33 ケーキ土産と騎士団長の問い
手土産を持って、ガーランド邸へと帰ってくる。
門番の方に挨拶をし、玄関へとたどり着く。
俺が扉を開く前に、執事さんがドアを開けてくれた。
「おかえりなさいませ、クレイグ様」
「はい、ただいま戻りました」
俺にもこんなに丁寧に挨拶をしてくれるなんて……。
嬉しい反面、むず痒いような気持ちが同時に来る。
土産は執事さんに渡しておくか。
俺が部屋に持っていっても意味無いしな。
「これ、お土産で買ってきたのですが、皆さんで分けてください」
執事さんにケーキとクッキーの入った箱を渡す。
ケーキはガーランド家用、クッキーは使用人さんたち用と、話をしておく。
受け取った執事さんは、顔をほころばせながら、口を開く。
「私どもにも頂けるとは……。ありがとうございます、ありがたく頂戴いたします」
そう言って、頭を下げてくれる。
俺も、思わず頭を下げていた。
「それにしても、この箱……。奥様たちも喜ぶと思いますよ」
にっこりと笑いながら、そう告げる。
「何か、特別なのですか?」
俺は疑問に思ったことを聞いた。
「そうですね……。これはご本人から聞いた方がよろしいかと思います。
こちらは食事の後にお出ししますね」
俺は執事さんに後を任せ、挨拶をしてから部屋へと向かう。
あのケーキ、何かあるのだろうか?
もしかして、ガーランド家御用達のケーキ屋だったのだろうか?
もしそうなら、結果的に良かったかもしれない。
俺は上機嫌になりながら部屋へと戻った。
◇
ガーランド家との食事も終わり、俺は食後のお茶をすすっていた。
コーヒーは飲み慣れてはいなかったが、ガーランド家で出されるコーヒーは別格だった。
香りもいいし、酸味が抑えられた味は、俺の好みだった。
今度、産地を聞いてもいいかもしれない。
もしかしたら旅で行くことになるかもしれないからな。
ルークへの土産にもなりそうだ。
俺がそんなことを思っていると、デザートとして、俺が買ってきたケーキが運ばれてきた。
「こちらはクレイグ様からです」
執事さんの方へ目をやると、目が合い、微笑んでいた。
執事さんもサプライズとして、黙っていてくれたようだった。
俺の意図も汲んでくれたみたいだ。
感謝の気持ちとして、頭を下げておいた。
みんなの反応はどうだろうか……?
ポールさんと、エミリアさんはにこやかに微笑み、ミラとエディさんは声を上げて喜んでいた。
「やったー!私の大好きなタルトだー!」
はしゃぐ子供たちを見て、エミリアさんの鋭い視線が、二人を襲う。
二人ともその視線で大人しくなった。
こういうのを見ていると、微笑ましい気持ちになるな。
ミラの前に出されたのは、フルーツタルト。
エミリアさんには、チーズケーキ。
エディさんには大きなイチゴの乗ったショートケーキ。
俺とポールさんの前には、ビターチョコレートケーキが出された。
店頭に並んでいるときから思っていたけど、本当にいい香りがする。
「クレイグ君、ありがとうね。私の実家のケーキを買ってきてくれて」
――え?
エミリアさんからの一言で、俺は固まっていた。
あのケーキ屋が、エミリアさんの実家だったのか!?
