34 旅がいいものになりますように
次の日、俺は報酬を預けに冒険者ギルドに来ていた。
冒険者タグを窓口にいったん預けると、係員が魔道具で照合して本人確認をしてくれるらしい。
しかも、世界中どこでもお金を預けたりおろすことが出来るみたいだ。
タグは魔道具って聞いていたし、世の中にはすごい技術があるものなんだな。
クエストはというと、クオルの森は特別危険区域に指定されていて、ウォールベアみたいな強力な魔物が出ることも多い。
少人数パーティーが主体の冒険者だと、紫級以上でないと受けられないらしい。
クオルの騎士団は、十人以上の編成で森に入るのだとミラが言っていた。
世界には、他にもそういった場所があるみたいだ。
俺のタグは白……初心者もいいところだ。
紫なんてまだ先のことだろう。
――早く昇級して、そういった場所にも入れるようになりたいな。
そういった事情があって、残りの二日間は暇を持て余すことになってしまった。
その間、もちろん鍛錬は怠っていない。
ポールさんに頼んで、鍛錬で使っていた広場を使わせてもらい、バリオスと乗馬の練習もした。
まだ一人で乗ることには慣れていない。
慣れないことをした結果、肩や太ももがパンパンにもなった。
いずれは乗りこなせるようになるといいな。
◇
――二日後
ミラの引継ぎも終わり、今日は出発の日だ。
ガーランド家の生活は快適だった。
ミラの家族や使用人の人たちも、いい人たちばかりだった。
……いい経験をさせてもらったな。
いつか村に帰った時には、みんなに話すのも悪くなさそうだ。
荷物を全て持ってホールまで降りる。
約束していたはずのミラはまだいなかった。
その代わりに、ポールさんと執事さんがいた。
「クレイグ君は準備万端なようだね」
「ええ、バッチリです」
そんなやり取りをしつつ、少しの間待つ。
しかし、ミラは現れない。
朝食は一緒に食べたんだけど、準備に時間が掛かっているようだ。
なにやら「期待していてね」みたいなことは言っていたけど……。
「すまないね、クレイグ君。ちょっと様子を見てくるよ」
「僕も行きます」
俺はポールさんについていくことにした。
◇
「ミラ、入るぞ」
一言断りを入れ、ポールさんが中に入っていく。
ドアが開いた瞬間、ミラとエミリアさんの声が聞こえた。
「もっとここをこうした方が――」
「そこはもういいでしょ!」
何やら、もめているようだった。
ポールさんの後に続き部屋に入る。
真っ先に目に入ってきたのは、十人以上でも余裕で映りそうな鏡だった。
その鏡の前にミラとエミリアさんがいた。
二人は俺たちに気が付き、こちらを見る。
「あ、お父様。それに、クレイグも」
「ほら、あなたの準備が遅いから来てしまったじゃない」
エミリアさんは呆れたような声を出していた。
ミラは頬を膨らませたように「だって~」と言っていた。
ポールさんも頭を抱えたようなしぐさを取っていた。
「ねぇクレイグ、どう?この鎧!」
気を取り直したミラは、そう言いながら手を広げたり、くるっと横を向いたりしている。
ミラの鎧は見たことのないものだった。
村に来た時や、騎士団で見た時のものとはデザインが違う。
白や銀を基調に、ところどころに緑っぽい模様が入っている。
重厚な造りというより、軽やかなイメージだ。
スカートのようにもなっているし。
手甲や膝当ても装飾がなされているが、動かしにくい造りにはなっていなさそうだ。
「似合ってるよ」
俺は一言だけそう告げる。
するとミラはいつもの笑顔になっていた。
……やっぱり、ミラはミラだな。
ミラの両親は二人ともまた始まった、という顔で小さくため息をついていた。
「お父様、お母様、ありがとう!」
その声で、二人の顔が緩む。
鎧は両親からの贈り物だったようだ。
しかし、次にはポールさんからの厳しい言葉が飛ぶ。
「さあ、クレイグ君に待っていてもらったんだ。早く出るぞ」
ポールさんの低い一言で、ミラは背筋を伸ばす。
その声には騎士団長らしさが乗っていた。
ミラは俺の横に立ち、小さく「ごめんね」と言っていた。
◇
四人でホールへと戻ってきて、ミラは使用人の人たちに「行ってきます!」と、元気よく告げていた。
そして、ドアを開けた。
――そこには幌馬車が止まっていた。
馬車を引いているのはバリオス。
「え?」
俺は固まってしまった。
これは……なんだ?
