24 戦闘準備
ミラに案内されて訓練場へと向かう。
本館から離れ、庭園を歩き、訓練場だと予測していた場所へと歩いて行く。
ミラが言っていた通り、本館以外の場所は、さっきまでの宮殿の様な造りとは違っていた。
堅牢な石造りの建物。中へと入ると、先ほどまであった美術品も、もう無い。
さっきまでの建物は来賓用、こっちは機能性重視って感じかな?
俺が辺りを見回しながら進んでいると、ミラに声を掛けられる。
「そんなに珍しいかしら?」
「そうだな。俺の住んでた村じゃ石造りの建物は無かったからな。グノットにもここまでの建物は無かったし」
「そう言われるとそうね。ここは避難所としても使うことが出来るように造られているから、他の建物よりも頑丈なの」
「避難所か…なるほどな。ここまで魔物が来ることもあるのか?」
「昔はあったみたいだけど、私が生まれてからは一度もないと聞いてるわ」
ウォールベアの様な魔獣がいるってのに、ここまで来ることがないってことは騎士団は相当優秀なようだ。
「……ミラや騎士団の凄さを改めて感じたよ」
「ふふふ、ありがと♪」
◇
施設内をミラに案内されながら歩く。
騎士団の人たちの訓練している声が聞こえる。男性の声に混ざって、女性の声も聞こえてくる。
ミラ以外にも女性の騎士はいるみたいだな。
模擬戦でもしているのだろうか。カンッ!カンッ!という木がぶつかり合う音も聞こえてくる。
懐かしいな。俺もよく聞いた音だ。
親父が元気だった頃を思い出す。
親父が体が悪くなる前はよく打ち合っていたな…。
あれからもう二年も経つのか。昨日のことのように思い出すことが出来るが、実際に打ち合うのは久しぶりだ。ちゃんと体が動くかどうか分からない。
ミラの親父さんは見てみるだけ、みたいな事を言っていたが、お眼鏡にかなうだろうか…。
考えていても埒が明かないし、出来るだけの事はやってみよう。
ミラに案内されながらしばらく歩いてはいるが、訓練施設も本当にでかい。
騎士たちの声が聞こえてくると思ったら大きな扉が出てくる。声が小さくなったと思ったら、また声が聞こえてくる。というのを三回繰り返していた。
どういう規模なんだよ。
俺の住んでいたペルナ村がすっぽり入ってしまうくらいの感覚だ…。
三回目の声が小さくなってから、ようやく目的地であろう扉が現れる。
今までの扉と比べて、こぢんまりといった印象を受ける。応接室の扉より少し大きくなったって感じだな。
「ここが言っていた訓練場よ。さ、入って」
「案内ありがとうな」
「どういたしまして」
ミラに促されて訓練場内へと入る。
そこは木剣や鎧などが綺麗に整頓して置いてある部屋だった。
準備する部屋のようだな。
「ここに置いてあるものは好きに使っていいからね」
「ああ、ありがとな」
部屋を見回し、俺が使っている大剣に似たものを探す。
騎士団の訓練で使うものは、基本は木製なのかな?鉄でできたものは見当たらない。
直剣や細剣、斧を模したものや、槍なんかもあるな。
大剣は…あ、あったあった。
形も大きさも様々なものがある。
片刃のものや、曲刀みたいなものもあるな。
俺の使っている両刃の直剣もある。
俺はそれを手に取り、並べてあるものに当たらないように少し振ってみる。
ブンブンと音が鳴り、部屋に響いている。
少し軽いな…。木製だから当然か。
それでも、木製なのに重さが結構ある。
俺が村で素振りしていた頃の丸太みたいに長さはないが、重さはそれに匹敵するくらいだ。
材質が違うからなのかな?