「お母様の実家のケーキ、すっごく美味しいの。
うちのシェフも習いに行くくらいよ。クレイグは知ってて買ってきてくれたの?」
「いや、偶然だ……。美味しそうな匂いがしたから、釣られて買ってきたんだ」
これは本当に偶然だった。
「エミリアさんて、元は平民だったのですか?」
「ええ、そうよ。実家は継がなかったけどね」
「そうだったんですか。てっきり、元々貴族だったのかと」
今まで見てきたエミリアさんの立ち居振る舞いは、貴族そのものだった。
ポールさんが口を開く。
「昔のエミリアは、ミラに似ていてお転婆で、男勝りな性格だったからな。
そう思うのも無理はない」
そう言って笑っていた。
その瞬間、ポールさんが跳ねる。
エミリアさんが、テーブルの下でポールさんを蹴ったようだ。
ポールさんはかがんで、足をさすっているようだった。
エミリアさんの顔は笑顔だった。
あー……騎士団での肘打ちや、応接間で殴り倒したのも、納得がいくかも。
「お義母さまに鍛えられましたから」
「おばあ様厳しいもんねー。あ、お父様の方のね」
ミラは、そう言ってくれた。
「僕はおばあちゃん好きだよー」
エディさんは、なんとも子供らしい反応だった。
「まあ、とにかくケーキをいただこうじゃないか。せっかくクレイグ君が買ってきてくれたんだし」
痛さを我慢しているのか、ポールさんが顔をひきつらせたまま言う。
その言葉で、みんなも食べ始めた。
みんな美味しそうに食べてくれる。
俺も一口食べてみる。
甘さが抑えられていて食べやすかった。
チョコレートのいい香りが鼻を抜ける。
みんないい顔で食べてくれる。
……ほんと、買ってきてよかったな。
◇
夕食を終え、シャワーを浴びた後、俺は部屋でくつろいでいた。
すると、部屋のドアがノックされる。
「クレイグ君、いるかね?」
ポールさんの声だった。
俺は返事をして、ドアを開けた。
「夜分に申し訳ない。今大丈夫かね?」
「ええ、大丈夫です」
ポールさんを部屋に通し、近くにあったテーブルに着く。
ポールさんはテーブルの上に袋を置いた。
袋は金属音と、重量のありそうな音がしていた。
「早速本題に入るが、これは、ミラの試験に付き合ってくれた礼と、守ってくれた報酬だ。確認してもらえるか?」
そう言って、袋を俺の方に移動する。
ポールさんの言葉通り、俺は袋の中を確認した。
――10万ルア、確かに入っている。
こんな大金、見るのも受け取るのもこれが初めてだ。
にやけそうになる顔を必死でこらえる。
「はい、確認しました。ありがとうございます」
俺はそう言い、頭を下げる。
すると、ポールさんが口を開く。
「いやいや、こちらこそ改めてお礼を言う。……娘を守ってくれてありがとう」
そう言ったポールさんの顔は、威厳のある騎士団長というよりは、一人の娘の父親の顔だった。
改めて、良いことをしたと思う。
なし崩し的に受けたような依頼ではあったが、結果的に人を救えたんだ。
それに……旅の仲間にも巡り合えた。
現在進行形で貴重な体験もさせてもらってるし。
俺の方こそ、またお礼を言いたい気持ちだったが、これ以上は無粋かもしれない。
「それはそうとクレイグ君、あー……いや、少し聞きたいことがあるのだが……」
ポールさんは、ばつが悪そうに言う。
「なんでしょうか?」
「答えられる範囲でいいのだが……言いたくなければ言わなくてもいいんだ」
なんだろう?こんなに言葉を濁すなんて。
俺は黙ってうなずいた。
ポールさんは俺の顔をまじまじと見た後に、意を決したように口を開く。
「クレイグ君は18歳だと聞いた。それで……君は、親はいたことはあるのかい?
ああ、いや、ケヴィンじゃなくて、本当の両親のことだ」
そういうことか。
そりゃあ聞くのもためらうはずだ。
過去をあれだけ話して、ここで言わないのも変だろう。
俺はなるべく角が立たないように答える。
「いえ、いたことはないですね。
物心がついた時から孤児院で育ったもので。
親がいたという話も聞いたことはないですね」
出来るだけ穏やかな口調でそう言う。
「そうだったのか……。いや、変なことを聞いて申し訳ない」
そう言って、また頭を下げる。
俺は「大丈夫です」と言い、頭を上げてもらう。
ポールさんは、なんとも言えない顔をしていた。
……なんだったんだろう?
俺にとっては「本当の親がいない」が当たり前すぎて、逆にそんなふうに心配される方が、不思議な感じがする。
まわりの大人たちも優しくしてくれたし、親父もいたしな。
◇
ポールさんとの会話は短く終わった。
ポールさんは「良い夢を」とだけ残し、部屋を後にした。
実務的というか……騎士っぽいなと思ってしまった。
騎士団長なんだから当たり前なんだけどな。
カッコいいというか、なんというか、親父とは違った意味で憧れてしまう。
俺は報酬の入った袋を見る。
明日、冒険者ギルドに預けてくるか。
最低限だけ持っているだけで良いし。
ついでに受けられるクエストがないかも探すか。
あと二日はやることもないしな。
そういえば……バリオスもミラと一緒に屋敷に来たし、明日、厩舎にも顔を出すか。
俺は早めに寝ることにした。




