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37 胡散臭い牧師

 牧師さんと一緒に外へと出る。

 その時、背筋が凍るような感覚が走る。


 振り返るまでもなく分かる――牧師さんからだ。

 俺は、恐る恐る振り返る。

 牧師さんの目は少ししか開いていないが、とても鋭く、そして冷たい目をしていた。


「これは……魔物ですか?」


 バリオスを見た牧師さんの低い声が響く。

 その様子を見たバリオスが、身構える。


『おい!なんだこいつは!』


 バリオスが首を振り回し、暴れ出しそうになる。

 雨がかかってしまうが、そんなことを言ってられない。

 俺は、バリオスの首に抱きつき必死で止めた。


「おい、どうしたんだ!落ち着け!」


 首元に抱きついたままバリオスに言う。

 バリオスは鼻息が荒く、完全に取り乱していた。

 こんなバリオスは見たことがない。


『コイツ、すげぇ殺気を放ってやがる!

 なんとかしろ!』


 ――殺気!?

 さっき背中を刺した、あの氷みたいな視線の正体は、それか。


「ああ、分かったから落ち着いてくれ!」


「ちょっと、どうしたの!?」


 俺たちの声が聞こえたのか、ミラが御者台の方から覗いてくる。


「ああ、すまない。バリオスがちょっと取り乱してしまってな。

 今落ち着かせるから」


「おやおや、お連れ様もいらしたのですか。

 どうもこんにちは」


 その顔はにこやかだったが、その異様な雰囲気は消えていない。

 笑っているはずなのに、ゾクゾクする感覚は引かない。

 一応()()みるが、黒い靄が漂っている。


 ――クソッ!村に着いて早々これかよ!


「何を騒いでいるんだい!」


 教会の中から声が聞こえると同時に、おばあさんが出てくる。

 おばあさんは目を丸くしてバリオスを見ていた。


「すいません、今落ち着かせますんで!」


「ああ、いいよいいよ。どうせコイツがやらかしたんだろ」


 そう言って、おばあさんは牧師さんを睨みつける。


「おお、恐い」


 牧師さんの方はひょうひょうとした様子で、両手を胸の前で開いていた。

 さっきまで濃く見えていた黒い靄は、薄くなって揺れている。


 ――なんとかなったか?