「これにするよ」
「クレイグならそれを選ぶと思ってたわ」
ミラは笑みを浮かべながらそう言う。
「それは騎士団の中でも力自慢の人が偶に使う物よ。クレイグくらい振り回せる人は居ないんだけどね」
そうなのか…。
周りを見ても、これくらいの大きさのものは数が少ないようだ。
同じ大きさのものと言えば、大きいハンマーや、丸太を切り出して持ち手の部分だけ作りましたといった見た目の物だけだ。
やっぱり、俺っておかしいみたいだな。
「防具はどうする?ほとんどそのままでもいいと思うけど、胸当てだけはつけたほうが良いとは思うわ」
ミラは俺の着けている防具を見てそう言う。
俺の防具は革鎧だ。鎧といっても、簡単な造りのものだ。いつも山に狩りに行くときに使っていたものだな。
革鎧に、腕と足を守るための鉄製のプロテクターを付けただけのシンプルな物。
動きやすさを一番に考えた装備だ。
日常的に入る山でガチガチの鉄製の鎧なんか着ていたら、それだけで疲れてしまうからな。
ミラはそれをやってのけた訳なんだけど…流石としか言いようがない。
「分かった。それじゃ胸当てだけ着けさせてもらうよ」
ミラの提案通りに胸当てを付ける。鎧の上からでも着けられるようなものがあって良かった。
戦闘に関連するものなら何でもありそうだな。
「これで準備はバッチリね!それじゃ行きましょ」
◇
入ってきた扉とは反対の方向にある扉から出る。
目の前に広がるそこは決闘場の様な造りだった。
地面は土。そこを覆うように石造りの壁が円形に展開している。
壁の向こう側には観戦席の様なものまである。当然だが観戦している人はいない。
天井は無く、吹き抜けになっている。
こういう場に立ったのはもちろん初めてだ。
しかも、今から手を合わせるのは騎士団のトップの人。緊張しないわけがない。
「お父様が来るまで少し待っていてね」
「ああ、分かった」
今日はほとんどの時間をバリオスに乗って過ごしていたから体が少し固まっているな。
初めての乗馬だったし、そこでも緊張していたようだ。
騎士団に着いてからも座っていたし…。
少し体を動かしておこうか。
俺は、鍛錬をする前にいつもやっているストレッチをすることにした。
俺が手首や足首を回していると、ミラも暇を持て余していたのか声を掛けられる。
「私も一緒にしておこうかしら。久しぶりの乗馬で体も固まっているし」
ミラも、俺と同じく思っていたようだ。
「それじゃあ、一緒にしようか」
俺とミラは一緒にストレッチをすることにした。
俺が開脚をしていると、ミラに声を掛けられる。
「クレイグって体が柔らかいのね」
「山歩きは何かと大変だからな。怪我しないように親父に言われてストレッチしていたんだ」
「そうだったのね。私も怪我しないように言われて柔らかくしたのよ」
俺の横でストレッチをしているミラも体が柔らかい。
俺と同じく、開脚は当然のようにぴったりと床についているし、そのまま前屈をしても床にくっついている。
そしてそのままドヤ顔をこちらに向けてくる。
「本当だな」
俺は心の中で少し笑ってしまっていた。
こういう所は本当に子供っぽいな。言うと怒られそうだから言わないけど。
街の人たちと接しているときは騎士!って感じだったんだけどな。
騎士団をやっている手前、そういう所はしっかりしないといけないのかもな。
ストレッチも終わって、体も温まってきた。
時間も、そろそろミラの親父さんも来てもいい頃だろう。
そんな風に考えていると、ミラの親父さんが現れる。
俺は軽くお辞儀をして迎える。
「待たせてしまったね。準備の方はいいかな?」
「はい、大丈夫です!」
ミラの親父さんは、また着替えていた。
鎧に手甲、足具。全て鉄製だ。
同じ鉄製でもミラが着ている防具よりも、軽装に見える。
手合わせする時にはこれくらいの装備なのかな?
武器は直剣と盾。剣は木製だが、盾は鉄製だな。ミラと同じような戦い方をするのだろうか。
「私は観戦しているわね。頑張って!」
ミラは笑顔で手を振りながらそう言い、観戦席の方へ行ってしまった。
「それでは始めようか!」
「はい!よろしくお願いします!」




