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26 暴風と呼ばれた男

 訓練場から戻った俺は、さっきの応接間へ案内された。

 ミラの親父さんとおふくろさんは茶菓子を取ってくると言いその場を離れた。


 部屋の中へと案内された俺は、ミラに言われるがままにソファーに腰を下ろす。

 ミラはそのまま俺の横に腰を下ろした。

 するとミラはそのまま話しかけてくる。


「クレイグって、私の思っていたよりずっと強かったのね」


 いきなりそんなことを言われる。


「そうだろうか…。手合わせでは負けてしまったし、カッコ悪い所しか見せてない気がするんだけど」


「そんなことないわ。お父様にあれだけ食い下がれる人なんて、騎士団でもそういないもの」


 その言葉を聞き、少し嬉しくなる。


「そうなのか…ありがとな」


「いえいえ~」


 ミラは笑顔で答えてくれた。


 そんな話をしていると、親父さんたちが部屋へと入ってきた。

 クッキーと飲み物を持ってきてくれたようだ。

 お菓子の甘い匂いとバターの香りが鼻をくすぐる。

 それぞれがテーブルへと置かれる。


「クレイグ君は紅茶と穀物茶、どちらがいい?」


 おふくろさんがそう言う。


「え、あー…穀物茶です」


 そう言うとミラが穀物茶を注いでくれた。

 ミラは紅茶にしたようだ。

 それぞれのカップに飲み物が注がれる。


「遠慮なさらずにどうぞ」


 おふくろさんがそう言ってくれる。

 かなり喉が渇いていたからありがたい。

 俺はそのままカップを手に取り飲み干した。

 すると、みんなが笑っていた。

 顔が熱くなるのが分かり、縮こまってしまう。

 ミラはお代わりを注いでくれた。



 横にはミラ、向かいには親父さんとおふくろさんが座っている。

 なんだか居心地がいいのか悪いのか…複雑な感じだ。

 そんな俺を見てか、親父さんは口を開く。


「もっと楽にしてくれていいんだよ」


「はい…」


 俺の緊張を見て取ったのか、親父さんはそう告げる。

 ミラはリラックスしていてクッキーをポリポリと食べていた。

 流石にそこまではリラックス出来ないなぁ…。


「さて…まずは私から話をしようか」


 親父さんはゆっくりと話し出す。


「君の父親…ケヴィンと出会ったのは10年前、私たちのいる【リーンデル王国】と【ドラー帝国】の戦争中だった。私は最前線にいてね、その時にケヴィンに出会った」


 ドラー帝国――十年前に連合軍に敗れ、今はもう存在しない国。

 魔術技術では世界最大を誇り、恐怖政治と圧倒的軍事力で各地を脅かした侵略国家だ。

 その帝国と全面衝突したのが、俺たちの住んでいるリーンデル王国だ。


 戦争…俺はその凄惨さをよく知っている。俺の住んでいた村も戦争の被害を受けた。

 あまり思い出したくもない記憶だが、この話はちゃんと聞いておくべきだろう。

 俺は親父さんの言葉にうなずく。


「彼は志願兵でね。最初に見た時はこんなに殺気立った奴がいるのかと驚いたものだ。戦争中だったし、そういう志願兵も多かったが、彼はそれ以上に周囲とは違っていたよ」


「そういった感じだったのですか…」


 俺は思わず声に出す。


「まあそれも最初の頃だけだったな。周りに馴染んでいくにつれて雰囲気は柔らかくなっていったよ」


 親父にもそんな時があったのか…。

 俺の前ではいつも明るく振る舞っていたから気が付かなかったな。


 俺は親父さんに合わせて頷くと、続けて口を開く。


「特に戦場では獅子奮迅、一騎当千といった言葉が似合う活躍をしていた。私も彼と手合わせをしたことがあるが、とんでもない男だったよ」


「そうだったのですか?」


 俺は思わずそう聞いてしまう。


「なんだ、ケヴィンから聞いていないのか?」


「ええ、戦争中の事は聞いてもはぐらかされるか、答えてはくれなかったので…」


「そうか…。まあ戦時中もあまり多くは語らない奴だったからな。…アイツらしいと言えばそうか」


 親父さんは目を丸くした後に遠い目をしていた。

 