「迷惑かけてすまないね。

 コイツ、ちょっとそういうことに敏感でね」


 そう言いながら牧師さんの腰のあたりをトントンと軽く叩いている。


「そうですか……。すみません、お騒がせしました」


 俺はバリオスに抱きついたまま、そう答える。


「ま、ひとまず馬車を停めようか。案内するよ。

 クリスはとりあえず中に入ってなさい」


 おばあさんの言葉で、牧師さんは渋々といった様子で教会の中へ入っていった。

 バリオスも、徐々に落ち着きを取り戻している。

 ――はぁ……心臓に悪いって……。





 おばあさんに連れられて、馬車を小屋に移動させた。

 小屋は思ったより広くて、バリオスを中に入れてもまだ余裕があった。


 俺とミラはバリオスのそばに寄り、濡れた体をタオルで拭いていた。

 ここまで馬車を引いてくれたんだ。せめて、少しでも楽にさせてやりたい。


 すると、おばあさんから声をかけられる。


「この馬……聖獣かい?」


 その言葉で、俺とミラは目を合わせる。

 バリオスも少し反応して、首を上げていた。


「……その様子だと、そうみたいだね」


「はい……まあ、似たようなものですね」


 俺はそう答えた。


「そうかい……」


 おばあさんは短くそう言うが、その目はどこか優しかった。


「どうする?言う?」


 その様子を見ていたミラに、小声で聞かれる。


「そうだな……。何か知っているみたいだし、話しても良いかもな」


 俺がそう言うと、ミラはうなずく。

 バリオスにも目を向ける。

 バリオスも「問題ない」という目線だけ、こちらに向けていた。


「えっとですね……この馬、喋ることが出来るんです」


 俺がそう言うと、おばあさんは目を丸くする。


「本当かい?」


「ええ、本当です。バリオス、良いか?」


 バリオスはゆっくりと、おばあさんの方へ向く。


『これで良いか?』


 そうバリオスが言うと、おばあさんは驚いた表情をする。


「へぇ……あんた、喋れるのかい。こりゃたまげた」


 そう言いつつ、バリオスを舐めまわすように見ている。

 バリオスはその視線が気になったのか、顔をそむけて寝転がってしまった。

 その様子を見て、おばあさんは口を開く。


「あんたたち、すごいものを連れてるんだね。

 喋る馬なんて聞いたことないよ」


 おばあさんはとても驚いたような表情でそう言った。


「ええ、俺たちも最初は驚きました。

 でも、協力的だったし、それに――放っておけなかったんです」


 ミラも、俺の言葉に同意したようにうなずいている。


「そうかい……。ま、あんたたちは信用できそうだ。

 ()()()はそうではなかったみたいだけどね」


 おばあさんの目つきが、さっきよりいくらか柔らかくなる。

 横で寝転がったままのバリオスのたてがみを、そっと撫でた。

 それにしても、あのクリスと呼ばれていた男性は一体……。


「さ、あんたも濡れているんだ。

 早いとこ教会の方へ戻って温まりな」


 おばあさんは、俺の方を見てそう言う。

 バリオスも今は落ち着いている。俺は胸をなでおろす。


「じゃあ、俺たちは行くから」


 バリオスにそう告げる。


『おう』


 首を上げてバリオスは短くそう答え、すぐに首を戻す。

 ミラはバリオスを優しく撫でた後、「行ってくるね」と伝えていた。


 俺たちは教会の方へと戻った。





 教会へ戻った俺たちは、奥の方へと通される。

 

 通された部屋は普通の居住スペースだった。

 そこでは、先ほどの牧師さんが暖炉に薪をくべていた。


「おや、お早い戻りで。こちらへどうぞ」


 こちらに気付いた牧師さんに声をかけられる。

 俺とミラは促されるがままに暖炉の前へと移動する。

 ――暖かい。

 濡れていたから余計にそう思う。

 

「こちらもどうぞ」


 そう言って渡してくれたのは、ホットミルクだった。

 俺たちはお礼を言い、一口飲む。

 体の中から温まる。予想以上に体が冷えていたようだ。

 湯気の立つミルクが喉を通り過ぎるたびに、さっきまでの警戒心が少しだけ緩んでいく。

 ここまでしてくれるなんて……もしかして、いい人なのか?


 俺は一応()()みる。

 ……やっぱり、うっすらと靄がかかっている。

 さっきよりは穏やかだが、完全に警戒を解いているわけではなさそうだ。

 

「僕の顔に何かついていますか?」


「いえ、何も……」


 少し見ていただけなのに……。

 視線には敏感なのか?

 


「そういえば、自己紹介がまだだったね。

 私はダリア。ここの教会で牧師をしているよ」


 おばあさんはそう言い、隣にいた牧師さんにも促す。


「私はクリスと申します。

 同じくここで牧師をしています」


 そう言って頭を下げた。

 ダリアさんにクリスさん。どちらも癖は強いが、わざわざ名乗ってくれるあたり、俺たちを追い出す気はないみたいだな。


 俺たちも自己紹介をすることにした。


「俺はクレイグです。冒険者をしています」


「私はミラ。同じく冒険者です」


 そう言って、俺たちは首から下げていたタグを見せる。

 ダリアさんとクリスさんは、タグを見て何かを納得したようにうなずいていた。

 クリスさんからは、さっきよりも靄が薄くなっていった。


 ずっとクリスさんの靄を追っていたせいか、視界の奥がじんじんと重くなる。

 おれは目頭を揉んでいた。


「おや、冷えてしまったかい?

 そこでゆっくり休んでいきな」


 ダリアさんからそう言われる。


 俺たちは二人そろって休むことにした。





 ――夕方


 体は十分に温まり、いつでも出発できるようにしてた。

 しかし、あたりが暗くなっても雨が止むことはなかった。

 それどころか、風も強くなり、雷も鳴っている。


 やっぱりバリオスの言っていたことは正しかったのかと、改めて思う。

 あそこで昼寝をしていたら、もっと大変な目に合っていたかもしれない。

 バリオス、ありがとう!


