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34 旅がいいものになりますように

 次の日、俺は報酬を預けに冒険者ギルドに来ていた。

 冒険者タグを窓口にいったん預けると、係員が魔道具で照合して本人確認をしてくれるらしい。 

 しかも、世界中どこでもお金を預けたりおろすことが出来るみたいだ。

 タグは魔道具って聞いていたし、世の中にはすごい技術があるものなんだな。


 クエストはというと、クオルの森は特別危険区域に指定されていて、ウォールベアみたいな強力な魔物が出ることも多い。

 少人数パーティーが主体の冒険者だと、紫級以上でないと受けられないらしい。

 クオルの騎士団は、十人以上の編成で森に入るのだとミラが言っていた。

 

 世界には、他にもそういった場所があるみたいだ。

 俺のタグは白……初心者もいいところだ。

 紫なんてまだ先のことだろう。

 ――早く昇級して、そういった場所にも入れるようになりたいな。


 そういった事情があって、残りの二日間は暇を持て余すことになってしまった。

 その間、もちろん鍛錬は怠っていない。

 ポールさんに頼んで、鍛錬で使っていた広場を使わせてもらい、バリオスと乗馬の練習もした。

 まだ一人で乗ることには慣れていない。

 慣れないことをした結果、肩や太ももがパンパンにもなった。

 いずれは乗りこなせるようになるといいな。





 ――二日後



 ミラの引継ぎも終わり、今日は出発の日だ。

 ガーランド家の生活は快適だった。

 ミラの家族や使用人の人たちも、いい人たちばかりだった。

 ……いい経験をさせてもらったな。

 いつか村に帰った時には、みんなに話すのも悪くなさそうだ。



 荷物を全て持ってホールまで降りる。

 約束していたはずのミラはまだいなかった。

 その代わりに、ポールさんと執事さんがいた。


「クレイグ君は準備万端なようだね」


「ええ、バッチリです」


 そんなやり取りをしつつ、少しの間待つ。


 しかし、ミラは現れない。

 朝食は一緒に食べたんだけど、準備に時間が掛かっているようだ。

 なにやら「期待していてね」みたいなことは言っていたけど……。


「すまないね、クレイグ君。ちょっと様子を見てくるよ」


「僕も行きます」


 俺はポールさんについていくことにした。





「ミラ、入るぞ」


 一言断りを入れ、ポールさんが中に入っていく。

 ドアが開いた瞬間、ミラとエミリアさんの声が聞こえた。


「もっとここをこうした方が――」

「そこはもういいでしょ!」


 何やら、もめているようだった。


 ポールさんの後に続き部屋に入る。

 真っ先に目に入ってきたのは、十人以上でも余裕で映りそうな鏡だった。


 その鏡の前にミラとエミリアさんがいた。

 二人は俺たちに気が付き、こちらを見る。


「あ、お父様。それに、クレイグも」


「ほら、あなたの準備が遅いから来てしまったじゃない」


 エミリアさんは呆れたような声を出していた。

 ミラは頬を膨らませたように「だって~」と言っていた。

 ポールさんも頭を抱えたようなしぐさを取っていた。


「ねぇクレイグ、どう?この鎧!」


 気を取り直したミラは、そう言いながら手を広げたり、くるっと横を向いたりしている。


 ミラの鎧は見たことのないものだった。

 村に来た時や、騎士団で見た時のものとはデザインが違う。

 白や銀を基調に、ところどころに緑っぽい模様が入っている。

 重厚な造りというより、軽やかなイメージだ。

 スカートのようにもなっているし。

 手甲や膝当ても装飾がなされているが、動かしにくい造りにはなっていなさそうだ。


「似合ってるよ」


 俺は一言だけそう告げる。

 するとミラはいつもの笑顔になっていた。

 ……やっぱり、ミラはミラだな。


 ミラの両親は二人ともまた始まった、という顔で小さくため息をついていた。


「お父様、お母様、ありがとう!」


 その声で、二人の顔が緩む。

 鎧は両親からの贈り物だったようだ。


 しかし、次にはポールさんからの厳しい言葉が飛ぶ。


「さあ、クレイグ君に待っていてもらったんだ。早く出るぞ」


 ポールさんの低い一言で、ミラは背筋を伸ばす。

 その声には騎士団長らしさが乗っていた。

 ミラは俺の横に立ち、小さく「ごめんね」と言っていた。

 




 四人でホールへと戻ってきて、ミラは使用人の人たちに「行ってきます!」と、元気よく告げていた。

 そして、ドアを開けた。


 ――そこには幌馬車が止まっていた。

 馬車を引いているのはバリオス。


「え?」


 俺は固まってしまった。

 これは……なんだ?