「まあとにかく、ケヴィンは大活躍だったよ。異名を付けられるほどにな」


「そんなに活躍していたのですか?」


「ああ、付いた二つ名は【暴風】。敵を薙ぎ倒し巻き上げ、あいつの通った後には何も残らないくらいのものだった。クレイグ君、君の父親はそれだけすごい人間だったのだよ」


 その言葉を聞き、胸が温かくなる。

 俺の知っている親父は、酒が好きで豪快な人間だった。

 剣も教えてくれたし、親であり人生の師匠のような存在だった。

 親父さんの話を聞いて誇らしく思う。

 ただ…俺はその親父になにも返せなかったんだよな…。


 親父さんは再び話を続ける。


「実は私も二つ名で呼ばれていてな!それは――」

「あなた、話がずれてる」

「お父様、話がずれてる」


 ミラとおふくろさんがほぼ同時に声を上げる。

 二人に怒られた親父さんはしょんぼりしていた。

 俺はそれをみて声は出さないが少し笑ってしまった。


 俺を見た親父さんは姿勢を正し、咳ばらいをしてから話を続ける。

 

「話をしても面白い男だったよ。口は悪い方だったが」


 親父さんは思い出したかのように笑っていた。


「それは分かります」


 俺も笑顔を隠せなかった。


「ははは、そういえばクレイグ君はケヴィンに育てられたとは思えないほどしっかりとした言葉遣いをしているね?それはペルナ村の皆が?」


「いえ、おや…父からの教えです」


「はっはっは。本当にしっかりしている」


 褒められている…のでいいんだよな?


「ええ、自分はもう直せないけど、お前はしっかりした言葉を使えるようになれと、父はよく言っていました」


「そうかそうか。あいつもそれで近衛騎士と結構衝突していたからな。その教訓だろう」


「そういったこともあったんですね」


 親父らしいっちゃ親父らしいか。


「まあでも、ちょっと堅い感じはするな。私の事はそうだな…ポールさんでいいぞ」


 ちょっと馴れ馴れしすぎやしないか?

 騎士団長だぞ!?


 俺が言葉を発する前に、続けておふくろさんが口を開く。


「じゃあ私はエミリアさんね」


 え、フランク過ぎない?この人達?


「私はミラでいいわ」


 いや、ミラに至ってはもう呼んでるし…。

 ミラは子供のような笑顔を俺に向ける。


 もう反論できないくらいに場が出来てしまっている。

 観念するしかないか…。


「…分かりました。ポールさん、エミリアさん」


「私は?」


 ミラが間髪入れずに言う。


「…ミラ」


 よろしい!と言い上機嫌になった。


「言葉も堅いから、もう少し自分の話しやすい言葉でしゃべるといい」


「分かりました。ありがとうございます」


 ポールさんは笑顔だった。



「そういえば、ケヴィンの話で一つ外せない話がある」


 ポールさんの顔つきが変わる。

 さっきまでの朗らかな雰囲気とは真逆だ。


「どういった話ですか?」


「当時の王太子…つまり、今の国王を殴ったんだ」


「は!?」


 驚きのあまりに声を上げてしまう。

 何やってんだよ親父!!


「いくら気に入らないからって、そんな…」


 俺の声を聞いたポールさんは訂正をする。


「いや、そうではなくてな。まあこれは国王の尊厳にもかかわるから詳しくは言えないんだが、悪い事ではなかったとだけ言っておく」


「はあ…」


 俺は頷く。


「国王はケヴィンに感謝をしていたよ。それから近衛と衝突するようにはなったがな」


 どういった経緯かは分からないが、良かった…のか?


「分かりました…」


「国王に会ったら聞いてみるのもいいかもしれんな」


 そう言い、大きく笑う。

 どうして親父に殴られたんですか?なんて、そんなこと聞けないって…。


「とりあえずクレイグ君。君の父は立派な男だったよ」


「…ありがとうございます」


 お礼を言うのが良いのかは分からなかったが一応言っておく。


「さて、今度は、クレイグ君の番だね」


「分かりました」


 俺は今までの話をすることにした。

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