表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/55

33 ケーキ土産と騎士団長の問い

 手土産を持って、ガーランド邸へと帰ってくる。

 門番の方に挨拶をし、玄関へとたどり着く。


 俺が扉を開く前に、執事さんがドアを開けてくれた。


「おかえりなさいませ、クレイグ様」


「はい、ただいま戻りました」


 俺にもこんなに丁寧に挨拶をしてくれるなんて……。

 嬉しい反面、むず痒いような気持ちが同時に来る。


 土産は執事さんに渡しておくか。

 俺が部屋に持っていっても意味無いしな。


「これ、お土産で買ってきたのですが、皆さんで分けてください」


 執事さんにケーキとクッキーの入った箱を渡す。

 ケーキはガーランド家用、クッキーは使用人さんたち用と、話をしておく。

 受け取った執事さんは、顔をほころばせながら、口を開く。


「私どもにも頂けるとは……。ありがとうございます、ありがたく頂戴いたします」


 そう言って、頭を下げてくれる。

 俺も、思わず頭を下げていた。


「それにしても、この箱……。奥様たちも喜ぶと思いますよ」


 にっこりと笑いながら、そう告げる。


「何か、特別なのですか?」


 俺は疑問に思ったことを聞いた。


「そうですね……。これはご本人から聞いた方がよろしいかと思います。

 こちらは食事の後にお出ししますね」


 俺は執事さんに後を任せ、挨拶をしてから部屋へと向かう。

 あのケーキ、何かあるのだろうか?

 もしかして、ガーランド家御用達のケーキ屋だったのだろうか?

 もしそうなら、結果的に良かったかもしれない。

 俺は上機嫌になりながら部屋へと戻った。





 ガーランド家との食事も終わり、俺は食後のお茶をすすっていた。

 コーヒーは飲み慣れてはいなかったが、ガーランド家で出されるコーヒーは別格だった。

 香りもいいし、酸味が抑えられた味は、俺の好みだった。

 今度、産地を聞いてもいいかもしれない。

 もしかしたら旅で行くことになるかもしれないからな。

 ルークへの土産にもなりそうだ。


 俺がそんなことを思っていると、デザートとして、俺が買ってきたケーキが運ばれてきた。


「こちらはクレイグ様からです」


 執事さんの方へ目をやると、目が合い、微笑んでいた。

 執事さんもサプライズとして、黙っていてくれたようだった。

 俺の意図も汲んでくれたみたいだ。

 感謝の気持ちとして、頭を下げておいた。


 みんなの反応はどうだろうか……?


 ポールさんと、エミリアさんはにこやかに微笑み、ミラとエディさんは声を上げて喜んでいた。


「やったー!私の大好きなタルトだー!」


 はしゃぐ子供たちを見て、エミリアさんの鋭い視線が、二人を襲う。

 二人ともその視線で大人しくなった。

 こういうのを見ていると、微笑ましい気持ちになるな。


 ミラの前に出されたのは、フルーツタルト。

 エミリアさんには、チーズケーキ。

 エディさんには大きなイチゴの乗ったショートケーキ。

 俺とポールさんの前には、ビターチョコレートケーキが出された。


 店頭に並んでいるときから思っていたけど、本当にいい香りがする。


「クレイグ君、ありがとうね。私の実家のケーキを買ってきてくれて」


 ――え?


 エミリアさんからの一言で、俺は固まっていた。


 あのケーキ屋が、エミリアさんの実家だったのか!?


