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31 全身全霊の業《わざ》

「おーい、クレイグ。起きろー」


 親父の声で目を覚ます。

 どれだけ疲れていても、大体はこの声で起こされる。

 ベッドから抜け出して、親父の元へと向かう。


「おはよ~」


「やっと起きたか。今日は山に入るんだ、さっさと飯食えよ」


「あ~い」





 着替えて外に出る。

 朝日がまぶしい。

 俺は親父に連れられて歩く。


 久しぶりに入る山。

 歩き慣れてはいない。

 時々小走りになりながら、なんとか親父に合わせて歩く。

 親父の背中は大きく、背中には大剣を背負っている。


 親父の身長くらいある大剣。

 黒色に鈍く光り、ところどころに小さい傷がある。

 持たせてもらったこともあるが、俺には重すぎて持ち上げることすらできなかった。





 しばらく歩くと、滝のある小川に出た。

 俺たちはそこで昼休憩することにした。


「なあ、親父。親父って必殺技みたいなものってないの?」


「なんだよ、そんないきなり。また絵本でも読んでたのか?」


 親父は、呆れたような顔をしながら言った。

 

「だってカッコいいじゃん。ファイアソード!とかさ!」


 俺は、その辺にあった木の枝を手に取り、振り回しながら言う。

 俺の様子を見た親父は笑いながら言った。


「そりゃあお前、子供同士ならそれでいいだろうさ。

 でもな、実際に戦ってる時にそんなことを言ってたら、相手に行動がまるわかりだろ」


 俺は少しムッとして、親父に言う。


「そんなことない!いくぞ、ファイアソード!」


 俺は親父に向かって走り出し、木の棒を振り上げる。

 親父もそれを受け入れるように構える。


 俺は途中で振り下ろすのをやめ、親父の脛に蹴りを入れる。


「痛っ!」


 親父は脛をさすっていた。


「ほらな!ちゃんと効くだろ!」


 そんな風に得意げになっていると、親父は俺に覆いかぶさってくる。


「こいつ、やりやがったな!」


 俺はあっけなく捕まり、頭をグリグリされる。


「やめろってー!」


 抵抗したが、俺の力じゃどうにもならない。

 俺はされるがままだった。

 親父はずっと笑っていた。





 じゃれ合ったあと、昼飯を食べて、ゆったりとした時間が流れる。

 俺は魚がいないかを見に、川の方へ寄っていた。


 すると、親父から声をかけられる。


「クレイグ、さっき必殺技を見たいと言っていたな」


 その言葉を聞き、振り返る。


「え!必殺技あるの!?」


 俺は期待に胸を膨らませながら、親父の元へと走る。

 