 今日はダリアさんの意向で、教会に泊めてもらうことになっていた。

 流石に良くしてもらうばかりじゃ悪いので、今はミラと俺で、夕飯の支度をしているところだ。


 台所を借り、ミラは料理、俺はサラダを用意している。

 隣に立っていて思うが、ミラは本当に手際が良い。

 野菜を切る時も、一定のリズムで均一な大きさに切っている。

 疑っていたわけじゃないけど、料理長に習っていたのは本当のようだ。


 肉を焼くときも、ある程度焼いてから葉っぱに包み、ゆっくりと火を入れると言っていた。

 そして最後にもう一回火入れをする。

 なんでも、こうすると肉が美味しくなるらしい。


 俺や親父が料理すると、肉は固くパサパサするのが当たり前だった。

 こういう技術があれば昨日のような、肉汁があふれるものになるのか……。

 これはいい勉強になった。


 昨日の肉がまた食えるかと思うと、腹が鳴りそうだ。





 夕食も終わり、みんなで食後のお茶を飲んでいた。

 今日も、ミラの料理は美味かった。

 ダリアさんとクリスさんに褒められたミラは、恥ずかしそうに照れていた。

 そういえば、食事中に俺がフォークを落としそうになった時、クリスさんが受け止めてくれていた。

 あの反応……やはり只者じゃないかもしれない。



 辺りもすっかり暗くなって、もうそろそろ寝る時間だ。


「ベッドが三つしかないんだけど…」


 ダリアさんの口からそう告げられる。


 まあ、ここは俺が馬車で寝るか。

 流石に俺がベッドで寝て、ミラが他の場所でなんて考えられない。


「俺は馬車で寝るので平気です。

 ベッドはミラが使ってくれ」


「でも……」


 ミラは申し訳なさそうな顔をする。


「いいって、気にしないでくれ」


 おれはミラにそう告げた。

 すると、クリスさんの口からとんでもない言葉が飛び出す。


「おや?お二人は恋人同士ではなかったのですか?」


 突然何を言い出すんだ、この人は!


「いえ、違います」


 ミラは即答していた。

 ……いや、まあ、本当のことだけどさ。


「違ったのですか。先ほど、料理をしているときはそう見えましたが」


「本当です」


 俺も淡々と答えておいた。


「そうでしたか、これは失礼」


 クリスさんは「ふーん」とでも言いたげな顔をしていた。

 なんか、やけに俗っぽいな、この人……。


「それじゃ、ベッドはミラさんが使いな」


 ダリアさんの一推しで、ミラは渋々ながらにうなずいていた。

 その後、ダリアさんは、ミラを部屋へと案内していた。


 ミラが部屋に入った後、ダリアさんは短く言う。


「変な気、起こすんじゃないよ」


 その声は低く、ポールさんと同じような圧があった。

 その言葉を残し、ダリアさんも部屋に入っていった。


「言われていますよ」


 クリスさんは俺に向かって言う。


「いや、今のはクリスさんに対してでしょ!」


「そうでしたか!」


 クリスさんは、ニコニコした顔を崩さないまま、自分の部屋へと入っていった。

 マジで何なんだ、あの人……。

 なんか、一気に疲れた気がする。

 俺も寝るか。





 俺は小屋へと着くと、バリオスが首を上げて話しかけてくる。


『どうしたんだ?』


「ベッドの空きが一つしかなくてな、今日はここで寝るんだ」


『そうか』


「バリオスも、いつも一人じゃ寂しいだろ?」


『……別に』


「そんな連れないこと言うなって」


 俺は、バリオスの腹辺りに腰をおろし、もたれかかる。


『重いんだが』


「この前乗った時は重くないって言ってたじゃないか」


『……好きにしろ』


 バリオスはそう言うと、また寝転がった。

 好きにしろと言われたので、俺はそのままもたれかかっていた。

 バリオスの体温で、背中が温かくなる。

 息遣いと、鼓動音も伝わってくる。


 俺は、それを感じながら眠りについた。

 外ではまだ、雷が遠くで低く唸っていた。

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