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大剣使いの放浪記  作者: 秋凪勇輝
プロローグ ペルナ村
3/24

03 旅立てない日

「あ、あなたがクレイグさん……?」


 やっべぇ、絶対勘違いしてるってこれ。

 とりあえずコイツを離そう。


 力を緩めてルークを開放する。その場に倒れこんでしまったが、今は放っておくか。


 気を取り直して女性に挨拶する。


「は、はい。俺がクレイグさんですよ」


 テンパって変な返しをしてしまった。

 

 ……………。


 女性も固まってしまっている。どうすんだこれ。

 こうなったら無理やりにでも会話を続けるしかない!


「俺に何か用ですか?」


「え、ええ。お願いがあるんですけど‥その前に、その人大丈夫ですか?」


 倒れこんだルークをみてそう言う。


「あー‥あはは。これはその…スキンシップみたいなものなので大丈夫です」


「大丈夫じゃねーっての…お前やり過ぎだって…」


 復活してきたルークがそう言う。


「すまん、さっき言われたばかりなのにやり過ぎてしまった」


「おう…ここじゃ落ち着いて話も出来ないだろうから、中へどうぞ…」

 ダメージが残っているのに世話になってしまった。これからはもっと慎重になろう。



 ルークに謝罪し、3人で工房の中に入る。


 俺はさっき座った椅子にまた座りなおし、訪ねてきた女性は対面に座った。

 ルークはお茶を淹れる準備をしているようだった。


 改めて女性の方を視てみる。

 髪は綺麗な金色で後ろで結っている。顔は‥美人さんだな。

 装備は鎧一式だし、騎士の方だろう。

 たたずまいも騎士そのものって感じだし。


 まだ微妙な雰囲気が残っているのか、どうも話しかけづらい。

 このままいてもしょうがないし、意を決して話しかける。


「一応さっきも言いましたが、俺の名前はクレイグです。えっと、あなたは‥?」


「あ、はい。そうですよね。」


 女性はすっと立ち上がり、


「申し遅れました、私はミラと申します」


 と、恭しくお辞儀をした。

 そんなに畏まらないでと促しつつ、席に座ってもらった。



「それで、お願いというのは?」


「はい。この山にいる【タスクボア】を狩るのに協力してほしいのです」


 おっとっと。このタイミングでか…


「村の方から、山に詳しいのはクレイグさんだと伺いました。急いで探した方が良いと言われて探していたんです」


「あー…えっと、その…」


 歯切れの悪い返しをしていると


「ご都合が悪かったのでしょうか?」


 と言われてしまう。まあそうだよな。


「都合が悪いというか、なんというか…」


 どうしよう。今日出発するつもりだったんだけどな…

 今から山に入っても、獲物をみつけられるかどうかも分からないし、お願いを聞いてしまったら今日出発するのは無理になるだろう。



「おーい、クレイグ、ちょっといいか?」


 不意にカウンターの奥のルークから呼ばれる。



 ミラさんに断りをいれてから席を立ち、ルークがいるであろうカウンターの裏の方へまわる。


「すまん、盗み聞きするつもりはなかったんだが、どうも気になってな」


「いや、いいんだ。それで、どうかしたか?」


 呼ばれた意図が分からず尋ねる。

 すると、ちょっと険しい顔つきになる。


「あの子、何か怪しいんだよな。騎士ではあるが、装備が一般の騎士とは違って質が良い。装飾こそ一般の物とは変わらないがな」


 流石鍛冶屋だな。見ただけで分かるとは。


「それで、お前から見てあの子はどうだ?()()()か?」


 ああ、そういうことだったのか。


「いや、()()()()な」



 俺は魔法は使えない。その代わりと言ってはなんだが、眼が他の人と違うらしい。

 敵意があったり、騙そうとする輩がいると、その人に黒い靄がかかって見える。

 常に視えている訳じゃなく、視たいときに能力を使うし、コントロールは出来る。

 まあ、それだけの能力なんだが。この能力のおかげで何回か上手くいったことがある。便利な能力だ。

 この能力を知っているのは、親父とルークだけだった。



「一応さっきの指摘を俺がしてみて、どういう反応になるかみてみよう。それでお前が判断しろ」


「ああ、分かった。助かるよ」


 打合せが終わり、二人でミラさんの方へと戻る。


「いやーすいません。ちょっと人手が欲しかったもので」


 さっきの表情とは打って変わってにこやかな顔でそう告げる。変わり身が早いな。

 俺は能力を使って()()


「僕はルークって言います。えっと…ミラさんでしたっけ。今日はお一人でこの村に来られたのですか?」


「はい。鍛錬も兼ねて一人で来ました」


「へー。どちらから?」


「クオルからです」



 クオルというのはこの辺りでは一番でかい街だ。領主も住んでいて、私兵の騎士団もあるそうだ。

 その騎士団の偉い方かな?俺とそう年齢も変わらなさそう見えるが。



「クオルと言えば、領主様の騎士団がありますよね?その騎士団の方なんですか?」


「はい。そうです」


「騎士団の装備とは違うもののようですが、本当に騎士団の方ですか?」


 はっ、というような顔をして固まってしまった。


「………………言わないと駄目でしょうか?」


 ルークとアイコンタクトを行う。

 視えるか?

 視えない。


 やましいことは無いようだが、隠したいことがあるのは分かった。ここまでで十分だろう。本当に困っているようだし。

 ここからは俺の番だな。


「いや、言いたくないのなら言わなくて大丈夫です」


「すいません。ありがとうございます」


 ホッとしたのだろう。緊張した表情ではなくなっている。


「それで、タクスボアの件なんですが…」


「……はい」


 またもや緊張した表情になる。


「協力しようと思います」


 ミラさんの表情が明るくなる。


「本当ですか!?ありがとうございます!!」


 こうして喜んでいるところを見ると、年相応の女の子のようだった。

 ミラさんもそれに気づくと、咳ばらいをし、また騎士の様相になる。


「クレイグさんはいつごろ出発できそうですか?」


「いつでも大丈夫です。向かう途中に少し寄りたい場所があるんで、そこに寄ってもらえれば」


「分かりました。荷物を取ってきて、またここに来ますね」


 残りのお茶を飲み干し、ルークにもお礼を言って工房を後にする。

 窓から様子をうかがうと、飛び跳ねて喜んでいるようだった。



「あんなに喜んでもらえたら嬉しいだろ?」


 いつの間にか横にいたルークがきいてくる。


「そうだな」



 俺の旅立ちはまだ先になりそうだ。

2024/11/06

クレイグの能力を、「視たくない時に視えなくする」ではなく、「視たい時に視えるようにする」に修正しました。

当初から後者の発想だったのですが、表現力の無さで逆になってしまっていました。申し訳ないです…

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