」


「そうだねぇ……それじゃ、薪割りをお願いしてもいいかい?

 薪が少なくなっていてね」


 薪割りなんて、ペルナ村ではほぼ毎日やっていた仕事だ。


「分かりました」


「クリス、案内してあげな」


「分かりました」


 クリスさんはそう言って案内してくれた。





 案内されたのは、バリオスのいる小屋の横だった。

 乾いた薪がいくつもある。

 鉈もあるし、台もある。これなら問題ないな。

 ここじゃ濡れるだろうし、バリオスの横でやるか。

 俺がいくつか木を取り、移動しようとした時、クリスさんに声をかけられる。


「昨日はすみませんでした」


 そう言って、深々とお辞儀をする。

 顔を上げるが、その表情は曇っていた。


「いえ、一応は大丈夫だったので、そこまでしてもらわなくても……」


「そうはいきません!出来れば、直接謝らせていただきたいのですが……」


 クリスさんはそう言い、俺に詰め寄ってくる。

 俺は、その気迫に押される。

 なんだか、昨日とはまるで別人だな……。

 本人もこう言ってるし、一応バリオスに聞いてみるか。


「分かりました。いま聞いてきますので、少し待っててください」


「はい!お願いします!」


 クリスさんは、大きな声で返事をする。

 なんか、この人といると調子狂うな……。

 一応()()みるが、昨日と違って黒い靄は全く見えない。

 これなら大丈夫そうか?



 俺は薪を携えて、バリオスの横まで行く。


「なあバリオス」


『……何だ?』


 俺たちの会話が聞こえていたのか、少し不機嫌そうだ。


「昨日の牧師さんが謝りたいって言ってるんだけど……いいか?」


 バリオスは人間じゃない。

 魔物を簡単にあしらえるくらいの存在だし、昔は崇められていたと言っていた。

 今は旅の仲間だし、無理に謝罪を受け入れさせるわけにもいかない。

 俺はバリオスの様子を窺う。


『……ああ、いいぜ。そこにいるんだろ?』


 バリオスは首を上げ、小屋の外を見つめる。

 すると、クリスさんが顔を出す。

 どうやらクリスさんにも聞こえるようにしていたみたいだ。


 クリスさんは、おずおずとこちらに近づいてくる。


「昨日は魔物と間違えてしまい、すみませんでした」


 クリスさんは何も飾らない言葉でそう告げ、頭を下げる。

 バリオスはジッとその姿を見ている。

 そして――言葉を続ける。


『分かった。でも、昨日みたいなことはもうすんなよ』


 そう言って、向こうを向いてしまった。

 どうやら許してくれたみたいだ。

 俺はその様子を見てホッとする。


 クリスさんは頭を上げる。

 その表情はさっきと違い、安堵の色が広がっていた。


「ありがとうございます」


 クリスさんは短く言う。

 バリオスは鼻を鳴らすだけだった。



「それにしても……話せるというのは本当だったんですね」


 クリスさんは話しかけてくる。


「ええ、そうですね。

 俺たちも出会った時はびっくりしました」


「そうですか……。

 謝罪も受け入れてもらえたので、私はこの辺で失礼します。

 何か必要な物があれば、いつでも言ってください」


 そう言って、軽く会釈をしてから教会の方へと戻っていった。

 バリオスはまだあっちを向いたままだ。

 

 俺は必要な物を揃えて、バリオスの近くに腰をおろす。

 薪も小さいものが多かったから、座りながらでもいいな。


 俺は薪を使いやすい大きさに割っていく。

 コーン、コーンという音が小屋に響く。


『それ、何やってるんだ?』


 その音を聞き、バリオスが話しかけてくる。


「これか?これは薪割りだ。

 これに火をつけていろいろするんだよ」


 俺は近くにあった薪を手に取り、バリオスにそう言う。


『へぇ、そうなのか』


「あれ?見たことないのか?」


 俺は疑問に思って聞く。


『ああ』


 バリオスは短くそう言う。


「昔の人は使ってなかったのか?」


『そうだな。昔の人間は……そこにある石みたいなものを使っていたぞ』


 バリオスは、鼻先で近くにあった石を指している。


「もしかして、クリアストーンのことか?」


『それは知らないが、赤くて透明な石を使っていた』


 赤くて透明な石……クリアストーンで間違いないようだ。

 クリアストーンは付与した魔術によって色が変わる。

 バリオスの言っているのは、恐らく火の魔術を付与したものだろう。


「あれは今じゃ高くてな。誰でも持てるものじゃないんだ」


『高い?何がだ?』


「あーそうか」


 バリオスにはお金の概念もなかったなそういや。

 俺は馬車の中に入り、お金を探す。

 ちょうど良く見つかったので、それをバリオスに見せる。


「ほら、これ。ニンジンを買う時にも使っていただろ?」


 バリオスはお金を見て目の色を変える。


『おお、そういえばそうだったな。

 それは昔の人間も使っていたぜ』


 昔もお金って概念はあったんだな。

 バリオスと話しているとなんだか楽しい。

 長く生きているからってのもあるが、いろんなことを知れるのは嬉しいな。



「そういや、雨っていつまで降るか分かるか?」


 俺は外を見るが、一向に止む気配はない。

 もう陽が昇っていてもおかしくはない時間だが、まだ辺りは薄暗かった。


『どうだろうな……二、三日は降りそうな感じだ』


「そうか……」


 別に急いでいるわけじゃないけど、いつまでもここにお世話になるのは気が引ける。

 かといって、無理に出て行くわけにもいかないしな。

 ……ま、仕方ないか。

 その分、お返しをすればいいだけだ。


 俺はバリオスの横で薪を割った。

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