「お母様の実家のケーキ、すっごく美味しいの。

 うちのシェフも習いに行くくらいよ。クレイグは知ってて買ってきてくれたの?」


「いや、偶然だ……。美味しそうな匂いがしたから、釣られて買ってきたんだ」


 これは本当に偶然だった。



「エミリアさんて、元は平民だったのですか?」


「ええ、そうよ。実家は継がなかったけどね」


「そうだったんですか。てっきり、元々貴族だったのかと」


 今まで見てきたエミリアさんの立ち居振る舞いは、貴族そのものだった。


 ポールさんが口を開く。


「昔のエミリアは、ミラに似ていてお転婆で、男勝りな性格だったからな。

 そう思うのも無理はない」


 そう言って笑っていた。


 その瞬間、ポールさんが跳ねる。

 エミリアさんが、テーブルの下でポールさんを蹴ったようだ。

 ポールさんはかがんで、足をさすっているようだった。

 エミリアさんの顔は笑顔だった。


 あー……騎士団での肘打ちや、応接間で殴り倒したのも、納得がいくかも。


「お義母(かあ)さまに鍛えられましたから」


「おばあ様厳しいもんねー。あ、お父様の方のね」


 ミラは、そう言ってくれた。


「僕はおばあちゃん好きだよー」


 エディさんは、なんとも子供らしい反応だった。


「まあ、とにかくケーキをいただこうじゃないか。せっかくクレイグ君が買ってきてくれたんだし」


 痛さを我慢しているのか、ポールさんが顔をひきつらせたまま言う。

 その言葉で、みんなも食べ始めた。


 みんな美味しそうに食べてくれる。

 俺も一口食べてみる。

 甘さが抑えられていて食べやすかった。

 チョコレートのいい香りが鼻を抜ける。


 みんないい顔で食べてくれる。

 ……ほんと、買ってきてよかったな。





 夕食を終え、シャワーを浴びた後、俺は部屋でくつろいでいた。

 すると、部屋のドアがノックされる。


「クレイグ君、いるかね?」


 ポールさんの声だった。

 俺は返事をして、ドアを開けた。


「夜分に申し訳ない。今大丈夫かね?」


「ええ、大丈夫です」


 ポールさんを部屋に通し、近くにあったテーブルに着く。

 ポールさんはテーブルの上に袋を置いた。

 袋は金属音と、重量のありそうな音がしていた。


「早速本題に入るが、これは、ミラの試験に付き合ってくれた礼と、守ってくれた報酬だ。確認してもらえるか?」


 そう言って、袋を俺の方に移動する。

 ポールさんの言葉通り、俺は袋の中を確認した。


 ――10万ルア、確かに入っている。

 こんな大金、見るのも受け取るのもこれが初めてだ。

 にやけそうになる顔を必死でこらえる。


「はい、確認しました。ありがとうございます」


 俺はそう言い、頭を下げる。

 すると、ポールさんが口を開く。


「いやいや、こちらこそ改めてお礼を言う。……娘を守ってくれてありがとう」


 そう言ったポールさんの顔は、威厳のある騎士団長というよりは、一人の娘の父親の顔だった。


 改めて、良いことをしたと思う。

 なし崩し的に受けたような依頼ではあったが、結果的に人を救えたんだ。

 それに……旅の仲間にも巡り合えた。

 現在進行形で貴重な体験もさせてもらってるし。

 俺の方こそ、またお礼を言いたい気持ちだったが、これ以上は無粋かもしれない。



「それはそうとクレイグ君、あー……いや、少し聞きたいことがあるのだが……」


 ポールさんは、ばつが悪そうに言う。


「なんでしょうか?」


「答えられる範囲でいいのだが……言いたくなければ言わなくてもいいんだ」


 なんだろう?こんなに言葉を濁すなんて。

 俺は黙ってうなずいた。

 ポールさんは俺の顔をまじまじと見た後に、意を決したように口を開く。


「クレイグ君は18歳だと聞いた。それで……君は、親はいたことはあるのかい?

 ああ、いや、ケヴィンじゃなくて、本当の両親のことだ」


 そういうことか。

 そりゃあ聞くのもためらうはずだ。

 過去をあれだけ話して、ここで言わないのも変だろう。

 俺はなるべく角が立たないように答える。


「いえ、いたことはないですね。

 物心がついた時から孤児院で育ったもので。

 親がいたという話も聞いたことはないですね」


 出来るだけ穏やかな口調でそう言う。


「そうだったのか……。いや、変なことを聞いて申し訳ない」


 そう言って、また頭を下げる。

 俺は「大丈夫です」と言い、頭を上げてもらう。

 ポールさんは、なんとも言えない顔をしていた。


 ……なんだったんだろう?

 俺にとっては「本当の親がいない」が当たり前すぎて、逆にそんなふうに心配される方が、不思議な感じがする。

 まわりの大人たちも優しくしてくれたし、親父もいたしな。





 ポールさんとの会話は短く終わった。

 ポールさんは「良い夢を」とだけ残し、部屋を後にした。


 実務的というか……騎士っぽいなと思ってしまった。

 騎士団長なんだから当たり前なんだけどな。

 カッコいいというか、なんというか、親父とは違った意味で憧れてしまう。

 

 俺は報酬の入った袋を見る。

 明日、冒険者ギルドに預けてくるか。

 最低限だけ持っているだけで良いし。

 ついでに受けられるクエストがないかも探すか。

 あと二日はやることもないしな。


 そういえば……バリオスもミラと一緒に屋敷に来たし、明日、厩舎にも顔を出すか。



 俺は早めに寝ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