25 親父さんとの一戦
目の前にはミラの親父さんが、剣と盾を持って構えている。
構えているだけなのに圧が凄い…。
対人戦なんて親父が元気だった時までしかやっていない。
どこまでやれるかは分からないが、期待に応えられるように頑張ろう。
「さあ、いつでも打ってきていいぞ」
「分かりました」
俺は深呼吸をしてから踏み出した。
剣を構え、横に薙ぐ。
親父さんは盾を構え、身を隠している。
カンッ!
剣は盾に弾かれ、大きく軌道がそれる。
俺の攻撃を見た親父さんはにやりと笑った。
「ははは!良い太刀筋をしている。でも、君の力はそんなものじゃないだろう?遠慮せず打ってきなさい!」
「分かりました!」
気合を入れなおし、再度踏み込む。
ブオン――ガンッ!!
手応えが腕に伝わる。
親父さんの体は、大きく後ろへと後ずさり、地面には足跡の轍が出来ていた。
「ハッハッハ!良いぞ、クレイグ君!」
「…ありがとうございます」
「よし、それなら…」
親父さんは新たに構えなおす。
眼光は鋭くなり、威圧感が増す。
――さっきまでの雰囲気とは別物。
まるで、鍛錬中の親父…歴戦の騎士のようだ。
親父さんは言葉を続ける。
「次は私からも攻撃しよう。大丈夫かね?」
低く響く声が胸まで押しつぶそうとする。
背中に寒気が走るが、胸の奥は熱い。
「…はい。よろしくお願いします」
俺も新たに構えなおす。
「いきます!」
ブオン――ガッ!!
―――さっきと手ごたえが違う!?
剣が盾に当たった衝撃が、腕まで伝わってくる。
親父さんの体は少し下がった程度でほとんど動いていない。
「いくぞ!」
ヒュッ――。
盾の後ろからの鋭い突き。
俺は寸でのところでそれを躱す。
頬を冷たい汗が伝い、頭から血の気が引く。
「ほお、これを避けられるのか。大したものだ」
親父さんは不敵な笑みを浮かべる。
「すいません、油断していました。でも、もう大丈夫です」
俺はそう答える。
正直、強がりだ。
ミラの戦闘スタイルは見ていたものの、練度が違うと感じる。
震える腕を押し殺し、再度攻撃を仕掛ける。
ブオン――ガンッ!!
ブオン――ガッ!!
――来るっ!
ヒュッ、カンッ!
今度は、剣の腹で受ける。
親父さんの顔は先ほどとは違い、満足そうな笑みを浮かべていた。
「はははっ!楽しいな、クレイグ君!」
「…ええ、そうですね」
こっちは受けるだけで精一杯だった。
「さあ、行くぞ!」
―――――――――――――――
この男の剣技、私は見たことがある。
10年前の戦争時、志願兵の中に紛れていた、あの男。
そうか、あの男の…。
―――――――――――――――
私は二人の攻防を食い入る様に見ていた。
攻めのクレイグ、守りのお父様。
お父様は、実践訓練中のような動きをしている。
…それに食らいついていくクレイグ。
ウォールベアの時に感じた、あの動き、パワー、判断力…。
やっぱり私の目は正しかった。
対人戦を見てそれを確信する。
恐らく騎士団の中でもかなり上位に食い込むほどだ。
これならお父様も納得するはずだわ。
カツ、カツ…
後ろから足音が聞こえてくる。
その音で私は振り向く。
あ―――――
―――――――――――――――
クソ…こちらの攻撃は盾で逸らされるのに、向こうは正確に当ててくる。
何発かもらってしまった。
親父の攻撃で慣れていなかったらそれなりにヤバかったかも…。
「さあ、クレイグ君。次の一撃で終わりにしようじゃないか」
親父さんの方から、そう提案をされる。
「分かりました」
肩で息をしながら答える。
「まだ全力を出していないだろう?遠慮せずに打ってきなさい!」
全力を出していないというより、出させてもらえないという方が正しい。
打ち合いは、最初以外親父さんのペースだ。
全力で打てるのなら打っていたさ。
俺は集中し直し、親父さんを見据える。
「いきます!」
親父さんは盾を構える。
俺も剣を両手で握りなおす。
そして―――全力で大剣を振り下ろす。
――――――――パァンッ!!