俺の様子を察したのか、ポールさんが声をかけてくる。
「すまないね、クレイグ君。
君に渡す報酬があれだけでは納得がいかなくてね。
予備で置いてあったものなんだが、君に使ってもらえるとこちらとしても嬉しい。
もちろんバリオス君の了承も得ている」
「え……はい」
俺はそれだけしか言えなかった。
こんな立派な馬車まで…。十万ルアだけでも十分すぎるのに。
ポールさんは続けて言う。
「娘を助けてくれたんだ。これくらいさせてくれ。
それに、旅はいろいろと必要な物が多い。
これは私からの贈り物だ」
ここまでしてもらっては、断ろうにも断れない。
それに、馬車があるのはありがたい。
荷物の問題は元々考えていたしな。
ここはありがたくもらっておいた方がいいだろう。
「ありがとうございます。少し困惑はしましたが」
ポールさんは微笑んで、応えてくれた。
俺とミラはバリオスの方へと歩く。
『おう、遅かったな。待ちくたびれたぜ』
バリオスは開口一番にそんなことを言った。
「ごめんね。私の準備が手間取っちゃった」
ミラはバリオスに謝っていた。
「それにしても……いつこんな話をしていたんだ?」
『あー……クオルに来た次の日の朝だな。
お前がニンジンを持って様子を見に来た時だ』
あの日か……。
あの時二人にはぐらかされた気がしたのは、これがあったからか。
「言ってくれればよかったのに」
俺がそう言うと、バリオスは答える。
『ミラの親父に口止めされていたからな。
お前に言うと絶対に遠慮するからってさ』
……そこまで見抜かれていたか。
確かに、いきなり「馬車をあげる」って言われても絶対に遠慮していただろう。
気が引けてもらうことはなかったはずだ。
「クレイグってそういうとこあるよねー」
ミラとバリオスは二人で俺の方を見る。
俺は二人に何も言い返せなかった。
「それはそうと、よく引き受けてくれたな。
こういうのには抵抗があるものだと思っていたが……」
『まあ、こういうのも悪くはないと思ったからな。
人間と暮らしていた時はあったが、その時は、「ウマガミ様」って呼ばれてただけだったし。
それに、ちょっと興味もあったからな』
バリオスがいいなら、それでいいか。
「ありがとな」
『おうよ』
◇
幌馬車も立派なものだった。
全面を幌で覆えるようになっているし、造りもしっかりしている。
中で数人は寝ることも出来そうだ。
……ミラには馬車で寝てもらうことにしよう。
さすがに二人一緒に寝るのはまずいだろうし、ポールさんにバレたら今度こそ命が危ないかもしれない。
テントは必要だな!!
「これって、騎士団で使っているものと一緒ね。
紋章などは取り外されているけど」
「そうなのか……」
この馬車に負けないような活躍を見せないといけないな。
これは、俺の心を引き締めるいいものになった。
荷物を積み込み、出発の準備が整う。
ミラは両親と話しているようだった。
別れの挨拶をしているんだろう。俺は少し離れた場所にいた。
すると、ミラが俺を呼びに来る。
ポールさんが話をしたいらしい。
俺はミラについて行った。
「クレイグ君、ミラが迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼む」
エミリアさんも「よろしくね」と言っていた。
「はい、わかりました。それと、迷惑をかけるのはお互いだと思うので」
俺の言葉でポールさんの顔がほほ笑む。
「そうだ、ミラにこれを渡しておくよ」
ポールさんは何かをミラに渡していた。
「これは……!」
ミラは驚いた顔をしていた。
「それは?」
俺が聞くと、ポールさんが答えてくれた。
「それはガーランド家の徽章だ。
ミラは貴族としての旅をしたくないと言ってはいたが、世の中はそんなに甘くはない。
どうしても解決できない事があったら、それを使いなさい」
ミラはそれを大事そうに胸元へと持っていく。
「お父様、ありがとう」
その言葉を聞き、ポールさんも胸をなでおろした。
「君たちの旅がいいものになることを願っているよ」
俺とミラは頭を下げて応えた。
―――――――――――――――
「行ってきまーす!」
ミラの元気いっぱいの声が響く。
ポールとエミリアはそれを見送っていた。
「行ってしまうのか……」
ポールがつぶやく。
「いつまでも親の元にはいないってことね」
エミリアが返す。
「そうは言ってもなぁ……」
「そんなに情けない声を出さないの」
エミリアがポールを諫める。
「あの子たちなら心配ないわ」
エミリアの顔は晴れ晴れしていた。
その様子を見て、ポールも倣う。
バリオスの引く馬車は、門にぶつかりそうになっていた。
それを見て、ポールは慌てて駆けだす。
エミリアはそれを見て微笑んでいた。
「あの子たちの旅がいいものになりますように」
春の陽気と、さわやかな風がそれを見守っていた。
クオル編はこれで終わりです。
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