「おいおい、そんなに目をキラキラさせるな」


 親父は少し照れたように顔をそむける。


「はやくはやく!見せて!」


 せがんでいると、親父が少し困ったような顔をしながら口を開く。


「焦るなって。今見せてやるから」


 そう言いながら、横に置いてあった大剣を手に取り、大岩が二つ並んでいる場所へ歩き出す。

 俺はワクワクしながら、後ろについていく。



「危ないから少し下がってろ」


「わかった」と返事をして、俺は離れる。


「最初は普通にいくぞ」


 俺は息を呑んだ。


 親父は大剣を振りかぶり、力いっぱい大岩に叩きつけた。

 すると――大岩は破壊音と共に砕け散った。

 俺のすぐ近くにまで、岩のかけらが飛んでくる。


 その光景を見て、大いに喜んだ。


「すっげー!」


 俺は親父に近寄る。


「そうだろそうだろ!」


 親父も満足げな表情で笑っていた。


「でもな、これはまだ本気じゃない。また離れていろ」


 その言葉を聞き、俺は再度離れる。

 これ以上にすごいのがあるなんて。

 俺は期待に胸を膨らませる。


 親父は深呼吸をして、息を整える。

 親父の周りの空気が、張りつめたような気がした。


「――いくぞ」


 親父は大剣を振り下ろす。


 ――キンッ


 という音がして、大岩は真っ二つになり、轟音と共に左右に倒れた。

 さっきみたいに破片は飛ばない。

 ただ、岩が線で割れたみたいに見えた。



「どうだ、すごいだろう!」


 親父は、すごいドヤ顔で俺にそう言ってくる。


「さっきの方がすごかったよ」


 俺はそう答えていた。


 俺の言葉を聞き、親父が駆け寄る。


「このすごさが分からないなんて、こいつ」


 そんなことを言いながら、また頭をグリグリされた。


「だって、さっきの方がすごく見えたから!」


 しばらくじゃれ合いを楽しんだ。





 親父の斬った岩に近づく。

 その切り口は――鏡みたいに俺の顔を映していた。

 断面を触ると、ツルツルしていた。


「どうだ、すごさが分かったか!」


 親父は胸を張り、褒めろと言わんばかりだった。


「あー、すごーい」


「おい、なんか……やけに棒読みだな」


 やべ、これ、また頭をグリグリされるやつだ。

 俺は話を変える。


「これって名前とかあるの?」


「名前?あるわけないだろ」


 名前ないのか……。


「どうやるの?」


 親父は、待ってましたと言わんばかりに鼻息を荒くする。


「まずは精神を統一してだな――」


 親父は目を輝かせながら説明し始める。

 俺は話半分で聞いていた。

 話し終わると満足そうな表情を浮かべていた。


「難しくてよくわかんない」


 俺がそう言うと、親父は困った顔をして言う。


「ん-。簡単に言うと、全身全霊で斬るって感じだな」


「ぜんしんぜんれいって何?」


「そこからかよ!」






 ――子供の頃の夢か……。


 俺は目を覚ます。

 さっきまで親父の笑い声が、すぐそばで聞こえていた気がする。

 外からは小鳥のさえずりが聞こえる。


 今なら親父のすごさが分かる。

 俺も何度か試してみたが、粉々にすることは出来ても、あんなに綺麗な断面にすることは1回も出来なかった。


 ……全身全霊か。


 心の中でそう呟きながら起き上がり、外を見る。

 まだ早い時間だな。

 鍛錬でもするか。





 着替えを済ませ、今日は大剣を担ぐ。

 部屋を出たはいいが、どこに行こうか。

 街に出て、良さそうなところを探したほうが良いか?


 そんなことを考えていると、昨日の執事さんと鉢合わせる。


「おはようございます、クレイグ様」


 丁寧にお辞儀までしてくる。


「あ、おはようございます」


 俺も同じようにお辞儀をした。

 執事さんは優しく俺に問いかけてくる。


「どこかにお出かけですか?」


「ええ、鍛錬をしたいもので」


「左様ですか。場所にはお心当たりはございますか?」 


 場所、困ってたんだよな。

 今日は剣も担いでいるし、そんなに派手に動き回らない方がいいだろう。


「いえ、まだ決まってはいないです」


「そうでしたか。

 それでは、ついて来て下さい」


「え、あ、はい……」


 俺は執事さんについていくことにした。





 執事さんに連れられて来たのは、屋敷の裏側だった。

 そこには綺麗に整えられた芝が一面に敷かれた、かなり広い牧場のような土地だった。


 朝のさわやかな風が吹く。

 陽も昇り始め、辺りはすっかり明るくなっていた。


「ここでしたら、大丈夫ですよ。

 旦那様や奥様も、たまに利用されています」


「そんなところを僕が使っても大丈夫でしょうか?」


 俺はそう聞く。


「ええ、大丈夫ですとも。

 お客様もご利用になる場所ですから。

 旦那様には私の方から伝えておきますので、どうぞご利用下さい」


「分かりました。ありがとうございます」


「朝食時には、お呼びいたしますね」


 執事さんはにっこりと笑って去っていった。


 いやー……至れり尽くせりだな。

 旅に出てからこんなことが多いような気がする。

 グノットの商工会の宿舎を借りたりとか。


 ま、考えても仕方ないか。

 さっさと始めよう。





 いつものように走った後、筋トレをする。

 今日はその後に大剣を握る。


 いつ握っても手に馴染むグリップと、丁度良い重さ。

 剣を持った瞬間、足が少し沈み込む。

 俺はルークに感謝しつつ、剣を振る。

 フォン、フォンという小気味いい音が鳴る。


 しばらくの間剣を振っていた。


 ……一度やってみるか。

 俺は息を整え、全身全霊を意識して剣を振り下ろす。



 ――フォン 



 ……なんか違うな。

 俺と親父、どう違うんだろうな。

 俺もいつか出来るようになりたいものだ。



「おはよう、クレイグ君」


 剣を振っていると、声をかけられる。

 振り返ると、そこにはポールさんが立っていた。

 俺は剣を振るのをやめ、挨拶をする。

 ポールさんは執事さんから話を聞いていたようだった。

 少し談笑をする。


「いやあ、それにしてもクレイグ君は、ケヴィンによく似ているよ。

 特に、剣を振っている姿がな」


 そう言われて、胸の奥が温かくなる。

 まだまだ親父には追い付けないけど、そう言ってもらえるのは素直に嬉しい。

 昨日の話だと、親父は英雄みたいだったしな。

 ……いつか追い越せる日も来るのだろうか。


 そんな風に思っていると、ポールさんは続けて言う。


「ミラにも見習ってもらいたいよ。

 あの子は朝が弱いからな。クレイグ君みたいに早起きしてもらわないと」


 そう言って二人で笑い合う。



「さあ、朝食の時間だ。一緒に行こうか」


 俺はポールさんについて行った。

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