何が起こった!?
左手は剣から離れ、振り下ろしたと思った剣が肩より後ろに行き、胸が開き、体勢が崩れる。
気付いた時には、親父さんの剣は、のど元に突き立てられていた。
「パリィ…。見るのは初めてかね?」
「…はい」
俺は力のない声で答えた。
…完敗だ。
どこからともなく拍手が聞こえてくる。
音の方向を見ると、ミラと、そしてもう一人の女性が立っていた。
二人そろってこちらへと歩いてくる。
肩で息を整え、剣をゆっくり下ろす。体が緩む。
近くなると、ミラはこちらへと駆け出した。
「ね、お父様!凄いでしょ!」
「ああ、大したもんだ」
…結果は負けだったが、素直に嬉しい。
また顔に出そうだったので、顔をそむけた。
「なに~?もしかして、照れてるの?」
「あまりこっち見るなよ…」
ミラは、ふふふ、と笑った。
「あなたも全力を出し過ぎよ。怪我したらどうするの!」
近くに寄ってきたもう一人の女性は、親父さんに向かってそう言う。
「いや…その…ちょっと熱くなってしまってな…ハハハ」
乾いた笑いだ…。
さっきまでの威厳や威圧感は全く感じられず、あたふたしている。
こんな一面もあるのかと思い顔が和らぐ。
「そうだ!紹介しよう私の妻だ!」
焦りをごまかすように親父さんはそう言った。
続けて女性はこちらへ向き直り、頭を下げた。
「エミリア・ガーランドです。堅苦しいのは苦手なので、どうぞ普通に話しかけてください」
こちらも合わせて頭を下げ、自己紹介をした。
よく見ると、髪色も含めてミラにかなり似ている。しかも若い。
恰好も、訓練用の装備をしている。この方も騎士なんだろうか?
並んでいるところを見ると、まるで姉妹のようだ。
熊みたいな父親だとは思ったけど…ミラは母親似か。
「クレイグ君?何か失礼なことを考えてはいないかね?」
先ほどと同じく背筋が凍り付く。
親父さんの顔は…笑顔だった。
「いえ!…そんな、滅相もございません!」
その圧に押され、実が縮こまる。
おふくろさんは親父さんの脇腹に肘を入れていた。
「んがっ!」
気の抜けた声を出していた。
ミラの方を見てみると、やれやれといった表情だった。
「そういえばクレイグ君、君の剣は誰に教えてもらったんだ?」
すごい剣幕で迫ってくる。
「ああ、ええ、親父に教えてもらったものです」
「そうか、そうだろうな!もしかして、ケヴィンという名前ではないかね?」
「えっ――!?」
親父の知り合いだったのか!?
「ええ、そうです…」
「おお!やはりそうか!剣技が一緒だったものでな!それで、今あいつは元気にしているのか!?」
言葉が詰まってしまう…。
それでも、伝えなきゃいけない事だろう。
「親父は…半月ほど前に亡くなりました…」
親父さんとおふくろさん、両方とも驚いた表情をしていた。
「そ、それは本当なのか!?」
親父さんは俺の肩をつかんで揺らす。
「ええ、本当よ」
ミラが俺の代わりに答えてくれた。
「一緒にお墓参りをしてきたもの」
親父さんはその言葉を聞き、がっくりと肩を落とした。
「そうか…。そうだったのか」
その声は、悲しさに満ちているようだった。
俯いていたが、それでもすぐに顔を上げ、姿勢を正す。
「悪いことを聞いてしまったな」
「いえ、大丈夫です。お心遣い感謝します」
「クレイグ君さえよければ…でいいのだが、後でケヴィンの事を教えてくれないか?」
「ええ、もちろんです。僕も昔の親父の事を聞きたいです」
「ああ、勿論だとも。それじゃあ、ここを片付けてからゆっくり話そうか」
「ええ、お願いします」
俺たちは片づけをしてから、訓練場を後にした。