 俺の様子を察したのか、ポールさんが声をかけてくる。


「すまないね、クレイグ君。

 君に渡す報酬があれだけでは納得がいかなくてね。

 予備で置いてあったものなんだが、君に使ってもらえるとこちらとしても嬉しい。

 もちろんバリオス君の了承も得ている」


「え……はい」


 俺はそれだけしか言えなかった。

 こんな立派な馬車まで…。十万ルアだけでも十分すぎるのに。


 ポールさんは続けて言う。


「娘を助けてくれたんだ。これくらいさせてくれ。

 それに、旅はいろいろと必要な物が多い。

 これは私からの贈り物だ」


 ここまでしてもらっては、断ろうにも断れない。

 それに、馬車があるのはありがたい。

 荷物の問題は元々考えていたしな。

 ここはありがたくもらっておいた方がいいだろう。


「ありがとうございます。少し困惑はしましたが」


 ポールさんは微笑んで、応えてくれた。



 俺とミラはバリオスの方へと歩く。


『おう、遅かったな。待ちくたびれたぜ』


 バリオスは開口一番にそんなことを言った。


「ごめんね。私の準備が手間取っちゃった」


 ミラはバリオスに謝っていた。


「それにしても……いつこんな話をしていたんだ?」


『あー……クオルに来た次の日の朝だな。

 お前がニンジンを持って様子を見に来た時だ』


 あの日か……。

 あの時二人にはぐらかされた気がしたのは、これがあったからか。


「言ってくれればよかったのに」


 俺がそう言うと、バリオスは答える。


『ミラの親父に口止めされていたからな。

 お前に言うと絶対に遠慮するからってさ』


 ……そこまで見抜かれていたか。

 確かに、いきなり「馬車をあげる」って言われても絶対に遠慮していただろう。

 気が引けてもらうことはなかったはずだ。


「クレイグってそういうとこあるよねー」


 ミラとバリオスは二人で俺の方を見る。

 俺は二人に何も言い返せなかった。


「それはそうと、よく引き受けてくれたな。

 こういうのには抵抗があるものだと思っていたが……」


『まあ、こういうのも悪くはないと思ったからな。

 人間と暮らしていた時はあったが、その時は、「ウマガミ様」って呼ばれてただけだったし。

 それに、ちょっと興味もあったからな』


 バリオスがいいなら、それでいいか。


「ありがとな」


『おうよ』





 幌馬車も立派なものだった。

 全面を幌で覆えるようになっているし、造りもしっかりしている。

 中で数人は寝ることも出来そうだ。

 ……ミラには馬車で寝てもらうことにしよう。

 さすがに二人一緒に寝るのはまずいだろうし、ポールさんにバレたら今度こそ命が危ないかもしれない。

 テントは必要だな!!


「これって、騎士団で使っているものと一緒ね。

 紋章などは取り外されているけど」


「そうなのか……」


 この馬車に負けないような活躍を見せないといけないな。

 これは、俺の心を引き締めるいいものになった。


 

 荷物を積み込み、出発の準備が整う。

 ミラは両親と話しているようだった。

 別れの挨拶をしているんだろう。俺は少し離れた場所にいた。


 すると、ミラが俺を呼びに来る。

 ポールさんが話をしたいらしい。

 俺はミラについて行った。


「クレイグ君、ミラが迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼む」


 エミリアさんも「よろしくね」と言っていた。


「はい、わかりました。それと、迷惑をかけるのはお互いだと思うので」


 俺の言葉でポールさんの顔がほほ笑む。



「そうだ、ミラにこれを渡しておくよ」


 ポールさんは何かをミラに渡していた。


「これは……!」


 ミラは驚いた顔をしていた。


「それは?」


 俺が聞くと、ポールさんが答えてくれた。


「それはガーランド家の徽章(きしょう)だ。

 ミラは貴族としての旅をしたくないと言ってはいたが、世の中はそんなに甘くはない。

 どうしても解決できない事があったら、それを使いなさい」


 ミラはそれを大事そうに胸元へと持っていく。


「お父様、ありがとう」


 その言葉を聞き、ポールさんも胸をなでおろした。


「君たちの旅がいいものになることを願っているよ」


 俺とミラは頭を下げて応えた。



―――――――――――――――


「行ってきまーす!」


 ミラの元気いっぱいの声が響く。


 ポールとエミリアはそれを見送っていた。


「行ってしまうのか……」


 ポールがつぶやく。


「いつまでも親の元にはいないってことね」


 エミリアが返す。


「そうは言ってもなぁ……」


「そんなに情けない声を出さないの」


 エミリアがポールを諫める。


「あの子たちなら心配ないわ」


 エミリアの顔は晴れ晴れしていた。

 その様子を見て、ポールも倣う。


 バリオスの引く馬車は、門にぶつかりそうになっていた。

 それを見て、ポールは慌てて駆けだす。


 エミリアはそれを見て微笑んでいた。


「あの子たちの旅がいいものになりますように」



 春の陽気と、さわやかな風がそれを見守っていた。

クオル編はこれで終わりです。

ここまで読んでくださってありがとうございました。


次回からは違う所に行きます。


それと、ブックマーク登録ありがとうございます!

初ブックマークだったので本当に嬉しかったです。

更新が止まっていた時期もありましたが、それでも読んでくださる方がいるんだと思うと、とても励みになりました。


長くなりましたが、これからも更新していくので、どうぞよろしくお願いします。

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